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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
2章:〜もしも女の子に弄ばれたら〜
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IF29.〜もしも考えなしに行動したら〜

 き、来ちゃったよ。とうとう来ちゃったよ………


「ここに、正樹くんがいるんですね?」

「お、おう!そのはずだぜ………」


 来ちゃった…………と心の中でうなだれ続けているわけというのは、『日比野正樹』がいるという待ち合わせ場所に来てしまったことである。


 本当に来ちゃったよ…………と見上げるそこには、平和を司る天秤を持った女神の像があった。

 ここは俺たちの市民の中では定番の待ち合わせ場所で、どこで待ち合わせればいいか分からなかったからとりあえずここに来たのである。


 つまり、ここからはノープランというわけだ。


「えぇっと、まだいないみたいですね?」

「お、おう!そうだなぁ!」


 いや目の前にいるんだけどね!

 とは言えるはずもなく。


「じゃあここで待ってましょう!」

「あ、おお、おう!そ、そうするかぁ………?」

「?どうしたんですか?」

「あ、あぁ!なんでもないよ?大丈夫大丈夫!」


 いや大丈夫には見えないだろうと思われただろうが、これも仕方がないことなのだ。

 この状況で慌てない奴がいるなら会ってぶん殴りたい。


 でもだからといってここで待つ以外の選択肢が思いつかないのも事実。慌てていたところで意味はないのだ。


 何かを実行しなくてはならない。けれど何をすればいいのかは全く分からない。


 こんな状況で何をしろというのか。


「それにしても、全然来ないですねぇ」

「お、おぉ、た、たしかにそうだなぁ」


 そりゃそうだ俺ここにいるもん!

 とは言えず。


「もしかしたらドタキャンとかいうことも…………」

「正樹くんはそんなことしません!」


 とんでもなく食い気味で、それも胸ぐらを掴みそうな勢いで凄んでくる。


 そんな彼女を見て俺はーーーーーーー俺は彼女を可愛いと思ってしまった。


 うん、緊張感が足りなくてごめんなさい。

 でも本当に可愛いんだもん!


 俺の擁護を全力でしてくれるとか、可愛すぎだろ………!

 俺を萌え殺す気か!?死因が萌えとか恥ずかしすぎるよ!


「ご、ごめん。そうだな、信じてあげないと………」

 自分が自分を信じてあげるというのは 変な話であるが、しかし。これから講じるべき策を全く考えていないのも事実であり、手詰まりであった。


 何を言っても俺の悪いことは全て却下していくし、よもすれば嫌われてしまうかもしれない。

 そんな状況で何ができるというのだろうか。


「…………でも本当に来ないですね…………」

「っと、あーあー!大丈夫、大丈夫だから!だからそんな顔しないで!!」

「…………っ、優しいんですね!」


 ズキュゥゥゥン!←胸を撃ち抜かれた音


 そ、その笑顔は、反則だろう………!

 俺だっていつも分かっていながら上目遣いとかするけど、やっぱり天然の女の子には勝てないんだ……!


 …………ちょっと自信無くしたりして。


 …………っていうのは冗談だ!あ、アハハ…………


 …………俺は誰に言い訳してるんだろう?


「や、優しい、だなんて、そんなそんな、アハハ」

「うふふ、照れちゃって。可愛いんですね」


 ズキュゥゥゥン←胸を撃ち抜かれた音


 でも「可愛い」と彼女に言われるのは彼氏としてちょっとくるものがある。


 くっ、だがこの顔は反則だ!危ない、この顔を誰か知り合いに見られてたら俺の人生は…………


 なんて考えていると、不意にポケットの中のスマホが震えた。少し驚いたものの、マナーモードにしていたことを思い出してスマホを開く。


 そしてメールのアプリを開いて、メッセージを見る。

 そこに書いてあったのは、たった1文。




 件名:To.日比野正樹


 顔やばいぞ。




「っ!!!????」

「ど、どうしました!?」


 ど、どこだ!どこにいる!?どこで見てんだ!?

 焦りとともに、首がねじ切れそうなくらい辺りを見回す。


 目的の人物はただ1人――――――坂本である。


「どこいんだよ…………!!」

 焦りと怒りと羞恥に染まった真っ赤な顔で、鬼の形相(笑)をする。


 と、横から少しひんやりとしたものが当てられる。


「お、落ち着いてください。どうかしたんですか?…………はっ、まさか正樹くんですか!?連絡が来たんですか!?

「ちょっ、途中からお前が慌ててんじゃん!」


 どうやら少しひんやりとしたものの正体は、彼女の手のひらであった。

 そのせいで、顔の赤みに照れが追加される。


「だ、大丈夫だ。もう大丈夫。だから詩音しおんも落ち着いて?」

「あ、うん。そうだね。わたしまで慌てちゃった」

 てへ、と舌を出すこの彼女の名前は(大分紹介が遅くなったが)、柊詩音ひいらぎしおんであり、とても可愛い。


 ちなみに彼女のいいところを挙げるなら、仕草が可愛い声が可愛い話し方が可愛い歩き方が可愛いなどなど…………とにかく沢山あるのである。


 …………え?全部可愛いだって?そりゃそうだ。詩音は全てが可愛いんだもん。


「落ち着きました?それで、どうしたんですか?」

「あ、おう。そうだったな。その話だったな」


 慌てふためいていたせいで忘れてた。そういえば坂本からメールが届いてたんだ。


「あーいや、これだけ勿体ぶってあれだけど、こっちの話だったわ。ごめんね?」

「そうだったんですか。それなら仕方ないですね」


 アハハ、と顔をひくつかせながら笑う俺は、そんな会話の最中でさえ周りを挙動不審に見回してしまう。


 どこだ?どこで見てる?どこで俺をストーキングしてるんだ?


