聖女様は祝福する
前半は視点変更話です。
早く先を読みたい場合は、ガロがプッツンするあたりまで飛ばしても話はOKです。
「俺は、オレは、オレハ主人公ダろうガァァァああ!!」
絶叫に近い叫び声が響いた。
えええ、なんかキレたぁぁあ?!
転生者と言われる変わった人間に人質にされたまでは良かった。まぁ、長い人生こういうこともあるだろう。
てか、最初は、めっちゃワクワクした。
勇者並みに強いなら、少し戦って遊べるかもしれないし!
と思ったけど、あれだけ手加減したラルフに負けてるってことは、かなり期待薄……。
それにしても、ほんと、人質が私で良かったよね。私は、そう簡単に死ぬこともないし。
そう考え、ほっと胸を撫で下ろす。
みんなも、きっとすっごく安心していることだろう。何と言っても聖女代理であるフローラに何かあったら大変だ。場合によっては、この男も大罪人として処理されかねない。
ふふ、運が良かったわね!私を選んで正解よ!
外国の……種族不良のお嬢ちゃんも無事っぽいし、何の憂いもない。ここは私が華麗に敵を制圧して褒められる流れなはず。
すっきりさっぱり解決して、ゼル達も、王様達も、勇者達だって、流石ティーナ様!聖女様!って、褒め称えるのだ!
うふふ。
無駄にポーション作ってるだけじゃないんだからね!
しかし、どうしたもんかな?
正体をばらすのはNGだろうし。
いくら悪者でも、人間に怪我をさせてはいけない、はず。
おそらく、強い転生者と言っても帝国の勇者やジークハルトレベルだろうし。
ていうか、普通の人間て、どの程度の力で振り払えばいいのか…そもそも分からん。
とりあえず自分でなんとかしていいのかどうか確認したところ、『私たちが助けるまで、待ってはもらえないかい?』との事。
人質は自分で処理しちゃダメなのか。
ちゃんと確認を取るとか、私も成長したものだ。
こういうところも、ポイント高いだろう。
いつまでもお子様じゃないんだからね。
とりあえず、ラルフやシンディに助けてもらうまで、大人しくしていればいいのは分かった。
しかし、人質って退屈だなぁ……。
仕方なくぼーっとしていると、男は固定ダメージだのなんだのと叫びはじめた。
ふむ。
「異世界人の魔法だなんて興味深いわ。どういう事になるのか、試してみたいけれど。」
「おやめ下さい!」
呟いてみたら、なんかラルフに止められた。
……ん?なんか敬語だし。
あのラルフが敬語を使うなんて、奥さんにめっちゃ怒られた時と王様に謁見してる時くらいじゃないかな。
なんでだろう。何か意味があるのだろうか。
もしかして、聖女様の侍女だと、勇者よりも身分が上なのだろうか?
それとも、王様の前だから、敬語を使っただけ?
ラルフは、いっつもダラダラしてるから、敬語とか似合わないな、と、ぼんやり考える。
急に敬語だもんなぁ。
そういえば、シンディばーちゃんも変に優しかったな。何でだろ。
……まぁいいや。
そんな、どうでも良いことを考えてると、突然男が私に顔を近づけて寄り目になった。
怖!怖!!
ぎゃー!!?
「キモっ!!」
とっさに男の顔面にチョップを入れる。
び、び、びっくりした!
何で異世界人て、すぐ寄り目になるのよ!!
……あ、手加減考えなかったけど、大丈夫かな?
慌てて男の顔を見るが、倒れたりするでもないし、大丈夫そうた。良かった。
やはり、突っ込み程度では異世界人は怪我をすることもないらしい。
まぁ、怪我させたら、大ごとになっちゃうからなー。
何かあったらすぐに治さないといけない。
しかし、目立ってしまうので魔法を使うのは控えたほうがいいだろう。
私は、何かあったときのため、エリクサーを入れている小さな小瓶を取り出す。
「……何だ!?こっちには人質がいるんだぞ!?誰が攻撃しやがった!!」
ん?
私が殴ったことに気づいてない?
