表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の帰還
132/175

聖女様とお祭り

遅くなってすみません。

久しぶりにゆっくりと見たナルノバ王国は、とても賑やかだった。

インナロード王国との国交樹立の式典だとかで、毎年この日に祭りが行われるらしい。

普段よりも多い出店に、群がる子供たち。

楽しそうに笑い合う人々。


素敵。


とはいえ、私たち魔族も祭りがあったり、式典があったり。

出店に群がる子供たちだっている。

そんな故郷を思い出し、少し懐かしく思う。


そもそも、王国の図書館でチラリと見た魔王城や城下町のおどろおどろしい雰囲気は、完全に人間たちの創作である。

なんで空が常に黒いのよ。

なんで蝙蝠を必ず描くわけ?

枯れ落ちた木なんて、ちゃんと抜いて植え替えるし!

一昔前に流行ったドラキュラたちの住処のデザインみたい。

病みコーデとか言って、サキュバスたちもメイクに気合い入れてたそうだけど。


どんな風に伝われば、それが普通みたいになるんだろうなぁ。


「ふふふ、あんた達、なんか食べたいものでもあったかい?」


キョロキョロしている私をみて、嬉しそうに笑うシンディ。

恥ずかしくなってアイリーンの方に目をやると、どうやらこっちもキョロキョロしていたらしく、顔を赤くして下を向いていた。


そういえば、彼女も長らく軟禁されてたんだもんなぁ。

久しぶりの街に心躍っても仕方ないか。


一通り飾り付けや展示、踊り子達を楽しんだ後、広場に移動して歩きながら買ったものを広げる。

串焼肉に、鳥のスープ、炒めた麺に、揚げた芋。

食欲をそそる匂いに、思わず顔が綻ぶ。


「おやおや、まるで子供みたいだね。」


ずっとニコニコご機嫌なシンディ。

念のため変装のつもりなのか、大きめのローブを頭からすっぽりとかぶっている。

年齢のせいもあり、ちょっとした聖職者みたいだが、中身は血気盛んな勇者様である。

見た目に騙されてはいけない。

私たちも、多少質素な村娘風の衣装に着替えていて、祖母と祭りに来た孫娘という設定を疑う者はいなかった。


「子供でいいですよ!美味しいモノは美味しく食べてこそです!」

「異論ナーシ!」


手掴みでかぶり付く私たちを見てため息を一つつき、


「やれやれ、お嬢さんのしつけってものが足りてないね。ラルフも、魔王も。望むなら、私が令嬢の作法ってものを教えてあげようか?」

「ええ、シンディさん、勇者でしょ?」

「勇者だって人の子さね。私はこれでも、由緒ある公爵家の娘だったんだがね。」

『えええええ!?』

「……気品が溢れてるだろう?」

「……は、はい。」


言われてみれば、確かに……所作に気品はある気がするけれど、剣を振り回して破壊している姿しか浮かばず、いまいちピンとこない。

しかしながら、笑顔で詰め寄る彼女に、私もアイリーンも、ただ頷くしか無かった。


「さてと、食べるのはいいんだが、どうもさっきから気になる殺気と視線がいくつかあってね。いざとなったらあんた達も動けるようにしておきな。」

「え、バレてる!?」

「いや、狙いは私たちとは思えない。大方、インナロードの偉いさんを狙った輩か何かだろう。あとは、人混みに紛れた人攫いとかね。」

「うわー、やっぱりそういうのいるんだ。」

「そりゃ、人がいるところに、悪意はあるからね。あんた達魔族にもあるんだろ?」

「そりゃ、いい魔族もいれば、悪い魔族もいるけどさ。私のそばで悪意を振り撒く奴なんて居ないから、ちょっと新鮮かも。」

「ま、そりゃ最強の魔族である魔王のお膝元で悪意を出せるような肝の座った奴はそうそういないか。」


私たちがのんびりと辺りを伺っていると。少し離れたところで、私でも感じられる程度の殺気が漏れ出た。

私が動くより先に、すでに駆け出しているシンディ。その動きは、70歳の老人どころか、獲物に向かう若々しい獣のような、洗練されたものだった。


「ちょいとごめんね、あんた、何だい?」


私たちが追いついたときには、すでに黒いローブに身を包んだ男を押さえつける勇者の姿があった。

速すぎる。抑えられた男も、自分が拘束されている事実を受け入れられていないほど、自然な動きで完全に無力化されたようだ。


「な、何だテメェ!くそ、護衛か!」

「あ、危ない!」


同時に男は、自爆した。

私がその大きな殺意を感じ取ったと同時に、シンディとその男を結界で包んでいた。なので、外に被害はない。

……やっちまったよ。

どう考えても、一緒に閉じ込めたらダメだろ。

逃げるにしたって逃げられないし。

いや、まぁ、仮にも勇者だし、死なないだろうけどさ、けど、流石に……。

私は、恐る恐る爆発の煙の晴れた結界を解いた。


そして、中のシンディはというと。


「あらま、お嬢ちゃんにまで手間をかけさせちまったかね。いきなり自爆するなんざ、思っても見なかったよ。」


モロに爆発を喰らったはずだが。

彼女は少し焦げた服の端を迷惑そうに見つめながら、ため息をついていた。


「……シンディさん、平気なんですか?」

「平気だと思ったから、そんな雑な結界を張ったんじゃないのかい?自爆する相手もろとも閉じ込めるなんざ、普通の人間にやったら共犯も良いとこじゃないか。」

「い、いえ、とっさだったので。実は何も考えてませんでしたけど。魔族はこんな爆発くらいじゃ死なないし。周りの人間を守らなきゃって。」

「あ、あんたねぇ!師匠が化け物だから良いようなものの、私や他の人だったら致命傷なんだからね!人間の世界に溶け込みたいなら、それなりのことを覚えなさい!普通の人間は、爆発に巻き込まれたら死にます!わかった!?」

