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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
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聖女さまはキレ気味である

少し短めですが。

「ああああ!やっぱりあいつら殺しておいてもよかった!イライラする!」

「お嬢様、落ち着いてください。」


よく言うよ。さっきまでは、私よりも殺気立っていたくせに。

宥めてくるゼルを一瞥した後、私は大きなため息をついた。


あの後、宿に併設されている居酒屋で食事をし、食後の運動がてらに回復薬を作りながら雑談をしていた。

しかし、思い出すたび、イライラするし、不安になるし。


「自分の母親を、『力づくでもつれてこい』なんて言うやつがいたら、普通落ち着いていられないでしょ!?」

「まぁまぁ、それに関しては一応、伝達魔法で手紙を飛ばしましたし。そろそろ向こうに届いているでしょうから、お母様が被害にあうことは無いでしょう。」


私の言葉に、先ほど伝達魔法とやらで手紙を送ってくれたジークハルトが答える。

魔族にも、遠距離で意思を伝える魔法はあるのだが、両側に受信装置が必要だったり、固定の魔法陣が必要だったりと、案外大掛かりなのだ。

しかし彼が使ったのは、魔法文字をしたためた手紙に魔法をかけ、意思を持たせることによって目的地に運ぶという、面白い魔法だ。

タイムラグはあるものの、他人に見られそうになると消滅したりするし、速度も魔鳥の飛行速度と同じということもあり、徒歩で数日の距離くらいなら、ご飯を食べている程度の間で届くだろう。

とても便利そうなので、後でゆっくり教えてもらうことになった。


ちなみにこのときは、母の事を心配しすぎて、何も考えずに大慌てで手紙を出したが、受け取った父がショックで気絶するとは思ってなかった。うん。


「しかし、何が目的だ?お前の母親であるシルフィーヌ嬢は確か帝国の勇者に使い捨てられ、死んだことになっているはずじゃ……。」


アレクシスの呟きに、昔父から聞いた話が頭に蘇る。

魔王を倒すための盾兼目くらましとして母様を使い捨てたクソ勇者。


「ああ、そうそう。帝国の勇者め。死ねばいいのに……。あ、あんたとつながってるんだったら、あんたを殺せば向こうも、ってことは無い?」

「まてぇぇっ!!そんな無茶な理由で殺そうとするな!あくまで妻がってるのは勇者の力であって、俺が死んだところで向こうに影響があるわけねぇだろ。場合によっては、向こうが強化されるまであるね。」


一応聞いてみたが、当然ながらあっさりと否定されてしまった。

勇者が一人強化された程度で、どうにかなるとは思えないが、因縁の相手をわざわざ強くする必要はない。

そういう意味でも、アレクシスに生きていてもらわねばならないのか。

アレクシスは半人前の勇者だが、帝国の勇者よりはずっとましだ。


「くっ。仕方ない、後日きっちり落とし前つけに行こう。」

「国際問題に発展するから、お手柔らかにな。」


まぁ、正直、帝国の勇者が母様を見捨てなければ父様と出会うことも無かったし私たちが生まれることも無かった。

結果オーライなんだろうけど。


「お前の母親、神聖魔法は使えるか?」

「え、ええ、使えるわよ。どうしたの、急に。」


またも、聖剣からぴょこんと飛び出した元妖精王。

今は聖剣に憑依したただのおっさんだが。


「昔から聖女の母となる聖母は、体内に宿す力が強力すぎる故に本人もかなりのレベルの神聖魔法を扱うと聞く。もしかしたら、昔の知り合いに聖母候補として目を付けられていたとか言うことは無いのか?」

「なるほど、確かにそういう可能性もあるわね。」

「現状、勇者のパーティであったシルフィーヌ様は死んだということになっています。

しかしお告げで、聖女の誕生は確定している。つまり、シルフィーヌは聖母ではなかった、ということになっているはず。

しかし、生きていたとなれば話は大きく変わってきますね。

シルフィーヌ様が聖母だった可能性を考え、彼女を捕らえて聖女の行方の手掛かりにしようとしたのではないでしょうか。」

「最悪じゃん、それ。」


私がうかつに街をうろついたせいで、お母様に危険が及ぶなんて考えもしなかった。

まあ、危険といっても勇者である(エミール)と魔王である父が全力で守っているのだから、そうそう手を出せるものではないだろうけど。


「やっぱり、早めに私が名乗り出た方がよさそうね。」

「勇者を抱えるナルノバ王国所属の聖女として名乗り出れば、いくら帝国とはいえそう簡単には手が出せないとは思うが、今の帝国のは少し異常だからな。何をしてくるやら。」

「でもなー。帝国に所属したくはないし、聖女狩りで無駄に魔族や一般の人が死んでいくのも嫌だし、名乗り出るしか方法ないだろうしな。あ、いっそエミールも10代の勇者で名乗り出る?」

