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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
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聖女様は色々処分したい

クリスタたちと別れ、小屋を出るとさっさと魔法収納に仕舞う。

全員で泊まれないし、あくまでも簡易休憩所なので、ゆっくり寝るなら宿のほうがいい。

そんなわけで、宿やギルドのある区画に向けて、人気の無い森から、街中の方へと戻ってきたのだ。

この辺りはまだ人通りは少ないが、もう少し中央に行くと賑やかな屋台や、人の声も増えてくるだろう。


食事は宿についている食堂が美味しそうだったので、そこで取ることを予定しているが、あちこちから漂う美味しそうな匂いに、浮気心が出てしまう。


幸い、金銭的にも困ってはいない。

宿も食事も、買い食いだっていくらでもできる。

貧民街とも言えるあたりにある、安価そうな屋台の安価そうな串焼肉に目を奪われながら、なんとか我慢をしつつ、アレクシスたちに尋ねた。


「まだギルドってやってるよね?」


クリスタとの待ち合わせのために時間調節をしたが、なんだかんだ、まだ暗くなってからそんなに時間は経っていない。

普通なら丁度夕食をとりに来た客で町が賑わう頃だ。


「ああ。任務が長引いた後、換金してから食事に行く奴らも多いしな。むしろ混む時間だろう。」

「じゃあ、買取カウンター混んでるかなー。」

「どうかね。逆に増員しているだろうからな。」


そんな話をしながら、魔法収納の中を確認する。

今回売るのはビッグホーン3体、劣化竜2体分の肉を含めた素材と決めている。

50匹以上のビッグホーンや、劣化竜、その前に狩ったサーベルタイガーやツノウサギなんかもたっぷり入っているというのに、今回売れるのはたった5匹分。

在庫過多のポーション類も処分したいが、あまりやりすぎるとまた怒られそうだしなぁ。


「回復薬も売っていい?」

「上級と中級だけな。少しにしておけよ。」


一応確認するが、当然釘を刺される。

どう考えても、減る分より作っている分が多い。それなら作るなと言われそうだが、作らないとなんだかムズムズして落ち着かないのだ。

最初の頃は、そんな私を、呆れた顔で見守っていたメンバーたちも、なぜか最近は、寝る前に回復薬作りをすると気持ちよく寝れるとか言って積極的に参加してるし。


「消費場所を作らないと、本当にどうにもならなくなるわね。」

「でもなー。神聖魔法よりも上の魔法が使える聖女が1人。魔族のくせに神聖魔法が使える奴が1人、そして俺たちは下位魔法とは言え、かすり傷程度なら自分で治せる。

どこに回復薬の需要があるんだ?」

「ですよね。」

「なの。」


改めて思うに、回復特化型のパーティだな。

聖女のお供が回復職って、おかしいやろ。

とはいえ、私もゼルも魔族だ。そう簡単に人間にやられたりしな……。


「おい、そこの女。こっちへ来てもらおうか。」


なんか出た。


「なんだお前らは。」


アレクシスとジークハルトがずいっと前に出る。

そういえば、私とハンナがそこそこ良い家の娘で、その執事がゼルで、2人は護衛だっていう設定だった!

