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勇者系魔王の世界征服  作者: 二都遊々
一章 最初の町
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1章-3

 眩しい。


 夜が明け、開け放たれた窓から太陽の光が差し込む。

 寝るとは不思議なものである。

 目を瞑ったと思えば次の瞬間、一日の始まりを告げる朝日が瞼を開けよと攻撃する。


 なので唯一休める日といえば陽の光が攻撃して来ず、雨音が耳障りじゃない雪の日ぐらいだろう。

 だから好きな日といえば1年を通して僅かな雪の日ぐらいなのである。


 早く起きろと叫ぶ太陽に反抗していると、


「おはようございます。魔王さま」


 と、スライムに朝を告げる甘い声に起こされた。

 前の世界では母親に叩き起こされていたが出会って間もない女性に起こされようとは、

 今まで考えもしなかったが実際に起こされるてみると、これほど気分のいいことはない。

 今後は雪の日どころか毎日の朝が楽しみである。


「おはよう、もう朝か」


 ベッドに横たわって返事するのも悪いので起き上がる。


「本日はどう致しますか?」

「考えたんだが、世界征服をするのにまずはその日まで続ける生活費が必要だと思う。

 だから当面は金を稼ぐ方法を探す予定だ」

「それでしたら、ギルドに行ってみてはいかがでしょう。

 冒険者や傭兵が輸送の護衛、野草の採取、魔物の討伐といった依頼を受け日銭を稼いでいます」

「なるほど」


 スライムが勧めるギルドとは、町中央で見つけたギルドのことだろう。

 今から貿易で稼ごうとしても道具屋で見た商品の値段では大量に買うことが出来ず、

 他の町で差額を儲けるといっても元手が少なすぎて微々たるもの。

 ならばスライムのいうギルドに行って報酬額を聞いてから他の事を考えてみても遅くはない。


 心地よいベッドを惜しみつつ身支度を整えて城から出た。

 夜が明けて間もないからか少し肌寒い。

 眼前には想像するような麦畑みたいな黄金色に輝いていないが、

 太陽に最も愛されようと誰もが背を伸ばし太陽へ近づこうとしている光景が目に入る。


「新しいお隣さんか、あんたも魔王というのかい?」


 町中に朝日が燦々と降り注ぐ中、隣りに住む村人も丁度出かけるところだったようだ。


「なぜ名前を知っている」

「ハハハ、違うよ。この町で新顔を見ると冒険者か中央からのお役人様か変な奴なんだ。

 その変な奴ってのは皆自分を魔王と名乗る。昨日見た魔王は俺の家を物色してやがった。

 そういう流行なのかねぇ。あんたんちも気をつけなよ」

「忠告助かる」


 スライムが言っていたように死んだら別人と認識されるようだ。

 これで昨日ゴールドや蝋燭を盗んだ報復の心配など必要なくなったということである。


 軽快な足取りで町の中心部手前まで歩くと、

 朝早くから昨日と相も変わらず勇者ごっこをしている子供がいる。

 昨日から変わったことといえば男の子二人から男の子二人と女の子一人に増え、

 お姫様役の女の子と姫を奪った魔王、そして勇者が姫を取り戻すべく戦っているようだった。


 なんだかんだでいつも負けてしまう魔王役の男の子を応援していたが、やはり現実は非情である。

 例え勇者が瀕死だったとしても必殺技で攻撃すれば、どれほど強い魔王でも必ず死ぬ定めなのだ。

 圧倒的だった魔王が息の根を止めようと勇者に剣を振りかざすが、