それとも記憶が飛んだのか。
しばらく、誰だ!とかあたりを見回して怒っているので、どうしたらいいか悩んだ末、他の人が無実の罪を着せられたら良くないと思い、謝ることにした。
「私、私。ごめん、つい反射的にやっちゃった。」
「は?」
深刻にならないよう、軽めに謝ってみたのだが。
男は視線を巡らせたあと、つぶやくように言う。
「……お前が?」
「あはっ。加減間違えたかな……?」
「お前、モブキャラ顔して、実は高位の魔術師とかか!?」
高位の魔術師?魔法も使ってないと言うのに、何を言ってるんだろう、こいつ。
バカなのかな?
うん、バカなら、簡単に誤魔化せるはず!
「魔術師?あ、えっと、侍女よ!」
「嘘つけ!」
「うーん……?」
困ったようにフローラやラルフたちを見回し、首を傾げる。
ほんと、どうしたらいいのよ。
困ったなぁ。
「侍女が、護衛も兼ねてるのです。」
「な、なので、手を出さない方がいいですよ!」
なんと!
フローラやもう1人の侍女さんが、ご丁寧に指示をくれた。
それならば、私はそれに従って侍女のふりをするだけだ。
スカートを摘んだり、手を組んだり、侍女っぽい動きを考える。
「主人公様が、モブの護衛侍女如きに、やられるかよ!」
なのに、何が良くなかったのだろう。
ガロは剣を手に、低い姿勢のまま足を狙ってきたのだ。
いたいけな侍女に手を出すなんて、最低男ね。
避けようかと思ったが、果たして普通の侍女は剣戟を楽々避けられるものなのだろうか。
風魔法で相殺する侍女っている?
いや、護衛を兼ねた侍女なら避けてもいいのか?
あああ!わからん!
男を視界の端に捉えながら、ぐるぐる考えているうちに、異世界の魔法が唱えられた。
「貫通、ダメージ10倍!急所クリティカル!必中!」
魔法を乗せたガロの声が響くと同時に、
ザシュッ!!
と、布を切り裂く嫌な音と同時に
ガロの剣は、スカートの裾ごと、私の足の腱をざっくりと裂いていた。
……いってぇぇええ!!
マジでやったし、こいつ!
私じゃなければ、大ごとになるぞ!!
私が多少頑丈な魔族だから良かったものの、人間なら、痛みで立ってられないレベルだからね!?
みんなも、痛々しい私の姿に耐えられず目を逸らしてるし。
仕方なく、みんなに無事を知らせるため、魔法で痛覚の一部を遮断し、なるべく明るく振る舞う。
「これがスキル?すごい!私に剣が当たった!」
いや、マジで、相当油断してる時以外、そうそう私に剣などと言う単純な攻撃が通ることは少ない。
魔王やその娘に傷をつけられること自体、本来はなかなか優れた能力者である証拠になる。
それでも顔色の悪い人たちに向けて、さらに無事をアピールする。
「治ればなんてことはないでしょ?」
なるべく、笑顔を絶やさないようにしながら傷にエリクサーを振りかけた。
跡形もなく傷の消えた足を見せつけながら、完璧な侍女を演じられている自分を褒めてあげたい気分に浸る。
私のおかげで怪我人も出ず、このままうまくいけば騒ぎもおさまる。
なのに。
「ぐちゃぐちゃ?」
なぜか、ガロは私をぐちゃぐちゃにしたいらしい。
何でや。
私なんかしたっけ?
うーん、と考え始めると、慌てた様子のラルフが再び敬語で話し始めた。
「どうか!それ以上、お嬢様に手を出さないでください!万が一、傷でも残れば、公爵様が悲しまれます!」
公爵様とかよくわからないけど……怪我をするのは良くない、のね!大丈夫!私は怪我したってすぐ治せるし!
私は、得意げに親指を立ててウインクで応えた。
「は!もう遅い!」
ガロは私に向かうと、何度も剣を振り下ろし、薙ぎ払う。
剣筋も悪くない。
だけど、かなり雑だ。
力任せだし、我流なんだろうな。
魔力を最小限に絞り、あえて受けて立つ。
傷を受けたって大丈夫だと、みんなに気づいてもらえれば、みんなはもっと安心できるだろうから。
体に薄く金色の魔力を纏わせ、常に回復魔法を使用している状態を保つと受けた傷が、次の傷を受ける前にキラリと金色を帯びて消えていく。
「どうだ!幾ら傷は小さくとも!ポーションを使う暇さえ与えなければ!固定ダメージで!お前はもう直ぐ、死ぬんだ!」
「そうかなぁ?」
男は、私が回復魔法を使っていることに気づいてないどころか、使えるとさえ思ってなさそうだ。
あからさまに傷が治っていってるのになぁ。
ま、無傷で戦う私をみたら、みんなも安心できるだろう。
側から見れば、服がボロボロに切り裂かれ、全身に血が滲んでいるように見える痛々しい姿だと言うことは、相当後まで気がつかなかったけど。
……逆効果だったなんて。
てか、受けたダメージを瞬間的に回復しているのだから、蓄積も何も無いんじゃ?
