《銀槌(シルバーポール)のゼンガー》
再び街へ出たアスパーン達は幾許かの緊張感を取り戻したのが半分、相変わらずの人波に圧倒されるのが半分といった心地で、ラミスのメモしてくれた店舗を回った。
打ち合わせの通り、先ずはウチボリ通りにある店に行き、地図を購入することになった。
「そういえば、ねぇ」
「ん、なぁに?」
『踊る林檎亭』を出て暫し。
シルファーンが、ティルトの着ているパーカーのフードをハンモック代わりにして、うたた寝していたラミスに声を掛けた。
「さっきの話なんだけど。『あの話』を秘密にしておくことにしたのはいいとして、それをあの場で堂々と話していて、平気だったのかしら?」
『あの話』、とはアスパーンの出自に関する話だろう。
その位はアスパーンの記憶力でも充分に想像できた。
ラミスは眠そうな目を擦りつつ、フードから顔だけ出した。
「いいのよ。どうせ知ってる人はもう知ってる話だし。万一何か有った時に白を切り通すためにも、ああやって多少聞こえるように話をしておいた方がいい場合も有るの。多分『林檎亭』の中なら、ああしておけば大体は秘密にしてくれるわ」
「『大体は』?」
「自分の身に危険でも迫らない限りは、ってこと」
「多少の秘密を共有しているくらいの顔見知りは、居た方がいいってこった。一月位したらあいつらが上手い事情報を流して、多少の見返りと一緒にお前達の居所を偽装してくれるって訳」
ラミスの答えを補足するようにティルトが口を挟む。
「見返り?」
「あいつ等は素人スジに偽装した情報を『噂』として流して情報料を貰い、俺達は居所を得られるって訳。それが見返り。つまり奴等も俺達の事情を『知りながら泳がせている』クチってわけさ。でも、ただ泳がせてるわけじゃなくて、お互いにそういうネタを共有して、お互いを泳がせてる。俺もあそこに居た奴らの多少の秘密を知ってるし、だからといって積極的にそれを流すつもりもない。そうやってお互いに協力して生活してるって訳。理解できる?」
ティルトが、アスパーンの顔が余程不可解そうに見えたのか、回答を求めてくる。
「……つまり、あそこの居た人たち皆が盗賊ギルドの人ってワケ?」
「ブッブー。全員では有りません」
アスパーンの回答をラミスが否定した。
じゃぁ、どういう意味だというのだ。
「えーと、……じゃぁ」
「盗賊ギルド以外の、特定の『知っている人』から流れ出そうな情報を、あの人たちが各方面で隠してくれる、っていうことね?」
アスパーンがいよいよ理解に苦しんでいると、横からシルファーンが答えた。
「ピンポーン、正解」
ラミスがシルファーンの答えに笑顔で応じると、ティルトもそれに頷いた。
「さっきもチラッと言ったが、知ってるのは何も盗賊ギルドだけじゃないからな。門番や他のギルドの上層部、中にはザイアグロスに行った事のある奴なんかからもそういう話が漏れ出てくる事もあるだろ? あそこに居た『常連』達は、その辺を適当に誤魔化したり、偽情報を流したりして隠してくれるんだ。まぁ、人それぞれやり方は有るだろうけどな」
「なるほど。……奥が深いな」
「着いたばかりだからだよ。半年もすれば慣れる……というか、生活するなら、慣れろ」
「わかった、やってみる」
「まぁ、お前らの性格じゃ積極的にどうこうって事はねぇだろうし、余計なことはあまりしねぇほうがいいだろ。普通に、そういうことだと理解しとけ」
「それもそうか」
実際の所、ティルトが言うようにアレコレと知り合いを回って、他人の情報を誤魔化して回る自分の姿を、アスパーンは想像できなかった。
逆に、そんな事をしていれば絶対にドジを踏んで重要な情報を丸々暴露して回るような間抜けな話になりかねない。
アスパーン自身は、誰かの口から漏れそうな時に注意したり、見かけたときに誤魔化したりする程度の方が身の為だろう。
