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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
27/42

IF26〜もしも大宮と対戦したら〜

「………あー、日比野さん、こんにちは」


 大宮は俺を見た後すぐに、あからさまに嫌な顔をする。そしてすぐ、いつもの感じになる。


「大宮!?なんでここに!?」

 休日に親友と会うという思ってもみなかった幸運に胸を踊らせ、テンションを高くした状態で大宮に話しかける。


 だが俺がテンションを出せば出すほど、大宮のテンションは下がっていく一方である。


「なんでって………買い物ですよ?」

 まあそれしかないのはわかっていたのだが、でも、喜びのあまり聞かずにはいられなかったのだ。


「てか、1人で買い物?」

「いや、母親とですけど」

「へえ、お母さんは?」

「今違うところにいます」


 そう会話しながらも、黙々と買い物かごにTシャツやらなんやらを詰め込んでいく。


 そういえば大宮から聞いたことがあったが、こいつの服はほとんどがここで買ったものらしい。俺は中古屋で買ったブランド物だが、こいつはそんなブランド物を遊びに着て来たことなんてなかった。


 なんて懐かしみつつも思い出しながらいると、急に大宮がその場から立ち去ろうとしてしまう。


 咄嗟に俺が大宮の腕を掴むと、大宮は振り解こうとはせずに顔だけこちらに向けた。


「な、どこ行くんだよ?」

「いや、これを会計しに行くだけですが」

「あー、そっか、ごめん」

「いやいいですけど」


 そう言ってすぐ顔を戻して歩き去ってしまう。


 名残惜しい。


 大宮がここからどこかへ行ってしまうのが、まるで俺から離れていってしまうようで寂しくて、切なくて、悲しい。


 大宮と離れなければいけないのだと思うと、途端に胸が苦しくなって、また昨日のことを思い出してしまいそうだった。


 そんなことを思ってしまったがためか、俺は、気がつくと大宮の腕をもう一度握っていた。


「…………なんですか?」

 大宮が、振り向いて気だるそうに言う。


 なんだよお前、俺が男の時はもっと意思がなくてだらしない感じの人間だったのに、今はなんでここまで冷たくできるんだよ。


 着ぐるみの中を見てしまったような残念感と失望を覚える。俺と話していた時の大宮は全て演技だったかのように思えて、昔の大宮との記憶でさえも酷く脆くて曖昧に思えてしまう。


 俺は、本当は大宮と一緒にあそんでいたわけではなかったのかもしれないなんて思うと、また涙が出てきそうだった。


 でも、グッと我慢する。ここは店内だから、こんな所で泣いたら目立ってしまうし(今でも十分目立っているけど)、第一大宮に迷惑をかけてしまう。


 だから俺は、目をつぶって歯を食いしばった。


 …………しかし、誰が見ても何かを我慢しているようにしか見えない俺のこの行動は、想像以上に大宮を心配させていたらしい。


 ここから去ろうとしていた大宮が、何を思ったのか立ち止まって、唐突にこちらに歩いてくる。


「…………お腹でも痛いんですか?」

「え?………痛くないけど?」

 大宮が急に話しかけてきたことに少し戸惑い喜びつつも、平静を装って返事をする。


「じゃあどこか体調を崩してるんですか?」

「いや、いたって健康だけど?」

 大宮と、普通に会話している!!


 喜びのあまり、心の声が外に漏れてしまいそうであったが、しかし、大宮から積極的に話しかけてくれるのなんて何日ぶりだろう?


 たしかに夏休みとかは1ヶ月間遊んでなかったりとかしたけど、それでも拒絶されているのとされていないのでは話が違う。


 さっきとは違う涙が今度は溢れてきそうだった。


「………あのさ、大宮?この後、ヒマ?」

 気がつくと、抑えきれなくなった感情が、自然に口からこぼれ出ていた。


 欲望を抑制する力がどんどん抜けていく。今にも大宮に抱きつこうとするこの体を、理性の力でなんとか抑え込むので精一杯だった。


「…………それが何か?」


 大宮の言葉に棘は依然として残っている。


 冷たく俺をつけ話すような口ぶりは、変わっていない。


 でも、俺のこの後に言うセリフは誰でも予想がついている中、肯定の意を示してくれたのは、大きな大きな一歩だと思う。


 ーーーーーこの後遊ばない?


