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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の旅路
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親子は逃亡する

ちょっと、私も体調が優れないので、ラードルフさんのお話を挟むことにします。

嫁が、産気づいた。

待ちに待った第一子の誕生に、みなで集まり、その時を待っていた。


みんな、と、いっても、どうしても不安があったので、嫁は父親を、俺は母親をだけを呼んでいた。

産婆も、街のではなくスラムに住むもぐりとも言える産婆に依頼した。

ただ、腕は確かだし、金さえ払えば秘密は守ってくれる。


「おぎゃあああああ!」

「おおお、産まれたぞ!」


響いた声に、歓声が上がるが、その後、産婆の一言で空気は凍りついた。


「先祖返りですね。」


赤子を丁寧に産湯につけ、優しく洗う。

そして、柔らかい布で包みながら背中を見せた。

ツノこそないものの、背中には小さな羽があった。


「……あなた、すみません。」


嫁は、産まれた喜びもつかの間、絞り出すような声で、涙を流して謝罪した。


「どうするんだね?」


産婆は、産まれた赤子を愛おしそうにひとなでした後、嫁のそばまで運ぶ。だが、渡さない。

どうする、というのは、死産としてこの場で処分するのかどうかを聞いていた。


「家族の総意が必要だ。誰か1人の意見で決められないよ。」


渡さないのには理由があった。子供の姿に驚き、拒絶して、殺してしまう親が少なくないのだそうだ。この産婆は、それを良しとしない。


「処分するのであれば、私が貰っていく。親子の縁を切ってくれるだけでいい。」


子供は特に、魔法が使えないので、羽を隠して生活することが難しい。ツノは薬で取れるが、魔法で羽を隠せるのはある程度大きくなってからだ。


「すまない。この姿は我々の祖先の血だ。」

「いえ、たまたまツノが無いだけで、我々の血も引いています。謝ることではありません。」


嫁の父と、俺の母は、お互い謝罪を重ねた。

こんなめでたい日に、謝罪の言葉しか出ないなんて、そんなバカなことがあってたまるものか。


「アルマ、よくやってくれた。こんなに元気な、玉のような赤ん坊なんだ。何を謝ることがある。」


俺の言葉で、産婆はホッとした表情を浮かべた。


「でも、あなた。これでは人に混じって生活することができません。バレれば、私たちも皆殺されてしまいます。」


嫁であるアルマは、不安そうに涙を流し続けている。魔族や獣人の血を引く子供は、見つかれば、忌子として殺されてしまう。いずれ人に牙を剥くと。


「何が忌子だ。俺たちは獣人や魔族の血を引いていても、一度も人を殺したいと思ったことはない。ただ、ツノや羽があって、少し魔力が多いだけじゃないか。」


言ったところで法律は変わらないが。それでも、この産まれたばかりの赤子を手放したいとは思わなかった。だって、こんなにも、かわいい。


必死に腕を伸ばし、母を求めている。


「あなた。どうか許されるなら、私はこの子と共にありたいです。」


産婆から子供を受け取ると、抱きしめ、撫でた。

ああ、なんて美しいんだ。母も子も、獣人の血がなんだというのだ。魔族の血を引くだけで殺そうとする奴らの方が、よほど悪ではないのか。奴らの方が、人の心をなくしているのではないのか。


「あんた達もそれでいいのかい?万が一バレたら、あんた達も狙われるよ。」


産婆の言葉に、唇を噛みながら考えを巡らせる俺の母と嫁の父。

少しした後、俺の母が言った。


「構いません。この子達がその道を選ぶのであれば、私たちは誇りを持って死すらも受け入れましょう。」

「私も、同じです。若い2人がその覚悟を決めるというので有れば、老い先短い年寄り達は、その決断に誇りを持とうではないか。」

「分かった。こんな出産なら、私もやりがいがあるってもんさ。」


老婆は、何度もうなづくと言った。



「この子は幸いツノが無い。こんな小さい羽だけなら、おくるみを強く巻けばそうそうバレはしないだろう。誰か、親族に、田舎に住んでいるものはいるかい?」

「私の実家は、南の方の海沿いの町で、かなりの田舎です。」


俺の母がそう言った。


「なら、首が座る頃に、そこに養生に行ったことにしなさい。何、産後の肥立ちが悪いといえばよくあることだろう。」

「行ったことに、とは?」

「実際に行くのは魔王領だ。」

「ええええっ!?」


この産婆に依頼したのは、あくまで念のため、だった。親から、俺が魔族の血を引いていることを聞いたのは、嫁が妊娠したことを報告した時だ。確かに、他の人より魔力が高く、見た目の割に力も強かったので、お前本当に人間かよ、なんて言われることもあったが、笑い飛ばしていた。

