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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF10.〜もしも男子校に転入する事になったら〜

 フードコートで昼ご飯を食べたあと、特にすることもなかったから、帰ることにした。

 本当は、服を買いに行く予定だったのだが、色々ありすぎて疲れてしまった。今度、また母さんと来ることにしよう。


「じゃあ、今日は本当にありがとう」

 そう言って、3人から離れる。少し寂しくもあったが、別にこいつらに会いにきたわけではなかったので帰ることとなった。


 そして、行きと同じように帰りもかなりの視線を浴びながら、やっとの事で家に着いた。


「ただいまー!」

 今日はとにかく疲れた。だって、人生で浴びるであろうくらいの視線の全てを一度に浴びたし、ナンパもされて、怖い思いもした。

 その上、大宮達とも会うし、もう、盛り込みすぎだっての。俺の体がもたねぇよ。


「おかえりなさい。服は………やっぱり買ってないのね」

 母さんはため息を一つついた。

 けれど、そこから怒ることは全くなく、平然とした顔で話を続けてきた。


「まぁ、買ってこないだろうとは思ってたから、先に母さんが買っておいたよ」

 と、大きな紙袋を渡してきた。中を見ると、綺麗に畳まれた女物の服がたくさん入っていた。


「え、な、なんで分かったの!?」

 俺は驚きを隠せなくて、思わず聞いてしまった。

 行動が全て読まれていると言うのは、かなり恥ずかしくて悔しい事である。いくら母親といえど、それは変わらない。


「ふっふーん。母さんにわからないことなんてないんだよ」

 と、腰に両手をやって胸を張ってきた。


「そんなことはどうでもいいの。早く手を洗ってうがいして、母さんに話聞かせて?」

 そう言って、俺に顎で洗面台の方を指した。


 帰ってくるといつも言われる『手洗いうがいをしろ』という言葉に、ちょっと安心感を覚えてしまう。

 いつもと同じ事を言われるというのは、いつもと同じ接し方で接してくれているという事だ。


 俺は、手が凍ってしまうかのような冷水で手を洗って、うがいをし、リビングへ戻るのだった。




 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




「うーん、そんな事があったんだねぇ…………」

 俺が今日あった事を断片的に伝えると、母さんは腕組みをして唸りだした。一体なんのためにこんな事を聞いたのだろうか?


「結構こわかったんだよ?もう金輪際1人で行きたくない……」

 そう言うと、母さんは悲観的な顔色になる。


「ね、ねぇ、正樹、自殺しようとか、思ってないよね?もしそんなに思い詰めてるんなら、母さんにいつでも言ってね?」

 と、母さんは心配そうに言ってきた。


 どうやら、今日の買い物で俺が女の子として生きていくことに嫌気がさして自殺しようとしているかもしれないと心配しているようだ。


 でも、そんな事心配されても意味はないと思う。

 なぜなら、俺は、なんだかんだこの体を楽しんでいるからだ。将来性転換手術をしたとして、こんな美少女になれるわけがない。

 奇跡的にこんな美少女になったんだから、楽しまなきゃ損になるだろう。


 だから、俺は美少女になった事を結構喜んでいるのである。まぁ怖いこともあって、少しは嫌になったけども、総合的に見たら、楽しんでいると言える。


「大丈夫だよ。今んところはまだそんな考えにまで行き着いてないから」

「そ、そう。それなら良かった。もし本当に思ったら言ってね!?」

「お、おう」

 母さんの、安心そうな顔と真剣な顔のギャップに少し戸惑いながら答える。あまりの剣幕に、怒られているのかと一瞬勘違いしたくらいだった。


「で、それでね?ブレックスに行ってもらった理由っていうのは、服を買いに行くためじゃなくて、正樹が女の子としてちゃんと社会に出れるかを見るためだったの。それで、どうだった?」


