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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF18〜もしもクラスの奴と話したら〜

 5時間目終了のチャイムが鳴ったと思うと、礼が終わるかどうかくらいの速さで自分の席を離れた。


 目的のそいつは、 友達が沢山いる上、落ち着きがないからすぐに席から立ってしまうのだ。

 だが授業直後なら別だ。授業の片付けをしているせいで、少しの間席にいるのである。俺は、そこをつく。


 人を掻き分け、急いで近づいていき、声をかける。


「な、なぁ!あのさ!」

 肩をトントン、と叩いて、先程話しかけてきた奴に今度は俺から話しかける。肩を叩くと同時に、彼は急いで振り向いてきた。


 さっき話しかけてきたやつの名前は、きしじょうという名前である。


 なんと彼は、学年でドベ2の成績を持っている、超絶馬鹿なのである!そしてこいつとは去年から同じクラスであるから、去年からずっとバカにしてきている奴であるのだ。


「あのさ、き、岸、君?」

 ここで俺は、はたと困ってしまう。


 声をかけたは良いものの、何を話そうか考えるのをすっかり忘れていたのである。呼び止めた割に、何も話さないという気まずい沈黙が、俺たち2人の中に漂う。


 そしていつの間にか、またもやクラス全員が、「次は何を話すのか」と期待した目で見てきていた。


 迂闊なことは話せない。もしもここで俺が元男だとバレたら、絶対学校中に広まるに決まっている。そうなったら、俺は何をされるか……………


 だがそう思えばそう思うほど、沼に足がズブズブと沈んでいく。考えれば考えるほど、俺は何も話さなくなっていくのである。


「何?どうしたの?」

 岸は、俺を急かすように言ってくる。しかしどれだけ催促されても、話すことがないのだ。


 だけど、この場面で、この馬鹿な岸という男に、救われてしまうのであった。


「もしかして、さっきおれが話しかけたこと?」

 その言葉は、思ってもみなかった光明であった。地獄に垂らされた一本の糸のように、俺を救ってくれる唯一の命綱。


 そんな命綱に、しがみつかないという考えは、極限状態にあった俺の脳内には、浮かんでこなかった。


「そ、そう!!そうだよ!き、急に話しかけてきて、どうしたの!?」


 この静まり返った場に不相応なくらいなハイテンションで返事を返してしまう。急に大声を出された岸は、少し体をビクつかせていた。


「あー、えっと、学校にもう慣れたか聞きたくってさ。どう?もう慣れた?」

 なんだ、そんなことか、と安心して胸をなでおろす。


「うん、慣れたっていうか、まだここに来て1日目だけど、良い学校だね」


 気づくと、自分でも驚くほど優しい声で返事をしてしまっていた。それが、安心感から出てきた声なのかはわからないが、男の時の俺じゃあ出さなかった声だ。


 特に、岸に対しては、結構冷たい態度でつけ離してたりしたから、なんだか恥ずかしい気持ちになる。

 小さい子を相手にするような、優しく温かい声を、クラスメイトに出してしまったのである。


 ただ、訂正するのもなんだか変であるから、このまま話を続けてしまおう。と、思ったのだが。


「おれはそれだけだよ?」

 と、唐突に話が終わらされてしまった。え?一言二言言葉を交わしだけで会話終了なの?


 なんだ?もっとこう、なんかあるだろう?案内してあげるよ、とか、オススメの場所は、とか、まぁどれも俺からは言えないのだけど?


 で、でも、岸から話しかけてきているのだから(さっきの話だが)、もっと岸から歩み寄ってきてほしい。


 そんな感じの空気を出してアピールするが、頭の悪い岸は、そんなこともつゆ知らずにまたもや教科書を片付け出した。


 俺が岸を呼び止めたせいで、帰るに帰れなくて、どうしようかオタオタしてしまう。でもずっとここにいても変に思われるし、だからといって帰るのもなぁ………


 そんな事を考えていた、その時。


「ぼ、僕!学校案内しますよ!?」

 と、不意に後ろから声がかかる。結構大声に感じたから、遠いところから声をかけてきているのであろう。


 後ろを振り返る。今度は無視しないぞという強い信念を胸に、全力で、誠心誠意振り返る。


 振り返ると、机の上に立って、俺の方へ両手を振っている人間が、1名。おそらくそいつが、俺に声をかけたのであろう。


「ほら、僕の方が一応先輩ですし、ね!?」

 かなり強気な、有無を言わさないくらいの声で俺の方に叫んでくる。あまりにも強気すぎて、少し戸惑ってしまう。


 だが、そんな気持ちも、周りからかけられた大声によって、かき消されてしまうのであった。


「は!?お前だけずるいだろ!?」「おま、抜けがけしようとしてんのか?あ?」「俺も一緒に行きたい!」


 などなど、いろんな怒号が俺に声をかけた彼に向かって飛んでいくのであった。


 最初、バラバラに聞こえていた怒号は、数が多くなるにつれて、どんどん激しさを増していき、ただの喧騒となり、雑音となる。ただただ、うるさいだけであった。


 うるさすぎて、何事だと他のクラスの生徒が来るほどである。くそ、なんで俺こんなに目立ってるんだ?


