聖女さまと自己紹介と
遅くなってすみませんでした。
「念のため、紹介しておこうか。」
立ち上がって苦笑したのはアレクシスだ。
気がつけば、配膳などをしていたはずのものたちも姿を消し……いや、魔王の気に当てられて気絶したので運ばれていっただけか。
なので今は勇者とその近しいものくらいしかいない。
「そうやな。お互い大体は顔見知りやと思うけど、詳しい補足があるに越したことはない。俺は、みんな知っとると思うけど竜帝王をやっとる古竜のジジイや。可愛い孫娘のヒメがここにお世話になっとるから、基本はヒメの味方やで。」
「……あたちが、そのヒメでしゅ。バカ親父の呪いで成長阻害されてまちゅけど、これでも100歳を超えてまちゅ。聖女しゃまの解呪治療を受けてる最中でしゅ。」
仲良し古竜の2人がご挨拶。
それに続くのは、アレクシス。
「俺は、ナルノバ王国第二王子のアレクシスだ。過去の勇者の聖剣を手にしたら、勇者の力を一部取り込んでしまったようで勇者の力を使うことができるが、帝国に見つかると厄介なので竜帝王の力を借りて、最低限隠している。
そしてこの剣に取り憑いているのが妖精王のアレキサンドライト。」
「妖精王のアレキサンドライトだ。過去の聖女の呪いを受けたりして、色々あってな。媒体がないと消滅してしまうところをこの聖剣に憑依することで逃れている。」
「わたしはその付き人のジークハルトです。騎士団長の息子でもあります。」
二人揃って綺麗な礼を見せる。流石は王子とその付き人。
つい、こちらも礼を返してしまうほどだ。立場上はどっちが上なのか微妙だけど。
因みに、妖精王は頭を下げることなく踏ん反り返っている。
その後は、勇者たちの目配せののち、最高齢のトルゲが少し前に出る。
「オレは勇者トルゲ。歳は90を超えてるけども、こっちにいる精霊女王との契約で精霊に近い身体になっているから、歳もそんなにとらないし、異様に長生きな感じだな。」
「私こそ、全ての精霊を束ねる精霊女王よ!敬いなさい!勇者を辞めたいっていうトルゲのために老化したフリを手伝ってたわ。今は、勇者の力だけを取り出す方法を探しているの。」
「死なない限り代替わりしないからなぁ。」
あっけらかんと言ってのけるが、確かに、死なない限り次の勇者は生まれないのだから、隠れ続けることなんてできないはずだ、が。
「それに関しては、青の勇者の半分が封印されて半分だけが引き継がれた件で希望を持っているわけだろう?」
「そう!それなの!それがなければ私も期待しないんだけどさ、力の半分を封印できたなら、全部を封印することもできたんじゃないかって!」
シンディの言葉に、興奮したように食いつく精霊女王。
そりゃまぁ、勇者を辞めたいトルゲの望みを叶えてあげたいんだろうから、分かるけど。
おそらく、過去の青の勇者は、自分の命をかけて力の半分を自分の魂と共に封印したんだろうしなぁ。
それを考えると、トルゲは無事のまま、力だけ封印するのは絶望的な気がするんだけど。
「竜帝王は、何かそういう方法、知らないわけ!?」
「んー。正直いうと、知らん。そんな方法があったら、魔王や聖女の譲渡まで可能になりかねへん。可能性があったとしても禁忌中の禁忌や。」
「禁忌なのくらいわかってるわよ!」
ちょっと拗ねたような精霊女王を竜帝王が宥めている間に、シンディが前に出る。
「私は70代の勇者と言われているシンディさね。基本的にはナルノバ王国で騎士団や兵士たちの訓練をしているが、見ての通りいい歳だからね、できる範囲でまったりやってるよ。」
「よく言うよ、未だに騎士団のトップたちですら誰も勝てないって言うのに、何がいい年だ。トルゲ殿もそうだが、勇者は規格外すぎる。」
「ん?何か言ったかい?」
ボソッと呟いたのは騎士団長の男、ジークハルトの父だ。
しかし、シンディがそちらを向くと、何もなかったかのように王の横に控えていた。
次に前に出たのはラルフ。
「オレが50代の勇者って言われてるラルフだ。シンディもトルゲも一応引退を表明してるおかげで、オレばっかりが魔王討伐に行かされてるんだけど。」
チラリと二人を見ると、二人は示し合わせたかのように明後日の方向を向いていた。
トルゲに至っては、わざとらしく口笛まで吹いていたりする。
「ま、帝国に人質をとられてたから従っていたが、それも無い今はわざわざ行くこともないとは思っている。」
「あんたは、魔王のところに行ったって軽く腕試しするだけでお茶して帰って来てるじゃないか。」
「そうだそうだ。オレの頃はもっと真面目に戦ってたぞ。」
「仕方ねぇだろ、聖女が生まれて以来、魔王が桁外れに強くなって勝てる気がしねぇんだよ。」
「確かにねぇ。トルゲは最近行ってないから知らないだろうが、魔王の強さが格段に上がってるんだ。あれじゃ、戦うだけ無駄さね。」
勇者たちが何やら揉め始めたが、軽くスルーで。
竜帝王の目配せで、エミールが少し前に出た。
「僕が10代の勇者、エミールです。見てのおとり魔族だけど、勇者だよ。」
「おー!君が例の勇者!」
「ほんとーに魔族なのねー。」
面白そうな様子で振り返ったのはトルゲと精霊女王だ。
確かにここは、特に面識がないもんな。