 どうだった?と聞かれても、抽象的すぎてわからないが、女の子としてという言葉に恥ずかしさにも似た吐き気を覚えながらも自分なりの答えを答える。


「えーっと、上手く生きてける自信はないけど、でもまぁ、頑張ればなんとか?」

 こちらも抽象的であるが、これくらいしか答えようがないのである。


 俺が答えると、母さんは一瞬俯いて考えた後、何かを決意した目で俺の目をじっと見つめてきた。

「もし三吉原中に戻ったとしても?」


 そう言った母さんは、真剣な顔でずっと俺の返事を待っているようであった。


 その言葉が俺の鼓膜を揺らした時には俺は、もうすでに頭をトンカチで殴られた時のような衝撃を感じていた。

 俺は、言葉を頭で理解するよりも先に、本能的に驚愕し、震えていた。


 ーーーーーーー中学校に戻れる。

 その甘い言葉が、ねっとりと脳内にこびりついて、脳を操作する権限を、俺から奪い取っていた。


 どうしてそこまで嬉しいかといえば、それはもちろん、頑張って勉強して受かった学校だからである。

 この辺りの地方で最難関と言われている学校なだけあって、結構な努力が必要だった。

 やっぱりその時間というのは濃密で、俺に大事な何かを教えてくれた気がしていた。


 けれど、この体になった時点で、半ば諦めていたのだ。もうあの学校には戻れないのだろうと、諦めかけていた。だってあそこは男子校だから。だって俺は、女の子だから。


 ただ、もし、もう一度あの学校に通えるならーーーーーー


「行きたい!」

 俺は前のめりになって言った。


 あの学校が男子校だろうと、関係ない。

 男しかいなくて、今日みたいな怖い出来事が起こる可能性があったとしても、知った事か。


 俺はあと4年間、あの学校に通いたいんだ。


「…………うーん、そうかぁ…………」

 前のめりになった俺から距離を取るように、母さんはソファの背もたれに体重を預けた。

 そして、両手を頭の上に乗せて、厄介そうな顔をした。


「いやまぁ、通えるは通えるんだけど………………なんか母さん心配なの」

 一度真剣になった母さんの顔は、またもや心配な顔に戻ってしまった。


「やっぱり男だらけのところに女の子を1人で行かせるっていうのは、間違いでもあったら怖いじゃない?」

 俺を諭すような口調で、言ってくる。


 でも俺はそんな母さんに腹を立てていた。

 そんなこと言うくらいなら、最初から言うな、と。

 言って、期待させるのは、あまりにも残酷ではないか。そんなような考えが、頭の中に滞留していた。


 しかし、そんなことでくじけるような俺じゃない。

 一度口にしたのなら、俺が言い返して論破して、その言葉の重みを教えてやる。


「ぜ、全然1人じゃないって。女の先生だっているし、女みたいな男もいるよ!」

「でも、そんなの数人でしょ?」

 いきなり、うっ、となる。出鼻をくじかれた。

 だけども、俺は反論の手を止めない。


「で、でもさ!あの学校の生徒がそんなこと出来るわけないって!あの学校に行ってる奴らってそんなことやる勇気のあるやつ絶対0人だよ!」

「そんなの、アテになんないよ」

 またもや、うっ、となる。ここまで否定されると、なんだか俺の方が間違えているような気持ちになる。


「で、でもさ!」「いや、いいよ。通っていいよ。母さん、正樹のこと信用する」

 唐突な許可に、俺は絶句してしまう。あれだけ燃え上がっていたのに、急に冷却されて、言葉を失う。


「………へ?いいの?」

「うん。いいよ」

『いいよ』と言う言葉が、頭の中で響き渡る。理解できるようになったのは、そこから数秒後だった。


「い、いやったあぁぁぁぁ!!!!」

 あまりの嬉しさに、思わず近所中に声が響き渡るのを気にせずに叫んでしまった。


 本来なら、通えるのが当然なのだが、このような状況だと何もかもが嬉しく感じる。今なら、悟りを開けるような気がする……………


「あ、でも、どうやって俺が許可されたの?あそこ男子校じゃんか」

「あーそれはね」

 心配そうな顔に少しだけ笑顔がもどって、俺は少し安心する。そして、そんな母さんの言葉に、耳を傾ける。


「なんか、男子校から共学校へ変更するための試験生徒として通うことになるらしいよ」

 そこまで聞いて、驚きとともに、ある疑問が生まれる。


「ん?じゃあ俺………日比野正樹はどうなるの?」

「あぁ、転校したことになるのかな?」


 転校。その言葉が、少し寂しく思えた。俺としては全く意味のないことであるが、このまま俺が忘れ去られていくのが恐ろしい。


 日比野正樹が、みんなの元から消えて行くような気がして、儚くて、寂しかった。


「で、今の俺はどういう境遇なわけ?どういういきさつで転入する事になったの?」

「まぁ一応、日比野家の養子ということになっているのかな?その影響でこの町に来て、試験を受けて受かった事になってるんだと思うよ?」


 養子かぁ。上手いことやったな。養子というなら苗字が日比野でいいし、親や兄弟が日比野正樹と同じでもなんの違和感もないもんな。


「で、俺の名前は日比野咲でいいんだよね?」

「うん、まだ学校の先生には名前は未定って言ってあるから、大丈夫だと思うよ」

「で結局、誰が俺の性転換を知ってるの?」

「多分、先生全員だと思うよ?」


 えぇ………先生全員知ってんのぉ…………

 てことは先生の前で話すとき結構恥ずかしいじゃん。

『あ、コイツちゃんと女の子やってるんだな』とか思われるの恥ずかしいんだけど。


「でもさぁ正樹?」

「ん?なに?」

 急に母さんは深刻な顔つきになる。

 その母さんが纏っている張り詰めた空気に、俺の背筋が伸び上がる。

 そして俺は、母さんをじっと見て、次の言葉を待つ。


 すると、母さんの顔は、クニャッと優しく歪んだ。


「あっはっは!咲って、めっちゃ安直じゃん!はっはっは!ふふふ、すっごい普通だし!」

 と、突然声を上げて笑い出し、俺のネーミングセンスをバカにしてきた。


「はぁ!?急に真面目な顔したとおもったら、そんなことかよ!?母さんは人をバカにすることしか出来ないのかよ!?」

 そう声を荒げても、母さんは笑うのをやめない。


 結局このまま、俺は母さんに笑われ続けるのであった。



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