「はい……。」


助けて説教をされる。

まぁ、最近のいつものパターンだが、確かにアイリーンの言うことは正しい。

これがシンディでなければ、命に関わる大怪我をしていたことだろう。

しかしながら、放置すれば周りの人間まで巻き込んで大惨事は避けられなかったし、仕方ない。うん。今度から気をつけよう。


「まぁまぁ、次からは、もっと結界の精度を高めて貰えば良いさね。あたしも無事だったことだし。」


死にかけたはずのシンディに宥められ、アイリーンは仕方なく私を叱るのをやめ、辺りを見回した。


「はぁ。師匠は甘いですね。ところで、死体は木っ端微塵ですし、どうしましょうか。」

「周りの視線も気になるし、とりあえず狙われてた人に話でも聞くかねぇ。」


ザワザワと聞こえる人の声。


「なにがあったの?」

「人が消えた?爆発した?」

「そこのやつ、血?」

「何かの芸人じゃないの?」


結界のおかげで爆発自体の音もなく、被害も皆無だが、突然現れたロープの女性が男を押さえ込んだかと思うと、そのまま木っ端微塵になった様子は、近くにいた人はバッチリと見てしまっている。


「お騒がせしました、私、王国の警備兵です。不審者を追っていましたが、逃げられてしまったようでして。」


肉片や血がほとんど残らず灰になったのが幸運だったかもしれない。

アイリーンの見せた王国の騎士団の紋章の入ったシルバーのネックレス。

本来は戦場で死んだ場合の証拠品として持ち帰るものだが、身分を示すのに使われることも多い。


「引き続き祭りをお楽しみください。」


そそくさとその場を離れながら、私たちは狙われていたであろう褐色の肌をした身分の高そうな親子連れに近づいた。

そこそこ離れていたせいか、彼らは民衆のざわめきを目の端に止めた程度で、再び祭りの中心に向かおうとしていた。


「少しよろしいですか?」


アイリーンが声をかけると、そばにいた同じく褐色の肌の男達が振り返る。


「何のようだ?」


返事をしたのは親子連れではなく、その従者と思われる男だ。


「私、王国の警備兵なのですが、不審な男がそちらのお方を狙っていたようでして、一応確認をさせていただこうかとお声をかけさせていただいた次第でございます。」

「何だと!?」


驚く男達。

あの殺気を見過ごすようでは、護衛としてどうなんだろうという気持ちも大きいんだけど、正直。


「で、その不審者とやらは?」

「それが、その、自爆しまして。」

「……本当なのか?そんな音は聞こえなかったが……。」

「悪いが、我々からするとお前達も十分に怪しい。話をそのまま信じるわけにはいかない。」


まぁ、そうなりますよね。


「一応これが身分証になるのだが。」


そう言って先程のシルバーのタグを見せるアイリーン。

しかし、男達は眉をしかめながら、そのタグを見ているだけで、疑いは晴れていないようだ。

そんなことをしていると、私たちの様子を気にした親子連れがこちらへ来た。

まじまじとタグを見ると、


「ふむ……。確かに王国の騎士団の紋章のようだ。疑ってすまない。」


ゆっくりとした仕草で頭を下げた。


「王!そんな、はっ!いえ、ご主人様!頭を下げる必要は!!」


おい、このポンコツ、今、王とか言ったぞ。


「今の話が本当なのであれば、我々の命の恩人ということになる。最低限の礼は必要だろう。」

「……はっ!申し訳ございません!」


男達と私たちを交互に見たのち、王と呼ばれたその男は、小さな少女の手を握りながらアイリーンの目を見据えていった。


「すまなかった。実は少し、祭りに紛れて勝手な行動をしていてね。護衛、というよりは、ちょっとした従者達なんだ。失礼があって申し訳ない。」

「あー、ね。」


なるほど、王様とお姫様?が、信頼できる従者とともに、こっそりお散歩してたのか。

確かにその気持ちはよくわかる。堅苦しい式典は疲れるもんね。

そんなことを思いながら、ウンウンと頷く私。


「で、王国の騎士団の方に逢えたのは運命かもしれない。一つ、お願いがあるのだが、聞いてもらえないだろうか。」


そう言って、王と呼ばれた男は、悲しそうな目で隣の少女を見つめるのだった。

明日に予定通り帝王切開で出産予定の為、もうしばらくは更新が遅めの日が続くと思いますが、気長に待っていただけたら嬉しいです。


これからも、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました。 聖女様の知り合いが増えていきますね。 やっぱりツッコミ役がいないと聖女様が輝かない気がします。 これから蒸し暑い日々が続きますし、体調には気を付けてください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