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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の帰還
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魔王さまのクリスマス

クリスマス特番で。

人間の世界では、クリスマスになると、親がサンタクロースとやらのふりをして、こっそり子供にプレゼントを渡す習慣があるらしい。

初めて聞いてからというもの、親になったら絶対にやりたいイベントだった。

流石にゼロ歳や1歳の頃にはリクエストを聞くという楽しみもなかったが、2歳になり、言葉を話せるようになった今年こそ!


「ティーナちゃん。サンタさんに頼むものは決まったのかの?」

「さんたしゃん?」

「サンタさんていうのは、クリスマスの夜に、プレゼントを持ってきてくれる人じゃよ。」

「しゅごいねー!てぃーなねー、大きなくまさんほしいなぁ。」

「よし、任せるが良い。」

「何で、父しゃまが張り切ってるの?」

「い、いやその、ちゃんとサンタさんに伝えておくからの。」

「うん!」


クリスマスの朝。


「母しゃまー!おおきなくましゃん!」

「…きゃああああああ!!!」


嬉しそうに娘が持ってきたのは、きっちりと血抜き処理済みのダイアベアだった。

自分よりも遥かに大きな熊型の魔物を引きずって運んでくるあたりは、流石2歳とはいえ立派な魔族なのだろう。


因みに、魔王さまは、嫁に大きな雷を落とされた後、同じサイズのぬいぐるみを用意して夜中にこっそり取り替え、何とか乗り切った。


「昨日のくましゃんと、なんか違う……?」

「気のせいよ。」


しばらく、嫁が怖かった。


⭐︎⭐︎⭐︎


去年は、大きな熊さんで失敗してしまった。

まさか、ぬいぐるみが欲しいとは思わず、生モノのクマを届けたのが悪かった。

今年こそ失敗はしない。

嫁の冷たい目にさらされるのも地獄じゃしの。

今年は何を言われても、完璧に届けて見せるぞ!


「サンタさんに頼むものは決まったかの?」

「うん!弟が欲しいってお願いしたの!門番の、ライヤさんのところの赤ちゃんかわいかったのー!」

「えっ。」

「クリスマスに、弟を届けてもらうのー!」

「え、そんな急に、えっ……。」


どうして良いかわからず、嫁の方を見るが、ニコニコと笑っているだけで助けてはくれないようだ。

子供は、そんな数日で生まれたりはしない。

冷や汗をかきながら、シルフィーヌに言った。


「よ、養子でも取るかの?それとも、何処かから……。」

「あなたは、馬鹿なのでしょうか。」


こうして、今年も嫁の冷ややかな視線をいただいたのだが。


「もる君だー!」


ワシには任せられないと、嫁が用意したのは赤ちゃんの人形だった。

何やら流行りのおもちゃらしく、娘はご機嫌だ。


「人形で、良かったのか……。」

「何でも生モノで解決しようとしないでください。」


やはり今年も、嫁が怖かった。



⭐︎⭐︎⭐︎


今年こそは失敗しない。

生物はだめ、生物はダメ。

娘ももう5歳。弟も生まれたし、流石に弟をねだられることもないだろう。


「今年は何が欲しいのかの?」

「子犬!」

「子犬のぬいぐるみかの?」

「ううん、生きてるやつ!ネオン君のところの子犬が可愛かったんだもん!」

「い、生きてるやつ!?」


どうしよう。

生きてるやつを希望されたけども、生物は流石に……。

嫁をチラリと見ると、ため息をついて言った。


「ティーナ。子犬はね、おもちゃじゃないの。きちんと世話をしないと死んじゃうし、母様も父さまも忙しいから、散歩もできないわ。それにね、相当強い種類じゃないと、魔王の魔力に当てられて、それだけで死んじゃうのよ。でも、強い犬だと貴女もエミールも危険だわ。だから、もう少し大きくなるまで、我慢しなさいね。」

「……はーい。」


何という説得力!

さすが我が嫁。

好き。

「じゃあ、ティーナね、組み立てホムンクルスセット欲しい。」

人造人間(ホムンクルス)!?」


生物なの?おもちゃなの?

際どすぎる。


結局のところ、子供たちでも安全に遊べる魔術の練習キットみたいなものらしく、魔族の錬金術師から買って来た。


今年こそ、ワシが枕元に置くのじゃ!


「ティーナちゃん、早く寝るが良いぞ。寝ないとサンタさんは来ないからの。」

「ティーナね、サンタさん捕まえるの。」

「えっ。」

「捕まえて、プレゼントいっぱいもらう!」

「い、いや、そんなことしたら、来年からもらえなくなるぞい。」

「えー……。じゃあ、捕まえて、もてなして、いっぱい貰う。」

「捕まえるところから離れよう?」


何とか娘が寝た頃を見計らい、彼女の部屋に入ったところ、罠があった。

それはもう見事に引っ掛かった。


聖女の力で強化された網は、いくら暴れても全く歯が立たず、宙吊りで1時間ほど泣いていたところ、呆れ顔の嫁が来て助けてくれた。


「父さま!見てみて!ホムンクルス出来たよー!」


朝、早速作り上げたホムンクルスを見せに来る娘。


「後ねー、やっぱりサンタさん捕まえられなかった!罠は作動してたけど、逃げたみたい。凄いね!」

「うん、来年からはやめようね。」

「ううん、来年こそ、捕まえて見せる!」


翌年からも、罠に捕まる魔王と呆れながら助けるシルフィーヌがクリスマスの定番となった。


やっぱり嫁の視線が怖い。


⭐︎⭐︎⭐︎


「今年は何が欲しいか、サンタさんに頼んだかの?」

「もう、父様ったら、さすがに私も15歳よ。サンタが父様だって気付いてるわ。」

「い、いつから!?」

「10歳の頃。父様が罠にかかった時の悲鳴で。」

「えっ。」

「その後は、毎年面白いから知らないふりしてたけど、流石にかわいそうになって来て。」

「じゃあ、まず、罠の設置をやめよう?去年なんかもう、部屋の中が特殊なアスレチックみたいになってたよね?」

「全部に引っかかる父様が面白くて、つい。」


娘は、いつの間にか小悪魔になっていたらしい。

可愛いから許すけど。


「今年は、大きなクマが欲しいわ。ちゃんと、ぬいぐるみにしてね。」


娘のベッドの上、所々が破れて、それでも何度も修理した跡の残るくまのぬいぐるみ。

あれから、もう何年経ったのやら。


子供の成長を楽しめる日。

子供の笑顔を見れる日。


クリスマス当日、今までのものと色違いの大きなぬいぐるみを手渡すと、溢れるような笑顔を向けてくれた。

あの頃は、くまの方が何倍も大きかったのに、今では等身大程度でしか無い。


あの日、嫁と共に亡くなってしまうのでは無いかと恐怖に震えた日からもう15年が経ったのか。


嬉しそうな顔と、子供の頃の笑顔を重ねて目を細めると、そっと肩に置かれる手。


「あなた。サンタさん、お疲れ様でした。」


笑顔の嫁がそこには立っていた。


「ああ、うん。そうだな、でもまだエミールが15歳までは頑張るからの。」

「……あの子、毎年魔剣ですからねぇ。」

「うん、あの趣味はさすがにどうかと思うんじゃが。」


すると、リビングのドアが開き、剣を抱きしめた息子の姿があった。


「おとーサンタさん、今年も立派な魔剣ありがとね。」

「……ばれてる。」


子供の成長が嬉しくもあり、寂しくもある、そんなクリスマス。

旅に出る前の、ティーナたちのクリスマスの話です。

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