従者は死んだ目をする
体調崩して更新がギリギリです。
頭が回らないので、急遽ゼルの話を。
どうしてこんなことになってしまったんだ。
彼は、自室で頭を抱えていた。
◆◆◆
魔力量はそんなに少ない訳では無かったが、圧倒的戦闘センスの無さ、持って生まれた気の弱さ、攻撃魔法への適性の無さで、苦労した。
必死に練習して、なんとか最低限、足手まといにならなければ上出来、と言った所だ。
父さんが、魔族ではレアな回復術師ということもあり、弱いことに関しては、誰もが『彼の息子なら仕方ないな』、という目で見ており、馬鹿にされたりすることはなかったが、何となく悔しかった。
漠然と将来は城で回復担当として生きていく道しかないと考えていた。
ある日、訓練校のテストで微妙な成績を取ってしまい、いつもの事だと自嘲しながら家路についていると、魔鳥の雛を見つけた。
「もう、魔力も尽きかけてるのか。親にも、見限られてしまったんだな。」
高い木の上にある巣を見上げた。
自己治癒能力の高い魔物といえど、所詮は魔力を帯びただけの動物である。何らかの原因で弱ると、自然から魔力を吸収できなくなり、あっさり死んでしまうと聞いた。
「これは、治癒魔法じゃどうにもならないな。」
巣から落ちたことによる打撲と、衰弱。これは、傷を治す程度の治癒魔法が使えたところで何もならない。
治癒魔法は、魔力を流し込み強制的に自己治癒能力を高め治癒を促す。神聖魔法レベルになると、自分の魔力を変換して擬似的な体液や欠損部に当て、あとは本人の細胞の増殖を促す事で完全なる回復を促すとか。
まぁ、魔族は、神聖魔法との相性が悪く、なかなか使えないそうだが。
「魔力が足りないなら、補ったらどうだろう?」
どうせこのまま放置しても死んでしまうだろう。それなら、たいして役に立たないこの魔力を、この子に与えることができたらいいのに。
手で拾い上げ、そっと魔力を流す。わずかに残るヒナの魔力を感じながら、慎重にその魔力に合わせていく。
もちろん傷の治療も同時に行なった。
「ピィピィ」
「お?」
死を待つばかりだったはずの雛は、元気を取り戻し、声を出した。
ゼル本人は気づいてなかったが、彼は天性の才能で、自分自身で神聖魔法の理論を組み立てて、使って見せたのだ。
「もう、落ちるなよ?」
翼を広げて巣まで飛び上がり、そっと兄弟たちの元へと戻してやった。
治癒しかできないこの手は、好きでは無かったけど。それでも、人を助けることの誇らしさは何となくわかった気がする。
治癒の魔法が苦手な魔族は、怪我をすると治すのにとても苦労する。ポーションもなかなか手に入らず、技術も拙い。
そういう意味では、戦闘に特化していないゼルのような魔族も、実は重宝されていたのだ。
「さてと。帰ろ。」
その日は、少し誇らしい気持ちで家路を急いだのだった。
◆◆◆
大怪我をした人間の女性を治療してるのを見た時だ。
過去に癒した魔鳥を思い出し、変換した魔力を流し込むことで自己治癒能力を上げるだけでなく、本人の負担をなるべく少なくして、強制的に治療してみようと思った。
とはいえ、平均的な魔力しかない自分だけではどうにもならない。
でも、やれるだけのことはやってみよう。そう思った時、魔王様が僕に魔力を貸してくれると言う。
「魔力の制御ができないと、破裂するだけです。」
さも大したことないように父は言っていたが、やっぱりやめておけばよかったと心から後悔した。
破裂って何だよ。
「僕は大丈夫です」
とりあえず、強がってみたものの、魔王様の魔力量は凄かった。さっきまで、勇者と全力で戦っていたとは思えないほどの力強さ。
自分の体にはものすごい負荷がかかり、全身が悲鳴をあげていた。しかし、やらねば、この女性はおそらく死んでしまう。
この手で人を救うことは、自分の生きる意味であり、誇りだと父さんは言っていた。幼い頃は、戦う事も出来ない、出来損ないの父だと思っていたが、そうではないのだと、やっと分かった。
父が癒した人たちの心からの感謝は、とても心地の良いものだったから。
そして数日かけ、その女性は助かった。
「貴方、すごいわね。魔族なのに神聖魔法が使えるの?」
「え?神聖魔法?」
話し掛けられたが、最初は意味がわからなかった。神聖魔法は魔族には使えないと思っていたから。
「私を、神聖魔法で治してくれたじゃない。手順が少し違ったから、体にも負荷がかかって大変だったでしょうけど。あれ?もしかして魔族が使う神聖魔法は違う名前で呼ばれてる?」
「いえ、魔族は神聖魔法なんて使わないと思います」
「え?でも、使ってたわよね?」
いまいち話が噛み合わなかったが、どうやら僕が使った魔術は神聖魔法に酷似していたと言う。
「ふむ。魔族には神聖魔法は使えないかと思っていたけど、ほんの少し手順を変えて調整すれば使えるかも。」
彼女は、そう言って笑った。とても美しい笑顔だった。
その後、彼女は神聖魔法の知識と僕が使った魔法を検証して、魔族に合わせた神聖魔法を広めてくれた。
もちろん適性は必要だが。
それに関しては、今まで戦闘に不向きで農業などに従事して来た者に声をかけ、一通り練習してもらうと、驚く速さで神聖魔法を習得する者が現れたのだ。
どうやら、魔族でも神聖魔法は使えるらしい。
これは、シルフィーヌのもたらした奇跡とも言える出来事だった。
お陰で、戦争による魔族の死者は激減した。
彼女は本当に女神だったのだ。
数年後、女神は母となり、僕は天使のお目付役になった。
なんでも、聖女の力を持っているらしい。
キラキラ輝き、その笑顔は最高に愛らしかった。魔王様が親バカになってしまうのも仕方がないと思えた。
魔王様と女神様の大切な天使を絶対に守る、と、その笑顔に誓ったのだ。
◆◆◆
まさか、ティーナが、こんなワガママおてんば娘に育つなんで思わなかったし。
いや、あの魔王様の溺愛っぷりからすれば、なるべくしてなったと言うところか。
私は、どこで間違えたのだろう。
絶対、魔王様たちの許可とか出ないと思ったし。一緒に行くとか冗談でも言うべきじゃなかった。
人間とは、魔族を目の敵にし、虫けらを殺すが如く、冷徹な態度をとる。
正直怖い。
何で好き好んでそんなところに行かなくてはならないのだ。
しかも今更、冗談でしたとか言える雰囲気じゃないし。そもそも、手を出したら殺すとか言われても。
ティーナは、子供すぎて女性として見たことなんてないし。
胸も大きく育ってて、いつのまにか大人びてはいるけど、やっぱり子供にしか見えない。
何が悲しくて、子供のお守りしながら敵の真っ只中に行かなくてはならないのだ。
この日、彼は、口は災いの元という言葉を噛み締めながら、地獄の底のような、混沌とした深い深いため息をついたのだった。
苦労人のゼル君です。
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