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信乃からの手紙どおりに…

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

短くてもいいから、日曜日にコンスタントに更新していく方針で頑張ろうかと思っています。

本丸の奥向き、甲斐姫の居室の前まで甲斐姫を抱いた氏長が到着した。


「入るぞ。」


先に戻った乳母のお滝は、信乃を最後まで見送った氏長の供回りの者たちからの情報を得て、居室に寝床を設えていた。


「お殿様、姫様をお預かり申し上げます。」

「おお、すまんな。」


氏長は、お滝に甲斐姫を預ける。お滝は甲斐姫を起こさぬようにそっと寝かしつける。


「甲斐が起きたら、奥の広間にて顔合わせがあるので、寄越すように。お滝、おぬしのこれからにもかかわることだ、一緒に来るようにな。それと、丹波や赤城の前をあまりに待たせるわけにはいかぬでな、半時しても起きぬようなら、甲斐を起こして連れてこい。」


わずかばかり後、四半刻ほどしたであろうか、甲斐姫は、眼を覚ました。

「ははうえ、ははうえぇ…、うぅぅ、でも、お腹が減りました。」

「姫様、起きられましたか?」

「は、はい。…お滝、お腹が減りました。」

「お腹が減りましたか、姫様。フフフ、では、厨に行って参りますね。飯時ではないので、残り物で、みずままでも作って参ります。しばしお待ちくださいね。」


甲斐姫が起きたときに寂しくならないよう、乳母のお滝は、甲斐姫の寝顔をみながら、手仕事などをして、甲斐姫のそばに控えていた。

甲斐姫の様子を見るに母と別れた悲しさは、深いようではあるが、それよりも空腹感が勝ったのを見て、お滝はすこしホッとしていた。


すこし後、お滝が厨からみずままを運んできた。お櫃にとりおかれた御飯をさっと洗ったものが、ざるに盛られている。小鉢にたたき梅、茄子のぬか漬け、味噌がすこしづつ盛られている。


「姫さま、みずままをお持ちしましたよ。」


お滝が洗ったご飯を飯椀にもり、汁椀から水をかける。


「姫様、みずままには、何を乗せますか?」

「たたき梅で。」


たたき梅が乗ったみずままをさらさらとかきこむ甲斐姫。


「姫様、食べ終わったら、奥の広間に来るようにお殿様から言いつかっております。」

「ちいちうえから?わぁかりますた。」

「姫様、お返事は、口の中のものを食べ終わってからでよろしゅうございますよ。」


モグモグ。


「もう一杯食べてからでも、いいですか、お滝?」

「ハイハイ、次は味噌でいいですか?すぐ作りますね、姫様。」



奥の広間に氏長他、数名が既に座ってなにやら話している。


「甲斐姫、お呼びにより参上しました。」


甲斐姫が、自分の居室から広間に移動する間、お滝に教わった通りに父に言上した。


「甲斐、右手、上座へ。お滝は同じく右手、下座へ座せ」

「「は!」」


二人は右手へ向かい、上座下座に別れて座る。二人の間には、お藤が座っている。


左手には、黒木丹波と甲斐の知らない高齢の女性が座っている。


「皆のもの、よく集まってくれた。甲斐の守役について、これより発表する。守役として、黒木丹波、主に体を鍛え武を仕込んでもらいたい。」


「はっ、承りました。ただ、それがし、武以外はからきしですが、宜しいので?」


「良い。信乃よりの指名じゃ。信乃の話では、甲斐には、妙印尼殿に負けない才があるとか。その武を伸ばしてほしい。宜しく頼む。」


「甲斐ははじめて会うだろうが、乳母立てとして、赤城の前殿だ。文知、礼法などを頼む。」


「赤城の前にございます。もとは、氏長さまの母君、白井の局様の腰元として、上野から参りました。今は酒巻家に嫁いでおります。今後よろしゅうお願いします。」


「甲斐です。よろしくお願いします。」


「元々の乳母であるお滝は、そのまま、甲斐の身の回りを差配せよ。良いな。」


「はっ。承りましてございます。」


「信乃の腰元であった、お藤が、本人希望もあり、甲斐の腰元として残ってくれた。先日、共に遠出したと信乃から聞いておる。お滝の補佐と日頃の甲斐の護衛を頼む。」


「はっ。承りましてござりまする。」


「ただ、由良の手のものに当家の内情を洩らすようなことがあれば、その命、保証はせぬ。甲斐のため、当家のため、励めよ。」


「そのようなことは決して致しませぬ。皆々様、改めて、宜しくお願い申し上げます。」


「今日は、顔合わせじゃ、明日から皆のもの、宜しく頼む。丹波は、しばらくは時々様子を見に行く位でよかろう。七つ、八つくらいからは、剣や薙刀を教えてくれ。」


「「「「はっ」」」」


「では、解散とする。」


氏長は、奥の広間から退出し、本丸御殿で、書類仕事を少しした後、奥御殿の自室である書院にさがった。文箱から、手紙を取り出す。

信乃の手書きである流麗なかな文字の手紙を眼を細めて、眼を通す。


「甲斐の身の回りの事については信乃の希望通りにできたな。」


一息ついてから、今一度、信乃からの手紙を読む。


氏長は書院の窓から遠くを見ながら呟く


「最後の希望は、なぁ。『私のことは、気にせず、速やかに再婚して、嫡子を成せ』とはなぁ。道理ではあるが、これだけは、すぐには行わんぞ、信乃。ま、主命でもあればべつだがな。」


氏長は、信乃の手紙を何度も読んでは、遠くを眺めた。その目尻にはうっすらと涙が光っていた。

前回操作ミスで消えてしまったところを思い出しながら再構成&追加しています。


赤城の前は、赤城山から。

お滝は、甲斐の国から武蔵の国に行く途中にある滝山城から。

白井の局は、創作ではなく実在の人物です。


みずままは、山形県の郷土料理。平安時代からの料理で、お茶漬け、湯付けの水版です。クックパッドとかに作り方ありますので、興味ある方は参照してください。


次回は、甲斐が、妙印尼や白井の局について赤城の前に色々聞く予定です。


歴史小説好きな方ブックマーク如何でしょうか?

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