出来損ない
プロローグ
魔術。昔は存在すら怪しいものだったそれは二〇三〇年の現在においては当たり前のものとなっていた。魔術考古学者曰く、魔術というのは、世界的に有名な「産業革命」の時に一般人に気づかれないように並列して発展していたらしい。そしてその産物は、現代では機械技術などと複合し、『魔法具』として世間では広まっている。
例えば、浮いて走る車は、重力操作の魔術を車体の底面に組み込んだ魔法具だし、冷蔵庫は、電気を使わなくてもいいように冷却魔術を内側に付与した魔法具だ。クーラーなんて、冷却魔術と感知魔術の二つの魔術を取り入れた複雑な魔法具だったりする。
そんな魔法具が普及した世の中で、便利な魔術を学ぼうとする若者が世界中にいる。だが、教育の場には魔術師が必要となるにも関わらず。魔術師というのは昔と変わらず数が少ない。そのため、世界教育機関は志願者を一箇所に集めることにした。それが日本の関東の真下に作られた魔術師及び、魔術師志願者のための人口島『魔法技術都市 リデジオン』である。リデジオンは中でも六つの区画に分けられていて、その一区画ずつに魔術専門学校が存在する。その六つ区画の一画、『白亜区』にある魔術専門学校『光陰学園』に今、新たな風が吹き始めようとしていた。
第一章 出来損ない
「ここが今日から通う学校か」
桜が舞う白い校舎を目の前に『夢道 晴斗』は立っていた。巨大なその校舎には一学年500人程度が収容されているというなかなかのマンモス校だ。桜が舞う正門から校舎までの大通り。新しい制服に身を包んだ生徒たちがぞろぞろと横を歩いていく中、立ち止まっていた晴斗に後ろから誰かがぶつかってきた。
「どーんっと。どうしたの晴斗?こんなところで立ち止まっちゃったりして」
ぶつかってきたのは、同じ制服を着た栗色の単髪の女子だった。晴斗はぶつかってきてなお、笑顔で返す彼女にため息を吐く。
「はぁ。まったく。どうしていつもお前は元気が有りすぎる挨拶しかできないんだよ、柊」
「いやぁ。これがアタシの数少ない取り柄だからさ!」
「いやいや、そこでドヤ顔せんでいい」
『柊 夜散』は晴斗の幼なじみで、小学5年の頃からこの調子で構ってくる。小さい頃は嬉しく思っていたが、ここまで続くと暑苦しくも思う。
二人は歩き出すと、昨日あったニュースについて話し出した。別に二人が政治が好きというわけではない。が、話題が話題で、おそらく、学校中がこの話題について話しているだろう。
「昨日のニュース見た?」
「あぁ。あの『神隠し事件』か。見たよ。確か、リデジオンの学校に通ってる生徒が数人姿を消したんだよな」
夜散が頷く。みんなが話していたのは、ここ最近になって起こっている生徒の失踪事件について。痕跡を残さない消え方から『神隠し事件』なんて呼ばれ方をしている。確かに物騒な話だが、晴斗は全く怯えていなかった。
「でも、迷信とは思わないけど、実際、俺には関係ないしな」
「どうして?狙われてるかも知れないんだよ?」
「それこそあり得ない話だ。狙われてるのはリデジオンの学校に通っているなかでも、実力者だけだ。それに対して、俺は出来損ないだ。対象になることは絶対ない」
晴斗の言葉に夜散の顔が少し下を向く。
「そんなことないのに。ごめんね、晴斗」
晴斗は「気にしなくて良い」と頭を撫でる。事実、晴斗は未熟で結果も出したことがない。晴斗にとって今あるのは自分の未完成な魔術だけだ。正直、エリートを数多く排出してるここでやっていけるのかも危うい。だが、晴斗は入学することを躊躇わず、むしろ、燃えていた。
「ほら、入学式前に教室行くんだろ。遅れるぞ」
顔を上げた夜散は笑顔で少し歩みを早くした晴斗についていった。
二人が教室に着いたときにはすでにクラスメートのほとんどがいた。出遅れたと思いながらも、自分の席を確認すると、その不安は消えた。
「良かった~。晴斗の隣だ。よろしくね」
「あぁ。そうだな。よろしくな」
