転生者の戦い
同居では無いとはいえ、まさかの親族コロナから始まり、バタバタした中、子供の発熱や私の体調不良など、こんなに大変になるとは思いませんでした。
更新が大幅に遅れました。
皆様も、体にはお気をつけください。
「ここが戦場?」
「もうすぐ、かなり大規模な魔王退治が行われるそうですわ。俺は、それの補助。」
へらへらと笑う神崎からは、危機感など一切感じないが。
「竜帝王って、魔族側なのか?それとも、人間側?」
「んー。聖女に隷属させられると、人間側になってしまうんですけどね。一応種族としては……竜は中立ですわ。
ま、人間側から見れば、魔族側扱いなのか、魔族領に近い火竜あたりはよく襲撃受けてますけどねー。」
「お前らも大変なのな。」
「うーん、その程度で死ぬような奴はそうそうおらんので、アリに刺された程度やけどね。」
へらへらと笑う神崎を見ていると、危機感なんてないような気もするが、ここは日本ではなく異世界。
一瞬の油断で死ねる。
中立で不参加なら、その眷属である俺は安全かとも思ったが、そうもいかないだろう。
とはいえ、さっきは補助とか言ってたな。
「ところで、神崎。」
「はい?」
「お前、竜帝王なんだろ?」
「そうそう!なんか、ゲームのキャラみたいでカッコいい思いません!?」
「まぁ、確かに厨二心くすぐるけど。いや、そうじゃなくて。俺はその眷属になった訳で、お前への対応、どうすりゃいいの?」
「対応っすか?」
「敬語とか使うのも気持ち悪い気もするが、眷属の立場上どうしていいやら。」
言うと、神崎は今思い出したかのようにポンと手を打ち、はははと笑う。
「そりゃまぁ、俺だって死にたくないんでこんな立場でやってますけどね。今更先輩に敬われたとこでどうなるわけでもありませんやん?」
「確かにそうだけど。」
「ゲームのパワーレベリングとかイメージしてくださいよ。先輩がよくやってくれたじゃないっすか。あれで、俺の方がレベル高いし強いから敬え!とかならないでしょ?」
「そんな話!?」
神崎は、俺とは違いゲームや漫画にどっぷりだったわけではないが、それなりに一般的なな少年時代を過ごしており、当時流行ったゲームの話では盛り上がったりもした。
大体は俺がやり込んで高レベルになってるから、神崎をパーティに入れて無理矢理強敵と戦わせてレベル上げとかもやったりしたな…。
って、ちょっと待て!
「まさか、その、人間と竜の垣根を超えてレベリングさせようとか思ってないよな?」
俺が眉を顰めると、神崎は今まで以上にニヤリと顔を歪めて笑った。
「先輩にせっかく会えたってのに、先に死なれると困りますんで!」
「やめろぉおおお!俺はスローライフで生きていくんだからな!」
「スローライフ?適当な可愛い子と結婚して、ほどほどに稼いで、ほどほどに自給自足して、幸せな老後過ごすやつ?」
「そう!それ!!」
「あー、転生者のほとんどが口にする、安定的な生活ってやつやね。先輩もそのクチっすか。」
ケラケラと笑いながら立ち上がると、手元にあったコップを指さす。
「スローライフしてる転生者がいない、とは言わないですけどね。この世界はそんなに甘くないですわ。」
水面がふわりと揺れると、光を帯びて何かを映し出し始めた。
「うげっ!?」
モザイクがかかっているが、明らかに処刑されたであろう姿の男性が映り、それが消えると次は火炙りにされている女性、魔族らしき男性に殺される少年、鎖に繋がれ、ガリガリに痩せ細り、目だけはギョロリとこちらを見ている廃人のような老婆……次々に場面がスライドする。
「モザイクは俺の優しさですけどね。」
「これが、全部転生者だってのか?」
「うーん、ちょっと補足すると、調子に乗りすぎた転生者ですわ。」
コップの中を見つめる目の奥で、なんとなく笑っているようにも見える。
神崎は、表面上は誰にでも優しく、良い人、と言われがちだったが、俺は知っている。
嫌いな奴に対する冷たさは、なかなかのものだった。
そのことを考えると、正直俺をアッシーくんに使っていた彼女らの末路が怖い。
「お前がそんな顔するってことは、転生者ボーナスでなんか色々企んだ奴らってことかね。」
「ご名答。まー、奴さんらも、ほぼ制限なしのアイテムボックスや、上位クラスの魔法が使えるんですからねぇ。色々と欲が出て当然なんですわ。もう少しいい暮らしがしたい、もう少し楽しみたい、もう少し……ってね。それで、この世界の奴らに目をつけられて、あの通りや。」
神崎がコップの上でふっと手を握ると、再び水面が揺れ、元の水へと戻った。
なんとなく気味が悪い気がして、そのコップを俺の方から遠ざけた。
神崎は、俺を見て苦笑まじりに笑うと、そのコップを手に取り、一気に飲み干して乱暴に口元を拭った。
……うん、ムカつくな。
イケメンは水を飲むだけでもイケメンなのな。
「こんな世界で7000年も生きて、よくまぁ、普通でいられるよな。」
