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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF15.〜もしも教室に入ったら〜

 校長室のドアを出ると、壁を背もたれにしてとある男の人が立っていた。


 そのとある人とは、俺の在籍している2年7組の担任である、松山結城まつやまゆうき先生であった。


「……………あ、どうも先生」

「えっと、日比野君でいいですか?」

「……………はい、多分」

 ちなみに俺は、この先生が嫌いである。というか、中学校教師嫌いランキングで第5位くらいには入り込めるくらいに生徒みんなから嫌われている。


 みんなはどうか知らないが、俺がこいつを知らない理由は、『僕は生徒の事を一番に考えてます』みたいな顔と態度である。それを口にして言うところに、偽善者っぽさを感じてしまう。

 誰かに認めてほしいのか?誰かに褒めてほしいのか?


 でもこの先生は、そんな態度を取っているのに、『このクラスの頂点にいるのは俺だ』とか『暗幕を閉めると根暗になるから閉めるな』とか、絶対元いじめられっ子だったろと思わせるような発言をしてくるのだ。


 あとこいつの細い目も………………………

 え?もういいって?


「こんなんですが、よろしくお願いしゃす」

 と、俺は適当な態度と分かるくらいの態度で頭を下げる。俺は、この程度の反抗とも言えない反抗しかできない。

 結局俺も、心の中で悪口を言うだけで、口にしては言えないのだ。


「ああいや、頭を上げて下さい。貴方の境遇は理解してますから、誰でもいいので不安があったら相談して下さいね?」

「………………あ、はい」

 うわぁこういうのだよ、俺が嫌いなの。別にそんなの言われなくても分かってるよ。


 てか、いつもの俺をちゃんと見てたなら、悩みが出来るほどヤワじゃないこともわかんないかなぁ?


「じゃあ行きましょう」

 そう言って松山先生は、歩き出す。それについて、俺も歩き出す。


 ここから教室まで、そう遠くない。俺の教室は3階にある。だがこの学校はそう広いわけじゃないから、階段もそんなに登らなくていいのだ。


 だから、遠くないと思っていたのだが……………


 ……………今、とても遠く感じている。多分理由というのはとても気まずいからである。気まずいどころか、軽く地獄である。


 何故なら、この世とは思えないほど俺がいるこの場が静かだからだというのは、容易に想像できた。


 今俺がここを歩いている時間帯というのは、朝礼開始の時間から5分が経っている、8時25分であり、多数の教室が静かに朝礼を受けている時間帯だ。

 ところどころ騒がしい教室もあるが、静かな教室の方が多いため、廊下は静寂に包まれていた。


 ……………なんで教師のお前が喋ってくれないんだよ。

 なんだよ。『俺、お前の心のケアもしてやるぜ』みたいな顔してんのに、この地獄から俺を解放してくれないのかよ!?


 まさか、中高一貫の男子校出身のいじめられっ子だから、中身が元生徒でも見た目が女の子なら緊張してしまうというのか…………!?


 くそぉ!キモい、キモいよぉ〜!なんで元男の俺に緊張してんだよぉ〜!生徒だろ?そんなんであと数ヶ月担任出来るのかよ………………まぁ、俺も同じ立場ならそうなると思うけど。


 でも、いくら遠いと思っても結局のところ近いので、なんだかんだで3階に着いた。


 ここを曲がれば、教室。その教室には、知り合いがいっぱい。7組の隣の6組のドアの窓に俺の姿が写ってざわめきが起きるかもしれない。


 そのざわめきが、面倒くさい。多分教室一日中俺の話で盛り上がる事だろう。これは思い違いとかじゃなくて、本当の事だ。だって、男子校に一人女の子が来るんだよ?話が盛り上がらないわけがない。


 けれど、その話の中心人物が俺というのが嫌だ。俺の話で盛り上がっているのを聞くのがとても苦しい。何故だか、自分自身がみんなに取られたみたいで、嫉妬してしまうのだ。自分自身の事なのに、おかしな話だ。


 松山先生が歩き出したのを見て、俺も後ろについて歩き出す。角を曲がって、もう一個曲がって、真っ直ぐな廊下が視界に入ってきた。


 廊下の柱の一つ一つに、札がかけられていて、その札が、ここが教室の前の廊下である事を思い知らされる。


「どうしたんですか?早く行きましょう?」

 そう言われて、俺から少し離れた松山先生を見て、俺がその場に立ち尽くしていた事に気付いた。


 前に進みたいのに、足が動かない。俺の足に力を入れても、ただ筋肉が硬くなるだけで、足が上がらない。

 それどころか、だんだんと俺の頭から歩き方さえも飛んで行ってしまうようであった。


「す、すみません、早く、行きたいんですが………」

 何度も何度も足を殴りながら、詫びる。


 こんな所で立ち止まる意味なんてない事は、分かっている。頭で理解しているし、進もうともしている。

 だけど、そんな頭を無視するかのように、足が鉄のパイプになってしまったかのように重くなって、硬くなって、動こうとしない。


「でも、そんなところにずっといたら、朝礼終わりの人達の邪魔になりますよ?」

 そう言われて、ハッとなった。


 そうだ。朝礼は、早く終わる教室はもうそろそろ終わる時間帯だ。もしかしたら、もう終わっている教室だってあるかもしれない。

 そしたら動く事の出来ない今の俺は見せ物以外の何者でもないじゃないか。


 ……………足よ、聞いてくれ。

 今の俺には、二つの選択肢しかない。前に進むか、見せ物になるか。分かったか?進むしかないんだ。


 だから、動けぇぇぇ!


