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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF7.〜もしも友達におんぶされたら〜

 連れてって、と言うと、大宮は後ずさりをした。

 そして大宮達は、3人で集まり、何かを話し出した。察するに、誰がどう俺を運ぶかの会議をしているのだろう。

 現に、3人で指を指しあってる。


 ただ、その会議というのが長いったらありゃしない。

 俺を地べたに座らせたまんまで居させるんですかぁ?そんなんだからモテないんですよぉ……………


 やがて、会議は白熱していき、どんどん身振り手振りが大きくなっていく。くぅ、まだ全然終わりそうになくて、男3人に、うんざりしてしまう。


「もういいよ!俺は誰でもいいから早く連れてってよ!」

 そう怒鳴ると、3人はビクつき、向かい合ってため息をする。そして、手を振り上げた。


 アイコンタクトで会話ができてしまう3人に、なぜか俺は嫉妬し、意味のわからない焦燥感を覚えた。


 そして、掛け声とともに3人は思い思いの手を出す。思い思いといっても、3パターンしかないのだけれど。


 ポン、という軽い掛け声によって出された手は、グー、グー、チョキ。一人負けである。どうやら、坂本が負けてしまったようである。


 大宮と船たんは、大きな手振りと全身で喜びを表現し、坂本は、うぁぁぁ!と叫んでいる。


 ……………なんだよ。そんなに俺をおんぶするのが嫌か?


 トボトボと全身で脱力しながら、すり足気味で俺のところに歩いてくる。照れているのか、俯いた顔はなぜかにやけている。


 そして、無愛想に、手を俺の方に差し出してきた。顔は俺と目を合わせないように後ろを向いている。


 そして、ジャンケンにかった大宮はというと、はじめてのおつかいを見守る母親のように、両手で口を隠しながら、少し離れてじっと坂本を見つめていた。


「…………ありがと」

 俺も、左手で体を支えながら、右手で坂本の手を握り返す。

 …………こんなに坂本の手って大きかったっけ?


 俺は坂本と身長の差が数センチあったが、俺の方がガタイがいいし、坂本は姿勢が悪いから、なんとなく、大きいイメージは無かった。

 けれど、今立ち上がると、身長の差に驚かされる。ガリガリのヒョロヒョロなのに、何故か大きく見える。

 猫背で俺を見下ろす坂本は、少し威圧感があって、なんだか少し怖かった。


「…………おんぶして」

 なんだか、背中の大きな男を見ると、なんだか甘えたくなる。その背中に、飛び込みたくなる。

 …………兄ちゃんを思い出すからだろうか?


 おんぶ、という言葉を聞いた坂本は、目を見開いて、大宮の方を見て、手を横に振る。目線は、焦りのような照れのような色を見せて、大宮に助けを求めている。


「おんぶぅ!」

 欲しいものを買ってもらえない子供のように、坂本の腕をブンブン振って、ほっぺたを膨らませる。

 早く早くぅ、と催促する。


 坂本は、うーん、と唸った後、腰を低くする。

 そして、後ろに手を出す。


「ど、どうぞ?」

 差し出された背中は、細いとは思えないくらい大きくて、細いなりにも運動部らしいしっかりとした体つきをしている。思わず、抱きしめたくなる。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」

 目の前に広がる広大な背中に、飛びつく。厳密に言えば怖かったから飛び乗ったわけじゃないが、そう思えるほどに、ワクワクしていた。


 いざ、密着。体は、体温が伝わり合うくらいの距離にまで接着され、服に包まれた確かな筋肉を、全身で感じる。うさぎの毛の中にも体温を感じるように、服の上からでも心地の良い温かさを感じた。


 首をホールドし、足を絡ませて、このまま眠りに落ちてしまいたいくらい、脱力していた。


 だがしかし、脱力しながらも、まだ俺の体に定着しきっていない腹筋を全稼働で働かせながら、首の命綱にしがみつく。坂本が苦しくなるのも鑑みずに、全力で抱きつく。

 どうやら、坂本が、俺の足を持つことを躊躇しているようだ。


「く、苦し、ちょ、ね、ねぇ!」

「いや知った事かぁ!足持てやぁ!」

 苦しいのも分かるし、足を持つのを躊躇するのも分かる!スッゲェ分かるけど、今、俺の腹筋がもう持たねぇんだぁ!


 どうしようもなく苦しくなったのか、坂本はようやく俺の足を掴んだ。あんまりにも慌ててたためか、足を掴む握力が、女の子に対するものじゃなかった。


 ただ、俺の足を掴んだ坂本の手は、大きくて、ゴツゴツしていて、なんだか痺れて溢れ出るような感覚が下腹部に集まる。熱くって、内臓が焼けただれてしまうかと思うほどだった。


 でも、そのなんとも言えない感覚がどことなく恥ずかしくて、坂本の背中に顔を埋めてしまう。服は、軽い柔軟剤の匂いがした。


 やっとの事で、動き出した。ガラスの壁、ショッピングモールの大穴を左手に、壁によって歩いていた。

 右手側は、通路。ということは、人がたくさん通る。


 ただでさえ注目を集める俺は、おんぶという恋愛小説のようなシチュエーションによって、注目は最高潮となっていた。まるで俺が、世界の中心に立っているようだった。


 埋めている顔を少しだけ上げて、チラリと右側の通路の方を見る。一瞬見ただけでも、ほぼ全員の通行人が俺達4人を見つめて、写真を撮るなり、叫ぶなりと思い思いの反応を見せていた。


 すれ違う人全員と目と目が合っているみたいで、とんでもなく気持ちが悪かった。出口のない夜の街を、泥酔状態で歩き回っているかのように、気持ち悪くて吐き気がして、目眩がして頭痛がした。

 まあ、歩いているのは俺じゃないけど。


 右側は気持ちが悪いので、坂本の顔を見た。すると坂本は、通行人になるべく顔を見せないように左側に顔を固定していた。固定されたその顔は、視線に慣れてないのか、リンゴのように真っ赤である。


 そして、何よりも気まずいのは、この4人の中で、会話が何もないのである。坂本と俺の中はまだ分かるとして、なんで船たんと大宮が会話してないんだ?

