役にたつ魔法を覚えたい
「つまり、そういうわけじゃよ」
世界最高レベルの魔法学の権威という白髪の博士はそう言うと、話はこれまでとばかりに目を閉じた。
何を言っているのかさっぱりわからない。説明も何もなしでいきなりそんなこと言われても困る。わたしは博士の肩をゆすった。
「そういうわけって、どういうわけですか」
すると博士の首はぐるんと半周ほどまわり、口が頭のてっぺんにきた。
げっ、死んだのか?
わたしは博士の手首を取って、脈をみようとした。
が、そこはすでに蛇の頭に変容していて、もう少しで噛みつかれるところだった。
危ねぇなぁー、と思った私は机の上に置いてあった厚紙に文字を書いた。
「危険物。取り扱い注意」
その厚紙に穴をふたつあけると、紐を通して博士の首にかけた。
「わかったようじゃの。つまり、そういうわけじゃよ」
白髪の博士は目をぱっちりと開けて、宣言するように言った。
いや、なんのことかさっぱりわかんないんですけど。
わたしはいいたい言葉を飲み込んだ。
それを言ってしまうと、もっとおかしなことが起こりそうで怖かったからだ。
博士はにこにこと笑っている。
そのときわたしは気づいた。
博士の周りにはロダンの「考える人」に似た彫像がいくつも並んでいるではないか。
するとわたしは?
自分の手足を確かめてみようとしたが、わたしの体はぴくりとも動かなかった。
なによりも視線の角度さえ変わらない。
「つまり、そういうわけじゃよ」
新しい訪問者が博士の前で首を傾げ、何事か考えはじめている。