表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

プロローグ

初めての投稿です。

ついに始めてしまいました、甲斐姫異聞。

異世界転生や異世界転移系のライトな感じのお話しが多い「小説を書こう・読もう」サイトで、転移も転生もない普通の時代小説で勝負するなんて我ながら無謀ですが、宜しくお願いします

1645年、時は正保二年、処暑も過ぎ、夕陽に延びる影も長くなってきた頃、三人の侍が、鎌倉は東慶寺の山門をくぐる。



きちんとした身なりで落ち着いた物腰の壮年の侍二人とわずかにあどけなさが残る若侍、若侍は二人の前に立ち先触れのように山門から本堂に向かい歩んでいく。



後ろの二人のうち一人は隻眼で、刀の鍔を眼帯にしており、落ち着いた足取りながら周囲に気を配っているのが見てとれる。もう一人は、隻眼の侍の斜め後ろにつき、山門から本道、周囲の建物や庭の方に興味深そうに視線を動かしている。



東慶寺は、鎌倉尼五山の第二位、神君家康公より寺領を寄進され、縁切り寺として保護される名刹である。この名刹の第二十代住持、豊臣秀頼が息女、天秀尼が正保二年の春先に身罷られ、寺内は未だに喪に服しており、静けさが保たれている。



そんななか、三名の先頭にいた若侍が本堂近くから声をかけると、尼ではなく、少しの継ぎはあるが比較的小綺麗な身なりの三十路くらいの女がでて来た。



パッと見ても比較的身分の高そうな武士三名の訪問に明らかに動揺している。縁切り寺である東慶寺で、まだ尼僧になっていないのだから、自分の縁切りに関してなにやら武士が確認に来たのだろうかと不安そうな顔だ。



「申し訳ないが、東慶時の現住持殿は居られるか?取り次ぎをねがいたいのだ。こちらの方々は、前住持、天秀尼殿にご縁のある方でして、墓前にてご挨拶を、と罷り越した次第。」



若侍の言葉を聴いて、下女の顔色が変わる。天秀尼の縁者ということは、徳川将軍家か豊臣家の関係者ということになる。

下女が了解の旨を口ごもりながら述べて、そそくさと奥に取り次ぎに向かう。


その奥に向かう女の後ろ姿を若侍が見ていると、隻眼の侍が少しおどけたように若侍に声をかける。


「正能、ご縁があるのは、後ろにおられる我が君だけであるから、こちらの方々、ではないなぁ。」


「これは失礼いたしました、十兵衛様。こちらの方々、ではなく、我が君と述べるのが正しゅうございました。」


それを聴いて一番後ろにいた侍があとの二人に苦々しく言う。


「その方ら、今はお忍びじゃ、あまり我が君や上様と言うな」


若侍と隻眼の武士の二人が、顔を見合わせてから、声を会わせて言う。


「了解しました、上様」

「だから上様と言うなと言うに、そなた等は…」


御忍びだからだろう、普段なら身分の差があるだろう三人にも軽口を叩く気安さがある。

そんな掛け合いをしていると、先ほどの下女が戻ってきた。



「住持様は、今ご不在です。先の住持様の側使えだった方がおられますので、その方でよろしければ、お通し出来ます」


「と言うことですが、如何なさいます、上様」


「天秀尼殿の冥福を祈るために来たのだから、焼香もせずに帰るわけにはいくまい、その方に会って焼香できるか訊ねるべきであろう、正能」


「とのことでございますので、天秀尼様の側使えにお目通りをお頼み申します」


「承りました、お部屋の準備もございますので、今しばらくお待ちを」



しばしのち、東慶寺の本堂から渡り廊下で繋がった離れに三人の侍が通される。


質素ではあるが、小綺麗な調度品でまとめられた離れは、先代の住持、天秀尼の自室である。書院造の六畳間に天秀尼の位牌が安置されている。


その六畳間に三人の侍が通されると、一人の老齢の上臈が位牌の側に座していた。




「成田甲斐にございます。天秀尼様から乞われて長く側仕えをさせていただいておりました。この度は、上様におかれましては、天秀尼様の供養の為にご足労いただき、ありがたく存じます」


若侍が答える。


「はて、天秀尼様に縁のある者とは申しましたが、何故上様とお思いか?」


「恐れながら、天秀尼様にご縁のある方で、柳生十兵衛三厳様とおぼしき人物を護衛に伴いうる方は、天下広しと言えども、今上将軍の徳川家光様しか居られないと存じます」


若侍が何かを言いかけるが、徳川家光と指摘された武士がそれを制す。


「正能、甲斐殿は我が身分を察したのだ、とがめる事でない。いかにも、甲斐殿の言うとおり、征夷大将軍、徳川家光である。

それにしても十兵衛と共に歩くと世間が狭くてかなわんな。それはさておき、まずは、天秀尼の位牌に手を合わさせていただこう」



半刻後、東慶寺から鷹狩り様の御殿に帰る道すがら、家光と柳生三厳が馬上にて歓談していた。


「十兵衛、伊豆守から聞いていたが、流石は太閤秀吉公の元側室殿よな、余に相対しても物怖じせんかったな」


「正に。それにしても、甲斐殿は老女にしては、しゃんとした身のこなしでした。

忍城で女だてらに単騎駆けただの、天秀尼様が大阪城落城の際に落ち延びるのを助けただの言うのも法螺話だと思っていましたが、あながち全て嘘と言うわけではないかもしれませんな」


「甲斐姫か、秀吉殿に東国無双の将姫と言われただけはある人物よな」


「春日の局様や崇源院様とはまた違った形で戦国を駆け抜けた女性なのでしょうな」


「十兵衛、御忍びから帰る道すがらに母上や春日の名前を出すな、怒られた昔を思い出すではないか」


「あい、すいませぬ、上様」



二人の話を馬上にて聴いていた稲葉正能は思っていた。祖母である春日の局も相当に数奇な人生と思うが東国無双の将姫などと言う二つ名を持つ人物はどんな数奇な人世を生きたのだろうかと。



さて、これから始まる物語は、東国無双の将姫こと成田甲斐の物語である。


プロローグなので、あえての主人公はちょっと顔出しだけ。


甲斐姫様は資料が少ないため、消息不明な時期や部分は想像力で補うしかないので、完全史実ではないのですが…

徳川家光、柳生十兵衛がプロローグに登場と初回からやっちまってます。


稲葉正能さんは、稲葉正成さん、斎藤福こと春日の局さんとこのお孫さん。稲葉正成と先妻の子である稲葉正次さんの嫡男です。春日の局とは血縁がない義理孫ですな。残念ですが、多分もう出てこない…


なお、本業多忙のため、更新頻度はあまり期待しないでください。

少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。

宜しくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