実際、俺くらいの魔力を持つ人間も、少ないわけでは無い。

その事を、正直に嫁に話すと、実は私も、遠い先祖に獣人がいます、と言った。


俺たちは焦った。どちらかの先祖に魔族や亜人が居ると、稀に先祖返りした子供が生まれる事があった。両方の親がそうな場合は、わずかに確率が上がる、とも。


「魔王領でなら、子供に羽が生えてようが、ツノがついていようが問題なかろう?」


さも当然のように言い放つ産婆。

この産婆のように、亜人族や魔族などを祖先に持つ人が頼る医者というのは、実はどの街にも必ずいた。

昔、人と魔族が共存していた時の名残だ。


「そ、それはそうですけど。私たちは、血を引いているというだけで、見た目は人間です。力もありません。魔王領なんかに行ったら、すぐに殺されてしまいますよ!」

「魔族は、無駄な殺戮を好まん。昔、魔族排除が始まった頃に魔族の血を引くもの達が命辛々逃げ込んだ集落がある。子供が翼を隠せるようになるまで、そこで住むがいい。」


産婆は、こちらの理解が追いつくギリギリの速さで、どんどんと説明していく。同時に、嫁と子供のケアも忘れない。


「いいかい、乳をやるときはこうやって横に抱いて、そうそう。最初は痛いが、最初の頃の乳は栄養が豊富だからね。あげた方がいいんだよ。」


説明しながら、授乳の手ほどきをしていた。

すごいな。生まれてすぐなのに、もう母親の乳に吸い付くのか。この子は、立派に育つ。そんな確信を持った。


「10歳にもなれば、日常的に魔法で羽を隠すことができるようになる。羽の部分に独特の模様が出てしまうが、そうそう外で肌を露出することもない。

短時間で有れば、肌の上からさらに魔法を重ねがけして、その模様さえ見えないようにすることもできるんだよ。」


そういって産婆は、自分の背の布を少しめくった。しかし、特有の模様とやらは見えない。


「私も、先祖返りしたうちの1人さ。この歳まで無事に生きてるんだ、この子だってきっと上手く生きていくさ。」


なるほど。

翼を隠す魔法をかけると、模様が出ると聞いた事はあったが、人の街に潜む魔族を探すなら、全ての人間の背中を見れば一発なのに、それをしない理由。

瞬間的なら、その模様も消せるのか。

なら、隠れた魔族を羽の模様の有無で見つけることは難しいな。


「まぁ、そのあと人間の街に帰ってくるかはあんたら次第だ。ちなみに私が紹介して魔王領に行った家族で、人の街に帰って来た者は居ないけどね。」

「死んでるわけじゃ、無いですよね……?」

「居心地が良すぎて、人の街に帰りたくなくなるのさ。」


産婆は、笑いながら荷物をまとめ始めた。


「首が座る頃にまた来るよ。その時、魔王領で暮らす決心がついたら、言っておくれ。案内と護衛を紹介するからさ。」


そして、3ヶ月後、我々は産婆の紹介のもと、引き合わされた見た目は完全に人間の案内役と、完全に魔族の見た目の護衛に連れられ、魔王領に入っていった。


瘴気の薄い海沿いに、言っていた通り、人間の多く住む集落がいくつかあった。

私たち親子は、そこに住むことになったのだが……。

親切すぎる魔族と、魔族に馴染みすぎている人間と、親バカすぎる魔王を見て、人間として今まで得て来た知識との違いに、カルチャーショックで何度目眩を起こしたことか。


産婆の心配した通り、少なくとも今は嫁もハンナも、人間の街に帰ることを拒むほどに馴染んでいる。


魔族の血も、亜人の血も、人間の血も、一体何の違いがあるのだろう。


きっといつか、魔族と人間との間の誤解が解ける日が来ることを、私たちは切に望んでいるのだった。

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