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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
魔王と聖女
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魔王はただの親バカである

魔王さまは、ものすごいヘタレです。

「おとーたん、かくごー!」

「うーわー、やーらーれーたー!」


キャッキャと笑う女の子。

体からは、キラキラと光が散っていた。

可愛いすぎて死にそうだ。マジ天使か。

抱き締めて、頬ずりをする。まだ3歳。嫌がることもなく笑っている。


「もう、ティーナ!やめなさい。やりすぎるとお父さんが消滅するわよ。それに、そろそろご飯よ!」

「はーい、ママ!」


いつまでも抱き締めていたかったが、女神が現れ、天使とともに去っていく。

ああ、幸せだ。

なんか、体から魔力がごっそりと抜け落ちたが、そんなことは気にしない。魔王の魔力は、すぐに回復する。


「あなたも、回復したらこっちへいらしてね。死相が出るほど浄化されていますわよ。」


さすがはわしの天使、魔王を浄化するとは、我が子ながらその才能が怖い。

天才か。可愛い上に天才とは、もう文句なしに最高である。

生まれたときから、異常なほどに聖なる力を持っていて、何度も夜泣きのたびに消滅させられかけたが、最近は加減ができるようになってきたのか、死相が出る程度にとどまっている。


3歳にして、力の制御ができるようになるとは、もうこの子麒麟児じゃ無い?まさに神の域だ。神がかり的な可愛さも手伝って、ヤバイ。

もう、男が近寄ろうもんなら一瞬で捻り潰す自信がある。


嫁は嫁で、人間ながら魔王であるわしに怯えることなく、毎日最高の笑顔を振りまいてくれる。

侍女にやらせれば良いものを、自分のことはできる、と、何とも殊勝な心掛けで、この世のものとは思えない素晴らしい食事を作り、部下たちへの気遣いも忘れない。

部下たちは皆、彼女を女神と崇めていた。

当然だ。わしの女神だからな。


食事をとるために広間の方へ移動していると、少し服の汚れた一団とすれ違う。


「魔王様、ただいま帰りました。奥方様もご機嫌麗しゅう。」


遠征から帰ってきた部下たちだ。

リーダーは悪魔神官のゼル。神聖魔法を使えるレアな魔族で、とにかく能力は治療に特化している。

元々は、ただ単にヒールのできる、たいして使えない部下だったのだが、嫁が

「あなた、魔族なのにすごい神聖魔法の才能があるわ!」

と、嬉しそうに鍛え始めた結果、世界最高峰とも言えるクラスの神聖魔法を使えるまでになった。


「あら、ゼル。今回も無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。」

「ええ、奥方様。おかげさまで、ただの一人もかけることなく無事に帰りました。」


最近は、定期的に人間の軍が攻めてくる。

こっちからは何もしていないのに、なぜかは分からないが勇者含む人間は魔族を敵視しているのだ。

妻のシルフィーヌに聞いても、魔物や魔族は悪くて、魔王がいるとこの世界が大変なことになるから倒さなければならない、という曖昧な答えしか返ってこなかった。

一昔前は、魔族と人間が共存していたはずなのに、どうしてこうなってしまったんだろう。


「それでは、城を汚す前に着替えなど済ませてこようと思います。失礼。」


深々と礼をしたのち、魔族たちは城の奥へと消えていった。

攻めてこられてしまうと、こちらとしても守るほかなく、結果的には魔王軍対人間軍といった構図が出来上がってしまう。

そして勇者を含む人間たちを倒すことによって再び恨まれ、また攻めてくる。

悪循環で頭が痛くなる話しだ。


いつかまた、平和に共存できる世界が来ることを祈ってはいるが、なかなかそう上手くも行かないだろうなと思っている。

と、立ち止まったわしを見て、少し先を歩いていた娘が振り返った。


「おとーたーん?」

マイスイートエンジェルが、トタトタと駆け寄ってくる。可愛い。可愛すぎる。可愛すぎて光をまとって見える。嫁の美しさを余すところなく受け取った娘は、世界最高の美貌を持つ。

ああ、でも嫁も世界最高だなぁ。最高が2人もこの手の中にあるだなんて、わし、もう、昇天しそう。


「こら。キラキラのせいでお父さんが死んじゃうでしょ!そのキラキラを、ぐっと我慢するのよ。」


わしから離れた娘は、自分の体を見たのち、手をグーパーグーパーと動かして、目を閉じ、深呼吸をする。

すると、娘を覆っていたキラキラがスッと消えた。


「そう、その感じよ。気をつけてね、気が緩むとすぐに漏れだすんだから。」

「はーい。ごめんね、おかーたん。おとうたんもごめんね?」


申し訳なさそうな顔でわしを上目遣いに見る娘。あああ、可愛すぎる。キラキラとか関係なく死んじゃう。


「あなた、あなた。しっかりしてください。」


その場に膝をつき、息を荒くしているワシに、嫁も駆け寄ってくる。そんなこんなで、ワシはこの2人といる限り、毎日死ぬほどの幸せに包まれているのだ。

マジで、この幸せを壊すやつがいたら、悪魔でも魔王でも何でもなってやる。あ、ワシ魔王か。


「いや、大丈夫。さぁ、お母さんの作った、美味しいご飯食べに行こうな。」

「はーい、おとーたん!」

「ええ、あなた。」


立ち上がって娘の手を取ると、反対の腕には心配そうに絡みつく嫁。

そのままワシは、幸せすぎて卒倒した。


「おとーたーん!」


慌てて、娘はワシの手を強く握り、祈りを捧げるような体制になる。

嫁は、一瞬止めようかとしたが、娘の体から出ていた白い光を見て、やめた。


偉大なる神の癒し(グレーターヒール)


実際には、舌ったらずなのでぐれーたーひーりゅと言っていたが、それでも効果は絶大だ。

倒れた時にぶつけた傷も一瞬で消え、痛みもない。


「すまない、ワシとしたことが。」

「いえ、娘を教育しきれていない私の力不足です。立てますか?まだ立ちくらみがあるようなら、無理なさらず……」


どうやら、嫁と娘が愛おしすぎて卒倒したとは気づかれていないらしい。

立ちくらみだと思われている。良かった。


3歳で上位の回復魔法を使いこなす娘。

やっぱり娘は天才だなぁ。


なぜそんなことが出来るのか。このキラキラした光は何なのか。誰もが知っているが、口にしない。

もう、嫌という程に議論し尽くされている。

魔王に対する絶対の力。聖なる乙女の力。

数百年に一度、現れるという唯一無二の存在。


立ち上がった途端に、娘が抱きついてきて言った。


「おとーたん、だいしゅきだよ!」

「はぅん」

「あ、あなたーっ!」


そんなこんなで、ワシは毎日、幸せに、死にかけているのだった。

魔王さまは、幸せなのです。

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