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忍城 ご案内 姫様 隊

本来なら、忍城の地図を添付したいところ。

行田市郷土博物館にあった地図をイラストにするなんて高等技術ないし、さらに投稿なんてできないので、あきらめました…  

たとえイラスト作れても権利関係大丈夫かわからなかったのもある…


翌日、縫姫とその腰元数名が本丸御殿玄関に現れた。


すでに、甲斐姫、赤城の前、お藤、お滝が待っていた。そして、この日は、黒木丹波もそろっている。

縫姫も輿入れした身、甲斐姫を害することはないだろうが、赤城の前が、甲斐姫、縫姫の護衛と万一のためということで、黒木丹波に同道を願ったのだ。


まずは、本丸御殿の案内をすることになっている。とはいっても、忍城の本丸の近くには、それほど広いスぺースがあるわけではない。いわゆる政務を行う表向きは、評定を行う広間、そして家老格と政務を行う表書院、氏長の表での私的な対面や小さな宴ができる対面所がある程度だ。

奥向きは、氏長の奥での私的なスペースの奥書院、厨とそのそばにある御膳所、かつて志乃が使い、今は縫が使うことになった(つぼね)と甲斐姫の使う局、その周囲にいくつか使われていない局があるだけだ。そして、表と奥をつなぐ廊下から天守につながっている。忍城は、水路や湿地を利用した平城である。天守といってもほとんど二階櫓という程度のものだ。


本丸御殿の表向きを案内するのは、黒木丹波である。さすがに、甲斐姫も城内をある程度自由に動けるとはいえ、政治を行う表については好き勝手に動くことはない。

黒木丹波を先頭に、縫姫の一行、その後ろをに甲斐姫一行という順番で歩いていく。


この日は、評定はなく、広間もがらんと広がっている。つい数日前に成田家の一族郎党、太田家と潮田家からの多数の訪問客でにぎわいを見せた婚礼の後はすでにどこにもない。


その後、政務を行っている表書院に行く。黒木丹波は表書院の外で警護をしている近習に話を通してもらい、許可を得てから、書院の中に声をかける

「殿、黒木丹波でございます。甲斐姫様と共に場内を縫様にご案内申し上げております。よろしいでしょうか?」

「丹波と甲斐か、縫への案内ご苦労、あまり見せるものはないが、入ってくれ。」

「はっ。」

「失礼します。」


室内には氏長と、田山伯耆守、手島美作守が座っている。手島美作が目配せしたのに合わせ、近習・右筆に机の上に出してあった書面を片付けた。


「ここが、表書院だ。だいたい、田山と手島の爺たちとここで(まつりごと)の指示を出す。縫や甲斐はあまり来ることはないだろうな。」

「田山伯耆にございます。」

「手島美作にござります。奥方様と会うのはこれが初めてにござりますな。以後良しなに。」

「手島の爺は、婚儀に際には裏方をさせていたからな、広間での挨拶以外はほとんどいなかったしな。」

「今日、ゆっくりと奥方様の美しいお顔を拝見できましたので、それで十分ですよ、殿。」

「縫にございます。ご家老衆には今後よろしくお願いいたします。」

「さて、挨拶も済んだ。丹波、甲斐、縫、いま少し、仕事がある、今はこれくらいにさせてくれ。」


そのあとは、奥向きの案内である。

ここからは、甲斐姫と赤城の前が先頭に立ち、黒木丹波は、警護の名のもと、集団の最後尾にまわる。

あくまで、甲斐姫が案内するという形を重んじる、黒木丹波なりの気遣いであった。

といっても、厨と膳所、お互いの局程度である。厨で働く女衆に縫の紹介し挨拶を受けたいがいはこれといったことはない。


その後は、玄関から外の案内になった。

玄関に来たとき、赤城が縫に声をかけた。


「縫様、この後は、お城を一周する予定です。せっかくですから、縫様がお連れになった犬も一生にいかがです。散歩と縄張りの確認を兼ねることができますでしょうし。」

「赤城殿、それは良いですね。お梅、お琴、あの子たちを連れてきてください」

「はい、姫様」


わずかばかりのち、二人が三匹の犬を連れてきた。

「甲斐殿、赤城殿、丹波殿、この子たちが、私が父、太田資正から譲り受けた犬です。右から、太郎丸、小次郎、三芳です。三芳だけメスですね。」三匹の手綱を受け取りながら、縫は愛犬を嬉しそうに紹介するのだった。