実際の所、その手の作業には大きく向き不向きがあるため、あの場に居た人たちの中にも自分と同じようなクチの人も居るのだろうし。
そんな会話の後、暫く他愛のない会話をしながら、四人は目的の地図を売っている店の在るウチボリ通りへ入る。
「えーっと、こっちこっち」
居並ぶ店の数々を選り分けるようにティルトが首を左右に振って現在地を確認すると、辻から少し進んだところにあるこじんまりした店の前で立ち止まった。
――――『雑貨、道具、修繕、萬扱致します』 工品屋 銀槌
ティルトは屋根つきテラス状になっている入り口の天板から下がっている鉄板を指し示すと、躊躇なくドアを開ける。
ドアの内側には、ドアが開くと鳴るようになっている小型のカウベルのような鈴がついていて、金属製にも拘らず木を叩いたような、乾いた音を立てた。
「ちーっす」
「おう、来たか。どうだった、外の仕事は?」
ティルトが中に入って挨拶すると、中に居た老人がパイプを片手に声を掛けた。
「なぁにを嫌味な。……んなの、知ってて聞いてんだろ、オッサン」
「あっはっは。余計な仕事して下手打って、ルーベンで捕まったんだって? あっちのギルドから照会の手紙が届いたって大騒ぎしてたぜ?」
「……あいつ等。やっぱり知っててこき使ってやがったな」
老人の言葉で何かを悟ったのか、ティルトがグッと拳を握るのが解る。
「いんや、面白そうだったから『こき使ってやれ』って返事したらしいぞ?」
老人が楽しそうにニヤニヤと笑みをこぼす。
「……本気で殺して回るか、あいつ等」
老人とは逆に、ティルトの表情がいよいよ不機嫌に渋くなった。
「オイオイ、幾らお前が『アレ』でも、本気であっちの仕事から足洗うんなら止めときな」
『アレ』とは恐らく、ティルトが隠している前職の事だろう。
アスパーン自身はティルトとルーベンで同行したときに『見てわかった』ことだが、本人から聞いたことではない。
アスパーンの出自の問題と同じく、ティルトの前職の問題も『知っている人は知っている』話なのだろう。
そして、ティルトがアスパーンたちを連れてくるだけのことはあって、この老人はその『知っている』側の人間なのだと推測出来た。
「……で、その後ろの坊主とお嬢さんが?」
「なんだ、もう知ってんのか?」
ティルトが苦笑いする。
「かはは、俺っちが生まれる前からある店で、今じゃぁ店主張ってんだ。知らねぇってわけにもいかねぇさな。それに、お前にこの街のイロハ教えてやったのは、何処の誰だ?」
「はいはい、銀槌のゼンガー爺さんですよ、確かに」
『敵わないな』という風に溜息をついたティルトが、アスパーンへと視線を巡らす。
挨拶しろ、ということらしい。
「初めまして。アスパーンと言います。隣は森妖精のシルファーン。ティルトの紹介で、色々と物を集めるなら先ずはここからだって」
アスパーンが手を差し伸べると、ゼンガーは一瞬驚いた表情を見せた後、軽くそれを握り返す。
節くれて皺ばった手で、指も細いが、『渇き』のないツヤのある手だった。
「ほぉ、『色々』とな? 確かに、そりゃぁな」
ゼンガーはからからと笑って、手を握ったままアスパーンの目を覗き込む。
数秒も覗き込んでいただろうか、ゼンガーは人懐っこく笑うと、手を離した。
「お嬢さんも、初めまして」
「あ、初めまして」
シルファーンはゼンガーから伸ばされた手を軽く握ると、淑女がするように軽く頭を下げた。
ゼンガーは、アスパーンにしたのと同じようにシルファーンの目を覗き込んで、また直ぐに手を離す。
手を離したシルファーンが『どうしたのかしら?』と目で訴えかけてきた。
先程の会話からすればアスパーンの出自は既にこのゼンガー老人に知られていると見て間違い無さそうだが、だからといって何か特別扱いしようとか、何か企てようとかいう風な感じには見えなかった。
寧ろ、只、瞳の奥を覗かれただけのように思うことが、妙に気分が悪い。