彼は一体、何と戦っているつもりなのだろう。
訓練用のカカシ?
生き物相手に戦えば、痛ければ逃げるし、回復もする。
時間が経てば、その分傷もいえる。
「何でだよ!お前のヒットポイントは幾つだっていうんだ!!」
適当に食らったり避けたりしていて、ほんとしつこいなぁ、と思い始めた頃。
突然私の肩口を掴んで顔を近づけてきた。
ひっ!?何!?
と思った瞬間、寄り目になる。
「だからそれ、キモい!」
再び、反射的に殴りつけてしまった。
あまりのキモさに、またも手加減を忘れた。
やばい、と思った時すでに遅く、かなりいい感じのパンチがガロの腹部に決まった後だった。
静まりかえった広間に、メキッっと変な音が響く。
うん……なんか折れたよね。
「あああ、ごめん、つい!」
倒れかけたガロを慌てて掴むと、回復させるためエリクサーを取り出す。
「わ、私が悪いんじゃ無いのよ!?あんたが悪いのよ!!ほんと、その寄り目、キモいのよ!何で異世界人てすぐ寄り目になるかなー!?」
と、ぶつぶつ言い訳をしながら、急いで彼の口に流し込んだ。
キラキラと光って彼の骨折もなかったことになったはず。
よしよし。
後は、水魔法をぶつけて気付をして、っと。
「……はっ!?何しやがった!?」
割とすぐに意識を取り戻してくれた。良かった、と、ほっと一息。
何事もなかったかのように声を荒らげるガロ。
「ちょっと、べちって、叩いちゃった。」
てへっ、っと肩を竦める。
かわいい失敗なはずだが、ガロは私の手を振り解くと怒りを滲ませた目でこちらを睨みつけていた。
「お前、さっきからどんな魔法を使ってんだよ!」
「魔法?気付の水魔法?」
「近距離で強力な魔法を叩き込んでるんだろ?卑怯者め!」
「そんな事ないよ?気絶したからわからなかった?うーん。もう少し弱くやればいいのかな?こうやって、こう。」
すぐ気絶するから、状況が飲み込めなくなるんでしょ!
と思いながらも、仕方なく再現のために、先ほどと全く同じ位置に軽い動作でパンチを決める。
「がはっ!?」
短く息を吐くガロ。
今度は意識もあるし、理解しただろう。
「こんな感じでね、殴ったのよ。って、あれ?……おーい、大丈夫?」
なんか、真っ赤な顔をしている。
怒った?
今のでも痛かったのかな?
でも大丈夫!ちょっとした傷でも、エリクサーはよく効くのだ。
エリクサーの大盤振る舞いで、もう一本追加する。
「カハッ!!」
「やり過ぎちゃった?平気?」
その顔を覗き込んで問いかける。
人間相手よりも多少力を込めてしまったとはいえ、戦い方を知っているアイリーンやラルフ達なら、わざと受けてもちょっと痛い程度で済むダメージのはずだ。
となると、まさか。
「普通の人間なの?ビックリした、こんなに脆いのね。異世界人とか、転生者とか言ってたから、もっと頑丈なのかと思って……。」
異世界人は、不思議な力を持っているとはいえ、体の強度は普通の人間並なのか。
これはちゃんと覚えとこう……。
それにしても、こっちに注意を惹きつけて遊んでいるが、いつになったらシンディたちの助けが来るんだろう?
