このタイミングに......
開店の時間が来た。今日もいつもと変わらない日が―。
「クルヤ、今日東京で株主総会あるから、頑張ってねー」
来なかった。彼女はこの店、喫茶店「ふりー」のオーナー兼ウェイトレスの葉和イヴ。証券マンの父の影響か、株で大成功連続記録更新中。毎度思うが、こんな街外れで喫茶店始めたのか分からない。
「あ、それとそれと!」
「なんですか? もう営業時間過ぎていますし、手短にお願いしますよ」
そろそろ、常連の山田さんが来店するはずだし、好みのブレンドの調整もやらないといけない。山田さん用のブレンド、結構細かいから、早く手をつけたい。
「今度、株もう一回やってみない? 今度はある程度、目星は付けているからさ」
硬直してしまった。イヴさん、前の件のリベンジするつもりなのか?
一年前、イヴさんの勧めで一度だけ株を買ったのだが、5時間後、その会社の不祥事が明るみになり、株は大幅に下落(およそ購入時の1/4ほど)。すぐにその株を売り、その金を元手にイヴさんがすごい手際で株を探し、損失額を補填してくれたので、事無きを得たが、数か月、その銘柄とチャートに拒絶を覚えてしまった。
「止めておきます」
朝からブルーな気持ちになり、山田さん用のブレンドを作り始めるのであった。