 タンッ。

 俺の視界が、少し動いた。


 あ、歩けた、歩けたぞぉぉぉぉ!


「さぁ行きましょう!僕、歩けるんで!」

「はぁ………….?」

 なんだか俺のテンションについてけてない松山先生を軽く無視して先生の方に近づく。


「さあ!」

「あ、はい………」

 先生に歩くように催促して、歩き出したのを見計らって付いて歩き出す。


 6組のドアが近づいてくる。

 なんて顔しようか?手を振る?笑いかける?まさかの変顔とかか?もう本当にどうしたらいいんだぁ………


 そんな悶々とした気持ちのまま、その時は訪れる。

 ドアの真ん前を通る。横目に映った6組の教室は、数人こちらを向いているだけであった。

 そして俺は、何もすることが出来ずに通り過ぎてしまう。


 そして、俺がいる7組のドアまでたどり着いてしまった。


「ちょっとここで待っててください」

 そう言われて、先生だけ中へ入っていく。俺は待つ事になったが、見られるのも恥ずかしいから、ドアの窓から見えない所で教室に耳をくっつける。


『きりーつ、きおつけー、れーい』

 やる気のない号令が壁伝いに聞こえてきた。同じ部屋にいると普通に聞こえるのに、客観的に聞くとこんなにも無気力なのかと思い知らされる。


『今日は、みなさんにとても重要なお知らせがあります』

 ああ、俺の事だ…………、俺の事が話されるんだ………


『このクラスに、試験生徒として転入生が転入してきます』

 さ、さあ、みんなどんな反応するんだ?気になる、気になるぞ想像以上に…………


 反応が気になって、壁に耳をすます。直後に、俺はこの行動を後悔する事になる。

 予想よりもすぐに、学校が揺れたかと錯覚させるほどの騒ぎが一つの教室から起きる。


 もう、ここの震度を測っていたら5強はいってたと思うほどに揺れていた。だって、その衝撃に、弾き飛ばされたかのように廊下に座り込んでしまったほどだったのだから。


『はい静かに!!もう一つ重大な事があります』

 これは、まさか………俺が女の子だと言うのか?


『えーそれは、見てからのお楽しみという事で』

 ……………え?まさか、そこを俺に譲るの?男子校に転入してきた生徒が女の子という半ばドッキリのような出来事の生の反応を、全部俺にぶつける気か?


「入ってきてください」

 声が近くなる。てことは多分俺に言ってるんだろう。


 今行けと?場が完全に温まったこの教室に、俺を投入でございますか!?ガソリンを撒いた場所に放火をするのような行為だぞ!?


 だけど行かないわけにもいかないから、仕方なく俺はドアを開ける。この7組に入るだけで、ここの空気が温まってきているのが体感できる。


 一歩、一歩と俺が教卓の真ん中に近づくにつれて、ざわめきじわじわと大きくなっていく。


 ………あれ?思ったよりも声小さいなぁ?


「えっと、自己紹介して下さい」

 …………あ、俺に言ってる?てか、俺しかいないか?


「…………あ、え、えと、日比野、咲、です?」

 何故か疑問形になってしまったが、これでいいのだろうか?てか咲のところもごもごし過ぎてもしかしたら正樹に聞こえたかもしれないなぁ…………


 誰か、発言してくれませんか?あの、誤解を解きたいんですけど?質問したりしないの?『日比野正樹君とどんな関係なんですか?』とかないの?俺はみんなにとってその程度の存在だったのー?


 だがしかし、自己紹介が終わっても一向にうるさくならない。いつも茶化すような奴も、借りてきた猫のように静かだ。それどころか、声を出す人もいない。まるで誰が最初に喋るかを押し付けあっているかのようだった。

 俺は、この光景を見て、デジャヴゥゥと思った。


 うん、これは、あれだ。大宮と坂本の、あれだ。

 なんだ?この中学には女の子の前では発言の押し付け合いをするのが校則があるのか?

 …………いやよく考えたら俺もこの中学の生徒だった。


「じゃあ日比野さん、ここの5番目座って下さいね?」


 先生が指差したのは廊下から3列目、前から5番目の席。元、俺の席。そして今は、机の上に椅子が逆さに置かれている。

 なんだか持ち主がいなくて寂しそうであった。


 椅子を下ろして、下ろした席に座る。ちゃんと母さんから言われたように、尻にスカートを引いて座った。

 その所作の一つ一つを、全員が舐め回すように見てきていた。


 ………もうその反応は飽きたよ…………

 そのまま朝礼が終わるまでこいつらはチラチラ見るだけで何も言ってこないのであった。

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