妻との対話
今回は、氏長と信乃さんの別れ話しつつのチョいラブ会話です。
大広間での会議のあと、氏長は、奥向きに向かった。
妻である信乃に今回の決定をつたえなければならないためである。
家臣達の前で堂々とした顔つきとは違い、ややうつむき加減で額に皺が刻まれた沈鬱な表情である。
「信乃はおるか」
さっしのいい信乃姫である。城の北門に早馬が来た時点で、自分の身に関わる事態であることはわかっていた。
言われずとも、奥の間に既に控えている。
「殿、信乃は、これに。」
「信乃、そこにおったか。また実家の由良より使者が来た。子細相談したいので、人払いを。」
「わかりました。皆のもの、しばし離れよ。」
「「はっ」」
信乃づきの女中腰元が、離れていく。
氏長が、その様子を確認し、二人きりになったところで、おもむろに切り出す。
「信乃の実家の由良家が、北条より離反いたした。ついては、手切れの書状が来た。」
「和が兄の存念、にわかには図りかねますが、申し訳ございません。」
「お主のせいではない。表裏比興、不軌独往は、戦国のならい。成田家も今でこそ長らく北条方であるが、謙信公が小田原まで攻め寄せたときは北条を裏切った。それはさておき、信乃の身柄、離縁の上、三日後に由良に戻ることと相成った。すまん。」
「殿や甲斐と離れること、悲しくも心残りのことばかりでございますが‥。此度の手切れのこと、私は死をも覚悟しておりましたので、命長らえることができただけでも、殿の恩情、有り難いことです。」
「甲斐とは、今後いつ会えるかわからん。この三日、甲斐との別れのこと、そなたの気のすむように過ごすがよい。」
「あなたとの時間はよろしいので?」信乃がいたずらっぽく微笑みながら問いかける。
「それは‥、まずは甲斐、そのあと儂でよい」少し照れながら、氏長が返す。
「して、甲斐の身の回りのことはどうする。そなたの側用人、腰元衆も皆戻るのであろう?」
「由良より来たものは。皆戻らせます。こちらで雇いいれた腰元がおりますので、そのものを甲斐の側衆として残らせます。また、義母上の側用人から人を出してもらうようお願いしておきます。」
「由良に戻るのに、甲斐の身の回りの手配、すまんな。」
「信乃は、甲斐の母にござりますれば、苦にもなりませぬ。」
「信乃、重ね重ね有り難い。儂には過ぎた嫁ごじゃ」
「明日からは、甲斐と過ごし色々話をいたします。ですから、今宵は、二人で別れの前の宴でもいたしましょう」言いたいことを言い、吹っ切れたように、信乃は微笑む。
「それはよいな、夕げのあと、そなたの元を訪れるとしよう。」
「少しの酒と肴を用意してお待ちしております。」
次は甲斐姫と信乃さんの親子会話の回にしたいのですが‥
どうなるかわかりません。
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