IF39〜もしもギャルと登校したら〜
梨花さんと電車に乗って、俺の電車の最寄駅にまでようやくたどり着いた。
乗車しながら会話するわけでもなく、実は工事現場と同じくらいの騒音らしい電車の音をただひたすら聴き続けるという気まずい時間が流れのだった。
そんなこんなでやっと着いたと思ったら、今度は梨花さんは先にエスカレーターに乗ってしまっていた。
「あ、ちょ、ちょっと!」
慌てて俺も追いかける。
なんて自由奔放なんだ……!これが、女………!圧倒的自由………!女の子とのコミュニケーションなんて、男子校では必要ないからな。
そんなこと考えてる間にも、ずんずん梨花さんは先へ行ってしまっていて、俺は置いていかれるばかりである。
なんで?なんでそんな速く行くの?自分から一緒に行こうって誘っといてやっぱ嫌になったとか?
………もしそうなら俺が悪いわけじゃないのに悪いことした気分になっちゃうじゃん。
「ちょっと、梨花さん!」
あまりにも速く行くから、やっぱり俺は走って追いかけて、とうとう手首を掴んだ。
そして梨花さんはぴたっと止まって、「あ、忘れてた」みたいな顔をした。
「…………歩くの速かった?」
「…………ええ。とっても」
じとぉっと睨む。湿度で表すなら95%。
すると、いけねっ!みたいに拳で頭をこっつんこした。
「ごめぇん?」
「なんで疑問形?」
謝る気ないのかなこの人…………
まあいーけど。
「それで?なんで急いでるんですか?」
「別に急いで無いよ?」
な、この人、急いで無いのにあんなに早かったのか?
すると、止まってから振り向いて、こんなことを言った。
「女なんて、そんなもんでしょ」
「そー……なんですかね」
「女なのに、わかんないの?」
「え!?あ、あーいや!な、なんといいますか………」
やべぇ!うっかりしてた!そーいや今俺は女なんだ!
………って、何回目だよこれ。
もうそろそろ学ばなきゃ………なんて思案しながら顔を上げると、何故だか目の前に、梨花さんの顔。
その顔が、へにゃっと笑った。
「なんて冗談!なんか意地悪な言い方しちゃったね。ごめん!」
これからはゆっくり歩くからねー、なんて付け足して、彼女は僕の横へと並んできた。
そうやって隣同士で歩き出してからは、会話に困る事はなかった。むしろ、いつもより楽しく会話できた気がする。
いつも男と喋っているから、違った楽しさがあるのかもしれない。
そんなこんなで。
「やっと着いたぁ!」
と、両腕を天に掲げてどこぞの海賊の様に喜ぶ梨花さんの目的地はというとーーーー
「あれ?うちの学校………?」
見間違うことのない、三吉原中だった。
これだけ大声を出しても、幸いと言うべきか、朝礼の時間を過ぎていたため、正門前は静まりかえっていた。
でも、なんでこの人が俺の通う学校に?
何か用事があったとしても、タイミングが良すぎないか?
偶然で済ますには、あまりにも恣意的すぎる。
「………一体、なんでこんな所に?しかもここは、男子校ですよね?梨花さんには、無縁だと思うんですが……?」
「ん?まぁー、そうだね。アタシみたいなギャルは無縁な私立中学校だもんね」
「いや、そういう意味で言ったんじゃ………」
急に卑屈になった!
でも、まぁそんな意味も実は含んだ様な言葉ではあった。
「まぁ、いいじゃん!とりあえず、お別れって事でさ!」
「え?いや、急すぎ……」
「校長には痴漢で遅刻したっていっといてあげるから!」
叫びながら、校舎の中へ走っていく。
いや、俺も目的地一緒なんすけど。
…………てか、校長と会うんだ。
色々な疑問を残して、梨花さんは校舎の中へ姿を消した。
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ガラガラ。
そう音を立てて、木製のドアを開ける。
すると、絶賛朝礼の最中だった。
時計を見ると、8時35分。
朝礼のスタートが8時20分だから、だいぶ長い朝礼だ。
何か長い話があったのだろうか?
「ちょうどいい所に。日比野さん、席に座って下さい」
「………?はい………」
なにやら、不穏な感じだ。
しかも、俺に関係のある話だからーーーーーー
まさか、昨日のこと?
「本当にこの中に、貼り紙を貼った人はいないんですね?」
ビンゴ。まさにその話だった。
「日比野さん。あのような貼り紙をされることに、心当たりなどはあるのでしょうか?」
「………えっ?」
唐突に声をかけられて、ビクッとなった。
心当たり?そんなもん、あるわけない。
なのに、どうしてかまともな声が出なかった。
「心当たりは、ないんですね?」
「…………はい」
仕方なく、俺はそれだけ答えて席に座った。
話すことはもうないという合図だ。
第一、本当に話すことはもうないんだ。
「では、とりあえず朝礼は終わりにします。号令」
きりーつ、れい。
プログラム化された動きを僕は行って、とりあえず座った。
やはり、あの貼り紙は、学校で問題になっている様だ。
まぁ、あんな貼り紙する様な奴は、こんな頭のいい学校では中々いないのだろう。
担任が教室を出て行く。
すると、緊張の糸が解けた様にざわめきが広がった。
そしてその中で、俺だけが孤立している。
俺の周り1席分だけ、故意に空けられているようだった。
だから何かしようにもやる気が起きなくて、周りの人の会話に耳を傾ける事にした。
「まさか今日もとはね」「同じ貼り紙なんてねー」「何かしたんかな日比野さん」「別に幻滅とかじゃないけど、面倒事には関わりたくないよね」
…………まさか、今日も同じ貼り紙が貼られていたのだろうか?だとしたら、懲りない奴である。
一体、何が目的なんだろうか?
っていうのが分かったら、犯人も特定できたりするのかな。
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そこから時間は経って、下校時間になった。
終礼が一瞬で終わって、皆んなだらだらと帰りの支度を済ませながら、下校へと向かっている。
俺も下校するかな…………
そんな事を思いつつ、リュックを背負って教室を出て、下駄箱で靴を履き替えた。
と、そんなところに。
「あ、いたぁ!咲ちゃーん!」
大声で突進してくる人が1人。しかもそれは、女の人。
「っ!?梨花さん!?」
「やっほー、朝振りだね」
「な、なんでここに?」
「ん?まーそれはー………明日わかるから置いといて、取り敢えず、一緒に帰ろー!」
「いや、他校の生徒が入ってきたら不味いですって!」
「あー、それは多分大丈夫だから。早く!」
「え!?いや、なんでそんな強引なんですか!」
そんなふうに、梨花さんにぐいぐい腕を引っ張られながら、学校を出る事になった。