「気ぃつけろよ、坊主もお嬢さんも。お二人みたいなのは騙されやすいからな」
なるほどな、とアスパーンは納得した。
どうやらゼンガー老人は、あのようにじっと見つめた時のこちらの反応で、或る程度相手の性格や行動傾向を読み取ることができるらしい。
ザイアグロスに住んでいる老人達の中にもそういう『特技』を持っている人が居たが、どうやらゼンガーもその手合いだったようだ。
「騙されてるなら、ティルトに任せた時点からおかしくなってなければ間違いでしょう? 流石にシェルダンからバルメースまで、修羅場の一つも一緒に潜って、十日も一緒に歩いてくれば、ティルトとラミスがそういう人でないのは何となく解ります」
「ホームグラウンドに引っ張り込んだだけかも知れねぇぞ?」
褒められた気がしてくすぐったいのか、ティルトが皮肉気に茶々を入れる。
「大丈夫。別に金には大して執着はないから。金なら仮に騙し取られても、生き物の居る森に入れば、俺とシルファーンは暮らしていけるよ」
アスパーンは冗談交じりに返した。
ティルトにもその気はないだろうが、仮にティルトの冗談が事実であっても、アスパーンには自分の言葉通りに出来るだけの野外での生活知識はあった。
「……だが、騙し取られるのが命の場合は?」
アスパーンの言葉を受け、ゼンガーが口を開く。
「……あぁ、それは多分」
それに答えたのはシルファーンだった。
「アタシならともかく、この子の命を奪うのは無理なんじゃないかなぁ」
「……だといいけどね」
思わず苦笑いする。
確かに、死ぬような目には今まで何度もあってきたが、実際に死んだ事は一度もない。
勿論、一度目もあるようなら既にここには居られないのだが。
――――アスパーンが今までに遭った『死ぬような目』を思わず反芻していた、その時だった。
殺気もなく、不意に至近距離から何かがアスパーンに襲い掛かる。
アスパーンは『その感覚』を察知すると、反射的に半歩、体を開いてそれを躱す。
直後、アスパーンの目の前を尖った物が通過し、店の入り口のドアに刺さった。
恐らく鏃だろう。
「おいっ! 俺の連れてきた奴だぞ!」
「ゼンガー! やりすぎよ!」
同じ事を感じたのか、それとも別の理由があるのか、ティルトが気色ばんだ声を上げ、ラミスがフードから飛び出して窘める。
「……趣味悪いなぁ」
アスパーンはゼンガーがそれ以上何もする様子がないことを確認しながら、苦笑した。
恐らく、試された。
感覚でそれを察知する。
「いやいや、誤作動だ。悪かったな。何せ、色んな手合いが来るんでね。こういうのも必要なんだ」
ゼンガーが特に悪びれる風もなく、肩を竦めておどけて見せる。
恐らく本物の撃退用なのだろうが、誤作動ではなく意識して狙ったのは、ゼンガーの様子を見ればほぼ間違いない。
「……なるほど、流石は『メリス家』直系といった所か。あんた等のその妙に抜けたような所は、血筋なのかね?」
「『等』?」
「お前の姉弟は、殆ど顔見知りだ。今は偉くなった『あの方』も、小娘の頃面倒見てやったクチよ。揃いも揃って何も無かったような顔でこっちの不意打ちを躱しやがる」
嫌な事でも思い出したように、ゼンガーは渋い顔をする。
どうやら兄か姉の内幾人かは、洒落が効かずに反撃に打って出たらしい。
恐らく一番派手にやったのは四番目の姉だろう。
アレはいけない。
あの人は本当に、敵だと認識すると対応が一律だから。
「……ギギですか? どうやらご迷惑を」
「いんや。あれも酷かったが、一番はあっちだよ」
ゼンガーは誰とは言わず、無言で視線を配る。
視線の先は、恐らく街の中心部。
アスパーンにとっては頭が痛くなるような裏話だった。
「……えっ、マジですか?」
思わず、アスパーンもゼンガーと同じ表情になった。
「あらら」
シルファーンが『意外』という風に口元を押さえる。
そりゃぁそうだろう。
その人はシルファーンの前では本当に『(怖いけれど)いい姉』だった。
