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勇者系魔王の世界征服  作者: 二都遊々
一章 最初の町
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1章-7

「ただいま」

「おかえりなさいませ。魔王さま」


 ドアを開けるとスライムが今日も料理を始めようとしているところだった。

 勿論この料理を食べれば再びスライムの一部も食べることになるだろうから、

 また胃が溶けて死ぬことは明白である。

 そんな訳で料理が作られる前に酒場へどうにかして連れていかなければならない。


「スライムよ。料理の手を止めて聞いてほしい」


 スライムは此方の話をしっかりと一字一句漏らさぬようにか、

 かまどに火を起こすのを止め、小声で話しても聞こえるように近づいてきた。


「無事タイラントゴーレムを討伐し大量のゴールドが手に入った。

 そしてそのタイラントゴーレムの中核だったのがこのゴーレムだ。」


 そう言ってスライムに依頼の場所で配下にしたゴーレムを紹介しようとしたが、

 後ろに隠れて服にしがみつき離さない。

 手をゴーレムの背に回し押し出すと、前へつんのめり転ける。

 仕方なく後ろから両脇を持ち上げ立たせてやると照れながら自己紹介を始めた。


「きょ、今日からお世話になりますゴーレムです。

 マオーの配下として今日から頑張ります!」


 ゴーレムは上ずった声で短絡的な内容を話す。

 同じ魔物同士だからだろうか、

 ギルドで人見知りな行動は一切取らなかったが魔物見知りはするらしい。

 魔物と人間に対する差というのは違うらしい、意外な一面を見ることが出来た。


「あらあら、緊張しなくても大丈夫ですよ。

 私はスライム、あなたで魔王さまの二人目の配下です。

 一緒に頑張りましょうね。」

「はわぁ。スライムお姉ちゃんやさしい。大好き!」


 最古参としての自負を持っているであろうスライムは、

 ゴーレムの緊張を解こうと手を差し伸べる。

 優しくされ長年の寂しさから開放されたからかスライムに甘えて抱きつき、

 独特の包むような抱擁でスライムはゴーレムを受け入れていた。

 違う種族の魔物同士はどうなるのかと心配だったが、喧嘩もなさそうで一安心である。

 ただスライムに包まれているゴーレムが少し羨ましかった。


「二人とも仲良くやっていけそうでよかった。

 そこでだ。この出会いを記念し、今日稼いだゴールドを使ってゴーレムの歓迎会を行いたいと思う。

 酒場で食べ放題に飲み放題、というのはどうか?」


 ゴーレムは目を煌めかせ体いっぱいに喜びを表現しているが、

 スライムはどうも気に食わないらしい。

 口は笑っているが目は笑っていない。

 思い当たる節もなく胸に手を当てスライムの表情から何か伺えないかと見て考えていたが、

 やはり思い当たらなかった。


「ふふっ。よろしいのですよ魔王さま。

 ゴーレムの歓迎会を行いましょう。」


 自分の顔を見ていたスライムは何かが納得言ったのか機嫌の良い声色で返事をしてくれた。

 原因は分からなかったが機嫌が戻り助かった。

 おそらく乙女心という奴が原因なのだろうが、全くもって理解の範囲を超える。


 それはそうと、酒場で食事することが決まったので、

 100万ゴールドずつ入った袋4つと証文の控えはスライムに預け、

 手に40万ゴールドが入った袋と今日スライムが雑貨屋で買ってきたと思われる、

 使い古された中古のカンテラを持って暗い夜の道を三人は酒場へ向かっていった。



「では、ゴーレムの歓迎式を始める。

 長ったらしい前置きは無しだ、思う存分飲み食いしてくれ!」

「わ~、すごい料理。食べていいの? 食べていいの?」


 キラキラとした目を向け、

 お預けを食らった犬のようにゴーレムは口からユダレを垂らしている。


「おうよ、好きなだけ食え。今日はお前の歓迎会だ」


 許可をもらったゴーレムは口いっぱいに料理を詰め込み、

 味わうこともなく飲み物で流し込んでいく。


「んふぅぅぅ、んばびいぃぃぃぃ」


 幸せそうな顔をして個々の味なんて味わくこと無くめちゃくちゃに食べている。

 きっとまともな料理なんて、本を守っている間食べていなかったのだろう。

 それでも自分も召喚されてからというものまともな料理は食べていなかったが、

 味わって食べることぐらいはする。

 明日以降は配下としてしっかりとしつけるべきだろう。


「俺達も頂くとしようか」

「はい」 


 ジューシーな肉団子と酸味の効いたトマトソースのパスタ、

 柔らかく酒と相性のよい生ハム、

 パン屋で仕入れた種を使い焼かれたと思われる耳はカリッカリでチーズがよく伸びるピザ。

 そしてこの町特産らしいいくら飲んでも飽きない喉ごしが素晴らしい麦ビール。

 この世界に来て初めての豪華な料理は美味かった。

 味は元いた世界より大立ち回りをしたこともあると思うが、格別に美味しい。

 ただやはり料理は自分にとって鬼門なのだろう、一つ問題が生じていた。


「魔王さまぁ~、私のことちゃんと見てくれてますぅ~?」


 そう、スライムである。

 店に着くなり酒を頼み、ウワバミのように浴びるほどの酒をかっ食らうと、

 顔どころか体が赤く染まるほど酔ってしまっている。


「私の心を奪うだけでなくそっけなく扱うなんて魔王さまのいけず!

 私がどれほど思って……」


 機嫌よく飲んでいると思えば突然怒りだして肩を何度も叩いたり、

 急に涙目になったと思えば机に突っ伏したりと大変である。


「お。姉ちゃん今日はウェイターじゃなく客で来たのか。

 今日も出来てるねぇ。あんたスライムの旦那かい?

