1章-5
「案ずるより産むが易し、だな」
このまま見当たりませんでしたと報告するわけにもいかず再び岩の扉まで戻り、扉を押し込む。
しかしびくともせず開け方が間違っているのだろうと、
横にスライドさせてみたりと考えうる開け方全てを試すが開く気配もない。
首を捻っていると、
「不正侵入者――発見――排除」
という声とともに自分の周りにだけ一瞬で影が出来た。
機械を連想させるような単語のみの声が頭上から聞こえ見上げたが時既に遅し。
視界限界まで上下左右どこを見ても全て岩しかない。
9魔王目
「タイラントゴーレムー、いるかー」
声を掛け広間を見渡すが先ほど攻撃してきたタイラントゴーレムの姿は見えない。
壁の上から降ってくるには随分と高く、急に影が出来たことを思えば違う。
呼んでもタイラントゴーレムは現れず実物を見ないことには何も始まらない。
おそらく扉に触れる、押すなど内部へ入ろうとする行為が原因なのだろう。
そうと分かれば簡単である。
「魔王選手、一投目っ投げました!」
投げるには丁度いい大きさの石は岩の扉にゴツンという音をあげ跳ね返った。
「敵対者――排除」
扉に石が命中すると推測は見事に正解し壁から水面に出るような軽々さで、
岩で出来た魔王の3倍ほどの大きさがあるゴーレムが出現する。
どうせノロマだろうと全て避ける構えでいたが、警告が聞こえたと同時に一瞬にして距離を詰められた。
反応するだとかそういう次元の話ではない。
壁際にゴーレムがいたと思ったら瞬きをした次の瞬間、眼前に大きな岩が、
「無理無理ムリムリムr」
10魔王目
巨大な岩が迫ってくることを拒絶し足を竦ませおそらく死んだのだろうが、
毎回復活するふかふかのベッドや少し慣れ親しんだ天井ら。
それらが見当たらず只管白くどこまで続いているか分からない空間にいた。
「やぁ魔王君、君は10回目の死亡でこの世界のこともそれなりに分かったかな?」
声のする方を見たが誰もいない。
ただただ白い。
「我は魔王である! 姿を表わすがよい」
「アッハッハ、魔王ロールプレイしなくてもいいよ。
ボクは旧魔王、君をこの世界に連れてきた張本人さ。」
やはり声は何も無いところから聞こえてくる。
「君もそろそろ魔王に慣れてきたかなって思って連絡してみたんだ」
「それで、そっちの世界は飽きて元に戻してくれるという話か?」
「それは無理かな、ボクもう世界征服に飽きちゃったし。
そっちの世界に馴染んで無茶しないと思ってね。能力を元々の性能に戻そうかなって」
何やら能力が制限されていたらしい。
「……今まで痛い思いして死にまくってたのにそれは酷くないか?」
「子供に武器をもたせるほど怖いことはないさ」
一理あるが納得いかない。
「はぁ~。で、今の性能は元の何倍なの?」
「百分の一倍」
死んだはずなのにもう耳がおかしくなったようだ。
「すまない、俺の聞き間違いだと思うからもう一度頼む」
「元あった性能の一パーセント」
どうやら聞き間違いではなかった。
「魔王の特性とやらもスライムから聞いてるのと一緒でいいのか?」
「それがねー、4匹までが限界なんだ」
「他に特性あったりしないのか?」
「あとはそうだね、死ねば死ぬほど強くなるけど復活時間も伸びるから気をつけてね。
ボクの時は1回死んだら10年は復活しなかったかな。
それじゃ君の家でネットゲームとやらをしてるから、引き続き世界征服よろしくね~」
「おい、ちょとま――」
瞬きをするといつもの天井がそこにあった。
言いたいことは沢山あるが、
夢でなく旧魔王が言っていたことが本当だとすれば何か変わっているはずである。
「はぁ~、ま、いっか。少しぐらいなら大丈夫かな」
小学生の頃練習した両腕から気を飛ばす前段階の気合溜めのように魔王オーラを溜めると、
紫と黒が交じり合うオーラが部屋いっぱいに広がり部屋の柱や壁が悲鳴をあげ城全体が振動した。
「ま、魔王さま! ご無事ですか!?」
スライムが凄い形相で部屋に入ってきたため魔王オーラを止める。
「驚かせちゃったか、ごめん」
「いえ、確かに驚きはしましたが魔王さまで安心しました」
「旧魔王に会って力を取り戻したんだ。
そして本当か試してみたらこの通り、これでタイラントゴーレムを倒してくるよ」