 そういう暗に示した言葉を肯定してくれたかのような、そんな喜びが心の中を駆けずり回っていた。


「一緒にさ、ブレックス、回らない?」

 このセリフは、なんの気兼ねもなく、ただ単純な言葉として口から紡がれていた。


 まるで、昔からの友達のように。


 まるで、心の通じ合った友達のように。


 さも当然のように友達を遊びに誘う。そんな当然の行動を、俺は気がつくとやっていた。


 大宮は『今の俺』を友達と思っているのかわからない。

 もしかしたら、ただ目立つだけのなんの魅力もない危険因子として心の中で扱っているかもしれない。


 けれど俺は、遊びに誘った今の俺は、少なくとも大宮のことを友達と思っていた。


「……………」

「……………」

 …………………。


 睨み合って見つめあって、しばし。

 お互いの目線を晒すことなく交わらせ続ける。


 そして俺はめげることなく見つめ続けた。


 こんなにじっくり大宮の顔見たことなかったなぁ。こんな顔してたのか。これからはもっと目を見て話そう。あ、でも、目を見て話すと途端に照れくさくなって、話に詰まるんだよなぁ。なんなんだろう?俺が恥ずかしがりすぎなのかなぁ?


 なんてことをじっくり時間を忘れて考えていると、とうとう大宮が折れて、がっかりと肩を落とした。


「はぁ、………もういいですよ。僕だって別に遊ぶのが嫌ってわけじゃないですからね」

「えっ?…………ほんと?」


 俺は、その言葉が信用できなくって大宮の目を覗き込んで聞く。

 さっき目を合わせて話すことを決意したばかりなのだから、ちゃんと目を見て話そう。


 今度こそ約束を破るんじゃねぇぞという気持ちを込めて大宮の瞳を覗き込んでいると、耐えきれなくなったように大宮が目を逸らした。


「と、とにかく!い、行きましょう!どこにいくつもりとか、あるんですか!?」


 大宮はなんだか顔が真っ赤であった。そして、嘘をついているわけじゃないのに目が泳ぎまくっていた。


 ……………そんな照れないでくれよ。なんか俺がまるで可愛い女の子みたいじゃないか。



 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「よぉっし、ゲームするぞぉ!」

「ちょ、そんなに叫ばないでくださいよ!目立っちゃうじゃないですか!」


 大宮が後ろから叫んで訴えてくるが右耳から左耳に受け流し、興奮も冷めやらぬままずんずんと歩いていく。


 あいにく俺は目立つことには慣れてるんでね。今日は俺に合わせてもらうかんな。


「くそぉ、これだから一緒に遊びたくなかったんだよ…………」


 がっかりと肩を落とす大宮を横目に見つつ、俺は目的のものの前まで堂々と歩いて行った。


 そう、目的とは、対戦型格闘ゲーム。とくに流行っているわけではないが、俺の好きなRPGの3D対戦格闘ゲームとあって、ちょくちょくプレイしに来ているものなのだ。



 ーーーーーそう、ここはゲームセンター。ブレックス内で遊び場所に困った俺が選んだのは、無難にこのゲーセンだったのだ。


「あれだッ、大宮!あれやるぞ!」

 俺はその目的の対戦格闘ゲームを指差して言う。


「まぁ、日比野さんが遊びたいものならなんでもいいですよ」

「フッフッフ、ヘッヘッヘ、…………その言葉、後で後悔させてやるからな?」

 なんて負けフラグ的な雑魚キャラセリフを吐きながらも、俺は財布から100円玉を取り出して、筐体に入れる。


 すると、壮大な音楽とともに始まり、フリー対戦モードを選んでキャラ選択画面に移行する。


「日比野さんは、誰が強いとか知ってるんですか?」

「ん?あーそっか大宮は初めてか。だったらその片手剣使いがいいと思うよ。初心者向けだしねぇ」

 そう言うと大宮は頷いて、片手剣を軽々と振り回している好青年を選択する。


「へぇ、日比野さんこれやったことあるんですね。じゃあハンデくださいよ」

「えーっ、そっかぁ、俺上級者だもんなぁ。うんうん。じゃあこの動きの遅いやつ使ってやるよ」

 そう言って大剣使いの鎧巨人を選ぶ。


 自分で言って乗せられるというのはどうも簡単な男だと思ってしまうが、うん、本当のことを言っているのだから仕方がない。


