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甲斐姫 誕生 そして、別離

本業多忙にて、やっと第一話の投稿です。

「ははうえさまぁ、さらばにございまするぅ」


父、成田氏長の手を握っていた甲斐は、その手を離し、遠ざかっていく馬上の母に向かい数歩歩みでた。甲斐姫は、その小さな体からは、信じられない大声で、それでいて絞り出すように、別離わかれの言葉を叫んだ。甲斐姫は、顔をクシャクシャにしていながら、それでも涙をこらえて叫んだ。



時は天正元年冬、忍城の北門に成田氏長とその娘、甲斐、そして成田氏の主だった一族と重心の面々が、離縁されて去っていく成田氏長の妻信乃とその一党を見送っていた。

甲斐姫が絞り出した別れの声とその姿に、周囲の女性たちから今まで堪えていた嗚咽の声が漏れる。



今を遡ること四年前上杉謙信と北条氏康が同盟を結んだ。いわゆる越相同盟である。



これを期に武蔵と上野の大名小名の間では、対武田勢の小競り合いを除いては戦は起こらず、上杉勢と北条勢の間で長らく続いていた全面的なにらみ合いや戦さは起こらず、比較的平穏な日々がおくられることになる。



その時期、武蔵の国 忍城を治める成田氏と上野の国 新田金山城を本拠地とする由良氏は、平和と同盟の証として成田氏長と由良成繁の息女、信乃姫を娶あわせたのだった。




成田氏も由良氏も共に数万石を領する土着の勢力として戦国の世に割拠したが、関東管領となった越後の龍、上杉謙信と代を重ねる毎に着実に所領を増やしていく相模の獅子、北条氏康の二大勢力に挟まれると、独立を維持するのは困難となった。

その時々でより強い勢力を見定め、従い、時に裏切り、主を変えながら、必死に生き残って来たのである。

彼等にすれば越相同盟は、二大勢力間の戦が起こらず、本当に久しぶりの平和な日々だった。



その越相同盟の期間に血縁となった成田氏長と由良の姫 信乃は、夫婦めおととなった。典型的な政略結婚である。

しかし、二人の夫婦仲は、政略結婚にしては良かった。

1571年、元亀二年に越相同盟が破綻しても、二人の仲の良さから、すぐには離縁にはならなかった。


周囲が離縁に向けて何事か画策することもあったが、二人の仲睦まじさがそれを阻んだ。

それどころか、その年の春には、懐妊が判明したのである。


1572年正月開けの忍城は、ざわついていた。

そして、成田氏長は、はじめての出産の立会おうとするも、落ち着かずにいた。


「氏長様、お方様にお印が出ました。お生まれになるのは、もうすこしですから、そのようにうろうろせず、隣室にて心落ち着けてお待ち下さい。それがならないなら、身を清める為に水垢離でもしてください」

信乃姫付きの腰元が、成田氏長に声をかけた。


「わしはソワソワなどしておらん、ここに座って、諏訪神社に向かって安産祈願をしておるのだ!」

そういってはいるが実際にはソワソワしたようすの氏長に対しすこし微笑んでから頭を下げ、腰元は、信乃姫のいる部屋に向かった。


そんなやり取りの四半刻(しはんとき)後、城に産声(うぶごえ)が響く。


「氏長様、姫様のご生誕です。お二方とも、お元気な様子。さ、さ、お方様と姫様の元に」


「うむ、うむ、今、行く、すぐ行く」



「おぎゃー、おぎゃー」


「信乃、大儀じゃ、大義じゃった」


「うぅ、氏長様、跡取りの()のこでなくてすみません」


けなげに産後直後の信乃姫が謝るが、この時代、跡取りの男児が望まれるのは、致し方ないことである。また、甲斐姫生誕の前年、男児が産まれたが、夭逝していたことも信乃姫の心に澱んでいたものと思われる。


「信乃、姫和子としても、そなたと赤子が無事なのが一番じゃ、ウム、ウム」

愛妻家の氏長は、本心では跡取りとなる嫡男を望んでいたが、以前に赤子を亡くしている妻を気遣い、優しく声をかける。



「氏長様、姫の名はなんといたしましょう?」

信乃姫の声に答え、

「甲斐じゃ、甲斐姫と名付ける」

「良き名でございます、あなたさま」


1572年1月、元亀三年、甲斐姫は生誕した。



由良成繁の姫で、甲斐姫の母の名前は公式には不詳です。

信乃姫の名前は創作ですので、ご了解ください。

由来は、甲斐の国の周辺の国→信濃→しなの→しの→信乃という感じです。

成田氏長の子供ですが、甲斐姫の兄がいたとの説もあり、夭逝していたそうです。元服後の1586年に死去との説もありますが、夭逝とのことなので、甲斐姫の誕生前に亡くなったとさせていただきました。


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