 俺がいるせいで、変に緊張しているのか?


 この3人には、何かが足りない。ふと、そう思う。

 いつも、そこに存在しているはずの何かが、そこに存在していない。何か少しのスパイスが、何か大きな調味料が、足りない。オムライスにケチャップが足りないような、それくらいの違和感。


 なんでこんなに静かなんだ?この3人を見ている限り、こんな静かな時間が流れているのはあんまり見たことない。まあ、こんな姿になった俺がいるせいでもあるのだが、それでも静かすぎる。

 やっぱり、何か足りない……………?


 否、答えはすぐに出た。そのスパイスとは、その調味料とは、ズバリ、俺の存在である。

 まあこう言うと、なんだかナルシストに聞こえるかもしれないが、多分、俺の存在が大いに関係しているのだと思う。


 だって、こういう時に1人盛り上がっているのは、この俺なのだから。1人で盛り上がって、それで盛り上げるのは、俺の役目なんだ。今更、その考えにたどり着く。


 でも、大変申し訳ないことに、俺は今盛り下がりの原因となっている、女の子本人なんだ。うん、ホント申し訳ない。

 今、テンションはマイナスだが、俺がどれだけ盛り上げても、打ち消し合って0になる。結局静かなままなんだ。というか、今の俺にそんな体力はない。


 だから、ただひたすらに目立ち続けるしかなかった。




 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 坂本の背中に顔を埋めて、坂本の服の匂いに包まれて、やっとの事でフードコートに着いた。

 やっぱりフードコートも混んでいて、それなりに目立っている。というか、全員が、店員さんまでもが、俺のことを見ていた。


 …………くそ、仕事に集中してくれよぉ!


「…………もう、降ろしてくれていいよ?」

 なかなか降ろしてくれない坂本に、しびれを切らして言う。


「えっ!あ、あぁ!ご、ごめん、ごめん!」

 いや、キョドりすぎだろ。でもまぁ、女の子耐性ほぼゼロだもんな、しょうがないよそれは。俺だってそうだし。俺も坂本の立場だったらこうなるだろう。


 地面に足をつけると、なんだか視線から逃れたみたいで、少しホッとした。さっきと視線の量は変わってないが、おんぶというイベントがなくなったからだろう。それにホッとしていたんだと思う。


 周りを見渡す。色んな人がいた。家族で来てたりとか、カップルだとか、はたまた一人だとか。

 色んな人が、俺のことを見ていた。まあ、そんな事は無視して、座れる場所を探す。


 すると、結構奥の方だけど、四人で座れるところを見つけた。そっちを指差して、言う。


「ん、あそこ空いてるぜ」

 と、適当に言い、そそくさと歩いていく。ちょっと歩いたところで、後ろにだれも着いてきていないことに気づいた。


「ん?どしたの?」

 声が届く範囲にいたので、少しだけ声を張って、3人に聞こえるように言う。3人は、顔を見合わせていた。そして、不意にこちらを向く。


「うん、なんだか」

「俺達の友達に似てるんですよ」

 坂本と、大宮が俺に言う。それだけ言うと、ごめんごめんと手を合わせて、俺のところにやってきた。


 …………その友達ってまさか………….?


「っ、その友達は今日、どうしたの?」

 とりあえず、全く別の人のフリをして聞く。ここで日比野正樹ではないかと断言して、違ったら恥ずかしい。しかも、日比野正樹を知っていることを怪しまれる危険性もある。


「うん、なんかね?今日は来れんって。まぁ、絶対嘘だけど」

 うおう、ますます俺じゃないですか。てか、もし俺だとしたら、大宮に俺の嘘バレてんじゃん!まぁ、こいつなら、俺の心なんて読んでるか。


「まぁ、いいじゃん!とりあえず座ろうよぉ!」

 と、急に船たんが呂律の回ってない口調で口を突っ込んできた。くそ、なんでこいつはこんなにも可愛いんだ?俺が霞んじまうじゃねぇか…………。


「………く、可愛い」

 ボソッと呟いたつもりが、どうやら結構大きな声だったみたいで、大宮と坂本がこっちを振り向く。


 …………今のも露骨だったか?バレちったかなぁ?


 ただ、こっちを振り向いただけで、何かしに来るわけではなかった。そのまま気を取り直したようにスタスタと歩いていく。


 すると、ここであることに気がつく。俺がじっと見られていることだ。しかも、全身を舐め回すように。

 それもそのはず、俺は視線を常に集めているからだ。それを、この会話で際立たせてしまった。


 前を向いて、スキップほど飛ばずに、ランニングみたいな感じで、その場から逃げ去るように走る。もう3人が座っていて、席も確定していた。

 どうやら、大宮が隣のようだ。


「ここ、座るね」

 と、大宮に声をかける。すると大宮は目を見開いて、坂本と船たんの方を見る。


「ど、どうぞ?」

 と言いつつも、大宮は、不満げに坂本達の方をじっと見つめていた。


 …………俺に失礼だとは思わないのか?



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