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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
2章:〜もしも女の子に弄ばれたら〜
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IF28〜もしも彼女と会ったら〜

「やっぱまだ付き合ってたんだ…………」

「なんだよ羨ましいのか」

「………まぁ、うん」


 彼女、と聞いた坂本は、結構驚いてた。

 というか、結構戸惑ってた。


 まあ、その気持ちもわからんでもない。

 だって、女の子同士で付き合うのは稀だし、それを告白された時にどんな反応をすれば良いのか困るのは仕方がないと思う。


 俺の場合、この告白が『彼女にまだ事情を説明していないこと』を意味しているから、まぁ驚くのも無理はないって話。


 …………俺としてはちゃんと男女の関係として付き合っているつもりなのだが。


「で、だ。どうすればいいと思う?」

「いやそういうのは日比野自身で決めることなんじゃないの?俺じゃ到底責任は取れないよ?」

「そういうことじゃなくってなぁ………」


 ったく、そんなことは分かってるっての。そんなこと承知の上でこの話をしていることを理解してくれないかなぁ。


「俺じゃ決め切れねぇんだ。だからお前に頼んだんだろ?」

「いやぁ、でもパッと決断していいような軽い質問でもないでしょ?」

「いや、それくらい軽く考えてもらっていいぞ?」

「えぇぇ…………」


 うわっ!あからさまに面倒な顔した!

 ひっでぇ!俺は真剣に話をしてるってのに!


「おいおい、俺は真剣なんだぞ?」

 ほっぺたを膨らまして「ぷんぷん!」と怒ってみせる。

 …………まぁこれはあざとさ全開の行為だったのだが、しかし、坂本には効果は絶大のようだ。


「っ、その顔をやめてよ。本当に元男?日比野がそんなことするようには見え…………るか」


 ちなみに俺はこの顔を男の時からやっている。

 あ、違うぞ?あざとさからやったわけじゃないからな?ふざけてやってたんだよマジで。


 俺はそういうことを真剣にやってしまうような奴だったのだ。今更ながら、少し引く。


 そういう記憶があったからこそ、坂本は強引に納得してしまったのだろう。


「まぁいいや。じゃあ質問を変える。俺は彼女と会った方がいいかな?」

「そ、それは…………」


 今度は大分答えやすい質問のはずだ。

『彼女とどうしたらいい?』なんて聞いても答えが出ないことは大方予測していたことだから。


「ど、どうだろうなぁ………?」


 どうやら坂本はいつになく真剣に考えてくれているようだった。現に、坂本は真剣な顔つきで唸っている。


 …………俺はその様子を見て、なんだか心が少しだけ軽くなった気がした。


 だって、こんなどうでもいい事を真剣に考えてくれているんだよ?

 俺の胸の中では、こそばゆいようなくすぐったいような嬉しいような気持ちがふんわりと湧いてきていた。


「事情を話さないにしたって、やっぱりなんか彼女と連絡を取り合った方がいいんじゃない?だから、とりあえずメールに返信したら?」

「…………やっぱりねぇ」


 …………まあそうだよな。そうなるよな。


 大体分かってた。俺だって心の底ではそう思っていたのだ。結局、俺は誰かのゴーサインが欲しかっただけなのだと思う。


「うん。分かった、返事するよ。それで、ちゃんと俺が彼女のとこに迎えに行くよ」


 ちなみに迎えに行くというのは、もちろん彼女のことで、俺の彼女は小学校の頃の同級生だから当然家も近く、彼女の家まで迎えに行くというわけである。


 …………てか、家が近いどころか、同じ登校班だったくらいなので、ほぼ隣みたいなもんである。


「うん……………でも、俺なんかの言葉で決めちゃっていいの?」

「ふふ、いいんだよ。俺なんか、なんて言うな。お前を頼ってるんだ俺は。じゃなきゃ、わざわざお前を休日にファミレスなんかに誘ったりしないよ」

「…………そうだね、ありがとう!」

 坂本は満面の笑みで返してきた。



 ーーーー坂本はそこまでカッコよくない。けれどその笑顔は、席が窓際だからかとても眩しく見えた。


 少なくとも俺が今まで見てきた中では1番いい顔をしている。


 気がついた時にはもう、俺も笑顔になっていた。



 そして、久しぶりの男同士の時間を全身で味わおうとした俺は、その後も坂本とたわいもない会話をして時間を過ごした。


 ひさひざな気を抜ける会話は思いの外盛り上がり、結局坂本は部活に遅刻するのだった。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++



「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」

 俺は人の家の前で大きな深呼吸をする。


 あ、違いますよ?先に言っときますけど、不審者じゃないですよ?だから通報しないでください。

 え?泥棒みたい?………ハハハ何をおっしゃってるのか……………


「………よし」

 意を決して、『インターホン』を押す。


「……………………」

 ………………。


 …………ハッ!いかんいかん、何も起こらないと思ったら空ぶってた!


