聖女さまは実技をテストする
魔力測定の水晶玉が、割れてしまった。呆然と見つめる私たち。
一瞬浮かんだキラキラが見られていなかったようで、それは助かったが、ギルドの備品を壊してしまったことになる。
ちなみに、事務のお姉さんは腰を抜かした。
「ひ、びっくりしたー……。みなさん、お怪我はありませんか?やっぱり壊れていたんですね。そのまま使い続けて負荷がかかってしまったようです。」
逆に、壊れていた証明になったらしい。
一瞬、弁償しないといけないかと思い焦ったが、壊れてたんならしょうがない。私もちゃんと色が変わるところ見たかったなぁ、と、少し残念ではあるが。
お姉さんは、破片を、部屋の隅から持ってきた箒で集めると、
「ちょっとギルドマスターを呼んできますね。どっちにしろ今日の実技試験の立会いをしてもらわないといけませんし。数分で戻りますので、楽にしていてください。」
楽にと言われても、何か機材っぽいのが置いてあるだけのこの部屋ではそうそう寛げるものではないが。
ふと、先程置いていったらしい説明書を見つけて、拾い上げる。
パラパラと最後の方を見ると、カラーチャート表とは全然違う場所に黒色の説明が載っていた。
「様々な要因がありますが、異常を観測すると黒いエラー画面になります。だって。」
「ティーナ様の魔力が普通とは違うということでしょうか?」
「なんとも言えないな。本当にただ壊れてただけかもしれんし。」
そんな話をしていると、思ったよりも早く、お姉さんと、ラードルフさんより少し上くらいの男の人が入ってきた。
「ラードルフ以外は初めましてだな。私がここのギルドマスターをやっているテオドールだ。」
「初めまして、ティーナです。」
「ゼルです。」
「ハンナですなの。」
「おお、この子が例のハンナちゃんか!良かったなー、父親に似ないで!」
けたけた笑いながら、ハンナの頭を撫でた。ハンナは、一瞬ビクッとした後、撫でられながらどうしたらいいものかとキョロキョロしていた。
「あ、こら、うちの天使に触るなよ!怯えてるだろ!」
「うるせぇよ。後5年もすりゃ、平気で臭いだなんだと心を抉ること言い始めるんだからな、覚悟しとけよ。」
「ハンナはそんなこと言いません。お父さん大好きだもんな!」
「めんどくさいの……」
心底めんどくさそうな顔をしながらも、逃げないあたりはやさしさなのかな。
しかし、おっさん達の親バカトークに付き合ってたらきりが無い。
「で、魔力の測定はどうしたらいいんですか?」
私が話しかけると、テオドールは苦笑しながら言った。
「ああ、あれな。アレはまぁ、一応形式的にはやってるが、そんなに重要な事でもないし気にしなくていいぞ。」
「はぁ?何だそれ。」
「魔力測定なんて、ただの口実だからな。」
あっけらかんと言ってのける。ギルドマスターがそんなこと言っていいのだろうか。
「必要ない検査なんだったら、わざわざやらなくてもいいのに。」
「そうもいかないんだよ、上からやれと言われればやるのが、中間管理職の辛いところな訳よ。」
テオドールの方が少し人相が悪い感じがするが、性格的にはラードルフに似た人だ。
「ま、壊れたんなら仕方ない。新しいのを取り寄せるのにも時間がかかるし、ラードルフが、三人とも自分と同じくらいだと言っていたから、全員魔力値Bってことにしとこうか。」
「そんなんでいいんだ……」
本当に、やる必要すら無い計測だったなぁ。
「言ってんだろ?魔力の計測なんてただの口実で、本当に調べたいのは別のことだからな。」
「へ?」
「なんでも、詳しく教えられてないが、変な光りかたをしたら口外せずにすぐ上層部へっていわれてる。」
「ええええっ!」
「おっと、流石に言いすぎたか。まぁ、そんな気にすることじゃ無いさ。例えば、魔族とかを見つけるとかそういう機能なんじゃないのか?」
違う。これ、聖女を探す機能だ。さっきのキラキラがそれなんだ。危なかったー!
壊れてくれたことに感謝しながら、もう絶対に乗らないと誓う。
そんなことを思っていると、ガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた。
男二人、女ひとりの三人が、ドアを開けて入ってきたのだ。
「しかし、ラードルフと同じレベルの魔力を持ったガキどもとなると、相手になるかな。」
「ちょ、テオドールさん、ひどくないっすか!?」
剣を持った青年が全力で抗議する。入っていきなり侮辱されたのだから、当然だが。
「あ、いや、すまなかった。では、外に出て武器を構えてくれ。なければ貸し出すが、流石に冒険者目指すなら全員持ってるだろ。」
促され、全員がこの小さな部屋を出て裏庭へと出た。思ったよりも広く、よく見ると魔力障壁が張られていた。なるほど、これなら戦っても周りや建物に被害は……って、何このしょぼい壁!
