IF.幕間
度々の謝罪、申し訳ないのですが、4、5話を予定していた幕間なんですが、2話目があまりにも長すぎて、全2話となってしまいました。
申し訳ありません。
〜もしも着替え場所で迷ったら〜
ーーーーとある日。俺は前の授業が終わり、次の授業は何かなと確認しているところだった。
「おお、体育じゃねぇか」
誰にも聞こえないようなひとりごとを呟く。
教室を見渡すと、ちらほらと用意をしている奴らがいる。
今日は女の子になって初めての体育だ。
俺は運動は得意ではなかったが、運動するのは好きなので、体育は特に楽しみなのである。
「うーっし、着替えるか」
ちょっとテンション上がり気味で、ロッカーの中に入っている体操服を取りに行く。
そして体操服片手にルンルン気分で教室に戻ると、なぜか視線が俺に集中しているのである。
「な、何…………ですか?」
いや、視線が集中するのはいつものことなんだけど、なんだか今日は違う気がする。
好奇の視線というか、期待の目線というか、とにかくいつもより気持ち悪いのである。
しかも、俺の何ですかという問いかけには全く誰からも返答がないのである。
……………ちょっと傷つく。
まあいいか、とばかりに自分の席に着いて、巾着袋を開いて中から体操服を取り出す。
ゴクリ、誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。
………本当になんなんだ?と訝りながらも体操服をーーーーーー『ズボンだけ』を取り出す。
「へ?どういうこと?」
間抜けな誰かの腑抜けた声が聞こえる。
それが聞こえながらも無視して、取り出した半ズボンを履く。
ちなみにこの体操服はわざわざ女子用のものを作る必要がないから、男子の時のものを使っている。
結構ブカブカだけど、まぁ履けないこともない。
そしてスカートの中でズボンを履き、スカートを脱ぐ。
だから露わになったのは、当然パンツーーーーーではなく体操服のズボン。
明らかに視線の温度が下がる。あー、とがっかりした声もそこら中で上がる。
…………隠す気は無いのかコイツらは?
けどまぁいいや、と今度は上のブレザーのボタンに手をかける。
おおっ!っというまたもや隠す気がない声援のような声が上がる。
………本当に何を期待しているんだ?
ボタンを、1つ、1つ、と外していくにつれて、俺の手元に視線が集中する。
本当に集中しているのか、呼吸をする音すら全く聞こえなくて、俺の服が擦れる音だけが教室で響いていた。
そして、ブレザーのボタンを全て外し、脱ぐ。
ゴクリ、とみんなが喉を鳴らす。
静まり返った教室に、パサリ、とブレザーを脱ぐ音が反響し、視線の集中した先にあったのはーーーーー体操服。
「へ?ど、どういう、こと?」「な、何が起きたんだ?」「い、いつ体操服着たんだ?」
いや、驚きすぎだろ。
そんなに俺が家から体操服を着てきたのが珍しかったのだろうか?
いやあのね?今日体育あるの知ってたから、そのまま着てきたんだよ。
第一、男の中で着替える時に、下着なんか晒すわけないだろう?何を期待していたんだか、ホント。
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〜もしも下着選びで悩んだら〜
これは、大宮と遊んだ後の話。
勝手に遊びに行って大量にお金を消費して帰ってきたのをこっ酷く母さんから怒られた後、罰としてとある場所に来ていた。
無駄に明るい照明、無駄に明るい色の売り物、男が入ることを拒絶している空気。
そして恥ずかしげもなく店頭でマネキンに着せている、ブラジャーとパンツ。
ーーーーそう、俺は下着店に来ていた。
しかも、1人で。
うがぁぁ、なんでこんなことになってんだ!男1人で下着売り場とかハード過ぎんだろぉ!
まあ、母さんと2人でも気まずいのは気まずいだけどさぁ…………
でも1人じゃあ入ることすらできねぇよ!!
なにが『じゃ、母さんは自分の服見てくるから貴方は適当に下着でも買っといでー』だよ!?最後まで甲斐甲斐しくお世話してくれよぉ!
と、これだけ脳内で叫んで悶絶したものの、状況は好転することはなく、むしろ下着店の目の前で頭を抱えて悶絶している美少女に、好奇の視線が集まるばかりである。
……….…入ればいいんだろ入ればぁっ!
一歩、確かな一歩を踏み出す。
ほうらみろ、俺は成長したぞ!俺はできる、やればできる子なんだぁ!
…………その割には、手と足が同時に出てる気がするが。
とにかく、俺は成長しているんだ、分かったか!
と、脳内で叫びながら今度こそちゃんと歩いて輝かしい店内に入る。
この店の敷地内に入った瞬間から俺を拒絶しているような空気を感じ取ってしまうが、心の中で「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と謝り続けることにする。
店に入って辺りを見渡すと、数人、女の人が下着を選んでいた。その手に持っているものは、鮮やかな色のものから落ち着いた大人な雰囲気のものまで多種多様であるが、しかし、一体俺はなにを選べばいいのだろうか?
