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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF12.〜もしも幼馴染に事情を説明しちゃったら〜

 真新しいブレザー、真新しい靴下、真新しいシャツ。

 そんな入学式のような格好に包まれて、俺は険しい顔を姿見に写していた。


 俺が、眉間にしわを寄せて睨んでいる先は、顔よりも胸よりももっと下。ブレザーの下にある、とある布切れである。


 まぁ、布切れと言いつつも、それは腰巻のようなものであるが、つまり、スカートである。

 スカートからは、真っ白で細い艶かしい足が覗いていて、なんとも魅惑的であった。


「母さん?本当にこれ着なきゃダメなの?」

 そう言って母さんの方を振り向くと、母さんは顔を爛々と光らせて、俺の方にスマホのカメラを向けていた。


「当たり前でしょ?それ着なきゃ試験生徒として怪しいでしょ?」

「でもさあ、別に男の時の制服でもいいじゃん?」

「そんなこと言ったって、学校側がこれでって言ってるんだし、そんな日比野って書いてある男物の制服なんて着てたら怪しさ満点でしょ?」

 そう言っている間も、母さんはカメラをカシャカシャと光らせていた。


「そうだけどさぁ…………」

 そんなことはわかっているが、気持ち的に無理なんだよ。周りからしたら女の子がただ女の子の制服を着ているように見えるかもしれないが、俺からしたら、女装しているのと同じなのである。恥ずかしく無い方がおかしいと思う。


 でも、今更そんなこと言っても遅いので、そんな言葉は胸の中に留めておく。


 ちなみに、この制服は、三吉原学園系列の女子校の制服をとりあえず借りたものである。そんな適当な制服でいいのかと思ったけど、そんな俺1人のために作るような予算は無いのだろう。


「さぁさぁ、早く出発しよ!?駅までなら送ってあげるからさぁ〜!!」

 学校まで送ってくれないのかよ!?と突っ込みたくなったが、その論争は昨日のうちに終わらせた。

 母さん曰く、「それも女の子修行の一環!」らしい。


「わ、わかったから!わかったから押さないで?」

 グイグイくる母さんをなだめながら、玄関の段差に腰掛けて真新しいピカピカの制靴に足を突っ込む。

 新しいせいか、まだ生地が固くってとても歩きにくい上、足が痛かった。ちょっとキツいかもしれない。


 玄関を開けると、外の世界が俺の視界に飛び込んできた。今から足を踏み入れるこの世界は、一度踏み入れたら後は前に進むしかないような世界。


 俺に容赦なく女の子としての災厄をもたらしてしまうような危険な世界に俺は足を踏み出す。

 ブレックスの時とは違って女の子の格好をしている。そこに、圧倒的な緊張感が存在している。


「…………本当に行かなあかん?」

「早く行きなさい!」

 ドン!と押されると、玄関のドアの外側に押し出された。

 なぜか今日に限ってシャッターが開いていた。そのため、外界の冷たい風が俺の内股を引っ掻いて撫で回すように押し寄せてくる。


 風というのはスケベなもので、太腿まで這い上がってきたら真っ直ぐその上まで登って来る。

 なによりも、今俺が思っている事は………………


「スカート心許ない!」

「そういうものだから仕方ないでしょ?」

「だとしても相当だよぉ!」


 そういうものだと割り切れないくらいに心許ないんだ。この布切れ、体を守ろうとする気持ちが全く見えないじゃないか!


「いいから早く行こう?」

「いや、分かってるんだけどさぁ…………」

 分かってはいるんだ。だけども、足が動かない。というよりも、動かせない。

 動かすと今にもこのスカートがめくれてしまいそうで恐ろしい。歩いた時の体の揺れでめくれてしまうのではないのだろうか。


 しかし、こんなところにずっといるわけにも行かない。俺は行かなくてはいけないんだ。

 俺が行くと心に決めたんだ!絶対に行ける。自分を信じろ!俺は、男日比野正樹だ!

 俺の学校せんじょうへ、いざ行かん!


「……………なんでそんな気持ち悪い歩き方してんの?」

「へ?」

 気がつくと、俺は膝を曲げずに歩いていた。

 スカートがめくれないようにと心配するあまり、まるでペンギンかのような歩き方をしていて、母さんに変な目で見られてしまった。


「そんなふざけてないでさぁ………間に合わないよ?」

「お、おう!よし、よし分かった!」

 別にふざけているわけではないのだから、少し腹がたつけれど、今度こそ胸に誓った。

 今度こそ、ちゃんと膝を曲げて、太腿を高く上げて、一歩ずつ丁寧に踏み出す。


 家の前の歩道に出る。すると、冷たい風が、ピュゥゥッと、俺の足元を駆け抜けていった。

 けれど、その駆け抜けようとした風というとは、足に当たった瞬間に足を駆け上がってくる。そして俺の唯一の腰装備を一気に突き上げる。


「うおぁ!」

 女の子はこんなに心許ない装備をしたもしているのだろうか?ちょっとだけ感心…………………


「あら、かーわいー!」

 母さんは、俺がスカートを抑える仕草を見てそう言って車の方へ歩いて行ってしまう。

 ここから車までは約50メートル。走ればすぐの距離だけど、今の俺には走ることが許可されていない。

 走ったら最後。俺の腰装備は、めくれ上がってしまう。


「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」

 スカートに気を配りながら、それでも自分が今出せる最高速で歩く。だがそれでも、普通に歩いている母さんには全然追いつかない。


 結局俺は、母さんを完全に車の中で待たせてしまうのであった。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 俺は今、全身を舐め回されていた。というのも、俺はただでさえ視線を集めてしまうのに、制服を着ていて可愛さがマックスにまで達していたため、いろんな人から足やら胸やら顔やらをじっくり見られて、まるで全身を舐め回されているような感覚だったのである。