被害出るだろ!子供の喧嘩を塞ぐ壁レベルじゃないか。
私どころか、ラードルフさんが全力でやっても危なそうな壁に見える。
「じゃあ、まずは剣士か。ゼルくん、ウーリの前に出てくれるかな?」
「はい。」
「うい」
軽い皮鎧をつけ、剣を持つと、成る程ちゃんと剣士に見えるからすごい。見た目もイケメンだし、気が弱そうなのが少し戦士としてはもったいないが。
相手は、ゼルより少し上くらいの好青年である。少し頭が軽そうな印象はあるものの、見た目も割と整っててイケメンだ。
「別に倒す必要はない。戦ってる、その様子から判断するからな。何か質問はあるか?」
「はい。すみません。」
ゼルが小さく手を挙げた。
「なんだ?」
「私は、剣士として登録しましたが、魔法を使って構わないんでしょうか?」
「ああ。実力を見るテストだからな。好きな戦いかたで構わん。」
ん?ゼルらしくない。
剣士といったのに魔法?魔法なんて使わなくても、勝てそうな気がするんだけどなぁ。
そんな事を思いながらよく見ると、ゼルの足が少し震えていた。まさか、こいつ、人間に対してビビってるのか!?
「そ、それなら。」
そういって剣を構え直す。
戦争として軍同士で戦うことはあっても、要は敵の真っ只中に単体で特攻するようなものだ。多少魔族の方が身体能力が優れていても、恐怖心は拭えてないのだろう。
しかも、ゼルって司令官とか回復要員とかがメインだし。
「では、始め!」
ギルドマスターの声がかかる。
「俺は、Bランク剣士のウーリってんだ。よろしくな。」
「ゼルです。よろしく。」
「そんな緊張すんなよ!気楽にいこうぜ!」
ゼルの震えを緊張としてみてくれたのか、優しく声をかけてくれる先輩冒険者。
ゼルは、そっと剣を握りなおした。
「いきます!」
ゼルは吠えて駆け出す。そのまま一閃。
「なっ!?」
思った以上の剣速だったらしく、ウーリは慌てて防ぎ、大きく後ろへ飛ぶ。
「え、ルーキーだよな!?えっ!?」
続けざまに、もう三歩踏み込んでその勢いで剣を振り抜くゼル。
その剣をよろけながら受け止め、次は振り抜かれた方向へ飛んで下がる。
「何やってんだよ、ルーキー相手にそんな遊んでやるな。」
「ちげえよ!これ、本当にルーキーか?!」
しかし、このウーリってやつ、上手い。戦いかたが。剣を受けた時の衝撃を後ろへ飛ぶことによって最小限にしている。でなければ、そうそう人間がゼルとは切りあえない。
二度も軽く防がれたと思ったゼルは、一度体制を直して向き直る。
ウーリの方は必死だが。
「はああっ!」
気合いを入れてウーリに突っ込み、剣で薙ぎ払う、と見せかけて、小さな火の玉をウーリの顔をかすめる形で投げる。
一瞬ひるんだところに、剣を無理やり片手で振り、脇腹に叩きつけた。
「ガハッ!」
派手に吹っ飛ぶウーリ。
ゼルは、不安そうにウーリを見つめていた。だが、知っている。コイツは、冒険者が二段変化とかして襲ってきたらどうしようとか、くだらないことを考えているのだ。
お前、何年人間の軍隊と戦ってるんだ。
「ゼルくん、きみ、兵役とか受けた?」
「あ、ええ、まぁ、少し。」
「……聞いてねぇよ!」
思ったよりピンピンしていたウーリが立ちあがって抗議した。
そりゃ、新人のテストの相手で連れてこられたのに、軍の経験がある成人男性の相手となると、わりには合わないだろうな。
「動きが、冒険者じゃねぇ。兵士だ。」
「ほぅ、よく分かるもんですね。あなたも凄い。あの状態から、全力で後ろへ飛ぶなんて、そうそうできるものではない。相手を侮らず、全力で対応してくれたことに感謝します。」
動きで、色々分かるのか。私もばれたら……あれ?そうそうバレるもんでもないか。
「なに負けてるのよ。」
後ろから、仲間っぽい女が声をかける。
「うるせぇよ。お前も恥かいちまえ。」
ウーリに煽り返され、気の強そうな長身の女が前に出てきた。なかなかの美人だが、胸が少し残念である。杖を持っているところを見ると、おそらく魔導師。
「あんたと一緒にしないでちょうだい。さ、魔法使いはどっちかしら?」
私とハンナを見て言った。
「あ、私です。」
私が前に出ると、ニッコリと笑って手を差し出してきた。
「私はクリスタ。Bランク魔導師よ。よろしくね。」
「ティーナです、よろしくお願いします。」
さて、どうしようかなぁ。
考えながら、私は形ばかりの杖を構えて首を傾げたのだった。
戦ってるのはゼルでしたね、、、。
ティーナは、次回です。
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まだまだ拙い文章ではありますが、頑張っていきたいと思います。
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