……まぁいいか。
私がターゲットな限り、誰も傷つかないし。
「もっと遊ぼうよ!体が頑丈になるスキルとか無いの?速くなるスキルは?攻撃力は10倍なの?100倍とか無いの?他には何ができるの?」
「……な、なんだお前!マジで何なんだよ‼︎」
にしても。
もう少し遊べるのかと思ったが、ガロは相変わらずただ斬撃を重ねるだけだった。
「これじゃなーい!コレはさっき体験した!」
大して代わり映えのしない斬撃に飽きて、剣を摘む。
「ひぃっ!」
「違うのやってよ。」
と、そこで、私を見るガロの目に気づく。
震えて、恐怖色に染まるその目。
「怯えさせちゃった?……ごめんね。」
反撃もせず、相手に合わせて笑顔で対応していたはずが、いつのまにか怯えられている。
こんなことで、本当に人間と仲良くなんてなれるのだろうか。
どうしたって力は強いし、体も頑丈だ。
今は隠しているとはいえ、ツノや羽根に嫌悪感を抱く人間も多い。
私は、剣から手を離すと、一歩離れる。
ガロも、もう、私を人質にする気も失せたようだ。
「何なんだよ、コイツら、化け物じゃねーか。」
私にだけ聞こえる程度の、小さな声で呟いたかと思うと、
視界にヒラリと、1匹の蝶が舞った。
同時に、
「俺は、オレは、オレハ主人公ダろうガァァァああ!!」
絶叫に近い叫び声が響いた。
「えええ、何これ!?」
唐突にガロの魔力が跳ね上がった。
弾かれるようにシンディとラルフは、前へと飛び出す。
今までの楽観的な態度では無い。
冷や汗を垂らしているラルフと、猟奇的な笑みを浮かべるシンディが、コイツのヤバさを現している。
体は2倍近くに膨れ上がり、真っ黒いツノが生え、唸り声を上げるこの姿。
「劣化悪魔!?」
今、ここにいたのは間違いなく人間の男だった。
だが、今のこの姿は、間違いない。先日も見た、劣化悪魔そのものだ。
「おいおい、最近の転生者は悪魔になれるのか?」
「いやぁ、70年以上生きてるが、あたしゃそんなの聞いたことないね。」
私を守るように前に出た2人。
既に、フローラが聖女代理だとか、そんなことは関係なく、ガロを倒すそのことを優先せざるを得ない状況なのだろう。
「ゥオれ、は、勇シャだぁあアア!!」
剣を投げ捨て、鋭く尖った爪を振り翳しシンディへと襲いかかる。
「はっ!大した勇者だね!鏡を見てから言うといいさね!」
「うるサイ!ゥオまエラのせいダぁああ!!聖女モ勇シャもニセモノどもめぇええ!!」
さっきまでとは、動きがまるで違う。
全盛期のシンディならともかく、現状はラルフが加勢して五分。
……あれは、もう、ガロではない。
ガロの器に入った、別のモノだ。
劣化悪魔。
聖女教。
何となく頭の片隅にあった記憶が甦る。
また、あいつらの仕業なのか?
あの時の劣化悪魔より、器の人間が強いせいか、かなりやっかいだ。
私でも、このままの姿では、おそらく勝てない。
現状五分に戦えているとはいえ、ラルフやシンディの体力が尽きる方が早いのではないかと不安になる。
そうなったらどうする?
正体を出してでも戦うのか?
聖女の力を出せばこのままの姿でも善戦はできるだろうが、身代わりがバレる。
全力を出せば、魔族だとバレる。
何が最善なんだ。
「ぐぁっ!」
そんなことを頭の中でぐるぐる考えていると、結構重めの一撃をもらい、ラルフが吹っ飛んだ。
聖剣も弾き飛ばされ、無防備になるが、それを庇うようにシンディが立ち塞がる。
「ざまぁ無いね!普段から、サボってばかりいるから、こんな劣化悪魔如きに遅れをとるんだよ。」
「うっせー……」
ラルフは、よろり、と立ち上がって剣を拾おうと手を伸ばしながら、反対の手でポケットからエリクサーを掴むと、惜しげもなくあおる。
そりゃまぁ、アホかと言われるほどの本数渡してあるもんな。
しかし、シンディもだけどラルフも弱くなった気がする。
……年々弱くなってる。
ガロだったものに向かって剣を再び構えたラルフは、自身の剣の刃こぼれを見つけ、眉を顰めた。
聖剣とはいえ、過去の聖女の遺産だ。
劣化して、魔力も弱くなっているのだろう。
普通は、次の聖女が現れた時点で、全ての勇者の剣は作り変えられる。
そうする事で、勇者と聖女の繋がりも強くなり、聖剣も、勇者も強くなる。
……。
ああ、だから彼らは弱くなってるのか。
だって、魔王を倒す剣を、私が強化するわけ無いもんな。
でも、彼らは、私たちを守ってる。
聖女だけど、魔族の私をも。
彼らは、勇者だ。
戦いが好きなシンディも、平和主義なラルフも。
運命から逃げずに、戦ってる。
私は、魔族の平和を望みながら、いったい何をしたのだろう。
聖女の本来の役目だとはいえ、彼らに祝福を与え強化することは、人間を助け、魔族を危機に追いやる。
だから、そんなことはできない。
実際今までやらなかった。
だって彼らは、父様をいじめる人たち。
彼らに力を与えることは、父を苦しめる事だ。
でも、だからといって、勇者の力の根源とも言える聖女の助力無しに、彼らを戦わせるのか?
