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六曜の武器

作者: タロ

いろいろな武器を考えてみようというノリで書いた話です。


よかったら、御一読ください。

 昔々、『六曜の武器』と呼ばれる刀があった。

 それを手にした者は、強大な力を得ることが出来たそうな。

 ただし、その刀は、呪われていたらしい。


 古い伝説だ、作り話だ、そう言われて六曜の武器は語り継がれた。

 六曜の武器は、一つの鞘に納められた一振りの刀の形をしていたそうだ。

 しかし、ひとたびその刀を抜くと、ランダムに六つの形に刀が変化したらしい。

 六曜の武器を作った者が言うには、その刀には特殊な魔力が宿ったのだという。刀を打っている時の、より強い武器を、どんな状況にも対応できる多様性も備わっていれば尚良い、という刀匠の思いが不思議な力となり、刀に宿ったらしい。

 そうして偶然できた『六曜の武器』と名付けられた刀は、それは素晴らしい力を発揮したそうだ。様々な形態に変化し、まるで所有者の願いを聞いてくれるかのように、所有者の力となって功績を残した。

 だが、その刀には、とある〝いわく″がついていた。

 所有者の力となる代わりに、所有者の命を奪うというのだ。

 事実、刀匠の命を皮切りに、六曜の武器を手にした者は次々と亡くなっている。

「六曜の武器には、不思議な魔力が込められている」

 その噂を聞きつけ、力を得ようと六曜の武器を求める者もいたそうだ。

 が、手にした者が次々と死ぬ刀は、次第に『妖刀』として人々の間に広まり、「魔物が棲む刀」として恐れられるようになった。

 今ではもう、六曜の武器を進んで求める者はいない。


 が、何事にも例外はある。


     ○


「六曜の武器、欲しいなぁ~」

 男は、六曜の武器を求めた。

 そして、みつけた。

 みんなが忌み嫌い要らないというから簡単に手に入れることが出来るだろうと思い、まずは中古の武器屋に行った。

 が、残念ながら、どこにも売っていなかった。

 しかし、帰り道に立ち寄った裏山の祠に、それは落ちていた。

「あ、これ、っぽい」

 不思議な雰囲気を放っていた刀を、躊躇うことなく、男は手にした。

 その瞬間、男の周囲に白煙が立ち込めた。

「やっぱり、妖刀っぽい」

 男がにらんだ通り、それは、妖刀・六曜の武器だった。

 それを証明したのは、他でもない、妖刀に巣食うと言われている魔物だった。

「ザッツ・ライ、これは六曜の武器です。そして、俺は、この刀に宿った妖精です」

 三メートル近い大男だが、上半身のビックサイズと比べて下半身がやけに小さい。

 これは魔人に違いないと、男は判断した。


「でもさぁ」不満気に口をヘの字にし、魔人が言った。「もう少しビックリするとかしても、いいんでない? じゃないと、こちらも張り合いがないのよねぇ」

「と、言われても」

「と、平然と返されると、逆にこっちがビックリださぁ」魔人が言うには、男の反応が小さすぎることが気にくわないらしい。「ユーは知らないだろうけどさぁ、こちとら久しぶりのシャバなワケよ。もうほんと、『シャバ』って言葉を使いたくてウズウズしていた位のシャバっぷり」

「……じゃあ、ビックリしたぁ」

「うわぁ、ビックリした!」魔人は、大口を開けて驚いた。「『じゃあ』って何さぁ? もう、こっちが逆にビックリ。気を遣われてビックリされてビックリださぁ」魔人は、まるで息苦しい空間から出てきて必死に呼吸するように喋り続けた。「俺も長いこと刀の妖精をやらせてもらっているけど、こんなに張り合いがないのは初めて。新鮮。新鮮だけど、あれ?喜べない。すごく微妙な心境。これがドラマの出会いのシーンだったら全魔力を使って台本を書き変えたくなる位かもしれない。いや、そうじゃないかもしれない。出会いも男女だったらって話だし、妖精は性別ないし。まぁ一応、俺はメンズってことでやらせてもらっているけどさぁ。あ、ところで、俺が自分の事を妖精っていったことはスルーでOK?」