その一方で、ひとたび怒らせると本当にとんでもない事になるのも、その人なのだが。
温厚な分、怒らせると始末に終えないのだ。
「何の話?」
宙に浮いていたラミスが、話がわからずにアスパーンを見上げる。
「……いや、ちょっと」
アスパーンは本当に、身内の恥を曝すのが嫌になって苦笑いするしかなかった。
「まぁ、その話はここまでにしておこうか。取り敢えず坊主とお嬢さんの面倒は、このゼンガーさんがしっかり見てやるから」
「……俺としては、つい先刻から、あんたに任せちゃいけない気になってきたんだが」
ティルトが渋い顔をする。
そりゃそうだ。
紹介している最中の『客になる男』に、いきなり矢を放つような人物である。
「あぁ、良いんだ、それについては。改めて、よろしくお願いします、ゼンガーさん」
アスパーンはティルトの半眼を宥めつつ、ゼンガーに頭を下げる。
多分こうしておくのが、何処にとっても一番丸く収まる。
「まぁ、お前がいいなら、俺が口挟む筋合いじゃねぇけどな」
ティルトは先程のやり取りで、或る程度アスパーンの家族関係に関する事情を汲んだらしく、大人しく引き下がった。
「ホントにいいの? ……なんかあたしも不安になってきたんだけど?」
「いいのよ。私が言った事とか、実家の事とかで色々確認したかっただけみたいだから」
ラミスが不安そうにシルファーンを見上げるが、シルファーンがそれを宥める。
ゼンガーは、その様子を見ながら、何事もなかったかのように話を進めた。
「……さて、じゃぁ早速お節介を焼いてやろうか。銀槌に来たからには、顔を繋ぎに来た以外に、入り用な物があるんだろう?」
「……地図と消耗品一式。後、住めそうな所を世話してやって欲しいんだけど」
変わり身の早さに辟易しつつ、ティルトが用向きを告げる。
地図一枚の話のはずが、随分と横道を回った気がする。
「『林檎亭』のアパートメントじゃいかんのか?」
「最終的にそこに落ち着くにしても、直接俺から話をする道理じゃねぇの、解ってて言ってるだろ、オッサン」
「まぁな。ちょっと待ってろ」
ゼンガーはカウンターから立ち上がると、奥へと入っていく。
「ったく、何でこうすんなり話が進まねぇんだ、あのジジイ」
「まぁまぁ」
悪態をつくティルトを、ラミスが窘める。
とはいえ、アスパーンも少々、ティルトともラミスとも、半々くらいに似通った複雑な気分だったが。
「おーい、そーいやお前、『ソーレンセン』になんか発注してったろ?」
ややあって、奥の方からゼンガーの声がくぐもって聞こえてくる。
ティルトは記憶にないらしく、首を傾げて目を閉じ、眉間に皺を寄せる。
「ソーレンセンって、先刻のメモにあった?」
「あぁ。……確か鍛冶屋って」
シルファーンに確認すると、シルファーンがメモを確認しつつ答える。
「ソーレンセンっていうのは、バルメースでも老舗の部類に入る鍛冶屋でね。こっちもゼンガーが経営してるんだけど、注文すると『踊る林檎亭』か『銀槌』に届けてくれるの。大きな物や調整が必要な物は直接行く必要が有るんだけどね」
ラミスがティルトのフードにもぐりこみつつ、答える。
「こっちに届けるようなもん注文したっけなぁ……」
ティルトはまだ心当たりにたどり着かないらしく、首を傾げている。
「もうちょっと待ってろ、今もって行く」
奥の棚を弄るゴトゴトという音が響き、やがて台車を転がす音と共にゼンガーの姿が現れた。
「だってよ、お前。完成してから一週間も取りに行かなけりゃ、向こうの工房に置きっぱなしにしとくわけにもいくめぇよ?」
ゼンガーが皮肉を言う。
どうもこの老人、皮肉が口を突いて出るのは性分らしい。
アスパーンとシルファーン用に持ち出された蝋燭やランプ、タオルやチョークなどの野外用品や生活用品の他に、ティルトの前に置かれたのはベルトと篭手、そして何やら複雑な機構を持った機械だった。
