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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF16〜もしも2人だけの秘密を知っていたら〜

 朝礼が終わると、勢いよく俺の周りから人がいなくなった。クラスのあちらこちらで数人のグループになって、俺の方を見て何かをヒソヒソ話している。


 しかし、誰も俺に話しかけてくるやつはいなくて、むしろ悲しくすらある。こんな学校に俺は通っていたのか、と自分を惨めに思ってしまう。


 ただ、そんな静寂も束の間、廊下の方から、とてつもない量の足音が聞こえてきた。サバンナなどでの草食動物の集団逃走のようでもあった。


「女の子来たってよ!!」「しかも超美少女らしいぜ!?」「まじかよ楽しみだな!!」


 などなど、廊下の奥の方から言葉が混ざり合った騒音が聞こえてくる。学校が揺れるとはこういうことだろうかと思うほどに、学校が揺らされていた。


「うぉぉぉぉぉ!!!!!ヤッベェ!!!!超かわいいじゃねぇかぁ!!!!!」「まじそこらのアイドルより全然可愛いじゃねぇかぁ!!!!!!」「は?ヤバくね?あんなん男子校に来ていいの?」「おい俺にも見せろって!!!」


 廊下側にある窓には、人が溢れかえり、誰が何を喋っているのかもわからないほどに大勢の男子が窓から身を乗り出している。


 どんどん生徒は追加されていく。上に上にと積み重ねられた生徒群は、下にいる人がどんどん押しつぶされていき、苦悶の表情を浮かべている。

 声を発していないあたり、それすら出来ないほど苦しいのだろう。


 積まれに積まれた生徒達の中には、何人かこちらの教室に入ってきてるやつもいる。入ってきても俺に近づくことはなく、遠巻きに見ているだけである。


 ドアから見てるやつも、決して近寄ってこない。この辺りの行動の頭の良さに、私立の学校らしさを感じる。調子には乗れど、たかが知れているというのが、うちの学校のいいところではある。


 だがそれでも窓から見る奴というのはドンドン増えていく。後ろの方では調子に乗った奴らがぎゅうぎゅうに押しているようで、後ろの方から「押すなよ!」と叫ぶ声が聞こえてくる。


 人数にして、俺が見える範囲で百人は超えている。人4人分くらいの幅しかない廊下はとっくに限界を迎えているようで、東京の満員電車の中のようになっている。


 そして、押されに押された結果なのか、うちの教室の窓は見る見るうちに弓のように沿っていき、破裂。


 耐えきれなくなった窓は、大きな音を立てて破裂した。その音に、辺りが静まり返る。さっきまで騒ぎ立ててた奴も、押してた奴も、全員が静かになる。


 そして、その場から逃げるように、後ろの方からサーッと人が減っていく。砂時計を落ちる砂のように、流れるように消えていく。


 やがて最前列にいた奴らも、逃げ帰っていく。


 騒ぎが静まり返って辺りを見回すと、どうやら怪我をしている奴らが結構いるようであり、窓の真下とその横の列の奴らは、顔や腕など、あちらこちらから血を流していた。


 そして後から、騒ぎを聞きつけた教員達がやって来て、これは何事だと何人かの生徒に事情聴取をしていた。


 だがその教員は、話を聞き終えると、俺の方を鋭い目つきで睨んだと思うと、怪我をした生徒を保健室まで連れて行った。


 …………睨まれた?

 一瞬なぜ睨まれたのか分からなかった。だけど、考えればすぐにわかることだ。俺のせいでこのような面倒なことになったことが、許せなかったのだろう。


 ただ、そんな気持ちよりも、俺のせいで誰かが傷ついたという事実が、俺の頭の中を滞留し続ける。


 教員が去って行った後、担任がやって来て、何事もなかったかのように箒でガラスをはいて、帰って行った。


 なんだかその行動が、マニュアル通りな感じがして、少しイラっとした。もっと何か、声をかけるとかないのだろうか?