最初は、三匹の犬に面食らった甲斐姫だったが、すぐに気丈にふるまい、本丸以外の場所を案内し始める。

「本丸から西に湿地と浮島があります。あまり人がいかないところですね。」

「ふむ、ならば、この子たちの散歩や遊ばせるにはいいかもしれませんね。」

「本丸の南に二の丸、北に諏訪曲輪があります。まずは北の諏訪曲輪から回りましょう。」

忍城は天然の水路、湿地を水堀として活用した平城である。本丸の三方は水堀に囲まれ、東側に広場がある。ここから南に架かる橋を渡れば二の丸、東に架かる橋を渡れば、諏訪曲輪である。

諏訪曲輪も土塁や門を組み合わせ、守りを強く意識したつくりである。

「諏訪曲輪の北の橋をわたると、東側に東出丸です。東出丸を南に下ると、二の丸の東側、太鼓門です。」

「岩槻の城もかなり複雑なつくりでしたが、忍の城はそれ以上に複雑で迷路のようですね。もうわからなくなりそうです。」と、縫がすこし困ったように言う。

しかし、縫が手綱を持つ三匹は、新しい城に興味津々で、あちこちを嗅ぎまわりながら尻尾をぶんぶん振って歩いていく。


その後、太鼓門から南の三の丸、成田門を経て、東側の浮島から沼橋門をわたった。

東の大手門を出たあと、城下を南に進み、南東の佐間口にでる。天満口から城内に戻り、北西の向吹門をくぐれば、大手門の南側である。ここから西に戻れば、沼橋門のある浮島に戻る。


赤城の前に連れられて、城内を歩き回り、遊んでいる甲斐姫は、小さいからだにもかかわらず楽し気に案内していく。

それよりも、地理がわからず、今どこにいるかわからなくなってきた縫姫一行は疲れた顔で、案内を聞き、歩むのみである。犬たちは、ここ数日散歩の距離が少なかったところでたくさん歩けるので、まだまだ尻尾を振りまくっているし、時々、オスの二匹はマーキングする余裕すらある。

見かねて、黒木丹波が声をかけた。


「奥方様、大丈夫ですか?」

「足のほうはまだまだ大丈夫です。ただ、ここまで複雑なつくりとは思いませんでした。今晩、殿に城の地図を見せてもらわなければ、どこを歩いたのかすらわからなくなりそうです。」

「まぁ、後は、下忍口からでて、城の西側を回って、北西の皿尾口を見て、本丸にもどるだけです。城の東側は終わりましたので、半分は過ぎました。」

「は、半分は終わったのですね。わかりました。頑張りましょう。」

縫姫はそういったが、半分しか終わっていないことを聞いた縫姫の腰元たちは明らかにげんなりしている。


一行は、三の丸近くまで戻り、熊谷門、下忍口を出て、西の大宮口、そこから北上し、持田口、皿尾口と歩いた。


皿尾口の櫓門まで来たとき、いままで元気に案内してきた甲斐姫の足がとまる。

「ここが皿尾口です。城の北西の守りです…」案内の声も、今までと比べて、明らかに小さい。

甲斐姫の目は、赤城や縫、黒木丹波が近くにいるにもかかわらず、じっと北北西のほうを見ている。

そう、母と別れたあの日、母が馬に乗って去っていった、新田金山城のほうをみているのだった。


「ははうぇ」甲斐姫は涙声でつぶやいた

縫が答えそうになるが、とっさに赤城の前が制す。

縫の傍に赤城が移動し、小声で伝える。

「ご生母で、先代の奥方様のことを思い出してしまったのでしょう。お方様、今はしばし、お時間を頂戴したく。」

赤城の前、お藤らが、動きを止めてしまった甲斐姫に城に戻ることを促すが、甲斐姫は、いやいやと駄々をこねる。そして、黒木丹波は、叱り飛ばすこともできず、無理に連れていくこともできず、甲斐姫に対し、何も言えない自分に歯がゆさを感じていた。


その様子をしばし見ていた縫がすっと動き、甲斐姫のそばにしゃがみ込む。

「甲斐殿、母上様のことを思い出していたのですね。」

甲斐姫は驚いた。本来なら、「今の母は、私だ。」と縫に怒られても仕方ない状況である。そして、縫が、甲斐殿、とまるで一人の大人のように声をかけてきたことにも。


天正年間の忍城の地図をもとに、文政年間の地図で記載されている橋や門の名前を組み合わせて作っています。天正年間の忍城の地図にほぼ全周土塁のでっぱりがあったところを東出丸としたところだけ創作です。

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