 魔物と一緒にいるなんて珍しいな。ヒック」


 店の常連だろうか、

 スライムと知り合いと思われる、いい感じに酔っ払っている働き盛りの男性が絡んできた。


「む、スライムが魔物と分かるのか?」

「あっはっは。旦那も相当酒が入ってるな。

 肌は透明だしどこからどう見ても魔物じゃないか。

 それに自分の名前をスライムとしか言わなんだ、

 自分から明かしているようなものじゃないか。わっはっは」


 スライムから酒場で働いていたと聞いた時どうもオカシイと思ったが、

 そういう世界なのだろうと今まで納得していた。

 だがやはり違ったらしい。


「魔物がいない地域からきたものでな、よくわからん。

 この国じゃ魔物はどう扱われてるんだ?」

「この国が特別なのかねぇ、宮廷でも魔物が少数雇われているって話だ。

 敵対的な魔物も勿論いるが、この町じゃ友好的な魔物は人と変わらない扱いさ。

 人間にだって悪いやつやいいやつがいるだろ? そういうこった。

 じゃ、おらぁ仲間内に戻るからよ。にーちゃんも元気でな!」


 そう言い残すと陽気な男性は元いたテーブルへと戻っていった。

 この世界に来た時魔物といえば忌み嫌われるものだと思っていたが、

 案外魔物と人間はいい関係性を築けているらしい。

 だがそうなると、

 なぜわざわざ世界征服なんてことをしなくてはいけないのか疑問に残る。

 聞く限りでは魔物と人間は仲良くやっているではないか。


 しかし旧魔王はそれを承知で異世界人の自分に世界征服することを任せたのだろう。

 おそらく旧魔王、あるいは代々魔王は世界の本当のことを知っている。

 この国だけではない、この世界がどうなっているのかこの目で確認する必要がある。


 などと考えていたのだが、


「マオー、アレ食べたい!」

「魔王さまぁ。今夜は私が寝かせませんからね」


 隣にまでイスを移動させ腕に絡みついて酒をあおるスライムと、

 テーブルに3人では食べきれないだろうと思っていた料理を、

 ほぼ一人でぺろりと食べ上げてしまったゴーレムが、次の料理を催促している。


「だー! 分かった! そこのおねーさん追加注文なんでもいいから適当に!

 スライムてめぇは酒くせぇから離れろ!」


 2人といるととてもじゃないが真面目に考えることも出来ず、

 スライムの相手をしながら、ゴーレムが黙々と食べる光景を眺め酒を飲むのが限界だった。


「ぷっひゃー、もう限界、マオーお腹いっぱい」

「もう満足か、分かった。おねーさーん、おあいそー」


 散々飲み喰らいしたゴーレムが満足すると、

 いつまでも酒を飲むスライムを止めるため強引に会計を済ました。


「はーい、料理が20万ゴールドとお酒17万ゴールド、全部合わせて39万3000ゴールドになります」

「うへぇ、それもっと安くならない?」

「これでも色々サービスさせていただいていますのでちょっと~……」


 スライムの飲みっぷりとゴーレムの食べっぷりにより、

 酒場の支払い歴代最高額をを叩き出したため、

 40万ゴールドも入っていた袋はほぼ全てカラになってしまった。

 財布も気温もすっかり寒空の下、カンテラ片手に城へと帰っていく。


「マオー、ここだよー。あはは」


 道を歩いているとゴーレムは気持ちが高揚しているため周りを彷徨いては、

 先回りしてポストごっこをしていたり物陰に隠れて驚かそうとしていたりと大騒ぎである。

 スライムに至っては千鳥足であっちフラフラこっちへフラフラと歩いていた。

 ゴーレムが再び先の物陰に隠れようと先行すると、


「魔王さまぁ、私の名前知ってます?」


 負ぶさるように抱きついて耳元で酒の匂いを漂わせ囁いている。


「スライムだろう?」

「それは種族名ですよぉ。そうじゃなく真名ですよ、真名。

 それを知るとその魔物は名を呼んだ人に絶対服従になってあんなことやこんなことをやり放題」

「そんな大切なものを簡単に教えてしまっていいのか?」

「勿論誰にもというわけではありません。私の真名を知っている人は旧魔王さまだけです。

 ですが魔王さまにも是非知っていて欲しいのです」


 言い終わると耳たぶを甘噛したりと相当酔いが回ってるようだった。

 すこしして甘い吐息と共に再び言葉を紡ぐ。


「……魔王さまってここまでしてもダメなんですね。

 もういいです。私の真名を知ってもらって責任感を感じていただきます。

 私の真名は『サイア』、身も心も貴方様のものなのですよ」


 背から離れ、再び手を握って肩へと寄りかかってくる。

 きっと酒が入っているのと旧魔王が突然いなくなってしまって心寂しいのだろう。

 今日ぐらいは付き合ってやっても悪い気はしない。

 だが、酒臭過ぎるので枕形態で一緒に寝るのは勘弁だ。


「あ、おねーちゃんだけずるい! 私もマオーと手をつなぐ!」


 驚かすために魔王とスライムの位置を確認しようと物陰から覗いた時、

 スライムと手を握っている様子が見て取れたのか、

 走ってきたゴーレムはカンテラを奪ってその手を握り、ニコニコと笑顔を作っている。


 なんとか二人を連れて城へと戻ると、

 一緒に寝ようとするスライムを枕ではなく手のそばでと説得して、

 ゴーレムは使用人部屋にあるベッドで寝るように指示すると素直に眠ってくれた。

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