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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF13.〜もしも登校したら〜

「はぁ、てことは、貴方は正樹で、急に女の子になったって事ですか?」

「まぁ、大まかには。てか敬語ってまだ信用してないだろさては」

「そりゃそうでしょ……………」

 奏太は面倒くさそうに頭を大雑把にかく。


 俺は、奏太を駅の改札の前で引き止めて、事情を説明することとした。奏太は予想通り事情を全部聞いてくれたが、俺のことはまだ信用していないようであった。


「じゃあ信用させるために小学校時代の頃のお前についてなにか話そうか?」

「別にいいですよ。何言われても信用できそうにないんで」

 このように、俺がどれだけ信用させようとしても奏太は頑なに信用しようとしない。それどころか面倒くさそうにして、機嫌をどんどん悪くさせていくばかりである。


「どうしたら信用してくれる?」

「別に信用したくないってわけじゃないっすけど、胡散臭すぎでしょ?」

「それはどうしようもないじゃんか」

 でも、こうして会話出来ているだけで、なんとなく奏太が俺の事を少しだけ信用してくれているのがわかる。


 多分奏太なら誰かもわからない女の子の話なんて聞きやしないと思う。だって奏太は人一倍面倒くさがりで、それは元親友の俺だからわかる事である。


 何よりこうして軽く会話していて、奏太の態度を見ていると、いつも俺にする態度となんら変わらない態度であるというのが俺の気持ちを安心させていた。


「まぁいいや。早く行かないと遅刻するんで」

 奏太は不機嫌そうにそう言って改札を出て行ってしまう。なんでそんなさっさと行ってしまうのだろうかと疑問に思っていると……………


 ドタドタドタドタ。

 後ろから構内が揺れるほどの足音が聞こえる。

「え?あの子めっちゃ可愛くね?」「あんな子この辺の駅にいたっけ?」「どこの学校なんだろ」


 しまった…………どうやら俺達が話している間に、俺が乗る電車の一本後の電車に乗った生徒が来てしまったようだ。

 たしかに三吉原中の生徒は1人だと臆病で何もできない金持ちのボンボン達ばかりであるが、大勢の仲間がいると調子に乗る典型的な隠キャタイプなんだ!


 …………だからコイツらは嫌いなんだ。

 後ろを振り返って自分の失態を顧みていると、群勢はどんどん俺の方に押し寄せてきていた。


 いや、俺の方ではなくて改札に向かっているのであるが、俺はこの大勢の視線に耐えきれなかったのである。みんな、俺の見たことのない制服と、なぜ俺がここにいるのか疑問に思っている目をしていた。

 俺は、そんな視線は初めてだった。


 たしかに誰も俺に危害を加えようとしないし、ナンパをしてこようなんて考える頭の悪い奴もいない。

 だけど、俺はこの疑問に満ちた気持ち悪い視線だけで、吐き気がしてきた。


 可愛いだとか、俺をジッと見て去っていくとか思い思いの反応を示してくるが、その全てが俺の吐き気へと繋がっていく。


 …………うぅ!やばい、喉まで上がってきた!

 うっ、おぇ、おぇぇ、気持ち悪りぃ。ここで吐きたくはないけれど、頭が働かない。頭がガンガンする。

 座り込んで、吐いてしまおうか。人目なんか気にならないほどに、頭が働かない。


 …………とは言えど、奏太を許せない気持ちもある。

 俺にこの事を説明してくれたっていいじゃないか。なんで先に行ってしまうんだ?


 頭が回らなくても、あいつを恨むことはできる。それだけにあいつが気になって、嫌いである。


 俺は座ることなく、視線に対抗していく。

 今度こそ胸を張って、改札に向かっていく。財布を出して、しっかりと定期券をタッチーーーーーー


 ピンポーン。ガシャン。

 うおっ!出れない。え?なんで出れないんだなんで俺だけ改札が閉まるんだ?え?俺が元男だから?ちゃんと女じゃないから?どうして、ど、どうしてぇぇぇ!?


「あ、あのぉ……………」

「どぅふぇええい!?」

 勢いよく振り向くと、見慣れない眼鏡男子君が。


「定期券、反応してないっすよ?」


 ボンッ。


「エェッ!?あーハイハイ!うん、いや、うん、わか、分かってたよ!?うん、分かってやってたんよ俺!うん、そうだよ!!」

 顔が真っ赤になる音が俺にも聞こえた。全身の血が顔に集まっていくのが、熱さでわかる。


 急いで財布を改札に押し付けて、そそくさと出口に向かって早歩きをして行く。


 ……………恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!