キョロキョロと挙動不審に下着を見比べる。
水色、薄ピンク、ピンク、紫、黒。沢山並んでいて、色以外になにが違うのかさっぱりわからない。
第一、俺に合うサイズのブラジャーとかもよく分かんないし。
そんなことを考えていた時。
よっぽど俺が困っているように見えたのか、それとも単なる仕事のマニュアルなのか、トントン、と後ろから肩を叩かれた。
「お客様、どのようなお下着をお探しでしょうか?」
振り向くと、小綺麗な雰囲気のお姉さんが、とんでもない笑顔を浮かべてそこにいた。
お姉さんが浮かべていたのは、営業スマイルーーーーーではなく、下卑たキモオタのような笑顔。
心なしか、息遣いもすごく荒い。
というか確実に、ハァハァ言ってる。聞こえる。
「あ、いやぁ、ハハハ、何探してるっていうか、自分のサイズがわからなーー「計りましょう!」」
お姉さんは、どこから取り出したのか、メジャーを俺に押しつけるように言う。
あまりの剣幕と、禁断の地に踏み込んだ罪悪感から、気がつくと「はい」と言ってしまっていた。
そして、ふと周りをもう一度見渡すと、そこは小さい個室のようであった。
…………なんか気づいたら密室連れ込まれていたのだけれどー。助けてー。
「ハァハァ………では、ゴクリ。始めます」
いや、俺に隠す気ないんですか?…………なんか同じような状況を体験したことがある気がする。
「ハァハァ、それでは、上を脱いで下さいゴクリ」
「あ………は、はい」
少し引き気味になりながらも返事をして着ているパーカーに手をかける。
………だがそれにしても、こういうサイズを測る時って、服を脱いで測るのか。服の上からじゃダメなのかな?じゃないとなんか、恥ずかしいような…………
て、何を恥ずかしがっているんだ!?べ、別に、男がお姉さんに裸を見せるのなんて普通だろ!?むしろ興奮するだろ!?(テンパりすぎて普通がわからなくなってきている)
俺が服に手をかけて、パーカーを一気に捲り上げる。おおっ、とお姉さんから声が上がるのを必死に無視しながら、中に着ているヒートテックに手をかけた。
…………これを脱いだら、裸。俺は下着なんかつけずにいつもタオルを巻いているし、今日はなんだかそういう気分じゃなかったから今日は巻いてきてないのだ。
ええいままよ!と漫画のような叫びを脳内で上げながら、ヒートテックも一気に捲り上げる。
おおおおっっっ!!!と、外にも聞こえるだろう雄叫びを雄々しく上げるお姉さんを必死に考えないようにする。
知らない人に裸を見せるのなんて初めてだから、食い入るように舐め回すように見てくるお姉さんの視線が、まるで体を駆けずり回る蛇のように思えるほどだった。
「ハァハァハァハァ、ゴクリ……………ふぅ、では、測っていきます」
「は、はい。おね、お願い、します」
しどろもどろに返事をしながらも、必死に目を瞑って現実逃避をする。
この個室の中には、メジャーを伸ばす音と、お姉さんの荒い息遣いだけが響いていた。いつしか俺は、呼吸をすることすら、忘れていた。
そして、目を瞑り暗闇の世界に身を投じている最中。
体の中を、電撃が駆け巡る。
「にゃがっ!!?」
発生源は、胸の先、おそらく乳首。全身を硬直させ、走るように駆け巡るその稲妻は一瞬だったにもかかわらず、甘い余韻だけが体の中に滞留していた。
…………これはまさか。もしやこれがあの言い伝えに聞くーーーーー
『胸で感じる』というやつなのかッ!?
…………だとしたら感じすぎだよ。おかしいでしょ?全身にまだ感覚が残ってるよ。
やっぱり元男だから純女より感じやすい体になってるとかあるのかなぁ?この体、まだ未知な部分が多いし。
やはり事実確認をしようと恐る恐る目を開く。
すると視界に入ってきたのは、俺の恥ずかしいほど慎ましい胸と、そこを食い入るように見ているお姉さん。
「な、ななな、何を、して、るんですか?」
ビリビリと痺れる感覚に悶えながらも、襲われているかもしれないという現実に抗う。
「ハァハァ、いえ、ゴクリ。っ、バストトップを測ってるんです…………ハァハァ」
食い入るように俺の肌を見ているお姉さんの吐息が俺の肌を優しく撫でる。
大切に大切に、それでもってじっくりねっとりと。俺の体の上を蛇が這っているような感覚を覚えた。
「ハァハァ」とお姉さんが荒い息を漏らすたびに、俺の口からは「っ!」「んぁっ」「ふぁっ」みたいな言葉が勝手に出ていっていた。
ーーーーそして、そんな羞恥プレイに励むこと10分。体を測るだけなのにそんなにかかるものなのかと思ってしまったが、しかし。下着については全くの無知なのでこれが正しいと思うことにする。
「こちらが、ゴクリ、似合うと、ハァハァ、思います」
荒い息遣いを荒くしたお姉さんが沢山説明をしていたが、身体的にも精神的にももう疲れていた。
だから、俺はお姉さんの話を全く聞いていなかった。
…………….そのため、勝負下着としか思えないような真っ赤で派手な下着がカゴの中に入っていて、しかも高かったから、お母さんに罰としてそれをブレックスにいる間着けさせられたのは、別の話。