「いやぁ、気が狂いそうに長い時間だった気もしますよ。でも、ほら、俺は俺で、竜の時間で生きて来れたからマシやと思います。人間として7000年も生きる自信はありませんわ。」
「そんな奴いたら、本当に気が狂うんだろうな。」
想像もつかない感覚に、適当に相槌をうつと、俺は立ち上がって魔道具の冷蔵庫を開ける。
形は……なんとも懐かしい日本製の電化製品だが、回路やらなんやらは大きく違い、魔石に込められた魔力で冷えている。
この形と、インチキくさいPapasonicのロゴがなんとなくムカつくんだが。
おそらく、いつの時代の誰かは知らないが、転生者が作ったものなんだろう。
「最近、転生者の数が増えてる気もしますし、気になる存在がいくつかありますからね。今度の戦争は、あまり楽観視はできへんとおもとります。」
神崎の言葉に、気を重くしながら、麦茶を取り出してカラになったコップに注ぐ。
「酒が良かった……」
「贅沢言うな。竜に酒とか、あんまろくなことになるイメージないんだよ。」
「ラノベ知識って奴っすか?」
まったく、こいつはずっと笑ってるな。
そう思えるほど、ケタケタ笑っている。
「別に、取って食ったりしませんよ?」
立ち上がって俺の方に歩み寄ると、俺が一歩下がるのも構わず、耳元で囁く。
「先輩の希望があれば別ですけど。」
「なっ!?」
俺は咄嗟に後ろに飛び退くが、そんなに広い部屋でもないので、すぐ壁があり、逃げたうちには入らない。
「……冗談は顔だけにしとけ、マジで。」
「いややなー。そんな露骨に避けんといてくださいよ。俺、ちょっとショック。先輩のこと好きなのにー。」
「これだからイケメンは嫌いなんだよ、くそ!」
この顔だよこの顔!これに騙された女子がどれだけいると思ってんだ!
透き通るような笑顔にも見えるが、実の所ほとんど感情はこもっていない。
本当のこいつの笑顔は、もっと……。
「いや、まぁ、もちろん人間的に好きなだけですけどね。」
「そうじゃない場合は、しばらく近寄らないでくれ。」
「先輩のケチ。」
子供のように口を尖らせながら、再び椅子に座る。机に肘をつきながら、目を泳がせると、
「俺も正直、竜にしか魅力を感じなくなって死にたくなったこともありましたけどね。」
「……ああ、それは、ちょっと、同情する……。」
「苦節7000年、いろいろな種族と交流してきたし、今なら、なんかもう、どんな人族もいける気がする!」
「今更いけなくていい!あれだろ、竜になったせいで人間の性別や年齢の感覚が曖昧なんだろ。」
否定しない神崎を見て、どっと疲れた気になり、俺も椅子に腰を下ろした。
「今回は聖女も参戦するやろうし、勇者も全員揃うはずですわ。そうなると、どっち側にどれだけ被害が出るのか読め無いんですよね。」
「聖女ってあの重機女?」
「ん?ティーナちゃんのこと知ってんの?」
「俺が、帝国に捕まってたら聖女のステータスを持った重機女が檻をぶっ壊して助けてくれたんだけど。あれ、本当に聖女なのか?」
「檻を素手でぶっ壊すような聖女は、おそらく間違いあらへんと思いますよ。先輩の理想的な聖女像とはかけ離れてるでしょ。」
確かに、俺のイメージでは、ゲームのヒロインやヒーラーのようなおしとやかで魔法型の金髪ロングな儚い美少女を思い浮かべていたけどな?
あの女は少しくすんだ茶髪に、健康的に焼け焦げた肌。
明るい茶色の目は、綺麗だがしっかりと釣り上がっていてゲームで言うなら聖女よりも魔王が似合いそうな出立ちである。
「俺の理想を返して欲しい気はする。けど、まぁ、現実とゲームを一緒にしてもろくなことがないって、この世界に転生してからつくづく思ったしな。」
「さすが先輩、無駄に達観してる!どうせなら、モテることも諦めたら良かったのに……。」
「うっせぇわ!」
「あの、獣人の幼女とかは、どうなん?」
「流石の俺も、できれば成人女性が良いんだけど。」
「じゃあ……」
などなど。
そんなこんなで食事も終わり、たいして中身もない話を続けた後、急に真面目な空気を纏いながら切り出してきた内容。
「で、一応確認しときますけど、先輩は人と魔族どっちにつくんすか?」
「……どっちだろうね。」
少し前なら、迷わず人間側についただろうが。
無実のでっち上げで牢にぶち込んでくれた人間と、それを助けてくれた魔族。
だが俺の家族は人間で、人間の敵が魔族で。
……答えは出せそうに無い。
「で、お前、いつまでいるの?」
「先輩、泊めて!」
俺のセリフを待っていたかのように、食いつく勢いでいう神崎。
「帰れ。」
にっこり笑って突き放すが、
「帰るの疲れるんやもん。戦争起きるまでで良いからー。身体で払うからー。」
「要らんわ!むしろ金で払え!」
「よっしゃ、交渉成立!」
「あああああ!?」
空間収納から取り出した貴金属をチラつかせながら、ニヤリと笑う神崎に、がっくりと肩を落としたのだった。
次回は普通の話に戻ります。
いつもありがとうございます。




