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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
106/175

聖女さまと妖精王再び

「クリスタさーん」


賑わう街並みから離れ、人気のない町はずれの森。

虫の声が聞こえ、たまに何か夜行性の鳥でもいるのか、がさりと音が聞こえたりもするが、魔物の気配もない。

約束の場所はこの辺りのはずだ。

ソワソワして鬱陶しい元妖精王アレキサンドライトを連れ、アレクシスと二人で森へと来ていた。

疲れた様子のハンナと、その護衛のためゼルとジークハルトは置いてきている。

護衛二人が宿で休み、護衛対象二人でうろうろするのはどうかと思うが、正直なところ私の心配など必要ないと思っているのだろう。

私に倒せないような相手が現れたら、ゼルやジークハルトでは足手まといでしかないのだ。


「うふふ、待ってたわ。」


すっと暗闇から出てきたのは、比較的長身の美女、クリスタである。

なるほど、気配隠蔽の魔法なのか、全く見えなかった。


「私たちに気づかせないなんて、かなりの腕ですね。」

「隠れてるって思わなかったから、気づかなかっただけでしょ?本気で探されたら、見破られちゃうわよ。」

「おーっす、元気にしてたか?」

「相変わらず、無茶苦茶やってるらしいじゃねぇか」

「わーい、ウーリさんも元気そう!」

「俺は?」


陰で視界に入ってなかったので、つい名前を呼び損ねると、なんだか少しダメージを受けたらしいヴァルター。

三人とも人間にしては、かなりの腕を持っているBランクの冒険者だ。

裏表のない彼らの明るさのおかげで、私たちの人間に対する印象はとても良い。あの臆病なゼルですら、彼らには大して警戒心を持っていないのもその証拠だろう。


「ヴァルターさんも相変わらず三枚目!」

「うるせぇよ!」


そんな話をしながら、私は少し開けた場所を探すと魔法収納からあるものを取り出した。


「な!?」

「え、いや、ほら、野宿はしたいけど、蚊に刺されるといやだし、なんてことあるじゃん?まぁ、今回は、話し込むのに虫が来たら嫌だしさ。」


私が取り出したのは、10メートル四方ほどの小さな小屋である。

中には簡易ベッドと、テーブル、椅子などがあり、小さな簡易キッチンまである、そこそこしっかりとした造りになっていた。

野宿用の必須アイテムだと思い、持ってきたのだけど。


「おまえ、野宿をなめてるだろ。」

「そう?」


私はそれだけ言うと、隠ぺい魔法、魔法障壁、更には消臭消音の魔法を重ね掛けし、さっさと小屋の中へと入る。

これで、誰かがこの小屋の前を通っても、たとえぶつかったとしても何も気づかない。


「あ、椅子は四つしかないから、ヴァルターさんは床で。」

「何でだよ!」

「冗談よ。私がベッドに座るから、皆さんどうぞ。」

「全く、どこまで冗談なんだか……。」


みんなが席に着いたのを確認すると、私の横をソワソワふよふよと飛び回っていた元妖精王に声をかけた。


「さぁ、良いわよ。娘さんを呼んでちょうだい。」

「あ、ああ!我が呼びかけに応えよ、我が娘、妖精王ガーネット!」


部屋の中が光に包まれると、その中に浮かび上がったのは透き通るように美しい少女だった。

赤紫のような美しい髪色と目、青髪のアレキサンドライトとはあまり似ていない気もするが、遺伝なんてそんなもんだろう。


「父ちゃん!母ちゃん見つけたって、ほん…と……。」


少女は、アレキサンドライトの背後にいる女性を見て、言葉を失った。

柔らかい微笑みを浮かべながら少女を見る。どうやら、クリスタは見た目もかなり前世の姿に近いらしい。


「母ちゃん!」


少女は、何のためらいもなく、その胸へと飛び込んだ。


