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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の帰還
139/175

勇者と異世界の勇者

遅くなってすみません。

「何で、外れる?!」

「何でって、俺が避けたからだろ?」

「必中と急所クリティカルのエンチャントがかかってるのに!」

「はぁ?」


男の剣を軽々と避けたラルフは、意味がわからないと言った様子で頭をかいた。


「……必中と急所クリティカルだぁ?その魔法がかかってれば、3歳児が剣を振っても急所に当たるってのか?」

「うるさい!避けちゃダメだろう!」

「は?何でだよ。」


続けて剣を振るガロと、避け続けるラルフ。

軽々避けているように見えるが、所々剣や魔法を使って剣筋を強引に変えたり、自分の位置をずらしたりしている。


確かに、言われてみればガロの剣は何か魔法で操ってない限りおかしいとしかいえない動きをしている。まっすぐに振り下ろしてるようにしか見えない剣が、ラルフの直前で力の方向とは関係なく曲がったり、加速したりしている。

魔剣を使用し、超絶細かい魔力操作と魔法の技術があれば可能だろうが……そんな細かいことをしているようには見えない。

剣も、大した魔力を感じないところを見ると、そんな高価な魔剣ではないだろう。


てか、『急所』が、常に『目』か『股間』なのがウケる。


「どんな魔法がかかってるかよくわからねぇけど、常に同じ場所を的確に狙ってくるなら、避ける方法はあるだろうよ。何だよ急所クリティカルって……。」

「うるせぇよ!主人公の攻撃はちゃんと食らえよ!魔法効果を相殺するとか、そんなの、ゲームにはないだろ!」

「げーむ?何言ってんだよ、お前。」


数度打ち合ってはいるが、がむしゃらに剣を振るい、魔法を撃つガロと、最小の動きで避け続けているラルフ。

どう見てもガロの方が魔力も体力も持たないだろうと思われた。


「必中ねぇ。必ず当たる……俺の剣に当たるたびに魔力が霧散するのはそのせいか。」

「当たり判定が剣だと?クソゲーだな!!」

「知らんがな。」


しかし、確かに、適当すぎる動き、無駄に使いすぎている魔法にも関わらず、男は殆ど疲れるようなそぶりを見せない。

普通の人間なら、数回はぶっ倒れてる。


「魔族を毛嫌いしている割には、お前が魔族なんじゃねぇかって言う体力だな。」

「あんな化け物どもと一緒にするな!じゃあ、これはどうだ!?貫通固定ダメージと攻撃力10倍のエンチャントだ!」

「ダメージが固定?何だそりゃ。」


首を傾げるラルフ。

振りかぶった剣は大雑把すぎる動きでラルフの腕に掠った。


「ちっ。」


赤く血が滲む腕を見て、小さく舌打ちをするラルフ。

しかし、本当に小さなかすり傷に対し、ガロは勝利を確信したかのように叫んだ。


「ざまぁみろ!お前のヒットポイントは3万だ。俺の固定ダメージは2千ある!それを10倍だから2万だ!かすり傷でも、当たったからにはお前のヒットポイントは残り1万なんだよ!」


ブンブンと剣を振り回しながら、興奮状態のガロ。

それを剣でいなしながら眉を潜めるラルフ。


「んー?何言ってるのやら。」

「あいつの攻撃は、恐ろしいんです。」


ヒットポイントだなんだと、意味のわからないことを叫んでいたので、ついつい呟きが漏れてしまったのだが。

私の独り言に応えたのは、私の隣でわたわたしていた兵士の1人だった。


「避けたはずの剣が当たり、当たると、必ず大ダメージがある。教官達ですら、負けることも多いんです。天才と言われていて、最近近衛兵候補になったところだったのですが。」

「今日は来るはずじゃなかったのよね。」

「はい。少し魔族に対して偏見があるので、今日の護衛の任務からは外れていたはずでした。」

「ふーん。」

「そんなことより、早く止めないと!ラルフ様が!!」

「そんなにやばそうには見えないけどなぁ。」


男の体力や魔力は確かに相当なものだが、正直ラルフがおされているようには見えない。

相変わらず、飄々とかわし続けている。

あれが、体力?の2/3を奪われた人間の動きだろうか?


「……くそ、あと一撃で殺せるのに!」

「何の数字だか知らんけど、そんなに食らった気はしないけどねぇ。」


腕の傷に一瞬目を落としてわずかに首を傾げるラルフ。

そんな時、ふと思い出した。

帝国で出会った気持ち悪い寄り目男。

あいつもステータスがどうの、転生がどうのこうの言ってたな。

……ああ、そう言えば、ステータスを数字で観れるとかも言ってた。

ハンナやロベルトを見て、『なんだこれ。レベル550、HP103万?魔力325万だと?そんなバカな……。』『は?レベル865?HP690万?魔力1800万?は??』とか何とか言ってたわ。

何で正確な数字覚えてるかって?

……なんか変な数字を気にしたハンナが、紙にメモってたのを何となく貰ったからね。すっかり忘れてたけど。


しかし、これが強さを表す数字だとすると、ロベルトのヒットポイントとやらが690万なのに、ラルフのヒットポイントが3万な訳はない。

だって、ロベルトはラルフに勝ったことがないのだから。


そもそも、ダメージが固定だの、10倍だの、意味がわからん。

ダメージ量なんて、当たる場所とキズの深さで大きく違うものだし、そもそも相手によっても違うだろう。それに、10倍って何?魔力を体に纏わせて、攻撃の威力を上げている感じなのかな?


