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当主として、夫として、父として

氏長が、本丸の広間に到着したときには、由良家の使者は、既に広間にひかえていた。


「由良家家臣、須長内膳でございます。」


「成田家当主、成田氏長である。須長どの、使者のお役目、ご苦労でござる。」


須長内膳は、由良家家臣である。

由良家が小田原合戦の後、妙印尼の活躍にて北条方でなく徳川家の寄騎として認定され、常陸の国、今の茨城県は牛久の城主として封じられた時、由良家家臣として書類にて記載がある由緒のある家柄であった。


すなわち、由良国繁は北条、成田家との手切れの使者に小物を出すことなく、きちんとした直臣を使者とする礼儀を以て対処したのである。


「こちらが、我が主、由良式部大輔国繁様の書状です。おあらため下され。」といい、書状を捧出す。


「あいわかった」近習経由で書状を受け取り、素早く目を通す氏長。


「手切れであるか。」


「は、義弟殿には申し訳ないが、戦国の理、是非もなし、とお伝えせよ、と申し受けてございます。」


「由良家の興亡のこと、よくよくお考えのことと推察申し上げる。兄上の存念、是非もなし。手切れのこと、あい解り申した。」


「は、我が主より、可能であれば、信乃姫様のこと、斬首でなく、離縁にてお願いいたすとのことでございました。いかがでごさいましょう?」


「は、虫が良すぎる。」

「む、致し方な‥」と須長内膳の言葉を遮って氏長がつづけていう。

「と、申し上げたい気持ちはやまやまであるが、こたびは、離縁にて対応いたそう。我が妻、信乃の命を奪うこと忍びなし。離縁の上、お返し申す。

が、甲斐は、当家唯一の我が後継ぎ。甲斐姫は、我が家にて育て申す」


「は、氏長どの、成田家の皆さまののご高配、痛み要り申す。当家当主より、ご了承の際には、由良家ご帰還の日程、対応等々は、成田家の皆さまのご都合に合わせますれば、宜しくお願い申し上げます。」


須長内膳は、畏まりながら、ホッとしていた。

成田家に手切れの書状を届けるとあって、正直な話、自身と信乃姫の斬首は、覚悟していた。


戦国の世において、嫁入りは、実質、人質である。手切れの際には、人質とその使者は死を以て公表するは、普通のことである。


今回は、自身の命と嫁入りした信乃姫の命両方が保証されたのであるからして、使者としては、大成功であった。



喜色を隠す須長内膳の顔をみながら、成田氏家の顔色は当主としての仮面のしたで、父として、夫として、厳しい決断した漢の顔は、悲しいほど強ばったままであった。


それに気づくものは、いない。それがまた、当主としての孤独に拍車をかけるとは、近習達もわからないのであった。



その後、使者を帰した大広間に成田家の重臣一同が集まってくる。


一度、奥に引っ込んだ氏長も、叔父 泰季と共に大広間に戻ってくる。


着座の後、一同を見渡した氏長が、口を開く

「皆のもの、ご苦労である。既に皆も知っておろうが、由良家よりの使者が来た。此度のこと、由良家は、北条及び当家と手切れとのことであった。」


既に予想されたことではあったが、現実に手切れとなると、家臣一同に衝撃が走る。


「手切れか‥」

「当家にも兵を向けるのか‥」

「国境のこと、大丈夫であろうか‥」


ざわつく家臣達を泰季が静める。


「手切れのこと、予想の範囲内、既に叔父上以下、国境のことは手を打ってある。安心せよ。なお、我が妻、信乃は、此度は離縁の上、由良家に帰す。これは決定である。異論は認めぬ。」


その晩、氏長は、信乃に向き合っていた。

離縁の事と甲斐姫の未来について語らなければならないからである。


次回は、第一話の前後の話になる予定です。


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