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ねこの思い出10「千の風になる」

作者: 西宮尚

18歳8ヶ月で逝ってしまったねこの思い出をつづります。

そのねこは、最高にかわいい容姿と最悪な性格をしていました。


ねこは、12歳を過ぎたあたりから寝ていることが多くなった。

でも、姿はまだまだ若々しく、歳を取った感じはしなかった。

それでも、じゃれなくなったり、行動的ではなくなったり、爪とぎ用の松がだんだん白くなくなってきたりして、確実に歳を取っていくことは感じた。

ただ、見た目だけは、逝ってしまう1ヶ月半前でも、ねこを見た通りがかりの人が、「若くてかわいいねこちゃんですね」とほめてくれるぐらいの美猫だった。


そして、夏の暑さと、冬の寒さは苦手になった。

暑くなると、とたんに夏バテして、ごはんを食べなくなった。

寒くなると、ヒーターをつけろとうるさく訴えるようになった。


そして、去年は記録的な猛暑だった。

夏バテで、ねこは、みるみるとやせていった。

でも、夏にやせるのは毎年のことなので、涼しくなれば、また元に戻るだろうと思っていた。


秋になって、ねこの食欲は戻ったが、体型はやせたままだった。

食べるものも、今までにもまして贅沢になった。食べたいものしか食べなくなったようだ。


それでも、ねこを医者に連れていくことはなかった。

若い時に、ごはんを食べなくなって元気がなくなったねこを医者に連れていったことがあった。

その車の中で、思う存分暴れた。

医者の前でも、それは続いた。ねこは医者を嫌がって逃げ回った。

「どうしました?」

「食欲がなくて、元気がないんです…」

「これは、じゅうぶんに元気だと思いますよ…」

なんて、ギャグのような診察になってしまった。


冬になったある日、ねこがごはんをまったく食べなくなった。

そして、ようやく医者に連れていったのだ。

診察で歯肉炎が見つかり、口の中が痛くなって食べられなくなっていたようだ。

そのまま、血液検査と点滴をうけるために入院した。


ねこのお見舞いに行った。

点滴の管を腕につけて包帯をしていた。

それだけでも痛々しい。

それよりも過酷なのは、ねこの周りのオリの中には犬がいた。

私が近づくと、犬がいっせいに吠え立てる。

犬が大嫌いのねこが、こんな環境にいることに落涙した。


ねこの血液検査の結果は最悪だった。

腎不全がかなり進んでいたのだ。歯肉炎は腎不全の一つの症状だった。

水ばかりをごくごく飲んでいたのには気が付いていた。

それが、腎不全の症状だということに、医者からもらったコピーを読んで知った。

まだ元気だったその時に、医者に連れていけばよかったと後悔した。


入院から帰ってきたねこは、私や家族に甘えた。

このねこが甘えるなんて、本当にめずらしいことだ。

それは、もう二度と、このいえから離れたくないようだった。


ねこは18歳7ヶ月になっていた。

インターネットで調べてみると、人間に換算して90歳を過ぎたおばあさんだ。

そこで、私も家族も覚悟を決めた。

このまま、いえで見取ることにした。


それから一ヶ月。

ねこは暖かいヒーターの前に陣取って丸くなる生活を続けた。

私も家族も、ねこがごはんを食べたといっては喜び、ごはんを食べず元気がないといっては悲しんで不安になった。


逝ってしまう6日前の夜中に、ねこは家からの逃亡をはかった。

ねこは死ぬ前にいなくなるという事を実行したのだ。

この寒い冬に外にいったら、そのまま死んでしまうのは明確だった。

両親は、必死でねこを探して、そして何とか捕まえた。

でも、その逃亡に全精力を費やしたねこは、歩くことも出来ない状態になってしまった。

ねこは、妖怪猫又になる機会を失ってしまったのだ。

それでも、連れて帰ってくれた両親には感謝した。


ねこは最後まで気丈だった。

ずっとヒーターの前で横になっていたが、トイレに行きたい時、人の姿を確認すると、座る姿勢になる。この合図で、みんな、ねこをトイレに連れていった。

ねこは、座る姿勢を2秒保つのが精一杯になっていた。


最後にねこをひざの上に乗せたことを覚えている。

ねこは、もう、歩きも座りも出来なかった。

でも、足腰を震わせながら、私の方に近づいてきた。

それは、生まれたばかりの馬が始めて立つ姿に似ていたが、とてもひ弱だった。

私は、ねこをひざの上に持ってきた。本当に軽くなったと感じた。

ねこはひざの上で丸くなった。そして、いつものように手で顔をかくした。

これは、私が、あごの下のふかふかした毛をさわるのが大好きだから、丸くなっているねこのここばかりをさわっていたため、ねこはそこをかくすようになった。

でも、一時間ぐらい我慢してねこをひざにのせていると、ご褒美として、顔を出してふかふか毛をさわらせてもらえた。

軽くなったねこをひざに乗せるのは、我慢は必要ではなかった。

それでも、一時間すると、ねこはかおを出してくれた。

ねこのそのふかふか毛は、いままでと変わらない、やわらかくて密度の濃いネコっ毛だった。

私は、涙が止まらなかった。

この、死に逝くねこがいとおしくてたまらなかった。


その後、ねこは眠るように静かに逝ってしまった。


-(n.n)-

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― 新着の感想 ―
[一言] ネコ好きにはたまらない作品集ですね。 1〜10まで全部読ませていただきました。 最後の亡くなるシーンではウチの猫でもないのに泣きそうになってました。 これからも、頑張ってください。 では、失…
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