「あの…」

「ああ、いいから」魔人は、男が話すのを遮った。「怒っているワケじゃないから」

「……ありがとうございます」

「ドンマイ」

 妖刀ってこんなに面倒くさいモノなのか、だから忌み嫌われるのか。

 男に後悔の念が湧いた。



「じゃあ、だらだら喋っていてもしょうがないし、ビジネスの話でもしましょうか」

 魔人が言った。

「ビジネス?」

「おたく、俺の事をどれくらい知っている?」

「赤の他人以上、初対面未満」

「OK! じゃあ、自己紹介を兼ねての説明を始めますよ」

 魔人の進行に、男は、口を挟まなかった。

 だから、魔人の口はスムーズに動き続けた。

「とりあえず、俺の力が宿ったこの刀は、六通りに変化します。これ、初歩」


     先勝せんしょう


「まずは、『先勝のナイフ』」

「ナイフ?」

「ナイフにも変化するのか、と言った口ぶりだな。はい、変化します」

 魔人が言うので、とりあえず信じてみることにした。

「それで、そのナイフとは…?」

「脇差よりも短い、小型のナイフだ。軽くて扱い易く、素早い攻撃が売りだ」

「へぇ…」

 男は、ただ聞きいった。


     友引ともびき


「攻撃があれば、防御もあるよ」

「え? 武器じゃ…?」

 男は疑問に思ったが、「リッスン!」と魔人が言うので黙った。

「防御と言ったら?」

 聞けと言われた直後に、質問された。

 そんな理不尽にも、「えーっと」と男は対応した。

「盾?」

「ノー」即否定された。「正解は、鎧です。『友引の鎧』」

「鎧って、武器なの?」

 男は訊いたが、魔人は無視した。

「ネクスト」


     先負せんぶ


「お次は、『先負のロッド』」

「ろっど?」

 聞き慣れない単語に、男は首をかしげた。

「ロッドというのは、直訳で『棒』だ。俺の場合は、先端に鉄製の球体が付いたヤツ」

 そう言われ、男が想像したのは、

――ゴルフボール?

 ピンショットを思い浮かべた。

「あれ? ちょっと なめていません?」

「いいえ、そんなことは」

 じゃあ耳かきかな、男は思った。


     仏滅ぶつめつ


「もう少し、武器っぽいヤツは?」

 男が訊くと、「充分武器っぽいだろうに」と魔人は口をすぼめた。

「…じゃあ、『仏滅のグローブ』だ」

「グローブ?」

 話が違うと言いたげな男の反応を見て、魔人は「チャウ、チャウ」と手を振った。

「野球やボクシングというよりはサッカーだ」

「サッカーはグローブしませんよ」

「するだろ、キーパーが」

「ああ」

 男は、思い浮かべて納得した。

 魔人が、グローブの特徴を説明した。

「殴った時は拳を保護してくれるし、熱いモノを持つ時や固い瓶のふたを開ける時なんかも役に立つ」

「ああ」

 つまり軍手ね、と男はさらに納得がいった。


     赤口しゃっこう


「どれも不満そうね」

「……まぁ」

「じゃあ、拳銃いっとく? 『赤口の銃』」

「いきなり強烈な武器ですね」

 男は、少し驚いた。

 が、この刀はどんなモノにでも変化するのだろうと思い始めていたから、疑いまではしない。

「強烈よ」魔人は、得意顔をして言った。「命中すれば、どこでも致命傷。でもね…」

「でも…?」

「ただでさえ素人の撃つ弾なんてそうそう当たるものでもないし、この銃は強力すぎて、その威力に、並の筋力では反動に耐えられないから照準はブレブレ」

「ダメじゃん」

「ダメじゃない。ちょっと じゃじゃ馬すぎるだけ」

 否定的な態度をとる男にも、平然と魔人は返した。


     大安たいあん


「六曜ってことは、あと一つ?」

 嫌な予感がして男が訊ねると、「ザッツ・ライ」と魔人は笑顔で答えた。

「というか、最初に言ったしね」

「あと一つしかないの?」

 残念だ、という思いで男は言った。

 しかし、そんな男の気持ちを変えるように、「大丈夫」と魔人は言った。

「次のは、ある意味大当たり」

「本当に?」

 ちょっと期待した男。だが、そんな気持ちもまたガラリと変えるように、

「でも、ある意味大ハズレかも」

 と魔人は付け足した。

「どういう意味?」

「最後の一つ、『大安の剣』は、たしかに所有者の望みを何でも叶えてくれる強力な武器になるんだけど、使用者の命を奪うというリスクも付いているワケ」

「……ダメじゃん」


     ○


 嫌な予感がして、男は、「他の武器にもリスクはあるのですか?」と訊いた。

「よくぞ聞いた」魔人は、快活に答えた。「全部の武器に、メリットとデメリットがある」

「どんな?」

「『先勝のナイフ』は、発動してすぐは強力な武器となるが、すぐに棒切れ以下の重荷になる。『友引の鎧』は、負けない盾ではあるが、勝てない剣でもある。『先負のロッド』は、その重さに慣れるのに時間がかかる為に先手は取り辛いが、慣れれば役に立つ。ま、慣れるまで勝負が持てばの話だが。『仏滅のグローブ』は、攻撃力もあって素早さもあるが、己の拳を使うが故に諸刃の剣とも言える。『赤口の銃』は、強力な拳銃だけど、六発しか撃てない。『大安の剣』は、先程言った通り」