「はい、お待ちしています」
城を出て分かったことだが身体能力も向上したため周りの風景は遅く見え、
数倍は速く走ることが出来るようになっている。
お陰で城から広間までほんの数分走るだけで到着した。
「さて、力試しといきますか」
手短な石ころをその場で拾い、右手に持って岩の扉に投げつける。
「敵対者――排除」
先ほどと同じで壁からぬるりとタイラントゴーレムが溶け出てきた。
地面にタイラントゴーレムの両足が付くと同時に飛びかかってきたが、
全く見えなかったゴーレムの挙動が見えるようになっている。
「これなら!」
城だからと少し遠慮した魔王オーラを限界まで引き出す。
オーラの色は変わらず紫と黒が合わさっていたが大きさがゴーレムの2倍はあった。
飛びかかってきたゴーレムはオーラなど関係ないと言わんばかりにそのまま突っ込んできたが、
磁石の同極を合わせたように少し接近されたが決して体に触れること無く弾け飛んでいく。
「ふっ、この程度かタイラントゴーレムよ」
呆気無く吹き飛ばされたタイラントゴーレムを煽った。
壁に埋まっていたタイラントゴーレムはあまり大きくダメージを受けていないようで、
また壁の中を水中に居るが如くヌルリと出てくる。
「ようやく出たか、しかし、もう遅い!」
全身から溢れ出すオーラを止め、右拳にオーラを凝縮するように押し込めてゆく。
凝縮したオーラは紫色が消え黒く闇が渦巻いている。
「これでもくらうがよい!」
「魔力圧縮感知――危険――防御」
ゴーレムは両腕で防御の姿勢を取ったが、
そんな防御などお構いなしに放ったオーラの渦巻く球体がゴーレムに当たった瞬間一旦は爆縮し、
ゴーレム諸共地面までも抉り全てを吹き飛ばした。
「他愛無いな」
土煙が晴れてゆくと爆心地には小麦色に焼けた健康的な肌の少女が、
プンスコと怒って座り込んでいた。
「この馬鹿! せっかくおじいちゃんに強化してもらったのに全部きえちゃったじゃないか!」
「この我を愚弄するか、小娘」
オーラを纏い威厳を出すと、涙を浮かべ今すぐ泣きそうになっていた。
少し可哀想な気持ちになったのでオーラだけは仕舞うことにする。
「ひ、ひぃ。ごめんなさい!」
「我は魔王なり。お前は誰だ」
「私は大魔導師のおじいちゃんに強くしてもらったゴーレムだよ。
強くしてもらった代わりに頼まれて扉守ってたんだよー、凄いでしょ!」
「お陰で我は二度死んだのだがな」
シマった!
という顔を見せ、目が泳いでいた。
「まぁあれだ。配下になるというのであれば許さないこともない」
「許してくれるの? やったー! 私マオーの配下になる~!」
素直な感情表現に少し気が引けてしまったが、
あまりの現金な態度にげんこつを頭に降らせてやろうかと思った。
「そういえばなぜ名前を呼んでも反応しなかった」
「? 私の名前はゴーレムだよ?」
自身がタイラントゴーレムという名前で呼ばれていたとは思ってもみなかったようだ。
それでも気付いて欲しかった。と、一瞬思ったがこの子なら気付ける気がしない。
「はぁ……ところで、扉を開けたいのだが開けれるか?」
「うん、こっちきてー。これね、こうやって、ここを持って。……ほいっ!」
ゴーレムは手を引っ張り岩の扉前まで案内する。
扉の前に立ったゴーレムは土を少し除けると指を入れれるほどのくぼみがあり、
扉は下から上へ持ち上げるタイプだったらしく難なく開いてしまった。
大魔導師というぐらいであるから、結界やからくりが仕掛けられていると思ったが拍子抜けである。
「中はねー、本が1冊あるだけだよ?」
「ほう。まともな本なんだろうな」
「おじいちゃんが書いた本だよ! これこれ」
ゴーレムは部屋の中央に置かれた本まで小走りで取りに行き大切そうに、
そして誇らしげに渡してきた。
「これね。おじいちゃんが言ってた。
ゴレちゃんを倒すつよ~い人が来たら渡すんだよって。
私にね、私に、私に……」
話し始めたゴーレムの目は最初潤いを感じている程度だったが、
次第に小粒の涙から大粒の涙となり今ではワンワンと泣いている。
大魔導師とはどういった関係か分からないが非常に親しい関係だったのであろう。
過去を思い出してしまい泣いてしまっているゴーレムに胸を貸してやった。