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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の帰還
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大聖女と奪う者

章が変わるので、違う話を挟みます。

「何やってるのよ、このグズが!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……。」

「ほんと役に立たないわね!彼を苛つかせるだなんて!」


母親は、彼氏の顔色を窺うだけの人形だった。

自分自身もあの男に殴られ、顔を真っ赤に晴らしたりしているくせに、これも愛情だよ、なんて言われて、腫れ上がった顔のまま耳まで赤面している。

気持ち悪い。


「お母さん、あとは私がやっておくから。」

「ああ、愛良(アイラ)は本当にいい子ね。聖良とは大違い。何であのバカも、あんたの100分の1でもいいから可愛げが宿らなかったのかしら。」

「痛い!」


殴られ続ける私を止めに来たのは、姉の愛良だった。

母は、姉を抱きしめると、すれ違いざまに私を蹴り飛ばし、彼氏のいる寝室の方へと向かった。


「大丈夫?聖良。」

「……うん。」

「あんたも、なんでそんなに要領が悪いんだろうね。うまく誤魔化して、顔色伺って、逃げていれば、多少はマシでしょうに。」

「私、お姉ちゃんみたいにうまくできないから。」


荒れまくった部屋を2人で片付け、痛む脚を引きずりながら自室へと向かった。

水風呂に投げ込まれるのも、一晩中殴られて罵られるのもイヤだが、姉のように母がいない時に男を部屋に入れるのはもっとごめんだ。それこそ死んだほうがマシ。

このまま死ねたらどれだけ楽だろう、と思ってた矢先。


姉が妊娠し、母とその彼氏は虐待で逮捕され、私と姉は児童相談所に引き取られた。

そこからは、そこそこ幸せだった。施設ではで殴られることもなく食事を抜かれることもない生活。

楽しくはないが、あんな日々よりずっとマシだった。



定時制の高校を出て、職場で出会った男性に惹かれた。

とても優しく、真面目で、私を心から労ってくれた。

施設で育ったことも、差別せず、苦労したね、と抱きしめてくれ、恋に落ちた。


だが、結婚してから彼は豹変する。

あの目だ。

母とその彼氏が私をいたぶるときの、あの目。

突然スイッチが入ったかのように私を罵り、殴り、そして抱きしめる。

施設育ちの私をら都合の良い奴隷か何かだと思っているかのような口ぶりのこともあった。


そうか、この男は、私に同情することで、優位に立っている自分に酔っていたのだ。


何度も逃げようとしたが、逃げても行く場所などない。足がすくみ、体が震えた。

逃げたい恐怖と、恐ろしく甘いセリフに翻弄されているうち、私のお腹には子供が宿った。


これで、幸せになれると思った。


私のお腹を愛おしそうに撫でる旦那を信じようと思った。

豹変して殴る時も、お腹は避けてくれるのは愛情だと信じていた。


「お願い、やめて!!」


子供が生まれると、その願いも木っ端微塵になる。

ちょっと泣くと、一歳にも満たない子供にタバコを押し付け、叩き、怒鳴りつける。


やはりこの男はクズなんだ。


顔を腫れさせ、泣くわが子が昔の母の姿に重なり、このままではこの子が殺されてしまう、と、やっと正気に戻った私は、子供を抱きしめ着の身着のままで逃げた。

幸い逃げ込んだ警察に保護され、子供と共に施設などの支援を受けて、何とか生きてきた。

この子さえいれば。

この子となら生きていける。


シングルマザーとして、知らない土地で必死に育てた。ガムシャラだったが、きっとそれなりに幸せだった。

十数年が過ぎ、ある日些細なことで息子と口論になった。

そして初めて息子が私に、手をあげたのだ。


「ウルセェんだよクソババア!」


あの目だった。

あの男と同じ目で、私を殴りつける息子。


ああ、私の人生って、なんて無駄だったんだろう。


日に日にひどくなる息子の暴力に、私は、ある日逃げるようにして家を飛び出した。


もうどうなっても良いと思い、その足で生まれ育った街へ来た時。

道路の反対側に、姉を見つけてしまった。

正確には、年齢的には最初に目についたのは姉の娘だろう。

母によく似た女性が連れている、姉によく似た娘。

あの目とは違う、優しい目をした3人。


優しそうな旦那と共に、幸せそうに笑っていた。



保護された時妊娠していた姉は、私とは違う施設に行った。

それ以降、ほとんど顔を合わすこともなかった。


何で?


何でお姉ちゃんばっかり幸せになれるの?


ずるいよ。


私も欲しい。


その幸せが欲しい。


「危ない!」


ふらりと、引き寄せられるように道路に出てしまった。

誰のものかもわからない叫び声の後、私の意識は闇の中へと消えた。



◇◇◇◇◇


「お姉ちゃん、ずるいよ。」

「……姫巫女様?」

「あ……。」


なんか、変な夢を見た。

何で、あんな夢を見たんだか。


これほどの力を手に入れたんだもの、もうあの目に怯えなくて良い。

……なのに、どうして。


……そうだ、あの目を消さないとダメなんだった。

あの目が全部悪いんだ。


早く元の世界に帰って、あの目を全て消さないと、私は幸せになれない。



そうしたら、お姉ちゃんみたいに……。

少し短いですが、キリがいいので。


誤字脱字報告等、いつもありがとうございます。

更新が少し遅れ気味ですが、これからもよろしくお願いいたします。

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