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《ブラフマンとティルト》

「……ホウ。すると、この仕組みはお前さんが自ら?」

「考えたと言うか、以前に他人から貰って使ってたのを、修理で分解した時に自分で多少アレンジしたんだ。前のは、もうちょっと機構が複雑と言うか、部品とか見つからない事も多くて……。あんま細かいと、故障したら応急処置も出来ないじゃん?」

 ティルトはホルダーの装着角度を修正しつつ、分度器を持って腰にへばりついているブラフマンに説明する。

 フィッティング用のこの部屋は、然程さほど広くない上に、細かな修正用に炉や叩き台が設置されており、ティルトの予想より遥かに暑苦しい作業だった。

 因みに、ティルトが注文したのは、多方面武装用の補助用具だ。

 見た目としては篭手とベルト、そしてベルトから下げられたシールドソードやスリングショットなど、数種類の武具から成り立っている。

 その『数種類の武具』を状況によって使い分けることで、ティルトの長所である『機敏さ』を活かそうという意図がある。

 但し、防具としては当然、『しないよりはマシだが、防御力においては普通の篭手よりも確実に脆い』し、この篭手で攻撃を真正面から防御すれば、折角の機構が壊れる事もあるだろう。

 そういう意味で、この武装を『趣味的』と評価する人間は多かろうが、ティルトにとっては自分の長所を最大限に活かすためには必要な武装の一つだった。

「確かに、あまり細かい部品だと、このテの物は危険じゃのぅ。色んな意味で」

 ブラフマンが篭手の角度を微妙に縦に変更する。

 ティルトは修正した位置に自分の腕を重ねて、何度か差し直すような仕草をして見せた。

 それを見て、ブラフマンが再び角度を修正した。

 基本的に、フィッティングの作業はその繰り返しだ。

 地道に自分にとってベストの角度を見つけていくしか無い。

「……おぅ。元になったやつは強度を上げるためなのか、分厚い鉄板張ってあってさぁ。その中に小っさいネジ一杯入ってんのよ。壊れないために硬くしたんだろうけど、本気の衝撃受けたら中の方が先にバラバラになるっての」

 この装備の使い勝手を上げる為には、自分が装着する位置よりもベルトについているホルダーの設置位置と、その角度に拘りを持った方がいい。

 逆説的になるが、ティルトの持っている『機敏さ』と、様々な武器を使いこなす『器用さ』という二つの武器を活かすには、自分の扱いやすい位置にあるという事が基本にして最後の要素なのだ。折角換装できる武装を持っていても、換装にもたついていては意味がないのだから。

 多少の誤差は止むを得ないとはいえ、可能なら、換装に掛かる時間は一秒を切りたいところだ。

「ちゃんと扱える位置にねぇと、換装に失敗してうっかり落とした挙句踏まれて故障、とかなったら悲しいしな。うん、取り敢えずこれで行くわ」

 ティルトが細かな角度を修正し終えて、最終確認していると、分度器やらドライバーやらを片付け終えて、それぞれの位置を細かくメモしていたブラフマンがおもむろに口を開いた。

「そういう事故を防ぐなら、完全なフィッティングをするのも一つの手じゃがのぅ。……ワシにも幾つかプランが有るんじゃが」

「プラン?」

 ティルトは思わず食いついた。

 今回発注した道具は、自分でも完成していると思っていない。いわば試作品だ。

 篭手に使っている機械の構造スタイルそのものは、手本にした機械が信頼の置けるものだっただけに自信があるが、こうして実際に手にしてみると、『思っていたよりも取り回しが難しい』という弱点があることが早くも解ってしまった。

「うむ、金をどのくらい掛けられるのかにも寄るのじゃが、これをそのまま使うよりはいいものにする自信はある」

 ブラフマンはあっさりと断言する。

 作成している間に、ティルトが今感じている弱点に気付いたのかもしれないが、今回の品はティルトがそのデザインから機械の仕組みから全て持ち込んだものだったので、忠実に作らざるを得なかったのだろう。

 ティルトとしては、是非ともそのプランとやらを聞いてみたかった。聞けば自分だけでも出来る話かもしれないし、そうなればアイデアを頂けば工賃は無料だ。

「作成費用が掛かるなら、そのプランは聞くだけ聞いたら暫く保留だなー。まぁ、すっからかんって程じゃねぇんだが、これを作ったばかりで、今度は生活費を削ってまで新しい金も掛けられねぇし」

「……そうやって、プランだけ聞いて自分で作ろうとしてもダメじゃよ。草原妖精の器用さやらこういった機械の知識はワシら職人達も注目するほどじゃ。費用を作って、『よし、やろう』という段になってからでないと、話せんのぅ」

 ブラフマンはティルトの心根にあった魂胆を見抜いたのか、ニヤリと笑っていなしてきた。何とも、勘の鋭い山妖精である。

「ちぇーっ、ばれたか」

 ティルトはどこか世慣れた気配を感じさせるこの山妖精に、自分と同じ細工好きの匂いを感じた。

 『正直に言って既製品とは縁遠い』と表現できるこの品物を引き受けてくれたソーレンセンにはこういう『細工の好きな』職人が多いが、ブラフマンもどうやらそのクチの様だ。

 同時に、それらの工夫に関する情報がどれほどの価値を持っているか、という事をよく知っているという意味で、ティルトとブラフマンは価値観が近いらしい。

 ソーレンセンに新しく入った職人は、どうやら長い付き合いが出来そうな奴だった。


 ――――この時、ティルトは全く気付いていなかった。


 自分が重大な見過ごしをしてしまっているということに。


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