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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF4.〜もしも買い物に出たら〜

「あの、結局俺は信用してもらえたの?」

 恐る恐る、と言った表情で母さんの方を見る。

 母さんは俺から離れ、またさっきのように向かいあった形になっている。真っ直ぐ見た先に、母さんはいた。


 俺はすっかり泣き止んで、余韻のようにちょっとしゃっくりをするだけである。


「まぁ、一応ね。最近は戸籍の無い子供っていうのも増えてるし、多分戸籍とかは大丈夫だと思うよ」

 ちゃんと俺の事を考えてくれているようだ。

 確かに戸籍とかどうなるんだろうとか考えてたから、助かる。嬉しくて、少しにやける。


 でも、よくこんな姿形の変わった息子を息子だと信用出来たな。俺の要素全くないじゃん。どこを俺だと思ったのだろうか。


「ねえ、俺のどこを信用してくれたの?」

 今の俺のどこに日比野正樹の要素があるというのだ。俺には全く分からないし、それを分かったところで意味はない。だって、俺は日比野正樹本人であるから。


「うーんなんだろ?まあ、纏っているオーラとかかな?」

 俺はガクッとして、ソファから落ちそうになった。なんだよオーラって。すごい曖昧だな。

 でも、存在という曖昧なものを信用するための理由は、曖昧であるべきなのかもしれない。


 でも、そんなに曖昧なものを信用してくれた母さんに、心から感謝すべきだと思う。


「それで?これからどうするの?」

 母さんは俺の意思を問うてくる。

 やっぱり、計画性のなさが、ここで出てくる。何も考えてなかったせいで、言葉に詰まる。


「えっと、考えてません」

 すいません。と付け加えるように縮こまって言う。

 何だか、女の子になってから、家族なのに他人のような気がして、よそよそしくなってしまう。あれだけ信用してほしいと思ってた割に薄情だな、と、自分ながら思ってしまう。


 考えてない、と言うと、母さんの目がらんらんと光り出した。そして、子供のような無邪気で楽しそうな笑顔を作る。


「だとしたらさ、出かけちゃわない?」

 口角を上げた口、その口が開いた時に出た言葉は、お出かけ。だが、その言葉の聞こえと意味とのギャップは、大きな物である。


 お出かけと一口に言っても、その内容とはつまり、女の子として世間の目に晒されろ、ということである。

 女の子として生まれ変わって6時間弱。その中で起きていたのは、1時間弱。そんな、女の子初心者の俺に、外の世界の空気を味わえと言う。


 いや、無理。


「で、出かけるの!?いや、なんでこんなすぐ!?ちょっと早いような気がするんだけど…………」

 ちら?母さんの方を見る。

 母さんはというと、やれやれ、という顔をして、わざとらしく両手のひらを上にし、腕を横に開いていた。


「全く、何も分かってないねぇ君は。女の子として生活していくためには、早く女の子に慣れるのが大事なの!先輩の言う事を聞け!」


 そ、そんな無茶なぁ。

 まだ家の中でさえもよそよそしくしてしまうというのに、いきなり外だなんて。


 いや待て。行くところによっては、大丈夫だぞ?

 もしかしたら近所の薬局くらいかもしれない。あそこなら、人もそんなにいないし、家から歩いて15秒くらいだから、ほぼ家みたいなもんだ。


 お願いします!あそこでありますように!


「ブレックスよ!」


 …………………死。


 なんでそんなとこなんだよ!?ブレックスっていったら都心の大型ショッピングモールじゃねぇか!

 ここの市に住んでたら、そこしか行くところないってくらいの大型ショッピングモールじゃねぇか!


「待って待って待って待って!なんで!?なんで!?なんでそんなハードル高いところなんだよぉ!!もっと順調にレベル上げてくべきでしょ!?なんでレベル1の単騎でラスボス突っ込む事になるんだよぉ!?」


 抗議に熱が入って、思わず、立ってしまう。

 立って、喋りながらどんどん母さんの方へ歩く。


 母さんと息のかかるくらいの距離に接近すると、母さんも対抗せんとばかりに、立ってきた。


「今は一刻も早くレベル上げるべきでしょ?だからこそ強い敵と戦うべきなんじゃないの?」

 立った母さんを、見上げる。


 母さんを見上げるなんて、何年ぶりだろう。俺は、最近身長が母さんを抜いた事を密かに喜んでいたくらいなのに。


 母さんは、身長が165cmくらいある。その母さんに対して頭一個分俺の方が小さいから、俺の身長は150cmに満たないくらいか?


 女子の平均って、確か155cmくらいだっけ?俺の記憶が確かなら、身長150cmでも小さかったような………?


 …………………………小せぇ。


「そ、そうかなぁ…………?」

 身長の低さに、半ば絶望しながらも、言いくるめられてしまう。やっぱり、母さんには反抗できない。


 どれだけ反抗しようとしても、母さんの言う事を聞いて、母さんの言う事を信じて成長したから、母さんの言う事が全て正しく思える。


 俺って騙されてるのか?


