推理推定
あなたの死を望みます、
いつも通りに書かれた文字を消した。
文字は消しゴムをを数回往復させると、呆気なく消えた。
机の上に残った消しカスを払いながら、考える。
いじめ、なのかなぁ?
こんな風に毎日書かれるなんて、やっぱりおかしい。
でも大事にはしたくない。
こんな文字を毎日机に書かれている事を知られたら、いじめ断定。
あの女教師が飛んできて「こんな事をするのは誰!?」と金切り声でクラスメイトを断罪。
断罪されたクラスメイトから私は、ある程度の同情票と、そして疑いの目を向けられるであろう。
「自分でやったんじゃ無いの?構って欲しくて」
クラスでも目立つほうでは無いモブキャラA存在の私には、たぶん。
そんな言葉が送られるであろう。
下手したら、そこからいじめが発生しかねない。
・・・・・・それは、避けたい。
なんとしてでもそれは避けたい。
こんな机に書かれた文字程度で、そんな言葉を言われる筋合いはないし、目立ちたくない。
文字自体も机いっぱいに書かれているわけじゃない。
その証拠に、毎日書かれても机の持ち主である私以外に気付いている人間がいないぐらいだし。
消しゴムを数回往復させる程度で消える。その程度だ。
大抵、机の隅、右端や左端の方にこっそりと書かれている。
なんでこんな事ーーーーー
「樹里?」
「うわぁあ!?」
気づかなかった。友梨が驚いた様にこっちを見ている。
「ごめんごめん、考え事してて気づかなった」
「考え事?」
「う、うん、そんなとこ・・・・・」
曖昧に誤魔化しながら、どうしようか考える。
友梨は、私とクラスが同じの友達。その付き合いは小学生の頃からで・・・・・えーと、友梨になら話してもいいかな?
素直にそう思えた。そんな、心配そうな顔で見られると・・・・
私がほぼ毎日の様に机に「あなたの死を望みます」と書かれている事を知ると、案の定。
「何それ!気持ち悪い!誰よ、そんな事してるのは!!」
しーっ、しーっ。
大声を出さないで!
「あっ、ごめん」
こっちに視線を向けているクラスメイトたちに、何でもないです、とジェスチャーする。
クラスメイトたちの興味は別に移るのを待ってから。
「あまり大事にはしたくないの。ほら、あの、田中がいるでしょ」というと、友梨は「そうだね」と納得した。
あの田中とは田中美佐子、もうすぐアラフォーの独身で赤いフレームをかけた「女教師」のことである。
通称「田中」。
いじめの現場を見るや否やすっ飛んできて、成敗するという教師の理想の様な存在だが。
そのいじめ成敗は行き過ぎている。
先生、それはイジメではなくおふざけ・・・・だって。
最近の犠牲者は野球部のバッテリーコンビ。
その眼鏡は曇っているともっぱらの噂だ。
「だから大事にはしたくないの、この机の文字以外に実害はないし。」
あんな風に騒がれたら、それがきっかけでいじめが発生しかねない。
火のないところになんとやら、わざわざ火種を投下したくない。
というと、友梨は納得したようにうなづいた。
今のところ、実害は無いのだ。
物がなくなったり、仲間外れにされたり、そんなことは全然。イジメに該当する物もない。皆無。
こんな風に机に文字を書かれる以外には。
だからこんなにものんびりと構えてられるのだ。
「でもいいの?」
「確かに気味は悪いけど・・・・・」
誰が書いているのか。こんな、文字。
あなたの死を望みます。
あなた、の死を望む。つまり。この机の持ち主である。「私の死を望む」。
書いた人は私の死を望んでいる・・・・文面はあまり心地のいいものでも無い。
だからと言って、全く逆のあなたの事が好きです、愛しています。と書かれてもそれはそれで気持ちが悪い。
本当に誰がこれを書いているんだろう。
これを書く人物に心当たりは無いーーーーー