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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の帰還
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聖女様は焼肉をしている

あー、怒られるよね、やっぱり。


ズタボロになった兵士たちを引き連れたジークハルトが、冷たい目でこちらをみていた。


「普段静かなはずの森の入り口付近が、地獄絵図でした。できれば犯人を見つけて簀巻きにして海に投げ込みたいところですが、私には無理なので、ここで呪いの言葉を吐くだけにしておきます。このやり場のない怒りを鎮めるため、一日に二回、足の小指を強打する呪いをかけて差し上げます。」

「地味に痛い!やめて、お願い。」


呆れ顔のゼルと、目を逸らしているヒメとハンナ。

年齢的にはゼルが保護者なはずだが、まあ、立場上私が怒られるわよね、うん。


「治療するから、全員治療するから!」


そそくさと、怪我をした兵士に近寄り、順に治癒魔法をかけて回る。

この程度の怪我であれば、聖女の奇跡どころか、神聖魔法を使うまでもない。

やはり相当手練れの戦士たちなのだろう。


「治療はもちろんお願いしたいところですし、鎧や剣だってタダじゃないんですからね?」

「……。お納めくださいでしゅ……。」

「お納めください……なの…。」


目を逸らしながら、古竜の鱗を5枚そっと差し出すヒメと、鷹の羽のようなものを数枚束で、そっと取り出すハンナ。


「え……。い、いや、流石にそこまでの事ではないですけどね……。これは、キラーイーグルの羽?これまた高価な……。」


ヒメの鱗は大人の古竜の鱗よりも小さく、素材としてはそこまで高くはないが、それでも金貨五枚程度の価値はあるだろう。

それが5枚だ。金貨25枚となると、人によっては一年分の稼ぎと変わらないくらいの額である。

キラーイーグルは大型の鷹の魔物で、グリフォンやハーピーなどとともに、空からの急襲が厄介な魔物だ。比較的好戦的で肉食ということもあり、魔族でも子供には警戒するよう伝えることが多い。

その羽は、風属性の魔力を持っており、高価な弓矢の加工などに用いる。

ジークの反応を見る限り、こちらも決して安い素材ではないのだろう。


「半分は冗談ですから、そこまで深刻に取らないでください。」


半分は本気だったのか。

つまりは、治癒の方はきちんとやれってことか。

そんなことを思いながら、せっせと魔法をかけていく。

ぱっと見で傷の深い人から治していってるつもりだが、一番ひどい怪我の人でも、骨折や深い切り傷程度。

大した魔力も使わず、順調にこなせている。

更に軽度の人たちは、ゼルが範囲回復魔法で治癒していた。


「そんなに高価な素材も、私の独断では……。」


困ったように眉を下げるジークに、ハンナと姫は無理やり素材を手渡した。


「訓練の最中に見つけたことにしておけばいいの。」

「このくらい、その辺に落ちててもおかしくないでしゅ。」

「古竜の鱗とか、そうそう落ちてませんから!しかしまぁ、そこまで言っていただけるのであれば、会計の方に回しておきます……。」


しぶしぶ自分の収納に仕舞うジーク。


「一応今回の狩の成果もありますから、本当に、これ以上は気にしないでくださいね。」


そういって、討伐した魔物の山を振り返る。

そこには、ハンナたちに追われて逃げ出したB~Dランクの魔物が乱雑に積み上げられていた。

確かに、相当な量である。持って帰れるなら、だけど。


「可能な限りは全員で手分けして収納に入れますし、高価なものは馬車に積みます。その他はかさばるものが多いので、どうせだったら肉類はここで食べていきますか……。」


ため息交じりにジークが呟くと、兵士たちから歓声が上がった。

熊肉は多少固いし癖があるので下ごしらえがいるが、オークや鳥系の魔物は焼いて塩を振るだけで十分美味しい。あっちにあるのは大き目のイビルブル。

この季節は、脂の乗りも十分だろう。内臓は、煮込んで臭みを取れば、立派な珍味だ。


私はそこまで酒を好まないが、よく父様やゼル、ロベルトたちが酒の肴にしているのを見る。


私たちの焼き肉は終盤を迎えていたが、そろそろ、熊肉のシチューも出来上がるころだ。

二次会にはもってこいのタイミングだろう。


ヒメはご機嫌でイビルブル、ビッグホーン、オーロラ鳥などの首を刎ね、なにやら魔法を唱えている。

おそらく血抜きの魔法だろう。

ドラゴンは、美食を好むからな……。

血抜きが終わり次第、解体担当らしき兵士が皮を剥ぎ、素材と肉に分けていった。


「こんな便利な魔法があるのか!お嬢ちゃんはすごいな。」

「俺たちにも使えたらなー。」


一応、この幼女たちが人間ではないことは伝わっているのだろう。

私とゼルに関しても、治癒魔法を使って騒がれない程度には知らされているようだ。

彼女たちの見た目も相まって、警戒心など全くない様子で馴染んでいる。


「俺たちが、差別されない世界……。」


獣人の男が、ぼそりと呟いた。

それが聞こえたのか、たまたまなのか、近くにいた兵士が支給品らしき酒瓶をもって彼に近づいた。


「あんたはキツネ型の獣人か?綺麗な毛色だな。俺の友人にタヌキ型の獣人がいたんだがな、どうにも自分の毛色が好きになれないで、狐のような黄金の毛並みだったらもっともてたはずだとしょっちゅう愚痴っていた。」