「じゃ、じゃあ、今から行く?やる事ないし、今から行ってもいいよね?この服、ブカブカで困ってたんだ」

 そう言うと、母さんは、不思議そうな顔をした。


「どうしたの?な、なんかおかしな事言った?」

 そう言うと、母さんは、嘲笑うかのように鼻で笑った。


「まさか母さんと一緒に行けると思ってんの?ふっ、笑止千万!母さん今日お友達とランチ会があるから行けないよ?いっぱい用意しなきゃいけないし」

 さも当然、という顔で、返事をしてくる。


 母さんの言葉を最後まで余さず聞いて、絶句。

 言う事が無くなったんじゃなくて、声が出なくなった。それも、あまりの衝撃で。


 プロボクサーの右ストレートを打たれたかのような唐突な衝撃がきて、息すらしづらくなり、口がパクパクなる。


 なんでそんな当然そうな顔して言えるんだ?俺には分からない。大分おかしな事だろう?

 だって、女の子になったばかりの息子を、外の世界に一人で放り込むなんて、なんて薄情なんだ?


「ちょ、ちょっと待てよ、何、俺一人で外出るの?」

 恐る恐る母さんを見る。母さんは、これでもかと言うほど、ニンマリと笑っていた。


「そう言う事!物分かりいいね〜〜」

 と、大きく頷く。


「な、な、ななななな、な…………まじか………」

 かくして俺は、母さんに言いくるめられて、一人で外出する事になるのだった。




 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 今日は、土曜日の真昼間である。だから、当然人の通りが多い。そんな人々を横目に見ながら、なるべく存在感の無いように、細〜く、小さ〜くなってそそくさと歩いていた。


 今俺は、都心の駅に来ていた。もちろん、ブレックスがある駅である。この駅は、俺の住んでいる県で一番電車が通っていて、交通の中心となっている場所だ。もちろん、ここの駅周辺に、遊び場がいっぱいある。


 だから、外国人とか、中学生、高校生はもちろん、デート中の小学生すら、少しだけいた。


 そして、そんな中で俺はというと、なるべく壁際によって、肩を壁にすらせながら、むしろ壁と同化するような勢いで歩いていた。


 人の波が、後ろから前へ流れているから、その波の中に隠れるように、波と同じ速さで歩く。


 歩幅が違うのか、男の時よりも早く歩いているつもりなのに、何故か遅い。景色と歩幅のリズムが合わなくて気持ちが悪い。


 でも、このままいけば、誰にも話しかけられることなく、平和にやり過ごせる。誰にも見られる事なくひっそりとミッションをコンプリート出来る………!


 …………なのに何故だろう?俺の周りだけ人だかりが避けて行って、みんなして俺の方を見る。見るどころか、注目して、騒ぎ立てている。


 そんなことしてると、大渋滞出来ちゃいますよぉ………

 願うような目線で周りをキョロキョロと見渡すが、誰も気づいてくれない。それどころか、余計に騒ぐ。


 ちら、と避けた人だかりの最前線にいた女子高生らしきグループを覗き見た。


 しっかりと全員と目と目が合う。するとその女子高生達は、たちまち、「わー!こっち向いたぁ!」「やっぱり可愛い!」「もっとこっち向いてぇ!」と飛んではしゃぎ出した。


 女子はマナーいうのを分かってないな!と心の中で毒づきながらも、こんな群衆の前では怒鳴ることも出来ず、ただひたすらに小さくなるだけだった。


 すると突然、パシャパシャ、と音が聞こえると同時に、思わず目を閉じてしまうようなフラッシュが辺りに閃いた。


 嫌な予感がして、勢いよくその方向を見る。

 大勢の人間が、俺の方にスマホのケースを向け、一点から光を発している。写真を撮っているようだ。


 俺は生来目立ちたがりで、目立つのは好きだから、人だかりが出来たことで、小さくなりながらも、悪い気はしてなかった。


 けれど、無断で写真を撮られると、ムッとしてしまう。気取っていると思われるかもしれないが、そういうことなのだ。


 キッと威嚇するが、「あぁ!こっち向いた!可愛いぃ!」と、どうやらご褒美になってしまうようだ。


 さっき鏡を見たときもとろけるような優しい顔をしていたから、どれだけ睨んでも、不機嫌そうにしか見えない。

 つまり、全く怖く無いのだ。


 なんだかアイドルになったような気分である。

 だけど、この目立ち方は俺の望んだものではない。

 これが悪目立ちというのか…………


 自転車乗ってる時は、速かったからなのかあんまり気づかれなかったし、電車に乗っている時は、ずっと壁際によっていたから、あまり目立つことはなかった。

 何せ、俺が乗ってくる地下鉄は、開くドアは一方だけなのだ。それが役に立った。


 けれど、駅から出たら、そこはもう視線の世界。新しく生まれ変わった弱々しい俺の女の子の体は、視線に飲み込まれるしかないのだ。


 俺は、視線を一身に浴びながら、出来るだけ大股で、それでもゆっくりと歩くしか無かった。

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