 だが松山先生は、何も言うことなく去って行った。怒ったり、何か話を聞いたり、するかと思っていたが、口を開くことはなかった。


 なんだか、違和感があったが、結局そのまま授業開始のチャイムが鳴り、うやむやなまま授業が始まってしまうのだった。



 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 授業の教科の先生は、特に何か俺に言及することなくいつものように授業を進めていった。

 放課中もさっきのような騒ぎはなく、毎放課窓がなくなった廊下側の壁から数人が覗いて来るだけであった。


 そんなこんなで何もなく、昼放課。


 とりあえず俺は母さんに作ってもらった弁当を広げ、俺としてはいつものように弁当を食べ始める。


 だがしかし、朝もそうだったが、クラスの奴らは何かを話すことなく俺の挙動の一つ一つをじっくり見て来るのである。俺は食べるのを見られるのは得意ではない。だからなんだか食べることに集中できない。


 そして何より、ずっと思っていたことがあるのだ。


 ーーーーーーートイレに行きたい。


 朝からずっと行っていなかったのである。なぜなら、トイレをどこですればいいのか分からなかったからである。


 だって、男子トイレに入るべきなのか、女子トイレに入るべきなのか分からないじゃないか。その辺の細かい説明をしてもらってない。我慢するのも当然だ。


 女の子というのはあんまり沢山トイレに行っているイメージはないが、流石に4時間もトイレに行ってなければ行きたくなるというものだ。


 あまり水は飲まないようにして、トイレになるべく行かなくてもいいようにしたが、結構お腹が窮屈になっている気がする。


 それもあってか、いつも残さない弁当を、半分も残してしまった。お腹がいっぱいというわけではないのだが、何故だか弁当をこれ以上食べようという気にならなかった。


 さて、これからどうしようか。弁当を残してしまったせいでまだ五分しか経ってないし、残りは30分くらいあるのだ。


 いつもなら大宮のところに行って軽い話をするというのだが、こんな姿になってしまったせいでそれが出来ない。本でも読もうかと思ったが、こんな教室内で集中して読めるほど能天気ではない。


 何をしようかーーーーーという思考を支配するような焦燥感が、俺の頭の中を漂う。


 意識してしまったせいで、尿意が加速してしまったのだ。しかも慣れないほどの視線に見られているせいで、緊張してしまっているのもあるかもしれない。


 とにかく、トイレに行きたい!


 スカートの上から股を抑えたいけど、なんだかそれも恥ずかしくて出来ない。これだけ見られている状況でそんな恥ずかしい行為は流石に出来ない。


 足が勝手に貧乏ゆすりをしてしまう。はたからみたら、イライラしているように見えるかもしれないほど足を上下に揺らす。だが貧乏ゆすりをしないと、漏れてしまいそうなほど、出口に迫って来ているのだ。


 周りを見回す。見回した時に目が合うと、みんなして目をそらす。まるで見てないフリをしているようであるが、こちらにはバレていることに何故気づかないのだろうか?堂々と見てきた方がまだ潔いのだが………


 だがそこに、一筋の光明が差し込んでくる。問題には必ず解決策がつきものというもので、今回それは、思いもよらない人物がそうなってしまったということだ。


「………っさ、かもと!!!」

 数時間ぶりに声を出したせいで、最初声がかすれてしまったが、本人には聞こえたようで、坂本がこちらを向く。


 そして、俺に向いていた視線が、坂本と呼ばれた人物へと一極集中する。何人かは、睨んでいるような奴らも何人かいた。


 そしてまた、俺の方へと視線が戻ってくる。


「おお、ベストタイミング!よかった、お前がいてくれたか!!」

 教室の視線が、坂本と俺に二分される。


 坂本を向いている奴らは、舌打ちをしたり睨んだりしており、坂本はそんな視線にたじろいでいる。


 俺を向いている奴らは、俺に見とれたり、「ヤベェ声可愛いッ!」「耳が、耳が潤っていく………!」などと静かに騒いでいたりしている。


 だが俺は、そんな視線なんて気にできないほど窮地に達していた。完全にに無視した上で教室を出て、坂本に近づいて行く。


「坂本、ちょっと来い!!!」

 俺の声に注目するためか静まり返ってしまった廊下に、俺の声が響き渡る。坂本の胸ぐらを掴んで、俺の口元に坂本の耳を近づける。


 坂本の顔と、俺の顔がくっつく。あまりにも急いでいたためか勢いよく近づけすぎて、顔がぶつかってしまったのだ。


 それと同時に、各地の教室や廊下から、「なんだアイツ近すぎね?」「それな?アイツマジぶっ飛ばさん?」「いーなそれ!日比野さんを守ろうぜ」などと、公開処刑の段取りがどんどんされていくものの、坂本を心配している余裕はない。


 ……………もし殺されたら、ごめん坂本!