 女の子が勇者に声援を送ると勇者が力を振り絞り雄叫びを上げ、魔王の剣を弾き必殺技を繰り出す。


「喰らえ! ヴォルディスラッシュ!」

「グハッ! おのれヴォルディ! 必ず復活して貴様を殺してやろうぞ!」


 断末魔を上げ復活と復讐を誓い呆気無くバタリと死ぬ魔王、

 魔王の元から駆け出し勇者の胸元へ飛び込む女の子、

 少し鼻の下を伸ばした勇者。


 下らない茶番劇を横目にやれやれとギルドの扉を押し開く。


「邪魔をする」


 城の扉と違い綺麗でサビて不快な音を上げない扉を押し開けた。

 中を覗くと、カウンターにポニーテールが美しい看板娘が座っている。

 壁際には階段が取り付けられておりロフト状の二階からは和気藹々わきあいあいとした空気が、

 一緒に音を奏でようと周囲を囲む。


 おそらく二階は待合場所兼酒場みたいなものなのだろう、

 太陽が登って間もないというのに酒を注文する愉快な声がギルド中に響く。


「いらっしゃいませ、冒険者の方ですね」

「ああ。昨日この町に着いたのだが恥ずかしながら資金が底を突きそうなのでな。

 何か仕事を紹介してもらおうと思っている。」

「分かりました。では当ギルドが扱っている仕事について案内します。

 まず冒険者様が請け負われる人気な依頼の一つとして輸送護衛が人気です。

 魔物や盗賊による攻撃で怪我や離脱により欠員が生じてこの町で護衛を増やしたい場合、

 新たにこの町から他の町に輸送したいが護衛が欲しい場合など、

 当ギルドが斡旋して代役としてご紹介を預からせていただいております。

 報酬の相場は1日につき何事もなければ5万ゴールド。

 魔物に襲われた場合、追加報酬をお支払いするのが一般的となっています。


 次に少し危険が増しますが依頼品の採集です。

 依頼で最も多い薬草採集はどこにでも生えているのですが森の中だったりと、

 魔物に襲われる可能性が街道に比べ高くなっています。

 報酬の相場は歩合制となっていますので一概にいくらとは言えませんが、

 朝から夕方まで集めて2万ゴールド程となっております。

 また、魔物の皮など更に危険なものとなればそれ相応の報酬が約束されてます。


 最後に、国からの依頼が主である魔物討伐です。

 依頼の数が少なく冒険者同士の競走が激しいのですが冒険者の中でも歯が立たず、

 難しい依頼ばかりが残ってしまっている状態です。

 初見の冒険者様にはあまりお勧め出来ない内容ですが、

 報酬は他の依頼に比べ群を抜いて最低でも100万ゴールドからとなっております」


 あまりに長い説明は途中から聞く気が起こらず、

 鎖骨まで服がはだけた看板娘の胸元をバレないように眺めて聞き流していたがつまりアレだろう。

 考えるまでもなく最も金が稼げる魔物討伐が一番良いに決まっている。


「では魔物討伐に関する一覧を見せてもらおうか」

「少々お待ち下さい」


 カウンター後ろにあるファイルを取るためお辞儀をし、受付嬢は後ろを振り向く。

 上の方で髪の毛を結んでいたので首の項うなじが見え、下心をくすぐった。

 髪のある魔物が今後配下になったらポニーテールにさせようと心に誓う。


「此方でよろしいですか?」


 ファイルを棚から抜き取とるとカウンターの上に一枚一枚広げてくれた。


 嵐のように棘を放つ植物『ランサーボウ』110万ゴールド

 洞窟に入る者に容赦なく超音波で攻撃する怪鳥『ビックボイスバット』130万ゴールド


(中略)