「ようし、ボッコボコにしてやるからな?」


 ビシッと大宮を指さして宣戦布告。準備万端後は開始を待つだけ、そう思って俺は筐体に向かって構える。


 そして、ファイト!という大きな掛け声によって戦いの幕が切って落とされるのだった。




 ーーーーーー5分後。


 K.O!ファイトと叫んだ声と同じ声で叫んだ声と同じ声で戦いに幕が降りる。


 そして大きな画面で倒れていたのはーーーー鎧巨人。


「俺そんなゲーム上手くないの忘れてたぁ………!」

「あ、なんか、申し訳ないっす」


 勝ったはずの大宮が気まずそうにしている。

 ………勝った方がそんなに気まずそうにしてるんじゃ、負けた俺はどうすればいいんだよ。


「くそぉ、お前そんなゲーム上手くないだろぉ」

「………まぁ、ハンデもらいすぎました」

「ちょ、もう一回!もう一回お願い!」

「………仕方ないですねぇ」


 勝って気を良くしたのか、大宮はまんざらでもなさそうだ。………よぉし今度は本気で潰しに行く。



 そうして熱くなった結果、なんだかんだ大宮も楽しくなってきたようで、俺が『もう一回!最後だから!』と言ったのに毎回乗ってきていた。


 …………そのせいで俺も大宮も無駄に2000円も消費したのは、別の話。(中学生の2000円って、結構高いんだからな?)




「いやぁ、楽しかったなぁ!」

「うへぇ………漫画買うお金が…………」

 大宮は、今日はがっくりうなだれてばかりである。まあ、その元凶は俺なのであるが。


「まぁいいじゃん!漫画と俺どっちが大事なんだ?」

「…………その質問、日比野さんが選ばれる自信あるんですか?」

「おう!それ以外ないと思ってるぞ」


 ゲームもして、いつものようにたくさん喋った俺は少し気が強くなっているようで、男の時のように気兼ねなく会話できていた。


 すると、がっくりと肩を落としていた大宮が、呆れたような諦めたような笑みを浮かべ、言う。


「僕の友達と同じこと言うんですね」

 ハハハ、と笑って言う。


 友達。その言葉を聞いて、ハッとなる。


 ーーーーその友達というのは、きっと俺だろう。

『今の俺』じゃなくて、『男の俺』。


 大宮の友達で、学校でもたくさん喋っていた『男の俺』。クラスではそこまで目立つことなく、親友と呼べるのは大宮だけ。そんな男子中学生だ。


 多分それは、大宮も同じ。


 自惚れじゃなくて、親友だったからこそ分かる。


 俺が心の拠り所に、きっとなっていたと思う。


 ーーーーーそんな奴が、急にいなくなったんだ。

 急に何も言わずに転校して、まるでそこには元からいたように『今の俺』がいる。


 きっと、寂しかっただろう。


 俺には大宮がいたけど、大宮には『日比野正樹』がいないのだ。


 心を閉ざすのは、無理はないと思う。


「…………その友達ってのはさ、仲、良かったのか?」

「…………ええ、そりゃあもう」


 少しズルであるが、やはり大宮は俺と仲が良かった。その言葉を聞き出すことが出来た。


 それだけで、俺は満足だ。



 ーーーーーだから、これからは『日比野正樹』の代わりに、心の拠り所になろう。


 友達になって、親友になって、その先も………。


 想像は出来ないが、その先も、あるのだろう。


『日比野正樹』には戻れないから、あいつには出来ないことをやってやろう。


 あいつには出来ない方法で、大宮の心を満たしてやろう。




 俺は、気がついた時にはもう、大宮と仲良くなりたくて仕方がなかったのである。

更新が不定期で申し訳ありません。気まぐれ投稿で本当に申し訳ないと思っている次第です。


でも、これで1章はおしまいです。


2章からは少しだけ大宮はお休みしてもらいます。メインの話は新キャラになる予定ですがどうなるかまだ分かりません。(もしかしたら坂本も………?)


2章に入る前に、1話だけ幕間(書きたいことを1000文字程度で4、5話書きます)を挟もうかと思っておりますのでご了承くださいませ。



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