……。
違うな。
彼らは意味もなく魔族を殺したことなんてない。
私は、怯えていたのだ。
魔族と人間の和平のために、とか、魔族を信じてくれない、なんて被害者ぶりながら、彼らを信じてないから、彼らのその剣が私たちの方に向くことを恐れている。
馬鹿馬鹿しい。
「気配遮断」
私は、認識阻害の魔法をかけた上で、スタスタとラルフに歩み寄る。
「な、ちょ、何やってんだ!下がれ!」
「もう、敬語はやめたんだ?」
あ、と、口をつむぐラルフの剣を指で摘む。
「創造」
そのまま反対の手で魔力を練り、剣に纏わせた。
薄く金に光る刀身に、ラルフは、目を見開いて、呟いた。
「これが、本来の、聖剣……。ははっ、すげぇ。」
「……勇者様、よろしくね。」
剣から手を離し、ラルフの肩に手を乗せる。
同時に、ラルフにも、聖女の魔力を流し込んだ。
「聖女の祝福」
聖女の魔力が流れ込むと、ラルフの勇者の魔力が、呼応する。
二つが混ざり合い、薄く光った後、消えた。
「ああ、なるほど。これか。ここまで違うものなのか。……これが無いから、魔王に挑んでも、本気を出させることもできずに惨敗するわけか。」
今までとは比べものにならないほどの力に、ラルフはただただ笑うしかなかった。
今までも、他の人間と比べれば桁違いに強かったが、そんなレベルじゃ無い。
これが、聖女の祝福なのだ。
私は、今まで弟のエミール以外の勇者に、祝福を与えていなかった。
祝福を与えると、聖女のそばにいる時に限り、勇者の力が劇的に跳ね上がる。
だからこそ、絶対に与えないと思っていたが。
『お前の好きにするといい』
父様はそう言っていた。
幼い頃の私は、意味がわかっていなかったけど。
この勇者たちは、聖女を、私を悲しませることはしないと、知っていたのだ。
「ばーさん、交代だ。」
前に飛び出すと、剣の一振りで劣化悪魔を吹っ飛ばす。
パチクリと目を見開き、私とラルフを交互に見るシンディ。
認識阻害の魔法も、彼女には大して効いていなさそうだ。
しかし、一人で劣化悪魔を押さえ込んでいたあたり、やはり彼女は人間離れしている。
「あんた、本当に、何やってんだい。」
そんな事をしたら、魔族を裏切るようなもんだろう。
彼女の目はそう語っていた。
「いいの。私は、家族だけじゃない。人間も勇者も、みんなを守りたいの。」
やはり相当無理をしていたのか、肩で息をしているシンディにエリクサーを手渡すと、彼女の剣と彼女自身にも魔力を這わす。
「ああ、凄いね。こりゃ、私が悲劇の勇者と言われるわけだ。」
「悲劇?」
「聖女がいれば、魔王を倒すこともできたのでは無いか、とね……昔はよく言われたもんさ。聖女の祝福なんてなくても変わらないと思っていたが、ここまで違うと笑えるよ。」
そう言って、再び剣を構える。
「ここまでやってもらったんだ、あのくらいなら、倒して見せないと、勇者の名が泣いちまうね。」
二人の勇者は、ニヤリと不敵に笑った。
いつもありがとうございます。