 魔人の話を聞き、男は、それらのイメージをした。

 どれも厄介だな、男は思った。

 が、あえて選ぶなら、ナイフか銃かな。

 そんなことを思っていると、「ちなみに」と魔人が続けた。

「どの武器も、一度抜くと、最低一つの命を吸うまで鞘に戻らない」

「え~」

「運が悪ければ、所有者の命が奪われる」

「えぇ~」

 最悪だな。


「さあ、どうする?」

 魔人は、声を高くした。

 いよいよ選択の時。

 その時を心待ちにしていたかのように、見るからに高ぶっている。

「俺を手にするよな? するだろ? あ、ちなみに、どれがイイかアンケートとっているから教えてね。別にどの武器に変化するかの確率に影響はないつもりだけど、どうなるかなんてわからないし、こっちとしても知っておいて損はないしさ」

 所有者に対する好き嫌いで何の武器に変化するか確率を変えることが出来るから、とは教えずに、魔人が言った。

「う~ん…」

 唸りながら考える男は、渋い顔をして、

「どれもイヤだ」

 と答えた。

「……え」一瞬驚いた様子の魔人は、「それは、俺を持つのが嫌ってこと?」と不安そうに訊ねた。

「いや、武器は欲しい」

「そうか」魔人は安心した。が、すぐに苦い顔になり、「どれもイヤってどういう意味だよ」と訊いた。

「だって、どれもリスク付きだろ?」

「そりゃあ、そうさ。リスク無しで得られる力なんて、あるワケ無いだろ」

「そうかもしれないけどさ…。俺は、いざという時の為に、大切なモノを護れる力が欲しい。そして、その先の未来では、みんなが笑っていてほしい。もちろん、俺も、一緒に笑っていたい」

「…ワガママだな……」

 軽蔑するように、魔人はいった。

 だが、恥じる事も臆する事もなく、男は言った。

「ワガママなのが、人間だ」

「……面白い」

 微笑し、そう言い残すと、魔人は刀の中に戻った。


 こうして男は、『六曜の武器』と呼ばれる一振りの刀を手に入れた。


     ○


 昔々、『六曜の武器』と呼ばれる刀があった。

 それを手にした者は、強大な力を得ることが出来たそうな。

 ただし、その刀は、呪われていたらしい。



 その刀は、一度抜くと六つの内の一つに姿を変え、最低でも一つの命を吸うまで暴れた。

 その刀を手にした者は、何人もいた。

 刀は、姿形を変え、渡り渡って、たくさんの命を奪った。

 しかし、刀を手にした者の中で一人だけ、鞘に納めたまま使う者がいたとか。



『先勝のナイフ』を握った者は、その素早い攻撃で立ち塞がる敵を倒してみせたが、その勢いも最初だけで、すぐに刃こぼれしたナイフはポッキリ折れて、負けた。

『友引の鎧』を身に纏った者は、その身を守る強固な壁を得たが、その壁の中に閉じ込められたまま、目の前で大切なモノが傷つくのを、何も出来ずただただ見ることになった。

『先負のロッド』を持つ者は、その武器を振るう前に、護りたいモノを失った。

『仏滅のグローブ』を装着した者は、血で赤く染まった自らの手を見て、これでは大切なモノも汚してしまうからと恐れ、そっといなくなった。

『赤口の銃』を得た者は、その力をいかんなく使ったが、本当に大切な時、護る力を失っていた。

『大安の剣』を手にした者は、望みを叶えた後、謎の死を遂げた。



 六曜の武器を鞘に納めたまま使った者は、いざという時の戦う力を持ったまま、一度もその武器を使うことなく、死んだ。 


もう少し考える余地があった気もしますが、こういう形で終わりです。


私の勝手な思いですが、様々な解釈で楽しんでいただけたら嬉しいです。

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[良い点] 発想が良いね〜 [気になる点] 文句無しです [一言] 私の作品も是非ご覧下さい♪、なんか宣伝風ですいません。まだ執筆を続けるつもりでしたら頑張ってください!
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