離縁への道
前話を踏まえて、成田家のなかでの対応です。
忍城の大広間、成田氏長を上座に、一門衆、重臣連が、居並ぶ評定の場で、北条からの書状をもとに臨時の評定が開かれた。
「皆も知っておろうが義兄殿が桐生氏を攻めた。北条の上様からは、成田と由良は手切れになるだろうから、攻められぬように準備しておけとの書状だ」
氏長が、書状の内容を要約して居並ぶ皆皆に伝える。
「泰季殿のもと、正木丹波、柴崎和泉を与力として、由良勢の動きに備えよ。よろしいですか、叔父上」
「うむ、由来勢への対応の指示承った。では、正木丹波は調練、柴崎和泉は、見廻りを主としたいが如何か」
叔父の成田泰季が既に考慮してあったらしく対応策を提示する。
わずかに思慮の後、氏長が、答えて曰く
「叔父上の策で良いと存じます。丹波、和泉、評定の後、叔父上の指示を仰ぎ今の方針で準備しておくように」
「「はっ」」
「時に、氏長殿、家臣ではなく叔父として聞かせてもらうが、信乃姫とそなたの婚儀、如何いたす」
泰季が、家臣の気持ちを代表しつつ、あくまで家族として氏長に質問する。泰季の口調からすれば、離縁して、北条への忠誠を見せるように暗に迫っているのは、明らかだった。
氏長は、一時眼を閉じ、深く息を吐いた。
まだ幼い娘が、瞼に浮かぶ。
「叔父上の思いも重々承知しております。北条への忠義を考えれば、離縁が正しいと思います。ただ、義兄殿が当家に直接刃を向けたわけではないのも、また事実。某より書状を送り、その返答次第では、離縁いたします」
顔には出さないが、妻や娘を思い、当主としての決断の言葉の端々に苦渋の色がにじみ出ている。
「本来であれば、即刻離縁でもおかしくはないが、氏長どののご存念、あいわかった。皆の衆も宜しいな」
叔父泰季の目にはわずかに不満の色があるが、当主の決断を踏まえ、自分の意見を納めることで、家中の皆にこれ以上の意見が出ることを防ごうとしているのは明らかだった。
評定の後、氏長は義兄の由良国繁に宛てて書状をしたためた。
心の底では、離縁になるような返事が帰ってこないことを祈りながら。
まだ、甲斐姫は活躍しません。
こまったものだ。
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