値踏みするかのようにジロジロと見る精霊女王を多少うざがりながらも、社交辞令的に微笑むエミール。
いつの間にか立派になったのね。おねーちゃんは嬉しいよ。
「一部では、生まれないから先代がまだ生きてるんじゃないかって話まで出てたもんね。」
「でも、帝国が、『魔王が勇者を捕らえてる』とか『殺して魂だけを抜いた』とか、好き放題言ったおかげで、先代が生きてる説はうやむやに消えたけど。」
そんな話が出るから、オレまで疑われると困る、と、トルゲはひとりごちた。
「ふむ、魔族の強すぎる魔力のおかげで勇者の気が隠れてるのか。これじゃ簡単には見つからないわね。」
「聖女が見つからないのもおそらく同じ理由だろう。聖女の魔力を追うにも、魔族の魔力が邪魔すぎる。」
エミールと私を見比べながら、精霊女王に続き、妖精王も面白そうに言った。
「でもさー聖女の魔力って、魔族の魔力と反発したりしないの?回復魔法や神聖魔法はどの程度使えるわけ?」
「普通だと思いますよ。怪我した人を治したりできるし。死んでなければ大体治るし。」
「死んでなければ、って……。」
普通の聖女というものはわからないが、今まで試した限りでは、死んですぐ、魂が抜けてなければ蘇生したこともある。
その辺はどうなっているかと聞かれてもよくわからない。
「え、エリクサーとかも作れるわけ!?」
「え、もちろん出来ますけど。」
私は、魔法収納から20本程のエリクサーを取り出して机に置く。
「凄い。歴代聖女でも、なかなか作ることができない幻の霊薬が。こんなに……。」
目を丸くする精霊女王。
エリクサーが大量に並ぶのは見慣れた光景なので、他の人たちはあまり突っ込まないが。
この様子だと、正直数えるのも無理なくらい持ってるとか言わない方が良さそうだ。
なので、
「二日酔いにも効果抜群です!」
「そんな事に使うなぁぁぁあ!」
効果の程を自慢したくて言った言葉は、失敗。呆れた顔でこちらを見る精霊女王。
余計なこと言わなきゃよかった。
でもさ、死にかけても治るとか、普通すぎて、他の効能も説明したくなるでしょうよ!
「トルゲと同じで、頭のネジが飛んでそうな聖女なのはわかったわ。」
「いやー、まいったなー。」
なんだか嬉しそうに照れているトルゲ。
多分褒められてない。
「聖女の実力の方は、後ほど実演を兼ねて聖女のお披露目として大々的にやるとしよう。」
これまで酒を飲みつつ傍観に徹していた王が、それだけ口を開いた。
そう、帝国に牽制も兼ねて、当初の予定よりも早くお披露目をする事になったのだ。
ただし、お披露目されるのは私ではない。
変装したフローラだ。
魔族が聖女となると色々難癖をつけられても厄介だろうと、彼女が代役を買って出たのだ。
精霊女王の魔法で多少印象を変えた上、顔を隠して民衆の前に出る。
彼女は、国のために死をも覚悟している。
少し震えているようにも見えるフローラの方に手を乗せ、私は一歩前に出た。
「そんなわけで、皆さんも既にご存知の通り聖女のティーナよ。勇者のエミールの姉で、彼と同じく魔王の娘。人間とのハーフなの。趣味はエリクサー製作。欲しい時は声かけてね。」
「付き人のゼルです。ミミズク型の魔族で、特性上聖なる力も多少扱えます。神聖魔法を扱う魔族は稀なので、何かあったらお声がけください。」
「ハンナは、普通の冒険者なの。獣人の先祖返りなの。」
くるりと回ると、背中から大きな羽が飛び出す。
それを見て、なんとなく嬉しそうにモフモフと触り始めたのはフローラ。
しばらくもふもふしていたが、周りの視線に気づき、恥ずかしそうに手を引っ込めた。
「聖女さまの代役を務めさせていただくフローラです。騎士団長の娘で、そちらのジークハルトの妹ですわ。一応、中級までの治癒魔法は使うことができますの。どうぞよろしくお願いいたします。」
ふわりと貴族らしい礼を行った。
女らしさでは完全敗北だが、確かに彼女の方が聖女としての印象はいいだろう。
こうして挨拶を終えた私達は、再びちょっとした宴会へと突入していた。
「何それ、薬草を浮かべた水をエリクサーに変えるって何!煮出し作業は?魔力を込める工程は?」
「なくても良いみたい。」
「そんなわけあるかー!」
「他の効能のポーションも作れるのかい?」
「作れるけど、エリクサーが全部まかなえるからいいかなって。魔力枯渇用の魔力回復薬なら、別に作ってるけど。」
「それだと、擦り傷にもエリクサー使う事になるじゃない。」
「……?」
何か問題でも?
というふうに首を傾げた私を見て、精霊女王は頭を掻き毟って叫ぶのだった。
「なんでそんなにもったいないことするのよー!」
しかし、売ることもできない、たまり続けるエリクサーは、正直邪魔なのだ。
この後、みんなの前で回復薬の実演製作を行ったが、みんな口を揃えて、
「この聖女は規格外だ。」
と呟いた。
因みに、出来た特級回復薬は、扱いに困ったので勇者たちに押し付けておいた。
「魔王の娘にもらうエリクサー……か……。」
敵に塩を送ったつもりもない。
なぜだか勇者たちはみんな魔王に好意的なのだ。
私の中で、勇者たちのイメージが大きく変わったのはいうまでもない。
では何故、勇者と魔王は敵対するのだろうか。
読んでいただきありがとうございました。