どうやら、素直に設定を鵜呑みにしてくれるタイプの人たちらしく、ヘッヘッヘ、とか言いながら刃物をチラつかせ笑っていた。


「危機感が薄すぎて、時間短縮のために人通りの少ない路地を通ったのが敗因ですね。」


多少めんどくさそうに頭をかくゼル。


「近道知ってるとか言って、張り切ったおっさんがいたからなの。」

「誰がおっさんだ!俺はまだ、25だ!」

「ハンナより18個も上なの。おっさんなの。」

「なんだとコラ。」


ハンナとアレクシスが言い合いを始めた辺りで、相手がキレた。


「無視するなぁああ!」


ですよね。

薄暗かったせいであまり見えていなかったが、よく見ると男たちは6人。人通りの少ない裏路地とはいえ、護衛付きの5人を襲うほどの戦力には思わないのだが。

そう思った後、ふと自分の服を見る。

依頼を受けて劣化竜の村に行ったときとは違い、念のためと言って着せられている、ドレスとは言わないまでも、動きやすさを重視したオシャレ服。

宿からクリスタに会いに行くとき、着替えたのだ。

ハンナも同じドレス風の服で、ゼルは執事服。

なるほど、戦えそうなのはアレクシスとジークハルトだけだね。


「護衛2人だけなら、とでも思ったか。」

「そいつらを置いて逃げるなら、見逃してやらんでも無いがな。」


嫌らしい笑みを浮かべ、舌舐めずりをする男たち。

お嬢様たちを護衛する冒険者風の男2人なら、数でなんとかなると思ったのだろう。

守られてるほうが強いなんて、普通は思わないだろうし、今日のところはアレクシスたちの顔を立ててキャーキャー言いながら逃げ回っていようかな。


「キャーキャー。」

「……物凄い、大根なの。」


呆れた様子のハンナを、怯えた演技のまま抱きしめると、ものすごく嫌そうな顔でため息をつかれた。

ゼルは、一応私たちを庇うように立ってはいるが、大した警戒心もないようだ。

見た感じで、アレクシスたちに任せれば大丈夫だと判断したのだろう。


「馬鹿を言うな、見逃す気など更々ないくせに。ダダ漏れの殺気も隠せないようでは、役者になるのは無理だな。」

「うるせえ!聞けないなら、死ね!」


男たちは剣を抜き、そのままアレクシスとジークハルトに切り掛かった。

帝国は大きな街で、警備などもしっかりしていると思ったが、ちょっと大通りを外れただけでこんなふざけた連中がいるなんて……。

幻滅した。

評価を下方修正する必要がありそうだ。


「アレクシス、ジーク、殺さないでね?」


数回剣が触れ合った音がした後、リーダー格の男以外が、ドサリと倒れ伏した。


「ふっ、峰打ちだ。」

「何なのそれ。」

「昔読んだ絵本で、手加減するときに言ってた。」


そんなやりとりをしている間に、リーダー格の男は逃げようと後ろを振り返る。

が、ジークはそれを許さない。男の背後に回ると、首筋に短剣を当てて言った。


「ただの誘拐目的とは思えないんですが?」

「はひっ!?やめてくれ、俺は、頼まれただけなんだ!」

「は?」

「そ、それも、多分人違いだ!だから許してくれ!」

「どういうことよ。」


人を誘拐しようとして、人違いでしたって、そんなので済むわけないじゃない。

本当に、勝手な奴だ。

ジークハルトは、どうして良いかわからず、私と男を交互に見ていた。


「ある男に頼まれた。この絵にそっくりな女を見かけた、無理やりでも良いから、連れてきてくれと。」

「絵にそっくり?」


そう言って出された姿絵を見ると、確かに、背格好や髪の色は確かに似ている。

しかしこの女性は、私よりも目つきが柔らかい。

アレクシスとジークハルトは、私と絵を見比べ、小さく首を振った。


「確かに別人だな。目つきが違いすぎる。」

「ああ、ティーナ嬢はもっと目つきが悪い。あと、ここまで美人じゃない。」


テメェら、後で覚悟しとけよ……。


「しかも、話によると、20年近く前に15歳くらいだったらしい。どう見てもお前は若すぎる。遠目に親子かと思ったから、間違い無いと思って声をかけたが、違ったんだ!許してくれ!」