「私、ずっと封印されて、母ちゃんを護れなくて、それで、それで!!」

「つらかったのね。ごめんなさいね、私、前世のこと、何も覚えてなくて。見た目だけ、似ているのも、酷よね……。」


少女を抱きしめながら、クリスタは言う。


「……何にも、覚えてないんだ。そうか、そうなんだ……。」


それでも、うるんだ瞳でクリスタを見つめながら、離れたくないと必死に抱きしめている。


「それで、何か思い出してもらう方法が……。」


アレキサンドライトが言った瞬間、何かを思い出したのか、さあっと血の気の引いたような顔でクリスタを見るガーネット。


「だ、だめ!思い出しちゃダメ!!」

「何故だ?せっかく、クリスタ殿も好意的で、我々の事を思い出してもらえれば、クオーツだって……。」

「絶対ダメ!父ちゃんは、知らない方がいいと思ってたけど、言おうか?母ちゃんが、大聖女に捕らえられてから、どんな目にあったか。」

「そ、それは……。」


確か、涙から出来る宝石を得るため、一生涯苦しみ続けたと聞いたけど……。


「私も、海の妖精王から聞いた話だから、そこまでは詳しくないけれど、気が狂ったり、死んだりしたら宝石が手に入らないから、正気を保たせながら、ありとあらゆる苦痛を与えて、常に涙を流させていたんだって。勿論、自殺しようがすぐに生き返らせて、ずっと檻の中で鎖に繋がれた生活だったらしいよ。大聖女の次の聖女に殺してもらった時、喜びの涙が二つ。大粒のアレキサンドライトとガーネットになって落ちたんだとか。」


声を震わせながら俯くガーネット。

その話を聞き、アレキサンドライトも、うつむいて肩を震わせた。

同時に、コロン、と音が聞こえ、何か小さな宝石が地面に落ちた。


「なんで妖精は、こんな不便な体質なんだろうね。」

「……魔神に愛されて、宝石とともに生まれてきたと言われているが、今は恨みしかないな。」


アレキサンドライトが、落ちた宝石をひょいと拾い上げると、それは小さな水晶だった。


「そうだな、我々の事を思い出して欲しい気持ちはあるが、百年近い苦痛に満ちた日々を思い出すくらいなら、私たちとの記憶など、必要無いだろう。クオーツの魂は、クリスタとして、今は、幸せに生きてるんだ。」

「母ちゃんは、私たちに会いたい、って言って死んでいったらしいけど……これだけ綺麗に魂が残っているとなると、初の転生だと思うんだ。私たちに会うためにずっと待ってて、こうやって、私たちに会える時代に生まれてきてくれたんだよ。それで十分じゃ無い。」

「そうだな。わざわざ時間を取らせてすまなかった、クリスタ殿。我が妻に瓜二つなその姿を見ることができただけでも、我々は幸せだ。」


そういって、アレキサンドライトは小さな妖精の手でクリスタの頬に触れた。その表情は、愛情に満ち溢れており、協会にあった大聖女の像なんかよりも、ずっと美しく見えた。


「本当にいいの?なんだか、せっかくなのに、申し訳なくなってしまうわ。」

「ああ。それに、前世を思い出す方法、なんて有るかどうかも分からんしな。」


困ったようなクリスタの言葉に、元妖精王は苦笑で応えた。


「それに、もし、前世を思い出したお前が、違う男と結婚しようものなら、我は全力で相手を呪う自信があるぞ?今でも既に、他の男に渡すのが惜しいと思ってしまっておるしな。生涯独身になる呪いをかけたいくらいだ。」

「ちょ、マジ、勘弁して!」


行き遅れ、という単語に過剰反応したクリスタが慌てる。

確かに、人間で、クリスタくらいの歳の女性で未婚なのは珍しいかもしれない。若い時期や寿命の長い魔族では、よくあることだけど。


「冗談だ。そなたには、前世の分も幸せになってもらいたい。我には、クオーツを幸せにすることができなかった。それに、我も、いまは、この剣という依り代がなければ消えてしまう身。改めてそなたを娶ることも叶わぬ。」