 今俺は駅の中にいる。小さな駅とはいえ、結構な頻度で俺の前を人が通る。

 俺の前をおじさんが通る。じっと俺の足と顔を見る。目線を隠すことなんてせず、堂々とじっくり見てくる。


 おじさん?俺気づいてますよー。

 と、言いたいけれど、急に言ったらびっくりするよな。うん、言わない。言わないでおくよ…………


 今度は後ろを若い男子高校生が通る。

 もれなくじっくり俺の後ろ姿に釘付けになっていた。もう気持ち悪いくらいにじっくりずっと見ていて、一瞬注意しそうになった。


 けれど、なんて言えばいいかわからないから、言わなかった。なんだ?「こっち見んな!」って言えばいいのか?なんかヤンキーみたいだなぁ…………


 そうこうしている間も、とめどなく俺の後ろ姿を見てくる。

 ……………なんでこんなずっと見てるんだ?


 振り返りたい……………!振り返って、この視線の主を確認したい!でも振り返ってこの視線の主に「あ、見てるのバレてた!」って思わせるのが可愛そうだ………


 そんな事で悶々としている間も、ずっとこっちを見てくる。


 ………いやいや、見過ぎだろ。ちょっとは自重しろよ。いや待てよ?もしかしたら俺を見てるんじゃないかもしれないぞ?うん、だとすると振り返っても大丈夫かもしれないなぁ…………


 よし、振り返る!そう決めた!俺がそう決めたんだ、絶対振り返るぞー!

 女の人がよくする髪をかきあげる動作をしながら、俺は後ろを振り向いて、ガン見!


 ………………しっかりと、さっきの男子高校生と目が合ってしまった……………


 そんなこんなで時間は過ぎていき、あっという間に電車が来た。すごい風を伴ってホームに入ってきたので、俺は全力でスカートを抑えていた。


 そして、サイレンのような音ともに、ドアが開く。


 そこで見覚えのある顔が1つ、俺の目に飛び込んで来た。


「そ、奏太…………!!!!」

「………え、誰?」

 は、と口を抑える。

 忘れていた。その勢いで、奏太の名前を呼んでしまった。なんて言い訳しよう?どうやって…………?


 でも、電車が来てるのに乗らないのも不自然すぎるから、乗車する。乗ると、視線が一気に俺の方へ向くが、そんな事を気にしている場合じゃない。


 とりあえず、奏太の隣に立つ。奏太は俺の方をちらちら見るがやがてラノベの方に視線を移動させてそのままラノベの世界へとダイブして行った。


 逆に俺の方が奏太の方をちらちら見る事になってしまったが、奏太は一向に俺の方を向こうとしない。


 …………なんでそんな興味ないんだよ…………

 よく考えてもみてくれよ。こんな美少女が急に自分の名前を呼んできて、運命的な出会いを果たすんだぞ?むしろ気にならない方がおかしいって!


 こっち見ろ、こっち見ろ、と心の中で念じる。俺はじっと奏太の方を見て、眼圧で訴える作戦にも出た。しかし叶わず。奏太はラノベから目を離そうとしない。


 なんだよ、こんな美少女よりも、2次元の女の子の方がタイプですかそうですか。そんなんだったら、俺もそれなりの態度を取らせてもらいますよ。


 ツーン。無視だ無視。揺れてこっち側に奏太が来るけれど、そんな事は関係ない。俺とぶつかって、俺の胸に奏太の肘が当たっても奏太は何も言わずにラノベに没頭しているけど、関係ない。


 次の駅に着いて、人がいっぱい入ってきて、奏太との距離がほぼゼロになってしまってもラノベから目を離そうとしないけれども関係ない……………


 …………いやここまでされたら関係あるよぉ


 俺のツンは、駅が学校の最寄りの駅に近づくにつれて徐々に焦りに変わっていく。

 どうして俺の方を見てくれないのだろうか、どうしてこうも俺を無視するのだろうか。


「そ、奏太?なんでそんな無視すんの?」

 今思えば、この時の俺は、どうかしていたのかもしれない。だから、あんな狂った行動してしまったのかもしれない。


「俺だよ、日比野正樹、分かんないかなぁ?」

「…………は?何言ってんすか?」

「だからぁ、正樹だって」

 後から冷静に考えたら、俺は本当に取り返しのつかない事をしてしまったと思う。


「俺、女の子になっちゃった」

「………………は?」

 その奏太の返事と同時に、学校の最寄り駅に着いて、ドアが開いた。



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