 今ので視線を大量に集めてしまった………!駅構内の学生が俺に向かってニヤニヤしているのが視界に入ってくる。みんなして俺を笑い者にしてんのかよ………


 歩いて行くと、エスカレーターに乗るための大行列がいつものように形成されていた。これに並ぶのが毎日億劫であった。

 エスカレーターだから進むのは早いとはいえ、この大行列に朝から並ぶことが本当に心労であった。


 なのに何故か、前が止まっている。


 そしてもう一つ。今の俺は小さいから、背の高い高校生や、俺の同じ学年の中学生とかに埋もれてしまうもので、目の前は圧倒的な男の学ランの壁に阻まれるはずである。そして目の前が真っ黒になるはずである。


 なのに何故か、前が開けている。

 ………何故だ?なんで俺の前だけ道が開けてるんだ?そしてなんでその道の壁はみんな俺を見ているんだ?

 いやまぁ道があるなら通るけども。有り難く通らせていただくけども。


 人海が裂けて作られた道は、視線の海を泳ぐようなもので、一種の酔いのようなものを感じてしまう。

 言うなれば視線酔いといったところであろうか。


 俺が通った道は埋められ、視線は俺だけについてきている。道は、俺を追うかのように無くなっていき、俺が道を通り切ってエスカレーターに乗る頃にはまたさっきの人海が形成されていた。


 なんだかマフィアのボスにでもなった気分であった。


 ………………ただ、俺がここでマフィアのボスと違ったところが1つだけあった。

 マフィアのボスにはこの光景が普通かもしれない。だが一端の中学生からしたらどうだ?異様な光景である。それも自分に向けてのものならば尚更だ。


 視線酔いを感じながらも、俺は調子に乗っていた。

 この時の俺は、視線だけでなく、自分にも酔いしれていたのであった。


 エスカレーターを登り切った後も変わらず、人海は裂けていく。さながら俺は、モーセにでもなった気分で意気揚々と階段を上っていった。


 そして頂上にたどり着いた時。見覚えのある顔が1つ。それは先程の、奏太という男たちであった。


「…………ふーん、待っててあげたけど、大丈夫そうじゃん。良かったね、マ・サ・キ・君」

 奏太はいつもの不機嫌そうな顔で、最後の方を皮肉っぽく言ってきた。


「んな、お前!何を言って…………」

「それじゃあ」

 そう言うと奏太は颯爽とその場を去って行った。


 俺は追いかけようとしたが、足が動かない。

 視線に酔ってた事もあるし、何より奏太にそんな事を言われたのが結構心に来た。


 だけどそれ以上に。


 あいつが嫌いであった。あいつの全てが嫌いであった。

 あいつの生き方、考え方、頭の良さ、話すこと、俺への態度、友達への態度。全てが俺と対極に位置しているのだ。気があうわけがない。


 誰があいつを追うか。あいつに俺に追われる価値なんて無いんだよ。追う意味がない。


 少女マンガの主人公ならここで追って奏太とイイカンジになるかもしれないが、あいにく俺は少女マンガの主人公じゃないんだ。残念ながら元男なんだ。どれだけ頑張っても少女マンガの主人公にはなれない。


 あんな奴、放っておけばいいんだ。



 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 ひぃぃぃぃ、みんな見てるぅぅぅ!俺の事見てなんでって思ってるぅぅぅぅ!!なんでこんな娘がここにいるんだって思ってるぅぅぅぅ!!

 だってヒソヒソ話してる声が聞こえるもん!!

 パシャパシャ撮ってる音も聞こえるもん!!


 コラ!俺は無料被写体じゃないぞ!?ちゃんと金を払って手順を踏んで…………………


 無理いいぃぃぃ!そんなこと言えないぃぃぃぃ!

 舐められないようにちゃんと胸を張って顎を引いて堂々と歩いているけども!


 今俺は、学校の敷地内にいた。通学路にいるときは、まだそこまでみんな疑問に思っているわけじゃなかったようで、耐えることができた。

 だけど学校に近づくにつれて、どんどんみんなの視線がヒートアップしていった。どんどん疑問に満ち溢れていった。


 これ面倒くさい奴だよぉぉぉ……………

 学校に入学したら色んな人から「どうして学校入ったの?」とか何回も聞かれる奴やぁん…………


 それが嫌だったんだよ。それさえなければ楽しいのに。チヤホヤされるのは嫌いじゃないけれど、しつこいのは嫌いだ。ずっとチヤホヤするのも、わざとらしくて癪にさわる。


 俺の転入する学校である三吉原中とは、私立の学校と言えないくらい狭くって、講堂とグラウンドに挟まれ、上を廊下に封じられた狭い道を通らないと、学校に入ることが不可能なのである。


 つまり、この長い玄関までの道のりは、視線の激戦区なのである。


 ここまで来ると、もう逆に苛々するほどに俺の事をみんな見てくる。まぁ、当たり前だよな。どこの学校も自分たちの学校に登校している時間なのに、全く違う制服を着た、それも全く違う性別の人間が、ムサイ男達しか通らない道を通っているのだから。


 …………本当に、大スターにでもなった気分であった。


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