「それも一つではあるがな。歴代勇者最強クラスの鬼神ともいわれたシンディがいる状態でもう一人勇者がいるとなると、逆に帝国を挑発しすぎることになりかねない。あまり事を大きくしすぎてはダメだろう。」

「とはいえ、聖女が名乗り出るって相当な事だけどね。」


全ての国が、喉から手が出るくらい欲している聖女という存在。

それを抱えた国は聖女が生きている間世界のトップに立てるといっても多言ではない。

ちなみに、話し合いが進めば進むほど、どんどん回復薬がたまっていく。

最近はみんなの熟練度も上がりすぎて、一時間も話し合えば、軽く500本を超える回復薬が出来てしまうのだ。

材料となる薬草が底をつくかと思いきや、実は古竜にエリクサーを融通する代わりに大量に分けてもらったので材料切れの心配はない。

なのでみんなで思う存分回復薬制作に打ち込めるというわけだ。


「帝国が流した噂で、魔王が勇者を殺して聖女を拉致監禁しているって話になってるからな。大混乱が起きるだろう。」

「その辺は、あんたたちが守ってくれるんでしょ?」

「もちろん、国を挙げてお守りしますよ。だてに商業国家として栄えていないですからね。」


アレクシスとジークハルトは胸を張る。

彼らも、私の近くにいる影響だろうか?初めて出会った時より魔力の量が格段に増えている。

シンディレベルとは言わないまでも、国のトップクラスに並べる力はありそうだ。


魔王城に攻めてきている帝国の勇者や騎士団などとは比べ物にならない。

寧ろ彼らは、あれでやる気があるのか?と言いたくなるほどだ。


「なんか、最近魔王城に来る戦力ってカスカスなんだけど。ラザン帝国の戦力って、ナルノバ王国より下ってことある?」

「無い。」


私の疑問に対して、きっぱりと言い切るアレクシス。

しかし、騎士団の力や勇者の質を見ると、どうしてもラザン帝国がこれほどまでに力を持っている理由が分からないのだ。


「戦力は温存しているのだろう。伝説の姫巫女も、帝国の頭脳と言われた賢者も魔王討伐の前線に立つことは無いしな。特に伝説の姫巫女は、一撃で魔王を屠れる力があるとまで言われているぞ。」

「じゃぁ何で来ないのよ。」

「俺が知るか。」

「魔王を討伐する気がないのか、何かしら目的があるのか、考えたところでそう簡単にはわかりませんね。」


てか、伝説の姫巫女って何よ。初めて聞いたんだけど。

魔王を一撃で殺せる姫巫女なんてやつがいるなら、勇者だなんだって回りくどいことする必要なくない?


「まあ、伝説はあくまで伝説だよ。ほかの国をけん制するための嘘でないとは言い切れない。ただ、先代魔王に止めを刺したのがその姫巫女だって噂だがな。」

「えええ、おじいちゃんに?そんな話聞いたことないけど。」

「まあ、一般的には勇者が倒したってことになってるからな。」


むむむ?

今度帰ったら父様に詳しく聞いてみよう。


「でも、魔王を倒せるような巫女、ってそれこそ聖女じゃないの?」

「いや、聖女は聖女で別にいるんだよ。その姫巫女、今で300歳くらいって話だし。」

「……。人間じゃないのかな……?」

「一説では、エルフだって聞いたがな。その話すら、国家機密レベルで、各国の王族しか知らない話だし、エルフ族にきいても正体は不明で、どこまでが本当なのやら。」


正体不明の姫巫女に賢者ね。なーんか引っかかる。

次来た時に、ゆっくり調べよう。

次は、お忍びではなく、聖女として正式に来ることになるだろうから。


「さ、今日はこの辺にしよう。明日はギルドで獲物を売って、いったんナルノバ王国に帰るわよ。」


私は出来上がったポーションの一部にキラキラを纏わせエリクサーにし、さっさと収納へ片づけた。

一応みんなにいるかどうか聞いてみたが、全員間髪入れずに断ってくれた。


……。やっぱり、回復薬も可能な限り売ろうっと。


そう決心して、明日に備えるのだった。




いつもありがとうございます。

滞りすぎないよう、可能なペースで少しづつ更新していきたいと思います。


どうぞよろしくお願いいたします。

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