 このぉ、いけない右手だ!めっ!もう、次はちゃんと押すんだぞ?分かったか右手!?


「おらぁ!」

 指銃!とでも叫びそうな勢いで『インターホン』を押す。


「…………………」

 ……………………。


 ………………ハッ!また空ぶってた!


 って、俺はいつまでやってんだ!俺すらもう飽きたよそのネタには!


 ちゃんと押そう、ちゃんと…………

 次こそは…………!


 と意気込んで指を『インターホン』に近づけていった時であった。


 ガチャ。

 ということが前から聞こえてきたので咄嗟に振り向くと、恐る恐るドアを開けて隙間から覗く人影が1つ。


「な、何かうちにご用ですか?」


 …………大変戸惑っているようです。

 うう、そこまで警戒されると、彼氏としてはとても悲しいよ。俺が嫌われたみたいで嫌だ…………


 …………本当に嫌われてないよね?


「えーっと、あのね?」


 説明しようと試みるも、上手い言葉が見つからず、言い淀んでしまう。


 なんと言えばいいのだろう?『俺は君の彼氏で急に女の子になっちゃった!』とか言えばいいのか?それとも『一緒に遊ぼ!』とか言えばいいのか?


 ………….どっちにしろ不審者と思われるよな。


「あ、あの、どちら様ですか?」

 俺の彼女は、勇気を振り絞ってか細い声で話しかけてくる。


 よく勇気を振り絞った!頑張った、うん、頑張ったぞ!今すぐ駆け寄って抱きしめたい!


 ………….まぁそんな事をしたら俺の彼女はどうすればいいのか分からなくなって固まってしまうだろう。


 そういうところが可愛いんだけどね!(ただの惚気)


「あ、あのぉ、きいてますか………?」

「っ、可愛いなぁもお!」

 ハッとなって口を塞ぐ。あまりの可愛さに思わず叫んでしまったぜ(ただの惚気)


 ほらぁ!突然叫ぶから怖がってるじゃん!泣きそうな顔でこっち見てるじゃん!


「ごめんごめん。あのね?日比野正樹、ここから予定だったでしょ?」

「っ、はい!なんで知ってるんですかぁ?」

 パァーッと顔を輝かせる彼女。


 俺の話になった途端顔を輝かせるなんて、なんて可愛いやつなんだ!?くっ、俺を殺す気か…………?でもこんな死に方も、良きかな………


 ハッ!いかんいかん!このままフェードアウトしていくところだった!危ねぇ、こいつぁ危険だぜ………!(彼女の可愛さでテンションがおかしくなっている)


「あ、あのね?俺…………私はあいつの使いで君を迎えに来たんだよ」

 我ながらむちゃくちゃな言い訳になっている気がしたのだが、しかし咄嗟に思いついたもんだから仕方がないと目を瞑ってほしい。


 ………てか、この言い訳の中の俺って、クズ野郎じゃね?これ嫌われるくね?


 や、やっちまったぁっ!ごめん、ごめんなさい!嫌わないでください!


 全身の温度が霧散していくような感覚に襲われる。まるで大気に体温が吸い込まれていくようだった。


 寒くて仕方がない。冬だからとかじゃなくて、体の芯から凍えるような、そんな寒さが全身を襲う。


 だ、大丈夫か………?と恐る恐る彼女を覗き見る。


 覗き見た彼女の顔はーーーーーーー輝きを増していた。


 ………………え?どういう事?


「わぁ!じゃあ今すぐ用意しますね!」

「あ、うん………?」

 んーっと、これは俺がクズということに気がついていないのか…………?


 か、感動!!俺、感動したよ!!まさかこんなにも俺の彼女が抜けたいるとは……………!


 彼女万歳!鈍感万歳!


 と、当選した政治家のように心の中で万歳していると、家に入っていった彼女が今度は家から出てきた。


「では行きましょう」

「………おう!」


 適当に作った言い訳を、これからどうやって誤魔化せばいいのかわからない。

 俺の彼女とこれから何を話せばいいかわからない。

 俺の彼女とどうやって接せればいいのかわからない。


 けれど、今だけは。今だけは思考を止めさせてほしい。


 彼女、めっちゃ可愛い(ただの惚気)。

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