とりあえず、話し相手がいないという事態は避けられたらしい。二人が席に向かうとそこには話している二人組がいた。どうやら、話すために片方の席の近くにあった晴斗の席を陣取ったようだ。晴斗たちに気付いた金髪の男子が席を離れる。
「ごめんな。勝手に席使っちまって」
このまま退かなかったら一言言おうと思っていたため、素直に退かれて少し焦る。だが、悪い気は一切しない。晴斗は笑顔で返す。
「いいよ。気にしないから」
好印象だったのか、話していた二人が自己紹介する。
「俺は『日暮 半蔵』っす。半蔵でいいっすよ。仲良くして下さいっす!」
自分の席、つまり晴斗の席の隣に座っているマフラーをしている男子が半蔵というらしい。
「それで僕が『銃ヶ丘 颯太』。僕も颯太でいいから」
二人ともフレンドリーで良かったとホッとする晴斗。しかし、後ろにいた夜散は終始笑顔でいた。晴斗には分かった。皆にはバレないだろうが、これは作り笑いだと。第一印象を良くしようと思って笑っているのだが、この二人にはあまり興味を持たなかったらしい。
晴斗と夜散が席に座ると同時にチャイムが鳴り響き、みんなが席に着く。しんと静まる中、ドアをガラリと開けて入ってきたのは、
「お前らー、席に着けー」
ジャージ姿の女性教師だった。この時代には少ないジャージの教師に皆が釘付けになっていたのは、ピチピチであるがゆえに現れる抜群のスタイルとたわわに実った胸に見とれていたからだ。先生はそんな視線を気にも止めずチョークを持ち、黒板に書いていく。
「今日からここの担任になった『黒咲 野薔薇』だ。私が担任になったからには中途半端な結果は許さないからそのつもりでいろよ!」
野薔薇の明るくも威厳のある声に皆はつい頷いてしまう。それを見て満足すると、今度はクラスメートに自己紹介を促す。それぞれが自己紹介をしていった中、一際クラスがどよめいた人物が二人いた。
「私は『シャーロット=アルメリア』。よろしく頼む」
名前を聞いた途端に周りがざわめき出す。それもそうだろう。アルメリアと言えば、この島の製作に携わった貴族の一家だ。彼らはその貢献により、最大限の権力を与えられている。それこそ、一生を遊んで暮らせるし、学校なんて来る必要など皆無なはず。いろんな憶測が飛び交う中、シャーロットは続けて言った。
「この学校に来たのは、魔術を学ぶため。それだけだ」
そう言ってシャーロットは席に着いた。ざわめきが耐えない中、晴斗の番が来たと立つと、自己紹介を始めた。
「初めまして。夢道 晴斗です。出身は日本で、一応魔術もやってました」
またしてもざわめきが増す。これも予測できていた。なぜなら、晴斗の家、『夢道家』は有名な魔術師の家柄だったからだ。しかも、独自の魔術指導で他者の介入を一切認めない家として認知されている。なのに、晴斗はここに来ている。気になるのも当然だろう。それに答えるように晴斗は正直に言う。
「俺がここに来ているのは、俺が夢道家で最弱の落ちこぼれだからです。だから、夢道だからといってあまり期待はしないで下さい。あと、これから三年間、よろしくお願いします」
終わると拍手が起こった。どうやら、第一印象は良かったらしい。安心した晴斗は座ると自己紹介の続きを静かに聞いていた。
初めまして‼夏藤 競介です!触りですが、次が気になって頂けたでしょうか?今回この「小説家になろう」に初投稿となります。なので、操作や投稿設定がいつの間にか変わっていたりなんてこともあるかもしれません。その際はどうか「あ、何かミスしたんだな~」と温かい目でスルーして下さい。
さて、次回なのですが、晴斗は無事にクラスに馴染めることができるのでしょうか?シャーロットはどんな人物なのでしょうか?色々謎でしょうが、とりあえず題名である『創造術師』の意味が明らかになります。
それでは今回お読みいただいたすべての読者様に最大の感謝を。そして、これから応援よろしくお願いします‼