「……まぁ、モノ付きになった妖精が人間になる方法ならあるらしいけど。」


ボソリといったガーネットの言葉に、物凄い勢いで振り返るアレキサンドライト。


「あるのか!?」

「寧ろ、知らないんかい!城の書庫にあった伝記に、いくらでも有ったよ!真の愛のこもった口付けで人間になる話。」

「ああ、確かに……。そうなると、望み薄だな。」


アレキサンドライトは、困ったようなクリスタを見て、笑った。

確かに、共に時を過ごせたなら関係なら良いが、所詮たまたま出会った冒険者同士、さらに自分は剣に宿った妖精だ。

真の愛など、期待できないのだろう。


「うーん、本当に、ごめんなさいね。」

「そんなに謝らないで欲しい。我々の都合でそなたを困らせたくはない。幸せそうに笑っていておくれ。その顔が、何より美しいのだ。」


そう言って、クリスタの額に口付けをした。


「ありがとう。」


にっこり笑ったクリスタの頬が、ほんのり赤かった気もするが、気のせいかな。


「ねえ、クリスタさん。貴女に妖精王の加護をつけてもいい?」


その様子を見ていたガーネットが、先ほど落ちたクオーツの宝石をアレキサンドライトから受け取ると、クリスタに手渡しながら言った。


「えええ、そんなものもらっていいの!?」

「うん、せめて、お母さんを守れなかった分、今の貴女を私に守らせてもらえないかな。」

「それは、すごくありがたいけど……。」

「じゃあ、決まりね!」


そう言って、ガーネットがクリスタの額に手を当てた。その瞬間。


「グルルルル!」


弾かれるように飛び出してきたのは、1匹のフェンリルだ。

大きな魔力を感じ、主人を守ろうとして出てきたのだろう。しかし、フェンリルって妖精の類じゃなかったっけ?


「こ、こら、やめなさい!」

「ん?なんだ、お前、先にいたのか。」


慌てるクリスタだが、そのフェンリルを見てガーネットは懐かしそうに言った。


「アオ、私だ。ガーネットだ。」

「わう!?」


慌てて牙をしまうと、目を泳がせている。

どうやら、知り合いのようだ。


「七千年程度で忘れられてしまうなんてね。」

「わうん、あうう……。」

「悪いけど、クリスタさんに加護をつけさせてもらうよ。」


そう言って額に宝石を当てると、淡く光ったのち額に吸い込まれるようにして消えた。


「これでいつでも、私を呼べるし、魔力も底上げされてるはず。治癒能力や身体能力だって強化されるんだからね。あ、あんたにもこれ。」


フェンリルの額にも、ツン、と触れる。


「しっかりクリスタさんを護るのよ!」


額に何やら不思議な文様が浮かび上がった。

おそらく、フェンリルにも加護を施したのだろう。


「ありがとう。」

「ううん、こちらこそ。これからも、よろしくね。」

「逆に、辛くない?」

「ううん、生まれ変わって、幸せにしているのを見られただけで、十分だよ。父ちゃんも、これ以上クリスタさんに迷惑かけちゃダメだからね!」


そう言って、クリスタから離れると、何か呪文を唱え始めた。


「私は帰るから。みんな、元気でね。」

「ありがとう、ガーネットちゃん。」


そう言って、クリスタは、ガーネットを抱きしめた。

彼女は、びっくりしたように一瞬止まったが、クリスタをぎゅっと抱きしめると、にっこり笑って消えていった。


「クリスタ殿、本当にありがとう。」

「ううん、こちらこそ、妖精王の加護だなんてすごいもの貰っちゃった。」

「では、また機会があればお会いしましょう。」

「ええ、またね。」


こうして、私たちは小屋を出て収納に仕舞うと、それぞれの宿へと帰ったのだった。

遅くなりました。


またも高熱を出して寝込んでしまいました。

季節の変わり目ですので、皆さんもお気をつけください。


これからもよろしくお願いします。

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