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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
23/42

IF22〜もしも早退したら〜

 俺は生理が来た後、後処理を先生に任せて、保健室の先生に無理を言って帰らせてもらった。サボりになるかもしれないが、まだ心の整理かついてなかった。


 そして、ほとんど乗客のいない電車に乗り、きゃっきゃと楽しそうな声が聞こえる幼稚園の横を自転車で通り過ぎて、ようやく家にたどり着く。

 いつもより早く帰ったはずなのに、何故かいつもよりもどっと疲れた。


「………ただいまー」

 誰もいない家に向かって言う。こうやってただいまということによって、なんとなく留守番も怖くなくなるのは、俺の生活の知恵である。


 そしてすぐ、ドアを閉めて鍵をかけると、俺は、その場に崩れ落ちるように床にダイブした。


「………もう立ってたくない………」

 この体の敏感な頬に、絨毯の跡がつくとわかっていながらも、それでもなおその場から動けなかった。


 生理のせいで元々身体がだるいのもあったが、とにかく今は、外界とのつながりを絶ってしまいたかった。


「………いや、とりあえず着替えなきゃ………」

 それでもやっぱり自分の体に鞭を打って、なんとか立ち上がる。勢いよく立ち上がると、脳が揺れたのか、少し目眩がし、壁に手をつく。


 今俺は、とてもとても外に出れるような格好ではなかった。まぁ、これで帰ってきたのだが、それは体調の悪さによるものであった。


 上下学校指定のジャージである。学校でもダサいのに、そんなので外に出られるわけがない。と、最近になって思うようになった。


 男の時はそんなこと全く思わなくって、ジャージで帰ることも多々あったというのに…………


 とりあえず、おぼつかない足取りで酔っ払いのように歩き、なんとか階段を上って、服の入っているタンスにたどり着く。


 このタンスの中には、俺の男時代の服がたくさん入っていて、不要になった今でもまだ捨てることの出来ないものたちなのである。


 まだ女の子の服を買っていない今、この服が、今の俺の家での格好なのである。


 とりあえず適当にタンスを開けて、ヒートテックを取り出し、今着ているヒートテックを新しいものに変える。そしてその上にパーカーを着ることによって、普段の俺の完成である。

 ちなみにズボンは、裏起毛の迷彩柄のズボンの色違いの2色を履き回している。


 その格好でリビングまで行くと、そのままソファにダイブした。今度こそちゃんとしたクッションに体が受け止められて、本格的な睡魔が襲ってくる。

 心地の良いまどろみに全てを預け、自分の脳を夢の世界へと没入させていく。


 少しずつ少しずつ、思考が夢に侵食されて、思考の海が、徐々に真っ白な虚無へと包み込まれていく。

 あと少しで眠れる。もうあとは、流れに全身を任せるだけだ。そんな瞬間であった。


 ………………が、しかし。ここで一つ、問題があったのだ。そのせいで、眠る直前まで行くものの、目が覚めて、頭が覚醒してしまうのだ。


 その問題とはズバリ、服の事である。

 パーカーを着たのはいいのだが、ダボダボでユルユルなのだ。だって、身長が20センチくらい縮んだんだもの。


 だから、自分の服なのに自分の服で無いような気持ちになってしまうのだ。いわゆる、彼シャツ状態なのだ。ちょっと違うかもしれないが。


 もう一度目をつぶって、一筋だけ見える睡魔の光を掴み、手を離さないように神経をすり減らす。

 が、それも一瞬、一度気になったものを無視できるほど俺は無神経ではなくて、やっぱり目が覚めてしまう。


「………どうしたもんかなぁ………」

 まぶたは重く、体は気だるい。身体中が寝ることを訴えかけてきているというのに、肝心の脳が寝ることを許可してくれない。

 それ以上に大事なことがあるだろ!と、身体中の眠りかけている器官をたたき起こしてくるのだ。


 とんだ迷惑優等生ちゃんである。ったく、俺の体の一部なんだから、ちょっとはサボらせてくれてもいいのに。


 三度目を閉じてみるが、駄目。試みれば試みるほど、目は覚めていって、それとともに眠れないことへのストレスで怒りが蓄積していくばかりである。


 目をつぶってイライラ、もう一度つぶってイライラ。負のスパイラルにはまってしまったのだ俺は。


「ああクソ!!」

 バンッ、とソファを殴る。強く殴ったはずなのに、何故か大きな音がしなかったのにも腹がたつ。


 何故だか無性にイライラするのだ。頭をどこか壁にぶつけてしまいたい衝動に駆られる。


 こんなことでイライラしていても仕方がない。そんなことはわかっているのだが、何故か腹が立って仕方がないのだ。そして髪を掻き毟る。


 今は、「この体を傷つけたくない」とか「この髪を乱したくない」とかを思うよりも先に、何もかもが上手くいかないことへの苛立ちに襲われていた。

 またもや、ソファを殴る。


「………くそぉ…………」

 殴っても意味はない。怒っても意味はない。わかってる、わかってるんだ………。

 なのに何故だ?思春期だからなのかなぁ………。


 深呼吸を大きくする。冷たい空気が流れてきて、熱くなった体が冷やされていくようだった。だけど、このどこへぶつければいいか分からない怒りは、全く収まる気配がなかった。