 だが、ここでこの状況を打破できるのは、俺しかいない。そのためには、少々目立ってしまうのは、無理もない話である。というか、その方法しか思いつかない。


「ーーーっ、うるさぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」

 横にあった机に、全力で拳を叩きつける。机に当たったところから徐々に、ジーンと痛みが伝わってくる。


 周りの人は、俺の声に気がついて、パッと静かになり、俺はと注目する。


「うるさい、うるさいから!わかった、こうしよう!全員で行こう!ここにいる全員で、俺を学校案内してよ!!」


 思わず目を瞑る。こんな事を言って、自意識過剰と思われないだろうか?全員に、「別に学校案内したいわけじゃねーよ」って思われないだろうか?心配になる。


 だが、そんな勝手な予想に反して、なぜか周りから拍手が沸き起こった。


「いいね、それ!」「おお、みんなでうちの学校の隅々まで案内してあげようぜ!!」


 と、今度は俺に対して声がかけられる。そしてまたもや、ざわめきは大きくなっていき、ただの騒音となるのだ。


 だが、それも仕方のない事である。だって、ひとクラス約40人を一気にまとめようとしているのだから。

 なんとなくここで、先生を尊敬してしまう。


「え、えと、やっぱりやめたいなぁ、なんて………」

 と、誰にも聞こえないくらいの小声で訴えるのが、俺は精一杯であった。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++



 学校が無事に終わって、家にもちゃんと帰れて、そして、家の中。俺は全力でソファにダイブする。


「今日は疲れたぁ…………」

 なにせ、さすがの男の時だって、こんなに大勢の人を相手にしたことなんでない。せいぜい、授業の発表の時くらいである。


「なぁに?今日は何したの学校で?」

 と、後ろから母さんがやって来る。「ああ」と返事して、体を起こして、母さんの方へ向き直る。


「なんかね?みんなに学校案内してもらった」

「え?案内してもらう必要あるの?」

 いやまぁそう聞かれればそうかもしれないけれど。だが成り行きというものが…………


 と言おうとしたが、母さんが「どうせ成り行きとかでしょ?」と言って来るので、「そうだよ」と言うしかなくなってしまった。


 と、そんな時、家のドアがガラガラと開く音がした。

 この家に生まれて14年も経つと、ドアの開け方一つとっても、1人1人の違いがわかるというもので、この開け方は1人しかいない。


 大雑把で、それでいて力強く、でも、父さんほど強く開けるわけではないという安心感のある音。

 毎回この音を聞くたびに、やっと帰ってきたのだと毎回ワクワクしていたというものだ。


「ただいまー」


 三年くらい前から、父さんの声と聞き間違える事が大きくなってきた声だ。


「お帰りー兄ちゃん」

 と、母さんが返事をする。そう、この家で唯一、兄ちゃんと呼ばれている、俺のたった1人の兄である。


 よく考えてみると、この姿で兄に会うのは、初めてである。寝るタイミングは俺のが早く、起きるタイミングは俺の方が遅い。


 ちょうど土日は兄が出かけていたから、まだ会ってなかったのである。多分兄の方は、寝ている俺を見たことがあると思うのだが、まだ会話をしたことがない。


「お、おかえり…………すばる

 ちなみに、この家で兄のことを名前で呼ぶのは俺だけである。だから、いつもこの『昴』という名前は、俺の低い声だけで呼ばれるのだが、今回は高い声で呼ばれて、俺の方が違和感を感じてしまう。


 昴は、手洗いうがいを済ませてリビングにやって来たと思うと、俺に何も言わず、スマホを触りだした。


 …………あれ?何か言わないのか?

 先程から緊張しているせいで俺はスマホを触っていないのである。ゲームもしていないのである。


 そんな俺をほっといて、スマホですか!?なんだか肩に力を入れていた俺がみじめに思えて来るじゃないか。


 でもまだ心配なので、一応聞いておく。


「あの、さ?何も変に思わないの?」

「は?何が?」

「いや俺が、その……………女の子に?なったこと」


 なんだか改めて言葉にすると、変な恥ずかしさを感じる。そのせいで、なんだか変な感じになってしまった。


 だが昴は、スマホから顔を離さずに話を続ける。


「あーうん。可愛いんじゃね?」

「うわ、軽っ!」

 口に出して言ってしまうほど軽く返されてしまう。てか、可愛いかどうかを聞いてるんじゃないんだよ。


「てかまじでそこらの女優より可愛いじゃん。よかったわ、可愛い女の子が妹になって」

 だが、軽いどころか、そんなことまで言って来るのである。


 軽い言葉が、今は体に、心に沁みる。全身にできた傷が、癒えていくようであった。


 ……………なんだよ、イケメンかよ。


 兄、ということもあるのか、なぜかいつもより断然カッコよく見えてしまうのであった。

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