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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の帰還
134/175

聖女様と悪者

遅くなっております。

「お騒がせしました。警備に当たっている王家直属の騎士団です。」


立ち止まってザワザワしていた群衆は、アイリーンの一言でほっとしたように、祭りへと戻っていった。

氷漬けの悪党や、空を飛んでいる私に興味を示している野次馬気質の人々も多少はいるものの、やはり祭りの浮かれた空気には勝てないのか、それほど多くはない。


「これ、死んでないわよね?」

「氷の中に閉じ込めてるだけだから、長時間でない限り死なないわ。中まで凍らせたいなら、もう少し上級の魔法使わないと。」

「いや、別にそれは求めてないって」

「コレは、割れば中のやつが出てくるってことだね?」


近寄って来たシンディが問う。


「そうそう。中は凍ってないから、よほどの力で粉砕しない限り、中の人が砕け散ることはないわ。」

「よほどの力でって、あんたほどの力でやったら、凍ってなくても人間なんて砕け散るわよ。」

「そうかい。なら、問題ないさね。」


そういうと、ツカツカとスリに歩み寄ったシンディが普通の人には見えないような速さで剣を振った。

流れるような剣筋。

正直、手が剣に添えられたことに気づかなかった。

こんな化け物と戦ってたとなると、うちのお父さんて、私が思ってるより凄いんじゃぁ?

おそらく、力加減も完璧なのだろう。

ピキッと小さな音がした後に、頭の部分だけ氷が砕け散った。

それと同時に、氷漬けにした時地面に落ちた鞄を拾い、汚れを払う。


「か、この、テメェら、何者、て、て、か、さ、寒い!とにかく、こ、この、ここここ、おり、氷を!!」


そりゃまぁ、氷漬けになってれば寒いよね。

凍えた男が、懇願するが。


「何言ってるんだい。一撃で殺されてないだけ喜ぶんだね。心配しなくても凄腕の薬師が作ったポーションがここに有る。凍傷になろうが、砕けようが、スッキリ爽快直してくれるさね。」