「……クソ、なんか腹たつなぁ………!」

 ああもう!と俺は勢いよく立ち上がると、そのままの勢いのまま、鞄の中から財布を取り出して、走って階段を降り、サイズの合わなくなったサンダルに足を入れる。


 この時の俺は、怒りに震えるあまり、いつもはしないような思考をしていたのだ。怒りの赴くまま、欲望に身を任せ、八つ当たりをするように行動していた。


 この時俺は、怒りのあまり、『新しい服を買いに行ってやる』という、謎のしてやった感で、なんとか怒りを抑えようとしていたのだ。


 その感情に動かされて、自転車にまたがる。

 そして俺は、いつもの8倍くらいはスピードを出す勢いで、全力でペダルを回した。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「お、俺は何がしたかったんだ………?」

 白い息を吐きながら自転車を漕いで着いた先は、某古本屋であった。そしてその中でも服も売っている『スーパーバザール』と付いている店舗である。

 なんとそんな便利な中古屋が自転車圏内にあるのだ。


 俺はその店に着くと、勢いよく店の中に入った。

 すると店の暖房の効いたぬくぬくとした空気に当てられて、ほんわかしたかと思うと、不意に、少ない人数からの視線に気がついたのである。


 そしてふと、自分がズルをして早退をしていたことを思い出す。ズル休みをしてここに来ているということを思い出してしまったのだ。


 そんなことを思ってしまったが最後、少ない人数とはいえ全員が敵に思えてくる。全員が、こちらを警戒し、隙あらば警察に通報しようとしているように見えるのだ。


 警察に通報するのだけはやめてほしい。どうか、お願いします!と心の中で強く念じながら、店舗の中を歩く。

 やっぱりここまで来たのだから、このまま帰ってしまうのはもったいなくて、帰るに帰れなかったのだ。


 ビクビクしながらも、それでも堂々としているような風を装って歩く。心の中では、周囲への警戒をしまくっているというのに。


 そしてとうとう、服のコーナーにたどり着く。

 あいにく人は少ないようで(平日の昼前なのだから当たり前なのだが)少し安堵する。


 が、そんな安堵はすぐさま新たな恐怖へと変わる。


「……………やっぱレディース?」

 ………女の子になったからには、やはり女物を着なくてはいけないのだろうか?


 い、いやでも!男物でも子供用とかだったら着れるし、黒とかだったら別に女の子も着る時あると思うし………….いや、なんかすいません。


 と、そんなことを考えつつも、何故か足は、全体的に暗い色の男物コーナーに向いていて、落ち着いた雰囲気の中に自分はいた。


 やっぱり女物のコーナーに足は向かない。だが、それも仕方がないだろ?だって、つい先週くらいまでは避けてきたコーナーなんだもの。


 だけど、行くしかない。買うしかない。

 くそ、じゃあもうヤケクソだ!女物を着てやる、着ればいいんだろ!?

 ………でも、何を着るのが普通なんだ?


 やっぱりスカートか?いやでも、いきなり何も知らないスカートを選ぶというのは、なんか、ちょっとハードル高くないか?


 てことは何だろう?ジーンズとか?じゃあズボンはジーンズにして、なら上は?何を着ればいいんだ?


 ああ誰かに聞きたい、聞きたいけれどこの店はそういう店じゃない。聞いたところでロクな答えなんて帰ってこないだろう。


 だから俺の力で、俺の思考量で考えなくてはいけない。俺のこの14年で培ってきた思考力で答えを生み出すんだ。そうすればできるはずなのだ!


 ………と思ったけど、目の前にある古着は、目がチカチカするくらい眩しい蛍光色のパーカーばかり。

 初めての女物が蛍光色のパーカーというのは、少しハードルが高すぎる。俺はまだレベルが足りない。


 結構な広さの中をボーッと歩く。蛍光色、蛍光色、暗めのピンク、蛍光色。どれも色とりどりな蛍光色である。


 なんでこんな………….なんでこんなカラフルなんだよ!『女子初心者用』とかいうコーナーはないのかよ!


 八つ当たりしよう、でもダメだ、けれどむしゃくしゃする!と思って、勢いよく服をかき分ける。

 蛍光色の海をひたすら泳ぐ。泳いで泳いでかき分けて、一つ、なにかを見つける。


 それは海の中にまるで生えるかのように存在する、小さな孤島のように、ただひっそりと誰にも見られることなくそこに存在していた。


 小笠原諸島の無人島一つ一つを誰も覚えようとしないように、無数に存在する無人島の中の一つのように、そこに存在していた。


「………黒い、パーカー………!」

 女物だがパーカー、パーカーだが女物!まるで俺を助けるためだけに、今日のこの運命の出会いを待つかのようにそこにかけてあった。


 俺は、警察に通報される恐怖なんか忘れて、腕に抱えたパーカーとジーパンを、試着する間も無くレジに走って持って行ったのであった。

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