あまりに2人の戦いが単調で、ついつい色々考えてしまった。あれ以降、かすり傷の一つも食らわないラルフと、とにかく力に任せて剣を振り続けるガロ。

ラルフは、殆ど回避と防御以外していない。

側から見ればラルフが劣勢にも見えるが、何か考えているようだ。


「そのエンチャントとやらはそれだけか?他にもあるのか?」

「何を、言っている!?」


突然、ラルフは避けながらそんなことを問うた。


「過去にいたんだよな。ダメージ反射、毒追加、持続ダメージ、攻撃力減少、自爆に、爆破とか言うのもあったな。」

「な、お前やっぱり、スキルを知っているのか!転生者なのか!?」

「ちげぇよ。おじさんはねぇ、50年以上生きてると、変な奴らにも会ってる、ってこと。そうだなー、下手に反撃して、ダメージ反射が一番きつかったからなー。お前らの言葉で言えば、お前は、まだ()()()が少ない方だ。」

「な、何だと!!!」


そう言って距離を取ると、ラルフはニヤリと口元を歪めて剣を構えた。


「反射が無いなら、攻撃しても大丈夫そうだ。あれは流石にまいった。食らったダメージを倍にして跳ね返すとか言う魔法でな。一撃で始末したにも関わらず、俺も相当のダメージを受けたからな。死んでも発動する、なかなかに気合の入った魔法だったぞ。」

「うるせぇ!どっちにしろ、あと一撃さえ当てれば良いんだよ!!」

「まったく……まだそのステータスとやらの数字を信じて生きてんのか?仕方ねぇな、良いぜ、()()()()()()。その代わり、それで仕留められなかったら反撃するぜ。」


勇者の貫禄とでも言うのだろうか。

余裕を見せるラルフ。

そもそも、王が『後で話を聞く』と言ったのだから、殺すわけにはいかず、相手の力を測りながら、どの程度までダメージを与えて良いものか考えているため、攻めあぐねているのだろうが、ガロはそう思っていないらしい。


「はーっはっはっは!言ったな!その()()()!!完全に雑魚の敗北フラグじゃねぇか!」


気が狂ったかのように見えるほど、大爆笑している。


「女神の寵愛を受けて転生してるんだ、負けるわけねぇんだよ!」


そう言って、ガムシャラに振り回していた剣を止めて下がり、距離を取った上で、大きく振りかぶった。


「死ね、当て馬雑魚キャラが!」


駆け出し、振り下ろした剣が、ラルフの右肩に直撃する。

切れ味は良い方では無いロングソードとはいえ、そのまま切り裂かれるところを想像したのか、数名の騎士が目を背けた。


因みに、シンディはものすごく楽しそうにガン見している。

万が一でもラルフがやられたら、颯爽と割り込むつもりなのだろう。


……戦闘狂のババァめ。


「ざまぁみろ!!これでお前の残りヒットポイントは、ゼロだ!」


確かに、一撃は入った。

服に切れ目が入り、うっすらと血が滲んでいる。


「で、ゼロになったらどうなるんだ?」


だが、()()()()でしかなかった。

剣を受けたまま、平然と佇んでいる。

打撃でのダメージすら感じていないかのように、肩に振り下ろされた剣を見下ろしていた。


その剣は、食い込んだりしているわけでもなく、肩口を数センチ切り裂いているだけ。そのまま突き刺すことも切り裂くこともできず、その場にとどまっていた。


「何で!!どうなってる!!間違いなくお前のステータスは……!残りヒットポイントは、ゼロに……!」


そう言って少し寄り目になった後、呆然と呟いた。


「残りヒットポイント…… 29,866??どうなってる!?俺の固定ダメージはどうなったんだよ!!」


ラルフは、剣を掴んでゆっくりと自分の肩から下ろすと、改めて自分の剣を構えなおした。


「異世界人を名乗る奴らの何人かにステータス鑑定とやらをやってもらったことがあるんだがな。」


何が起きたかわかっていないガロは、後ろへ一歩下がる。


そもそも、急所に当たるはずの剣が肩に当たったと言う違和感にも、もう気付いていないことだろう。


「数字の差は、技術の差とイコールじゃ無いらしくてな。数字だけなら、俺はシンディのババァに勝ててもいいはずなんだ。そもそも数値化されるのが気持ちの良いものでは無いわけよ。しかも、体調とかで多少変わるし。

ま、お前らが俺らに勝てないのは、敢えて言うなら、俺ら勇者にはお前らで言うところの()()()()()()()()()()()ってやつがある。そして、踏んだ場数もな。普通の人間じゃ、相手にならんよ。」


あっけらかんと言い放った後、ラルフは軽く構えたその剣を振り抜いた。

ガロは、避けようと身をよじるが、間に合わない。


「こうやると、お前の言う数値とやらになるかな?」


振り切ると同時に、ラルフが何かの呪文を唱える。

受け身を取ることもせず、少し寄り目になっていた男は、勇者の斬撃を受けて倒れる直前に呟いた。


「え……?900万?なんで……」


すこしずつこうしんしていきますので、

これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鑑定って寄り目にしないと使えないのかな…
[良い点] いくら鑑定能力があっても変身後のステータスまで見抜けないんだよな(TRPG脳)。 「チート」を世界バランスを崩さないように調整する神様もお疲れさまです。 [気になる点] ラルフの口ぶりから…
[一言] 待ってました。 チートもらったとしても、それを扱う技術がなければ負けるのは当たり前なんだよなぁ。 お体に気を付けて続きをお願いいたします。
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