「あー、これか。でも、まだ調整が要ると思うんだけど」
「知るかよ。全く変なもんこさえさせやがって。調整するならソーレンセンに直接行って来い。新しく入った職人が組んだらしいぞ、それ」
「これを? 新人が?」
アスパーンの目から見てもティルトの受け取った品物、特に複雑な機械は、一筋縄では行かない品物に見える。
余程に熟練した技量があるか、信用されていなければ中々新人に任せられるような品物には見えない。
どちらかといえば、『店の面子が掛かる』レベルの精巧な代物にみえるのだが、バルメース程の都会ともなるとこのレベルが当たり前なのだろうか。
「あぁ。正直こんなもの作れるのかと思ってたんだが、『やらせてくれ』って言ったと思ったら一週間も工房に篭って試作品を見せにきやがった。新人だろうがなんだろうが、職人としてああまで真面目に作られちゃ、今更ダメとはいえないだろ。山妖精の中じゃ小僧の部類の年頃だが、中々気骨のある奴だよ」
「山妖精なのか」
確かに、職人気質と頑固さと手先の器用さを併せ持つ、山妖精でなければ、これほど精巧な機械を作ることは出来ないのかもしれない。
実家の在るザイアグロスにも多くの山妖精が居たが、いずれも根性の座った立派な戦士であり、気骨と誇りを持った職人であった。
因みに、一般的に山妖精はシルファーンのような森妖精と犬猿の仲であるが、シルファーンの場合は森妖精としては並外れて人間臭いため、山妖精たちも最初こそ毛嫌いするものの、気付いてみれば篭絡されている事が多い。
主に餌付けや手作りの革製品プレゼント攻撃などで。
この相棒の場合、寧ろ一般的な森妖精が嫌う山妖精の頑固さは好感の対象で、器用な指先は尊敬の対象らしく、山妖精を見ると積極的にアプローチしている感すらある。
「ふーん……そんな奴がねぇ」
ティルトは興味を持ったように、手に納めた篭手の出来を確認しながら、呟く。
「そういうことなら、ギルドより先にそっちに行ってみるか。どうせお前らも行くだろ? ついでに連れてってやるよ」
「お前、そんな寄り道してて大丈夫なのか? ギルドって結構厳しいんじゃないの? 特にヘマした奴には」
「大丈夫なんじゃね? 別に義理欠いた行動しようってワケでもないし。せいぜい数時間だろ?」
アスパーンの問いに、ティルトは遅刻の良い言い訳を見つけたようににんまりと笑った。
どうやら、アスパーンとシルファーンの道案内というのはそこそこギルドに対して義理の通る事情らしい。
そういうことなら今日一日くらい引っ張りまわしてやろうか、などと考えていると、フードからラミスが顔を出してティルトの髪を引っ張った。
「もー、怒られても知らないからね」
「イテテ……大丈夫だって。さ、行くぞ。……じゃ、オッサン、そういうことだからギルドから何か来たらこいつらの所為にしといてくれ」
ティルトはラミスの手を振り払いつつ、ゼンガーに声を掛け、店を出る。
アスパーンも仕方なくその後に続くと、ゼンガーが声を掛けてきた。
「オイ! 買い物どうすんだ!?」
「あぁ、もうティルトが止まらないみたいだから、後で道を覚えがてら、もう一回来ることにします。その時にでも」
「地図くらい持っていけ! お代は後でかまわねぇから。はぐれたら帰って来れなくなるぞ!?」
「済みません、ありがとうございます」
シルファーンがゼンガーから地図を受け取って、頭を下げる。
「ありがとう!」
アスパーンもゼンガーに頭を下げると、ティルトの後を追った。
面倒見が良いのか悪いのか、この際はっきりしてもらいたい物だが、ここでついて行かないと文句を言いそうなのもまた、十日あまり付き合って感じるティルトの性分だ。
今後も暫くは縁が続きそうな事を考えれば、ここはついて行くしかない。
「あいよ。じゃ、また後でな!」
ドアを潜るアスパーンの背中に、ゼンガーの呆れたような声が聞こえた。