 と、それはそれはなかなかの形相で人々を睨みつけていた時。

 ヴヴヴ、ともう一度スマホが震えた。


「今度はなんだ!?」

「ひっ!?」

 あまりの焦りとイラつきに、思わず叫んでしまう。

 それによって、彼女が悲鳴をあげた。


 が、心の中で申し訳ないと叫びながらもスマホを開く。



 件名なし


 近くのコンビニの棚裏だ

 P.S.

 顔がいいだけにその顔怖すぎるぞ




「コンビニだぁ!?」

 そう叫びながら、ぐるん!とすぐ近くのコンビニの方を向く。

 するとあろう事か、サングラスこそかけてないもののマスクをつけて挙動不審にこちらをチラチラ見ている人影が1つあるではないか。


「コンビニが、どうかしたんですか?」

「いいいいや!!!!???なんでもないなんでもないよ!?だから心配しないでね!?」


 うん、我ながら怪しい!とても怪しい。


 もしもあんな怪しい奴を見かけてしまったらこの繊細な詩音が怯えて傷ついてしまうに違いない。

 しかもあんな奴が俺の知り合いなんて知られたら絶対嫌われてしまう!


 そう思うと、詩音には話せなかった。

 だってそうだろ?たとえこの姿でも彼女に嫌われるのは嫌なんだよ。だって、彼氏ってそういうものだから、多分。


 キッ、と坂本を睨みながら、メールに『お前後で絶対で痛い目に合わせる』と返事をした。


 苛立ちを隠せない顔つきで待ってると、すぐに返事が来た。



 件名なし


 ごめんごめん

 俺だって日比野をからかいに来たわけじゃないから安心してよ。俺は日比野を助けに来たんだ


 どうせお前は考えなしに彼女と来たんでしょ?



 …………なんだよ。

 なんでお前にそんなこと分かるんだよ。なんで俺の行動があいつなんかにバレてるんだよ。


「くそ、なんかムカつく」

 思わず口に出してしまって、慌てて詩音の方を見るが、詩音は聞いていないようであって安心する。


 そして、もう一度メールを見て思う。


 …………確かにこのままじゃ状況は好転しないな。坂本に助けを求めるのもいいかもしれない。



 くっ、坂本に助けを求めるのか。なんだか俺のプライド的に気が乗らないのだが……………


 ちらり、と横で周囲を見回す詩音を見やる。

 どうやら彼女は、未だに俺のことを探しているようだ。

 詩音の目は、期待に満ちていて、未だに俺のことを信用しているのがひしひしと伝わってくる。


 しかし俺は横にいる。『男の俺』は、彼女の元には絶対現れないことが俺には分かっている。


 そう思うと、彼女を『女の俺』なんかが縛り付けるのが申し訳なく思って来る。

 詩音が好きになったのは『男の俺』であって今の『女の俺』ではない。そんな人間が、彼氏面してていいのだろうか。



 さっきまで可愛さに興奮していた彼女のお洒落な格好も、今ではなんだか寂しそうに思える。


 そんな彼女のことを見てしまうと、俺のプライドなんてどうでもよくなって来ていた。



 気がつくと俺は、坂本に『どうにかしてくれ』というだけのメールを送っていた。

『男の俺』なら絶対に送らない、弱気なメール。


 そしてすぐ返事が返って来る。



 件名なし


 待ってろ



「あ、あれぇ?日比野さんじゃん!」

 スマホ画面を見ていた俺の頭上から聞き覚えのある声がかかる。


 顔を上げると、そこには坂本が立っていた。

 坂本は、マスクを外していた。


「どうして日比野さんは日比野の彼女さんと一緒にいるの?」

「え?あ、いや、どうして……….って」

「あ、そうかぁ!日比野の代わりに遊んでるのか!日比野今日熱が出たって俺には連絡して来てたもんなぁ!」

「えぇ!?正樹君病気だったんですか!?」


 横からガバッと詩音が入ってくる。


「あ、うう、うん!そ、そそそ、そうだよ?」

 顔を晒して顔を真っ赤にしている。


 いや何をそんなにテンパってるんだ!ここで男子校の悪い癖が出て来てしまった!坂本は女の子とまともに話すことが出来ないのだ!


 あまりの挙動不審さに、嘘ついてる感が否めないが果たして、こんなんで信用してもらえるのか?


「そっかぁ、病気かあ………なら仕方ないですね」

 ――――――しかし鈍感だ!


 あまりにも詩音は疑うことを知らなすぎる。嬉しいような、恐ろしいような複雑な気持ちになった。


 だがありがとう坂本!お前のおかげで彼女は騙されたよ!詩音を騙したことは後でボコボコにするけど助かったよ!


 これで詩音も諦めて家に帰―――――――


「じゃあどうせここまで来たなら、この3人で遊びに行きましょう!」


「「へ?」」


 …………この時の坂本と俺は、あまりにも一緒の顔をしていて、双子のようになっていたという。

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