私特製の上級回復薬を掲げ、ニヤリと笑った彼女を見て、アイリーンはすごく微妙な顔をしていた。

正直、どっちが悪人かわからない笑みな気もするが、この人はれっきとした勇者で有り、正義の代名詞だから、大丈夫な筈、多分。


「そうね。聖女様の奇跡とまでは言わないけど、普通の回復薬とは、訳が違うわよ。」


先日、私の作った回復薬を鑑定したらしいアイリーンが苦笑まじりで言い、それを聞いた私は、ふふん、と自信満々で胸を張る。

ーー空中で。

しかし、ちらりと私の方を見た後、


「あんた、いい加減に降りて来なさい。」


ついでのように言われ、渋々降りる。

飛行魔法は比較的レアだが、浮遊魔法は使える人も多い。

そのおかげで、見上げる人はいても、そこまで好機の目にさらされているわけでは無かったのだが。


「バカとなんとかは高いところが好きだからね。」

「ぼかす方が逆です、師匠。」


そんなことを言いながら、シンディは、不安そうにこちらを見ていた被害者の女性にカバンを返し、にっこりと笑った。


「災難だったね。祭りを楽しむといい。」

「ありがとうございます!」


女性は何度も礼を言うと、その場を離れた。


それを見送ると、シンディはちょっと散歩に出るような気軽さで、少し人気の無いところまで、スリの男を引きずって運び始めた。

軽々と持ち上げる力もあるだろうが、小柄な老人がガタイのいい男を担ぎ上げていると目立つとでも思ったのか、それとも悪人を担ぐことが嫌だったのか。


どっちにしろ、元々目立つのを避けるため、派手な音を立てたりしない限り気づかれない程度の軽い認識阻害はかけっぱなしにしているけれど。

よくいる、影の薄い人、と言うのを強化したようなやつだ。

なので、カバンを意識して追っていた女性は、私たちをしっかりと把握できていたが、その他の人たちはちらりとこちらを見る程度。

さっきのように突然氷漬けにしたりすると一瞬視線は集まるが、よほど好奇心の強い人でない限り、長く立ち止まりはしないのだ。


さて、人通りの少ない、路地裏に着くと、シンディはガタガタ震える男にもう一度声をかけた。


「さて、警備に引き渡したいところなんだがね。なんかあんたは、引き渡しちゃだめな気がするんだ。」


何それ。

後ろをついて歩いていた私とアイリーンは顔を見合わせる。

てっきりそのまま警備に引き渡すと思っていたのだが。


「今ならまだ、聞いてやるさね。なんでそんなに怯えているんだね。」

「いや、捕まったんだから、これからのことを思うと怯えるでしょ。」

「あたしの勘なんだがね。この男は、悪人のオーラっていうのかい?それが無いんだよ。勇者の勘、ていうのかねぇ。」


シンディの言葉に、男は、震えながら声を絞り出す。


「ゆ、ゆゆ、ゆうしゃ!?ま、ままままさか、ししししシンディ様!?す、ススス、スミマセ、お、おお俺は、俺は。」

「ふむ、凍えてると話しづらいね。灯火(トーチ)


シンディが唱えると、一瞬燃え上がった炎が男を舐め尽くす。

本来は竃に火を灯すような、攻撃に使うようなことの出来ない火の生活魔法だが、勇者の力で強化されているらしい。


「ひいいいい!?」


男は涙目になっているが、怪我をしたわけでもなく、火傷などもなく、氷が溶けてホカホカと温まっている。

しかし、指先が赤くなっているところを見ると、軽い凍傷にはなっているかもしれない。

…痒いんだよなぁ、霜焼け(あれ)


「さぁ、吐きな。あんたがスリをした理由をね。今なら、大サービスで凍傷もすっきり治る、この回復薬もつけてあげるよ。」


悪徳な商人のようになってるシンディ。

しかし、それにツッコミを入れるより先に、


「それをくれるのか!?」


男はシンディに縋り付いた。


「あ、ああ。そんなに凍傷が辛かったのかい?」


予想外の反応に、珍しくシンディが驚いたような表情を見せたが、男はそんなことは気にもとめず、回復薬を握りしめた。


「ありがとうございます!これで、これなら、妹が助かる…!」


…いもうと。

まさか、妹の薬代の為にスリをしたって事?

流石に、聖女として生まれて以来、薬に困ったことはないので、そういう発想はなかった。


「…信じてもらえないかもしれないけど、スリなんかしたのは初めてなんです。いつもは、何とかお金を工面してるんです。けど、薬はどんどん値上がりしていて……足りなくて、妹の具合も悪くて。」


悔しそうに下を向く。


「確かに、最近の値上がり具合はすごいしね。一般人じゃ、手が出ないほどになって来てるわ。」

「そんなに?」

「ええ。薬にもよるけど、上級なんて貴族でもない限りそう易々と買えないわ。下級でも、スラムの人たちには大金よね。」

「へぇ、薬を買うのも大変ね。」

「……はい。」

「ちなみに、妹さんは病気なの?」

「はい。元々虚弱体質なのですが、特に最近具合が良くなくて。」

「でもさ、回復薬だと病気の症状の緩和はできても治らないじゃない。上位なら病気次第で何とかなるかもしれないけど。」


そう、回復薬はあくまで傷を治すもの。

病気を治すならそれに合わせた薬か、エリクサーが必要となる。

ある程度の欠損を修復できる上位回復薬ならば、うまくいけば治る病気もなくはない。

または、患部を取り除きその後飲むことによって欠損部の復活といった形で強引に治療することもあるが。


「そうです。それでも、回復薬を飲む事で少しでも楽になるならと……。」

「私が調合してあげようか?」

「薬師の方なのですか?」


聖女の特殊能力は回復の他に、魔力を用いた調合や、魔道具の製作。

私が余計なことを言ってしまう前に、シンディがフォローする。


「魔術師が薬師を兼任することは多々ある事さね。」

「しかし、調合にも高価な薬や材料が必要ですし、そんなお金も……」

「今もらったの、上位じゃん。色見てみなよ。それを使えば、大抵作れると思うけど。」

「え。あああ、こんな高価なものを!てっきり凍傷云々と言っていたので下位かと思い込んでいました……。」


男は、握りしめていた手を恐る恐る開き、透明の回復薬を見つめて呆然としていた。


ちゃんと見てなかったわけね。

あ、もしかして認識阻害の魔法が変な作用してたのかな?


「じゃ、妹さんのところに連れて行ってくれる?」

「わ、わかりました。」






いつもありがとうございます。


コメントも、温かいお言葉も、とても励みになります。


これからも、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新してくれるだけでありがたいです。 今回も面白かったです。 お体には気を付けてください。
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