聖女さまは冒険者になる。
子供がインフルで40度を超えていたので更新遅れました。
皆さんも、この時期風邪にはお気をつけください。
ティーナたちはやっと街に入ります。
暗くなってきたので、ラードルフと別れ、私たち三人はスラム街に近い門のそばまで来た。
「この辺ですかね。」
門からさらに500メートル程歩いたところで腰を下ろす。あとはラードルフの合図を待つだけだ。
一応、通信の魔道具というか、二つが対になっていて、片方に魔力を込めると片方が光るといったものは持っている。なのでそれは、ここに到着したときに一度光らせて、到着を知らせ、あとは作戦の後、成功したら一回、失敗したら二回光らせる手筈となっていた。
ラードルフの方からは、作戦開始のタイミングで一度光らせる事になっている。
しかし、それだけでは曖昧なので、私たちが動くのは何かしら爆発音や戦っているような様子が見えてからである。
「まだかなまだかな♪」
私は、ものすごくワクワクしていた。
今まで、安全な城の中で、最強とも言える人々に守られて生きていたのだ。冒険に胸が高鳴らないはずがない。
「ティーナ様。私が先に行きますからね?」
「えええ。私が先が良かった!ゼル、ずるい!」
「ずるいとかじゃないです。どう考えても私が先に安全確認する必要があるでしょう?」
「何でもいいの。前に入った感じでは、そんなに危険じゃないの。」
ハンナがめんどくさそうにため息をついた。まぁ、ラードルフの話を聞く限りでは、確かにそこまで魔族の侵略を警戒していないのだろう。
そもそも、魔族がわざわざ人間を攻めたりはしない。住むところも足りてて、食料も足りてて、魔王は人間との戦いを避けたがっている。
よほどの変人でもない限り、人に危害を加えようなどということはないのだ。
何十年何百年と攻撃をしてこない相手に、警戒し続ける国もそうそう無い。
と、突然魔法が発動したらしい光と爆発音、騒がしい警報音が鳴り響いた。
「始まったかな?」
「それじゃ、行くの。」
ラードルフのいる城門付近が相当ガヤガヤし始めたので、予定通りにハンナはまずゼルを抱えて飛び上がった。小柄なハンナだが、自分の倍以上の重さがあるゼルを抱えて、軽々と舞い上がった。
自分で力持ちというだけのことはある。
私たちも人を1人抱えて飛ぶくらいはできなくは無いが、結構大変な重労働で、この歳の子供が大人を抱えて飛ぶなんて、そうそう出来るものではない。
真っ暗だが、フクロウの血を引いてるらしいゼルは、感覚器官?で得た情報を目で認識してるため、見えてるんだとか。私にはよくわからない感覚だけど。
1人になると、光源のない森は真っ暗で結構怖い。遠くに見える戦いの炎。案外派手にやってるらしい。
「次、ティーナ様なの。」
目を凝らして遠くの様子を観察していると、ティーナが戻ってきた。
まぁ、壁を飛び越えて下ろすだけなら、すぐだもんね。
「動かないで欲しいの。」
人に抱えられて飛ぶというのは、なかなかに怖い。自分にも羽根があるが、それで飛ぶのとは大違いだ。特に、自分より小さい子に抱えられて飛ぶとか怖すぎる。
かなり高く飛び上がり、街明かりで照らされないように配慮しながら、降りる場所を決めて急降下する。
「ひーっ」
声にならない声を出してしまう。
「ビビりすぎなの。」
着地したのは、かなり臭いのひどいゴミ捨て場の奥だった。ゼルと合流し、ハンナは羽を隠して呪文を唱えた。
これで、全員見た目だけは人間である。
「よし、ラードルフさんに連絡して……と。」
予定通り、アイテムに魔力を流し込む。
すると。
「なんだ?こんなところで声がするぞ?」
「子供の声だな。」
酔っ払ったような男たちの声。
壁を超えた瞬間さえ見られてなければ、後はどうにでもなる、というの作戦なので、治安の良くないスラムに降り立ったのは、ロクでもない人たちに絡まれることも覚悟の上である。
「すみません、子供達が夜だというのに抜け出してしまって。」
スラムに住む家族を装う。というのが当初の計画だ。スラムには、もともとスラムに住んでいる人から、生活に困窮してスラムに流れる人もいる。
なので、身なりも様々。偽装は簡単なはずであるが、男たちは私達をジロジロとみる。
そんなに怪しいかな?