 大魔導師が作りし宝物庫を守る動く巨石『タイラントゴーレム』1800万ゴールド


 無論最高額の依頼を指定する。


「これを受けよう」

「た、タイラントゴーレムですか。数年前に出されて未だに達成できていない依頼ですよ?」

「構わん。我が軍には無敵の男がいる」

「わかりました。では討伐した証として何か証拠を持ち帰ってください。

 報酬は此方にある1800万ゴールドから紹介料として20パーセント頂きます」

「了承した」

「場所はこの町から森へ入り徒歩1時間のところにある山の麓付近となっています。お気をつけて」


 依頼を引き受け、目下の目標が見つかったので颯爽にギルドを後にし城へと戻ることにした。

 帰り道、まだ子供たちは同じ場所で遊んでいるらしく、


「娘は渡さん!」

「王様! どうかお姫様を私にください!」

「ヴォルディ! お父様私この人が好きなのです!」

「ならん! 決してならん!」


 姫を好きになった村人と、

 村人を好きになってしまい身分差が障害となって村人と駆け落ちを唆す姫、

 それを辞めさせるべく姫を説得する王様。

 異世界にもロミオとジュリエットみたいな寸劇があるんだなと感心する。


「お疲れ様でした、ギルドの方はいかがでしたか」


 城へ着き、ドアを開けるとスライムから労いの言葉が掛かる。


「依頼は受けた、報酬額は1800万ゴールドだ」


 どっ、と玉座に深く腰掛けタイラントゴーレムを倒す作戦を練り始める。


「タイラントゴーレムを知っているか?」

「存じません」

「ではゴーレムは知っているか?」

「はい。ゴーレムは石や土を繋ぎあわせて作られた魔導生物だと聞いております」


 弱点や倒し方の検討をしようとしたが、情報不足で作戦を練るなどという段階では無かった。

 情報が無いとなればギルドの二階や酒場で聞きこみである。

 ただ、調べるなんて面倒なことをせずとも好きなだけ復活出来るのだから二の足を踏む理由もない。


「少しタイラントゴーレムとやらを見てくる」

「ご一緒したほうがよろしいですか?」

「見に行くだけだ、スライムが出るまでもない。城を守っていて貰えるか?」

「魔王さま……」


 スライムは足をもじもじとして何か言いたげだったが、

 昨日の夜からといい要領を得ない態度が多い。

 言葉に出来ないことなど大したことはない、それより今は情報収集である。


「では城を任せた」


 腰掛けた玉座から立ち上がり外へ再び出ると、太陽が少し上ったのか朝のような肌寒さは感じない。

 山の麓というのだから山があるだろうと四方を見渡すと、

 東の方角にのみ岩肌が所々見え雲の上までは届いきそうにない山があった。


 その山を目指し町の東側出入り口まで歩くと鬱蒼と緑が生い茂った森が現れる。

 森を切り開くわけにもいかず人が踏み入った跡がないか辺りを見回すと、

 昔に大魔導師が整備したと思われる道跡が、森の奥へと続くように残っている。


「迷子になる問題はないな」


 鬱蒼とした森へ恐れること無く道跡を辿り入っていく。

 少し森に入ると陽があまり差し込まないのか薄暗く朝のように肌寒い。

 道は冒険者がここ数日の内にタイラントゴーレムへ挑んでいるのか、

 道跡を遮るように伸びる木々は無く、進行方向にある枝は全て切り落とされていた。



 ガサガサッ


 歩き始めて十分ぐらいだろうか、茂みで何かが動く物音が聞こえた。


「我は魔王である。魔物であれば姿を表わせ」


 魔物が居たとして従うか従わないか判断できなかったが、

 魔物であれば魔王であることを明かせば危険を回避できるかもしれない。

 そう思い相手の出先を伺っていると揺れる動く茂みが一つ、また一つと増えてゆく。

 だが相手に敵意があるのか、あるいは言葉が通じないのか未だ姿を見せない。

 結果、数を集める時間稼ぎにしかならなかったらしく、


「Gaw!」


 突如震え上がりそうな吠え声と同時に、腰より高さのある4足歩行の魔物が飛び掛かってきた。

 揺れ動く茂みに意識していたため、

 大きな口を開け噛み付いてきた生物には難なく避けることに成功する。

 だがしかし回避したのも束の間、まだ茂みに潜んでいた2匹が続けざまに飛び掛かってきた。


「ぐッ……」


 二匹の鋭い牙が深々と手足へ突き立てられる。

 武術の心得どころか喧嘩の心得すら全くない素人同然の魔王には、

 一度避けた後再び避けるなどという高度な技術はなく、


「魔王に対し攻撃するとは下郎が!」


 と手足を振り払ってみようとするが深く突き立てられた牙から逃れられない。


「Grrrrrr」


 唸り声とともに目の前の茂みから群れのボスと思われる一回り大きい生物が、

 ヨダレを垂らしゆっくりと着実に近づいて来た。


「これ以上危害を加えるというのであれば、容赦せぬぞ!」


 力を振り絞り魔王オーラを纏おうとしてみるが上手く出すことが出来ない。

 全身を毛が覆い口にたくさんの鋭い牙を持つ魔物が眼前まで来ると、

 口を大きく開け喉を鳴らし覚悟を決める間もなく首に噛みつかれる。


「ッッ……!」


 途端、声にならない痛みが脳に今すぐここを離れろと危険信号を発する。

 逃げようともがくが噛みつかれた手足が自由にならない。

 首元を噛む生物は抵抗の意思を感じるとねじ切るように頭を左右に振ると、

 それに釣られて魔王の頭も左右に揺れ動いた。


 痛みで薄れゆく意識の中、

 せめてタイラントゴーレムを拝むまでは死ねまいと、

 必死に目を開けようとするが重たい瞼が見開くことを拒む。


「ここまでなのか……」


 徐々に瞼は閉じられてゆき、完全に閉じられた瞼によって一面見渡すかぎりの闇が広がる。



 闇が広がったと思うと、瞼が急に軽くなり目を見開く。

 すると噛みついていた魔物は周りにおらず、見覚えのある天井とふかふかのベッドが体を支えていた。

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