そういって、グラスを手渡す。

男は、多少警戒しつつ、それを受け取った。

流石に、この流れで毒を盛られるなどという可能性は低いと考えたのもあるだろうが。


「そうはいっても、綺麗な毛並みだからっていいことがあるわけじゃ無い。俺は先祖返りだがな、俺の曾祖母が見た目がよかったせいで無理やり人間に連れ去られ、孕まされ、混血が生まれることになったんだからな。」

「あー、それは、なんだ、悪かったな。」

「いや、混血でも先祖返りでも、気にしないでこうやって酒が飲みかわせる世の中なら、何の問題もなかったかもしれない。目に見えて年々ひどくなる差別には、絶望しかないよ。」

「やっぱり、先祖返りだと獣人の村にも受け入れてもらえないものなのか?」

「ああ。捕まったり拷問されたり殺されたりってことは無いが、やはり仲良く暮らすってのには無理があるらしい。獣人の里を頼って行った仲間が、疲れた顔をして戻ってきたことがあったからな。」


愚痴交じりとはいえ、こうやって人間と会話できる世の中が、いつか普通になってほしい。

そう思いつつ、最後の一人の治療を終えた。


「ほかに怪我なる人はいませんか?」

「今ので最後だ。そっちの兄ちゃんのおかげで、転んでできたかすり傷や、昨日嫁に殴られた痣まで消えたぜ。」


にぎやかな笑い声とともに、宴会が始まる。

ついでなので私は、アイテムボックスから適当な酒や、調味料を取り出した。油を取り出した後、使うかどうか考えて再び仕舞おうとすると、そっと近寄ってきた姫が言った。


「折角、オーロラ鳥があるのでしゅし、唐揚げが食べたいでしゅ。」


恥ずかしそうに手渡してきたのは、白い粉末である。

これは……。


「うちのおじいちゃん秘伝の調味粉でしゅ。これを水で溶いたものを付けて揚げるだけで、この世のものとは思えないふわカリの唐揚げになるでしゅ。」

「……ふーん?いいよ、じゃぁ、ちょっと待っててね。」


姫から謎の粉を受け取ると、油や鍋を用意し、揚げる準備を始めた。

唐揚げ、とは、独特の調味料と粉をまぶして揚げた料理だが、店によって質も味も全然違う。

魔族領でも一般的な家庭料理として食べられているが、いつ広まったのかはよくわかっていない。

竜の世界では水に溶いた粉を使うのかな。

うちでは、母様が何やら味付けした肉を芋の粉と混ぜて揚げていたが。


暫くすると、肉の焼ける良い匂いに混ざって、唐揚げのスパイスのにおいが広がる。

揚げた手を皿に盛ると、ヒメに渡した。

ヒメは興味深そうにこっちを見る兵士たちに、にこやかに声をかける。


「古竜特製のオーロラ鳥のから揚げでしゅ。皆さんもどうぞでしゅ!」


歓声とともに、男たちが駆け寄り、ヒメがもみくちゃになる。

こんなところを見られたら、大変なことにならないだろうか。

まだまだ追加の肉を揚げながら、ふと空を見上げると、何やら不穏な影が横切ったように見えた。

エメラルドグリーンの巨体。

魔力は抑えているのか、あまり感じられはしないが、あの威圧感は間違いないだろう。

しかし、しばらくたっても何も来ない。

ただ単に散歩をしていただけ、なんてことはないと思うが……。


どうしたものかと首をひねっていると。


「何か良い匂いがするな。是非、ワシにも分けていただきたいのじゃが。」


やけに眼光の鋭いジジイが、突然現れたと思ったら、わざとらしいしゃがれ声で話しかけてきた。


「演技とかいいですから。そんな口調じゃなかったでしょ。」


手を止めず答えると、ニヤリ、と厭らしい笑みを浮かべて言った。


「ま、そう簡単にはその辺のジジイになり済まされへんよなぁ。」

「あ、おじいちゃん!」

「ひめちゃぁぁぁぁん!ハァハァハァ。」


可愛い孫娘に抱き着かれ、口元を抑えながらハアハアしてるジジイ。怖い。


「みんなでバーベキューしてるでしゅ。一緒にどうぞでしゅ。」

「孫娘とバーべキュー!幸せすぎて、辺り一帯焼いてしまいそうやわ。」

「お願い止めて。」


焼けた肉と唐揚げを渡され、デレデレしながらヒメを膝に乗せるジジイ。

こう見えてこのジジイ、7000歳を超える竜族の帝王、竜帝王だ。

ヒメの前では、ただの孫バカジジイでしかないが。


「ヒメちゃん、元気にしとったか?なんかほしいものあるか?このあいだ取ってきたワイパーンの心臓とかどう?」

「いらないでしゅ。」

「むむ。じゃぁ、火竜の肝は?」

「いらないでしゅ。」


やけにほのぼのとした空気を出しながら、会話の内容は決して平和でない。


「あ、あのご老人は?」

「古竜の長老……。」

「……。」


楽しいバーベキューの温度が一気に下がった気もするが、流石に兵士たちは死線を何度も乗り越えただけあって肝が据わっているのだろう。

なるべくそっちを見ないようにして、食事を楽しむことに全力を作りているようだった。







いつもありがとうございます。

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