いや、違ったからって言われてもなぁ。

というか、この絵。

今30才過ぎで、穏やかな瞳の、私に似た茶髪の女性。これは私というよりも……。


「シルフィーヌ様に似てますね。」

「うん、似てるね。」

「なっ!お前ら、シルフィーヌを知ってるのか!?」

『……。』


私はゼルに目配せをする。すると、私たちを守るように立っていたゼルが軽く頷き、スッと動いた。


「他の方たちは気絶していて幸いですね。貴方は、その依頼を受けてしまったことを、あの世で後悔してください。」

「え、ちょ、何、で?」


ゼルが男の首を片手で掴んだことにより、ジークハルトとアレクシスは反射的に後ろに下がる。


「和解も大切だけどね。逆鱗ていうものがあるのよ。」

「ぐっ、た、たひゅ、たひゅけ……。」

「依頼主は誰ですか。他に雇われた人はいますか?」

「きょ、うか、い、の、神父、ほか、は、しら、な……。」


そこまで聞いた辺りで、ゴキリ、と鈍い音を立てて男の首が変な方向へと曲がった。


「ああ、つい、力を入れすぎてしまいました。」


口元だけで笑うと、ゼルは男を投げ捨てる。

ゼルに比べて一回り以上大きな男を、片手で軽々と持ち上げた上に、ボロ布でも捨てるかのように地面に叩きつけたその姿は、確かにヒトからすると()()()()として映るかもしれない。

しかし、大切な人を護りたい、危険に晒したくないという気持ちは、魔族だろうが人族だろうが、変わらないと思う。


「…急にどうしたんだよ、お前ら。」


あからさまに引いているアレクシスたちを横目に、私は在庫過多なエリクサーを取り出すと、辛うじて生きている男の口に注いだ。同時に金色の光が迸る。


「…….ガハッ!ゲホゲホっ!」


首元を抑え、咳き込みながらも、男は傷一つない姿でその場に座り込んでいた。


「あれ?俺は、今、死んで……?」

「あら、かわいそう。怖い夢を見たのね。ところで、私たちやその絵の女性の情報を漏らしたら、体液撒き散らして死ぬ呪いを受けるのと、情報を漏らす心配のない、可愛い体で一生を終えるのとどっちが良い?」

「えっと……。」


男は、ぜると私を交互に見て、恐怖に震えながら、何とか声を絞り出した。


「……ぜ、前者かな。」

「そう。じゃあ、()()()()()()。」


私は、元妖精王が作り出したブラックオニキスを取り出すが、案外心優しいアレキサンドライトが気にするところを想像して止める。

代わりに、私の髪を一本媒体として、沈黙の呪いをかけた。私より大きな魔力がないと気づけないし解除もできない。

当然、呪いのことを他人に話そうとすれば死ぬように。


「じゃ、帰って良いわよ。以後、誰かに何らかの手段で伝えようとすれば、伝える前に命がなくなると思ってね。雇い主のことは心配しないで。私たちの方で何らかの処分をしておくから、ね。」

「は、はひっ!」


裏返った声で返事をすると、そのまま仲間を振り返ることもせずに逃げて行った。


「甘いですね。たとえ毛先程の障害でしかなくても、危険因子は排除するに越したことはないと思いますが。」

「ま、雇われただけだしね。そんな事より、明日、もう一度教会に行って、確かめましょう。」


私とゼルがそんな会話をしていると。


「全く、宿に戻ったら、ゆっくり説明して貰うからな。」


少し苛立った様子のアレクシスが言った。

そりゃまぁ、まだ何も説明してないもんね。


「ゴメン、詳しく話すから。」


そう言って、気絶した男たちを一瞥した後、私達は宿へ続く大通りへと向かったのだった。

こんなガラの悪そうなところで一晩寝てたらロクな目に合わないだろうと思うが、助ける義理もない。

しかしまぁ、狙いが母様だって?


冗談じゃない。


もし、母様に手を出す奴がいたら、その場で挽肉にしてやる。

ギルドはもう明日でいいや。今更換金や交渉をする気分にはならない。

そんなことを思いながら、宿へ向かって黙々と歩くのだった。


いつもありがとうございます。


体調がイマイチでして、多少更新が遅れ気味ですが、多目に見ていただけるとありがたいです。


これからも、よろしくお願いいたします。

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