「ちっ。保護者付きか。」
どうやら、あまり良くない事を考えていたらしい。まぁ、人攫いや変質者が出ても、あそこに行くのが悪いと言われてしまう場所ではある。
「すみません、失礼します。」
ゼルは、さっさとこの場を後にしようと、私とハンナの手を引いて離れようとする、が。
「まぁ、にいちゃん。まだ若いんだし、子供はまた作ればいいだろ。」
「なかなかの上玉だ。いい稼ぎになるだろうぜ。」
どうやら、優しそうなイケメンのゼル君では、抑止力にも何にもならなかったらしい。役立たずめ。
しかも、人間にビビってるから余計に、舐められている。
「あの、通していただけませんか?」
「うるせぇ!文句あるならテメェをぶっ殺してから貰ってやるよ。ひひひひっ」
ゼルの肩をどんと突き飛ばした。
一瞬ゼルと男の間に微妙な空気が流れた気がするが、何故か違和感のある間の後、ゼルは尻餅をつく。
男も、何となく自分の手を見て不思議そうな顔をしたものの、気を取り直して私の手を掴んだ。
「やめてください!」
慌てて、縋り付くように男の足元に這って行き、私達を庇う。
が、再び蹴り飛ばされる。
「ああ、うるせえなぁ!処理が面倒だから、生かしてやろうと思ったってのに!」
人の部下をポンポンとボールみたいに蹴りやがって!イライラしながら、流石に手を出そうかと思ったが、冷めた顔のハンナに裾を掴まれやめる。
騒ぎは起こしてはいけないと言われていたが、これってもう起きてるんじゃないの?と、言いたかったが、ハンナの様子を見る限り、ラードルフを待てということか。これはストレスがたまる。
「もう、殺して連れて行こうぜ。」
蹴られて蹲っているゼルは、殺すという言葉を聞いた途端、ビクッとして何かを考えるように視線を泳がしている。
「そこまでにしときな。」
ラードルフが来てくれたのかと思ったが、彼より掠れた声。老人の声である。
「え?ゼップルさん?」
男たちの驚くような声。
「俺たちのシノギには出を出さない約束じゃあ……」
先ほどまでの威勢とは違い、おどおどとした態度だ。白髪が多く混じる頭、年老いてなお貫禄のある立ち姿。
男たちを前にしても全く動じていない。
「しのぎって、何を凌ぐつもりなんだ?お前らなんぞ一瞬で屠れる強さを持ったガキ三人相手に。」
「は?」
男たちは、怪訝そうな顔で足元に転がるゼルを見ていた。蹴られながらも腰のナイフに片手を伸ばし、タイミングを伺っていたのだが、そっと手を引っ込めた。
「特にその転がってるやつ。わしの視線を警戒して、やられてるふりをしながら様子を伺ってるだけじゃぞ。わしが見つけてなければ、目撃者もいないのをいいことに、お前らは明日の朝には生ゴミになっとるわ。」
何だこのジジイ。突然現れて気味が悪い。
「こいつらが、ですか?」
男たちは納得がいかないように私達とジジイを交互に見るが、しばらくしてゼルから離れ、舌打ちをしながらそこそこの距離をとった。
「命を救ったのは貸しにしておいてやる。理由はわからんが、コイツらの気が変わらんうちにさっさと行け。」
促されて、男たちは渋々暗闇へと姿を消した。ゼップルと呼ばれたジジイはそれを見送るとゼルの横まで歩き、手を差し出す。
「すまんの、若いのはすぐ目先の利益に目がくらむもんなんでな。」
「いえ、すみません、助かりました。」
素直にその手を取るゼル。起き上がってから体についた砂を払う。
「わしが助けたのは、あいつらの方だ。お前さんらの目的はわからんが、あのまま放っておいたら、そのうち殺してたじゃろ。ワシらも、あんな馬鹿たちとはいえ、仲間を殺されるのは気持ちいいものではないからの。」
そう行って、ヒゲをいじりながらこちらをじっくりと見て言った。
「まぁ、お前さんらもなるべく暴れたくないという希望があったのだろうし、それを助けたのがワシなら、貸し一つとなる訳じゃが。」
なかなか、油断ならないジジイだ。ゼルも、先ほどより警戒している。
「ま、自分よりも強い相手に貸し借り言う気は無いさ。」
飄々と言ってのけた。
「もし借りを感じたなら、ギルドの依頼でも受けてくれ。たまにボルマン商会の名前で、依頼を出しとるでな。」
一方的に喋ると、男はそのまま軽く会釈して闇の中へと消えていった。
私たちは、街の方へと歩いて行き、スラムを抜けた。
その後しばらくして、私達を探すラードルフと合流し、町外れの宿へと移動したのだった。
まだ冒険者になる所までたどり着きませんでした。
次で頑張ります。
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