4章-1
「はい、それじゃ注目。
これより第一回、魔王会議を始める。
そこ、ゴーレムはお菓子を食べない、ヴォルディもシリンの横にくっ付いて口説くのをやめる。
ほらほらさっさと会議するぞー」
坑道で皆を治療した俺たちは首都アスラを出る前に、
シリンの家に設置していた転移ゲートへ繋がる転移魔法のゲートを展開した。
無事家に着きスラムの人たちは各々の家へと帰っていく、
その中でシリンの家で暮らしていた子供の親は、誰一人として幸いにも欠けていない。
知らせを聞いて夫を迎えに来て見当たらず、悲しみのあまり気を失う人もいた。
なんて声を掛ければ良いかわからない。
戸惑っていると同じ境遇の人たちが励まし合って、他の無事だった人も励ましていた。
自分の出番はないなと思い、自分の出来うる事に全力を注ぐことにしたのだった。
「今回の議題は女神派教会の自惚れにゲンコツを叩き込むことだ。
奴らをこのまま野放しにしてると純粋な人間以外何一つ幸せでない。
俺はこの元凶を潰そうと思う。
タイムリミットは各地の騎士団が戻ってきて教会に手出し出来なくなることだ、大体どれくらい掛かりそうだヴォルディ」
「そうだねぇ、場所によるけど2日もすればある程度騎士が集まるし、
魔法にたけた人もそれに合わせて集まるしホント2日を越せば手出し出来ないんじゃないかな」
ヴォルディはシリンを一旦口説くのをしぶしぶ辞めて答える。
横でシリンがようやく少し休憩できると思ったようだが、自分の問いかけに答えた後再びすぐに口説かれ始めた。
よく張り倒さず我慢しているなと思う。
「リミットは最大で2日、この間に教会を潰すわけだがトップを潰しただけじゃただの暴力だ。
そこでシリンの力でシリン主導のスラム全体の意思として欲しい、出来るか?」
「スラム全てに顔が効くからお安い御用だよ」
「条件は揃った、なら流れはこうだ。
教会の横行が今回の鉱山で明らかとなり、身分制度が間違っていることにスラム一同となって反旗の狼煙を上げる。
そしてその暴動により国を収める王を脅すため、教会のトップの首を持って行き正式に身分制度の撤廃を迫る。
実態は俺たちが教会に殴りこみ、そのあと城で王様を脅すというものだけどな」
言ってて自分でも思うが、あまりに自分勝手な案だろう。他にもっといい方法があるだろう。
「思うんだけどさ、もっといい方法はないのかい」
シリンから当然妥当な質問が投げかけられる。
「ならスラムはこれからも我慢しますってか。
訴えて改善を迫れば大多数を占める弾圧を有って然るべきと考える人たちで、
より一層弾圧されるだけだ。
その中に良識があり反対してくれる人もいるだろう、だがその努力が実るのはいつだ。
10年後か? 20年後か? その間にスラムの人は何人生活に困りそして死んでいく。
俺の世界では時間による解決をしてきた歴史が残ってる。
平和的で穏便な解決法だろう、しかし俺はそんな時間を待つ気はない」
少し強く言い過ぎた。シリンが俯いてしまってヴォルディが此方を睨んでいる。
「おいおい魔王さんよ、そんなにきつく当たらなくて良いんじゃない?
確かに魔王の言うとおりだけどさ、シリンちゃん女の子よ。もっと優しくするべきじゃない?」
ごもっともな反論に返すすべもない。
「俺はやりたいようにやる、文句があるなら俺に言えばいい。
今日の会議は終わりだ。明日朝、シリンの家に集合すること。
宿に行くぞスライム、ゴーレム」
その場にいるのが辛くなり捨て台詞を吐いてシリンの家を出てしまった。
もっと上手く立ち回れたと思うが今の俺にはこれが限界、
後を追いかけるようにゴーレムが付いてきて、聞き取れなかったが何か数言話したあとスライムが後を追ってくる。
今日はもう疲れた。
スラムの人を救うために坑道で大立ち回り、魔力が殆ど尽きて眠気が襲ってくる。
会議も疲れから苛立ちに変わってあのような結果になってしまった、ということにしておこう。
「魔王さま、その、お疲れ様です」
宿に向かう途中スライムが労いの言葉をかけてくる。
まだ宿に着いていないのにスライムが労うなんて初めてだった。
「そんなに疲れている顔をしてるか?」
「それもありますけど、初めてこの世界にやってきた魔王さまとは全くの別人になったようで、恐ろしいです」
「恐ろしい、か。
なんでこんな風になっちゃったんだろうな」
道行く先の人々は皆普通に生活し、同じような毎日。
店口の上に看板を取り付けて親方に怒られている青年は、家に帰れば家族に愚痴を言って翌日また仕事に精を出すんだろう。
その店の中で仕事上がりに飯を食べようとする客の相手をする女性は、夜まで忙しなく働いてクタクタになるのだろう。
自分も以前の世界であればその中の一人であり、明日も再び同じ日が繰り返されると憂鬱になったものだ。
一度決めた理想の魔王になろうなんて、今からでもすぐに辞めて元の世界に戻りたい。
「この世界にやってきてさ、魔王っていう超有名な人に生まれ変わったのだからと気張ったけどさ。
やっぱり俺には重荷だったらしい、全て投げ出したくなってしまう」
いつもはただ赤いだけの夕日が、今日は見つめれないほど眩しい。
「私は、知り合ったばかりの魔王さまも今の怖い魔王さまもお慕いしております。
どこまでも私は魔王さまを信じて付き従います」
スライムの言葉に甘えてしまいそうになる、甘えてしまえば全て救われるような気がする。
本当に甘えてしまっていいのだろうか、分からない。
悩み歩いているといつの間にかギルドに紹介してもらっていた宿に到着する。
入り口を入るとカウンターにいる支配人に、顔を覚えられてたらしくすぐに部屋へ通された。
部屋に着くなり疲れきった体を沸かしてもらった水で拭い、宿食を用意してもらってたらふく食べる。
食べた後はいつものようにスライムに枕へとなってもらい、明朝起こすよう頼んで泥のように眠った。