 足を踏み直す。そして、腰を落として全身に力を入れる。はたから見たら正拳突きでも繰り出すかのような構えをして、坂本の耳に囁く。


「トイレに行きたいんだ!!」

 坂本にだけ聞こえるような小さい声で、しかし語気を強めて言う。視界の端に見える坂本は、目を大きく開いたように感じる。


 顔を離してみると、照れたような顔で笑っていた。というか、顔を気持ち悪くニヤつかせて、顔を真っ赤にして顔を背けていた。


 やっぱり坂本からしたら、ただ女の子にトイレに行きたいと告げられただけであるから、照れてしまうのも無理はないだろう。


 ただ俺からしたら、男の俺が友達にトイレに行きたいことを告げただけであるので、また別の意味で照れてしまう。


「ほ、ほら!い、いくぞ!?」


 後ろを振り返り、坂本の胸ぐらを掴んだまま引っ張って、人間の森を駆け抜けていく。


 よくよく考えてみると、この学校の全員が見ているのではないかという廊下のど真ん中でトイレ行きたい宣言したのだ。そう思って、俺の顔は真っ赤であった。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 階段を駆け下り、1階まで下りると、職員トイレの方へと真っ直ぐに向かった。


 いつもならそこは、職員又は、来賓の方々用に使われるトイレであるのだが、俺はここしか近場の女子トイレを知らない。


 ちなみにここは、校長室のすぐ近くにあるから、朝見たこともあり迷うことはなかった。まぁ学校内でもあまり通らないと、迷うことだってたまにあるのだ。


「よ、よし坂本?ここで待っててくれ?」

「わ、わかり…………ました?」


 坂本は、敬語を使うべきなのか考えるような口ぶりで返事をする。その返事を聞いた俺は、「よ、よし」と返事をして、トイレのドアを開ける。

 どうやら人が入ると電気が付くようで、入るとすぐ、ドア側から奥にかけて電気がついた。


 そして、個室のドアを開ける。中には、大便器が一つ、寂しく設置してあった。そこに、スカートを捲し上げ、パンツを下げて座る。


 座るとすぐ、俺の尿は解放された。最初少し漏れ出たかと思うと、徐々にタガが緩んでいき、チョロチョロとそれでもゆっくりと放尿していく。


 やはり溜めすぎてしまったようで、勢いはゆっくりであった。そのせいで、二分間くらいずっと出し続ける羽目になってしまった。その分出し終えた時の解放感はすごかったが。


 まだ慣れない手つきで股を拭き、パンツを上げてスカートを下ろす。トイレを流して、個室を出る。


 そして手を洗い、ドアを出る。


「いやぁ、気持ちよかったぁ」


 今まで我慢していたストレスからの解放からか、思っていることが次々と発せられてしまう。何故だかこの時の俺の脳は、思考が停止していた。


 そのせいで、今俺が女の子になってしまっているということを、完全に脳から消し去ってしまっていたのだ。


「いやぁ、お前とここのトイレに駆け込んだ日が懐かしいよ」


 昔、2人して放課中にトイレに行きたくて色んなトイレを回ったのだが、どこも混んでいて結局、漏らすよりはいいと思って職員女子トイレに入ったという、坂本と俺の2人だけの秘密だ。


 今思えば懐かしい。思えば、もう去年の出来事だ。坂本と同じクラスだった時の思い出が、懐かしい。


 なんとなく、坂本を見る。すると坂本は、怪訝そうな不可解そうな、気味悪がるような怖がるような、驚くようなどよめくような、色んな感情が混ざり合った顔をしていた。


 大きく開いた目で、俺の心臓を逆なでするような目で見られ、ハッとする。


 この出来事は、『2人だけの秘密』なのだ。他に知ってる人はいない。例え親兄弟親族だとしても、決して話す事はないと誓った秘密。


 それを、知っているのだ。それを、懐かしむ口ぶりで、『日比野咲』が話すのだ。


「な、なんでその事知って………んの?」


 坂本は今度も悩んで、敬語を使わなかった。


 こうして俺は、男子校生活5時間目にして、正体がバレてしまうのであった。

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